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冥界ダンジョン②

「よし、通話も繋がった事だし、早速行きましょうかー」

タキさんが仕切った。タキさんは何でこんなに直ぐに馴染めるのだろう。

「冥界デビュー?」

「そうよ!優しくしてね!」

「レベ100おめでとー」

「ありがとう~」

「ありがとうございます」

「さとーさん固いw」

「ごめんwもう少ししたら慣れるからw」

「あははw二人とも初なら、俺、戦士でもいいけど、回復大変そうだから重騎士しよか?」

「たしかにな。そしたら俺楽できる~w」

「重騎士でもカットは出来るしいいんじゃない~?」

「ふーみん重騎士でライムちゃん戦士お願いするわー」

「おけー」

「お手柔らかに〜!特にフミ!」

「おけおけwスパルタでいけばいいのね?w」

「ちょっと?!初見って言ってるじゃん!」

「てか火力はライムにかかってるからなw」

「ちょ!ハードル上げないでよ!」

「大丈夫、骨はふーみんが裕ってくれるからw」

「タキ・・・僧侶がんば」

「ちょおお」

3人の会話が流れていく。楽しいな〜。いつものチャットのまんまだ。いつも以上に会話のテンポが早くて笑いが絶えない。

「さとー盗賊いける?ちょい難しいんだけど」

「やってみる!」

「俺もタキも盗賊出来ないから、説明は出来るけど、実戦経験はないんだよな」

「それなー」

「やる事は鍵開けなんだけど」

「うんうん、普段は単独だけど、初回だしみんなで鍵雑魚の場所まで付いて行ってみるかー」

FUMIさんが提案してくれた。

「了解〜!」

「ありがたい~!」

 冥界へは、城の中にあるワープポイントから行く。仰々しい扉の先に、紫色に光る門があった。以前は近づいても何も起きなかったが、レベルが上がったので近くのNPCに話かけられるようになっている。NPCと話すと自動的にダンジョンの中に転送されて、ローディング画面に切り替わった。

 紫がかった空。異様に早く流れる雲。見た事のない白い草木は、捻じれるような姿で立っている。ごつごつとした地面には紫の石が怪しく光り、辺りは薄っすら霧に包まれていた。

「ここにも霧があるんだね~」

「初期地点抜けると、霧も晴れるよ」

「クエスト進めると、この辺りの霧も晴れるけどね~」

「なるほどー」

「今度スト手伝ってよ~」

「おkおkー」

「BGMかっこいいー!」

思い思いの会話が、通話だと出来る。わくわくが止まらないのは、やはり初見だからなのもある。始めてのマップはテンションが上がる。どこまででも飛行機で探検したくなる。初期地点には簡易的な神殿が立っていて、NPCも何人か居て最低限の物資は調達出来るようになっていた。どうやらこの神殿は、冥界とミストワールドを通じる門を守っているという想定らしい。

「初期村出てダンジョン行こか」

「冥界って、入ったらすぐダンジョンなのかと思ってた」

「このマップも広いんだよなー」

「今のところ発見されたダンジョンは3つか?大体みんなが通ってるのは今から行く色界ってとこ」

「他2つは?」

「欲界と無色界は素材が美味いってよりは、倒すボスが強くて面白い」

「ボス素材で見た目装備なら作れるよな?」

「そうそう、今俺が使ってる大剣とかねw」

「この剣カッコいいと思ってたのよね~」

「中身は今から行く色界で取れる素材の剣だよ」

「このシリーズかっこいいよね~私も短剣欲しくて調べたもん」

「欲界とかのボスも強くて面白いから、今度それも行こw」

「おれもそっちは全然行った事ないから行きたい!」

「レベル上がったばっかで、還元怖くないしねw」

みんなで飛行機で空から行く。薄紫色の霧で、視界は悪い。マップを見ながら進むが、少し油断するとどっちに進んでいるのか分からなくなりそうだ。前を進むFUMIさんを見失わないように付いて行く。左側を行くライムちゃんをちらっと見る。イベントで取った飛行機だが、聖獣族専用の形は大きな鳥に跨るような形でかっこいい。

「ちなみに、フィールドの雑魚も結構痛いから気を付けてw」

「まじかー」

「痛いけど、ここの雑魚範囲狩りすると結構経験値美味しい」

一番冥界に慣れているFUMIさんが、色々と教えてくれる。

「101目指してやっちゃう?!」

「それも追々なー」

「私範囲狩り結構好きーw」

「わかるわーw」

「仲間を信じて集めるの楽しいw」

「後衛としては、前衛が集めて来るの見るの楽しいよなw」

「キャラデザやばくてもちょっとイケメンに見えるよねw」

「なら俺が集めれば完璧じゃね?」

「タキさん火力全振りで防御力紙だからなーww」

「ライムちゃん?!」

タキさんとライムさんの会話が弾んで、聞いているだけで楽しい。やりたい事がたくさんあって、どれから手をつけようか、胸が躍る。

 話に夢中になっていると、すっと霧が引いて辺りが明るくなった。燃えるような赤い石に照らされた大地が見えた。

「おおお」

「霧晴れたね」

「これ目疲れそう~w」

空は紫から赤っぽく変わり、ずっと上空には赤く輝く巨大な石が浮いていた。下を見下ろすと、高い木々のあまりない大地に、雑魚モンスターがうようよいる。

「見えてきた」

「あそこか~」

黒い水晶のような鉱物で出来た山が見えてきた。中腹の辺りに入口がある。

「下層と中層と上層と3つに分かれてて、素材だけ効率よく集めるなら中層から行く」

「下層はクエと、薬の材料になるモブとかがいる」

「ふむふむ」

「あの扉から入るから、飛行機降りて」

飛行を解除して、扉の前に落ちた。細い道が下に繋がっている。これを下れば下層に行けるのだろう。

扉をクリックするとまたローディング画面になった。

中は黒い鉱物が折り重なる洞窟のような建物だった。禍々しいが、時折光る鉱物が綺麗だ。青い松明が光り、道が続いている事が分かる。

「今回は4人だし、雑魚処理しながら行こう」

「雑魚が時々落とす素材も、一応装備生成に使うしね」

「了解~」

「俺の後ろから付いてくるといいよ」

「寄らば大樹の陰」

「あはは」

FUMIさんが雑魚の攻撃を受けて、ライムさんと私で削っていく。

「雑魚なのに結構固い」

「まあね~効率優先だと、走って振り切る感じだけど、誰か死んで一人で入口に戻っちゃった時が来れなくなるw」

「なるほどねw」

一人で進むには、雑魚の攻撃が痛いのだ。

「さすがにふーみん固いから、今の所ヒーラーは暇ですよ?」

「タキ仕事してw」

「タキさんも殴ってよ~w」

「僧侶で殴るとか、新しくない?!w」

「僧侶の攻撃呪文も馬鹿に出来ない時あるけどな?w」

「まじすかww」

わいわい冗談も言いながら進んでいると、通路が分岐した。

「左に鍵、本陣は右を進む」

「ここで分かれるのね」

通路が少し広がっている場所まで到着した。

他と比べてそんなに入り組んでいるマップではなさそうだが、最初はマップを覚えるだけで苦労しそうだ。何より神殿の中も霧がうっすらかかっていて、視界が悪い。

「今回は4人なので以下略」

「おk-w」

今回は初見なので、引き続き雑魚処理しながら、鍵雑魚まで全員で進行する。

「さっきの分岐でキュア3重にもらって、盗賊はここを走る」

「ふむふむ」

「多分、今のさとーさんの装備だと結構痛いと思うから、回復薬も少し飲まないとかも」

「なるほどお」

「ここの素材の鎧が揃えば、キュアだけで耐えられる」

「なるほどね~あ、帰りはどうするの?」

「鍵雑魚のいる先の道から合流できるようになる」

「なるほど~じゃあ戻らなくていいんだ」

「そうそう」

「いたいた、あれだ」

タキさんが指さした。雑魚と呼ぶには、強そうなモンスターが動かずに道の真ん中に立っていた。大きな天狗?仁王像の様な和風な井出たちで、大きな鉈を構えている。名前は百鬼丸。

「え、強そうじゃない?w」

「あれ・・・ほんとに一人で倒せるの?w」

「いけるいける」

「意外と物理と呪文の2属性ダメージで極端には痛くないから、耐えられるはず」

「距離詰まるまでは弓で削って、削りきる前に追いつかれたら短剣に持ち替えで」

「やってみるから、骨は拾ってねw」

「さとちゃんがんば!」

他の3人には後ろで見守ってもらいながら、私は鍵雑魚の前に立った。バフで攻撃力を上げてから、弓を引き絞る。弓の射程にギリギリでこちらから先制攻撃を仕掛けると、鍵雑魚が動き出した。百鬼丸は、こちらに御札のような攻撃を飛ばしてくる。恐らくこれは魔法と物理の混合。それを横に飛んでかわしながら、こっちからも攻撃をする。半分程削った所で、雑魚に追いつかれた。そこからは攻撃が物理に変わった。呪文よりも物理攻撃の方が痛い。こちらも短剣に持ち替えて、スキルを使いながらダメージを与えていく。こちらのHPは6割。HP0になるのが怖くて、試しに回復薬を飲んでみた。回復薬は赤ポーションと呼ばれ、キュアの様に一定時間徐々にHPを回復してくれる。HPを満タンにする万能薬は値段が張るので、使用を躊躇ってしまった。

「さとちゃんガンバレー!」

ライムさんの声援が嬉しい。

「よし」

粘り勝ちで、鍵を手に入れた。こちらもHPも後2割くらいまで削れていた。回復薬を飲んで正解だった。飲まないとやはりこちらがやられていただろう。百鬼丸は灰になり、冥界の霧に溶けた。

「上々じゃん」

「すごーい!!」

「骨拾う気満々だったのになーw」

タキさんの惜しそうな声に思わず笑ってしまう。

「あはは倒せて良かったーw」

「さすがさとー」

「これは緊張するねー!結構攻撃避けないと痛い」

「初めてにしては避けるの上手いな」

FUMIさんのお褒めの言葉は嬉しい。他にも上手な盗賊をたくさん見ているだろうから、お世辞ではなくちゃんと褒めてくれているのだと思う。

「いよーっし鍵ゲット、先行こうぜ~」

鍵雑魚の先に進むと、大きな竪穴に到着した。下から風が吹いたり止んだりしている。

「風が吹いてる時に飛び込むと、上に行けるってわけね」

「そう」

「ちなみに下は?」

「下層と繋がってる」

「なるほど~」

「間違って落ちたら、そこで止まってるとまた風が出て来るから、それで上まで来て」

「あーい」

「はーい」

思いっきり飛び込むと、下から吹き上げて来る風に乗って、上の層に出た。さっきよりも霧が濃くて、視界が悪い。

「うわー見えづらい」

「道覚えるまでは結構大変かも」

「こっからは走って雑魚まとめて連れて行って、次の少し道が広くなっている所で倒す」

「了解」

「視界が見えづらいから俺を見失わないようにw」

「はーい」

「じゃあもっと派手な服着てくださーい」

ライムさんが茶々を入れたのが笑えた。

FUMIさんについて走り出す。視界は悪くてもFUMIさんの後に付いて行けばいいという安心感が凄い。戦士よりも重騎士は硬い。ほぼノーダメージで広場まで雑魚を引っ張っていく。着いた所で、ライムさんがスタンをかけた。私も火力のある範囲技で攻撃する。4人なので、削るのに時間がかかる。数が減ってきてからは、範囲技から単体攻撃にする為に、弓から短剣に持ち替えた。個別に短剣で切り刻む。時間は少しかかるが、通話しながらなのであまり気にならない。

 タキさんに飛んだ攻撃を、FUMIさんが重騎士のスキルでかばった。

「やだ、ふーみん男前」

「きゃー!BL的な展開?!」

「ライムうるさいwちゃんとカットしてw」

「重騎士スキル、イケメンすぎる」

ボス前の扉までそんな調子で進み、鍵でドアを開けた。

中は広い、円形の闘技場になっていて、円形に空いた天井から冥界の空が見えた。霧が濃く立ち込めている。

「何もいないじゃん」

「わーい結構フィールド広い~?」

意気揚々とライムさんが飛び出して行ったその時、

「まて、ライム」

「ちょ、」

慌てた二人の様子。頭上から、ボスが降って来たのが見えた。ボスが降りてきた風圧で、霧が晴れた。ダメージを負ったライムさんに、すぐにタキがキュアをかける。

「何これええええ!」

筋肉隆々とした、人型の鬼。頭には長い赤い角。腕には鉈のような太い刃が両側に付いた武器を持っている。ざんばらとした髪が武器を振るう旅に揺れ、赤い目がギラリと光った。ターゲットはライムさんにキュアを使ったタキさんだ。

「ライム、ガードバフ使って」

このままでは防御力の低いタキさんが倒されて詰む。回復職を失う訳にはいかない!私はすぐに弓に持ち替えて、痺れ効果のある矢を放ったが、ボスにはガードされてしまった。しかし、ガードするのに一瞬の隙が出来た。そこにFUMIさんが飛び込んで、自分にターゲットを変える。バタバタで始まった戦闘だが、タゲがFUMIさんに向いて、状況は少し落ち着いた。

「近接物理だから、さとーさんはそのまま弓で」

「はい!」

「CT毎に麻痺矢打って」

「了解」

「こいつ硬すぎない?!」

ライムさんが必死な様子で叫んだ。確かにライムさんの火力を持ってしても、なかなか削りが甘い。大技のダメージも他のボスと比べると低い。私の弓攻撃なんて矢を何本消費すればいけるだろうかという感じだ。

「そこで召喚の物理攻撃ダウンの魔法なんよねー」

「なるほどねええ」

「僧侶も使えるけど、回復で手いっぱいだかんなー」

タキさんが申し訳なさそうに答えた。

「まー時間はかかるけど、出来ない事はない」

FUMIさんは淡々と自分の役割をこなしている。

「物理硬いって事は魔法のが通る?」

「それが無効なんだよねwこいつw」

タキさんの言葉に私は驚いた。

「まじか!今まで魔法に強いのはいても、無効ってなかったのに」

「攻撃魔法は通らないけど、デバフは入るのかw」

ライムさんの冷静な分析。たしかにそうだ。

「召喚が出た時のボスだからねー召喚を使えって運営のアレだなw」

「ああーwなるほどねえ」

私は納得した。そういえばそんな時期にリリースされたダンジョンだった。101のレベル解放と冥界、召喚士追加という大型のアップデートの事を思い出す。

「召喚はデバフと、近寄ると危ないから物理系の召喚獣だしてサポートよ・・・」

「なるほどね・・・職業的に難易度が低いのは召喚か~」

ライムちゃんの召喚姿、また見たい。

「まあ確かに召喚はそこまで難しくないかも」

「2人居れば、片方はサブヒーラー的な役割もあるかな」

「なるほど~」

「麻痺矢は効かないけど、隙作る為?」

私はCT毎に打っている麻痺矢のスキルが気になって質問した。

「そうそう、全く効かない訳じゃないから時々効いたらラッキーくらいな感じ」

デバフはぼちぼち入るのか。そこで、一つ思いついた。

「なるほど~そしたらさ、私、縛りに行ってもいい?」

「きゃ、さとーさん過激」

「タキ、あなたも縛られたいの?」

「あ、大丈夫でーす」

 盗賊には、「捕縛」というスキルがある。戦士が持つスタンに似ているスキルで、敵を捕縛し、一定時間動けなくするスキルだ。しかしスタンとは違って、発動するのにいくつかポイントがある。敵の急所を何点か(数はモンスター毎に異なる)を攻撃しなければならない。そして、このスキルは短剣を持っている時にしか使えない為、今いる安全圏を捨てて前に出る事になる。短剣は遠距離の攻撃が出来ないが、弓よりは火力が上がる。

「麻痺が入るって事は、属性ダメージが通用しない訳じゃないんでしょ?」

「多分。俺も捕縛は試した事ないし、おもしろそうだから、やってみようか」

FUMIさんが乗ってくれた。普段、捕縛自体がそんなに使われないスキルだ。スタンと違って手間がかかりすぎるし、敵の急所を狙うのもなかなかに難しい。

「まじかw全滅しても許してねw」

タキさんが謝るが、そもそもこの無理な構成でやっているのだから、責任はタキさんにはない。

「ごめんw後衛には負担かけるかもw」

「おkおk、やってみよう」

「わーい、楽しみ」

ライムちゃんは無邪気に笑っている。私は少し緊張する。初見で、成功する確率は低いが、捕縛が入ればタキさんが物理攻撃ダウンの魔法をかけられる。そしたら、討伐時間はぐっと短くなるだろう。ただでさえ4人で来ているのだから、少しでも楽をしたい。これを楽と言えるのかどうかまだ分からないが。

私は後方で短剣に持ち替えた。まずスキルを発動して、急所を見極める。6か所、光る部分が見える。急所が見えるという事は、無効ではないという事だ。

「6か所」

「6か所?!」

ライムさんが驚く。

「多いな・・・」

「さすがに冥界のボスだしなあ・・・」

この6か所に糸が切れないように攻撃を当てなければならない。

「次CT明けでスタンするから、そっから飛び込んだら?」

ライムちゃんがスタンをいれるらしい。捕縛よりダウン時間は全然短いが、確かに隙が出来る。

「やってみる!」

「いくよー」

スタンが入って、ボスが一瞬ひるんだ。その隙にボスに向かって走り出す。一つ目の右わき辺りに最初の攻撃を入れる。すぐにボスが動き出した。まだ攻撃のパターンは変わらない。正面攻撃のままで、FUMIさんとライムちゃんで凌いでいる。私は敵の後ろに回り込み、次に2か所目の左脇を打った。ここなら敵の範囲攻撃も当たらないはずだ。

「よし、次3か所目」

続いて3か所目の左足に攻撃を入れた時、攻撃パターンが変わった。ぐわっと大きな口を開けたかと思うと、咆哮が飛んできた。

「っ」

「やば!」

FUMIさんは反射的にガードの姿勢を取ったが、ライムさんがもろに攻撃をくらって後ろに飛んだ。ボスのスタンが入ってしまい、しばし動けない。私は後ろに周りこんでいた為、攻撃は受けなかったが、ボスの攻撃をカットする手が一人分になり、隙をついて攻撃がタキさんまで届く。

「うわ!」

「こいつっ」

タキさんが大ダメージを負う。範囲回復に切り替えるが、キュアに比べて詠唱時間が長い。一気に崩れて、全滅までチラつく。私は盗賊のスキルで極力気配を消して、捕縛の為の急所を結ぶ事に全神経を集中させた。万が一タキさんが死んでも、これで私が蘇生出来るはずだ。

「回復飲むから自分にキュアで」

FUMIさんが敵の攻撃を一手に引き受けながらタキさんに指示を出した。

「すまん!」

タキさんは自分の回復を優先する。その間にライムさんが復帰して、戦いに加わる。

「ごめん!よし、いける」

ボスの攻撃が、FUMIさんを飛び越えて、タキさんに向かおうとする。その隙に4か所目の背中と、5か所目の首に攻撃を打った。

「ライム、バフかけて」

「おっけー!」

後1か所。

「やばい、回復間に合わんかも!」

「おまたせえっ!」

最後の一か所、頭に後ろから短剣を入れた。急所6か所を結んで捕縛が発動した。ボスが、がくんと膝をついた。

「おおお倒れた!」

ライムさんが興奮気味に叫ぶ。

「デバフいくぞ!」

タキさんが回復を後回しにして、デバフの呪文を唱えた。

「入った!」

「今だあああ!」

3人が、それぞれ一番火力の出る技を入れた。一気にボスのHPが減っていく。

火力ぶっぱタイムもつかの間、ボスが立ち上がった。

「しまった」

思ったよりも、捕縛でダウンしている時間が短かった。下がるのが遅れた。ボスが怒ったようにまた咆哮の姿勢をとる。当たったら恐らくライトアーマーの私は即死だ。その時、FUMIさんが重騎士のスキルで私を後方に飛ばした。

「ヒュウ」

タキさんが口笛を吹いた。一瞬死んだかと思った私は、直ぐに何が起きたかを理解した。FUMIさんが後方に飛ばしてくれたお陰で攻撃を食らわずに済んだのだ。

「ありがとう!」

「ナイスガード」

「同じ手は二度はくらわないわ!」

前衛二人は、ガードで咆哮を凌いでいた。私も弓に持ち替えて戦いに参戦する。

「あと少し」

「いける!」

ボスの身体が霞に変わり、冥界の空に消えた。勝利のポップ音。

「やった…?」

「ふいいい」

「お疲れー」

「やったー!」

タキさんは回復職で相当神経を使ったのか、疲れ果てていた。私とライムさんは手を取り合って喜ぶ。

「初見で倒せたの嬉しい~!」

「やったねー!」

「初見で、しかも4人でとか、凄いわw」

タキさんがぐったりしながらも、安心したようにそう言った。

「捕縛いけたな」

FUMIさんも捕縛は初めてだと言っていた。

「あそこで崩れたから、もう無理かと思ったーw」

「いつもはあんな行動取らないのに、捕縛の3点目で攻撃パターン変わったんだよね」

「じゃあ次はそこに合わせてガード入れればいいのかもね」

「慣れたら戦士でも行けそうだから、そしたら火力ももうちょい上がるな」

「そだね、捕縛も2回入れられたらデバフも更新出来るし」

「2回!責任重大じゃん~~」

「さとちゃんがんば!」

このパーティーじゃなかったら、そして通話してなかったら勝てなかっただろう。

「ふーみんの重騎士イケメン過ぎるから封印な!」

本当に、反則的に上手かった。何度助けられた事か。

「重騎士久々だったけど楽しかったわ」

「もしかしてこれ、慣れたら4人で周回出来ちゃうんじゃない?」

「やだー美味しい」

私は既に素材の計算を始めた。

「この4人PTに慣れたら、もう6人に戻れないなあ・・・」

「いいじゃん、4人で行けば」

「ギルドでも4人パーティーしてる人とか少ないよね!いなくはないけどほとんど皆フルパで行くし!」

「えーうちら凄い!」

タキさんとライムさんが息ぴったりの会話で盛り上がる。

「さとーさんも、捕縛お疲れ」

「いやー攻撃避けながら6か所は時間かかっちゃった」

「さすさと」

タキは流石って言いたいのだろうか。

初見だったが、ここまで来て討伐まで1時間以上かかっていた。そしてもうじき24時を回る。そろそろ寝ないとなのだが・・・

「ねえねえ、もう1回行かない?」

ライムさんが言った。

「おkー俺は行けるけど」

「ダンジョンリセットしようか」

3人とも行く気満々だ。私も今布団に入っても興奮が収まる気がしない。

「よし行こう~!」

私も元気よく手を挙げた。安定の週頭から寝不足だ。


自己紹介

さとー (佐藤詩織)

26歳、会社員。大手システム会社のシステムエンジニア。都内在住一人暮らし。実家は東京の西の端の方。父は会社員、母は専業主婦、一人っ子。

ゲーム好きの幼馴染みのせいで、小さい時からゲームは好き。趣味は運動(最近ジムに課金した)、読書。インドアもアウトドアもどちらもいけるクチ。

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