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真野さんは、私の家の前でやっと立ち止まった。
「あ、あの、真野さん……」
繋がれたままの手に、今ごろ緊張している。
「アオイとは、その……」
昨日の告白を取り消そうと思うのに、口が勝手にアオイとのことを弁解しようとする。
「というか、ごめんなさい、私いま、耳がーー」
まずはそこから話さなければいけないことに気づいて、耳のことを説明しようとした。
その時ーー。
「橋本さん」
真野さんが私の名前を呼ぶのが、はっきりと聞こえた。
その途端、雷に打たれたみたいに、身体が熱くなった。
なぜ真野さんの言葉が聞き取れるのか疑問に思う余裕もないくらい、真野さんに触れることしか考えられなくなった。
「ああ、なるほどな」
真野さんのそんな呟きさえも、私の身体を痺れさせる。
「他の人にもそういうことをしてたんだな、お前は」
非難するように言われて、慌てて首を横に振った。
アオイに身体を弄られているのを見られて、勘違いされたのだと思った。
「違います」
嫌われたくない一心で、必死に否定する。
「さっきのはアオイの悪ふざけで。私、真野さんにしか、こんな、欲情しない」
「そういうことじゃなくて」
真野さんはうんざりしたようだった。
「お前は、爺さんにーー」
「真野さん」
我慢できなくて、遮った。
「来て。私の部屋、すぐそこだから」
「俺はーー」
少しの間、真野さんと見つめあった。
自分がおかしい自覚はあった。
でも、どうしても止められなかった。
身体中が真野さんを欲しがっていた。
「……まあ、いいか」
やがて真野さんは、意を決したように私の手を引いた。
「お前が悪いんだからな」




