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ボイスチャットをしよう

「ねえフミ」

チャットのポップ音。ギルドで募集がかかった、冥界の素材集めに行ったパーティーが解散したばかりで、荷物整理に追われていると、ライムさんからのフレンドチャットだった。別にさとーさんからのチャットを期待していた訳ではない。

「なに?なんか行く?」

「ちょっと話したい。ディムコしよ」

「久しぶりだな、おk」

「かけるね」

ライムさんとはギルドに入る前からの付き合いで、一時期はペアとして付き合ったりもしていた。ペアというのはゲーム内彼女と言えばいいのだろうか、彼女に告白されて少しの間交際したが、ギルドの人と団体行動ばかりしていたらフラれた。というか友達に戻った。何で別れようって流れになったっけ?ああ、自分がライムさんに恋愛感情を抱いていない事に彼女が気づき、すぐに向こうが冷めた。その時から時々通話はしていたが、会った事はない。結局付き合っていた間も、友達の今も、関係性に大差はない。

友達に戻っても後腐れなく良好な関係が続いているのは、ライムさんがドライな性格だからだと思う。色々俺に対して思うこともあったろうに、それを表に出さない。でも思うに、ライムさんは結構恋愛脳だ。多分、当時は一番良く遊んでいて、そこそこ戦闘が上手かった自分に惹かれたのだろう。いや、自惚れ過ぎかな…なんというか、ネット上で恋愛するのに壁がない気がする。ハードルが低い。たしか俺よりも結構歳下だった気がする。

別れた後も普通に仲が良くて、一緒に遊ぶ機会も多かった。領土戦に興味を持ったらしく、同じギルドに入って来た。俺からの紹介とかではなく、実力でうちのギルマスに気に入られたのだから、実力は認めている。領土戦の事とか装備の事とか色々と、ギルドに馴染むまでは俺が教育係的なポジションだった。ノリも良くて人を集めるのも上手いから、あっという間に馴染んだ。良きゲームフレンドだ。

ディムコードを立ち上げて、通話に参加した。ギルドのミーティング以外で通話をするのは久しぶりだ。

「おひさー」

相変わらず、アバターとギャップのある声だ。

「久しぶり、いきなり通話なんて、どうした?」

「単刀直入に聞くけど、フミってさとちゃんの事好きなの?」

「はっ、?」

本当に単刀直入過ぎて思わず吹いた。

「本当に直接的すぎるなw」

「答えはイエスかノーなんだから簡単でしょ?」

「そうだけどさ、久々なんだしもうちょっと聞き方ってもんがあるでしょw」

「で?好きだよね?」

「なんでwいきなりどうした?」

「最近フミがさとちゃんとばっかり遊んでるから寂しくって・・・」

「嘘つけw」

「バレるの早くない?w」

ライムさんと喋るのは久しぶりだけど、普通に冗談言いあえて安心する。ゲーム内では普通に遊べていたが、大なり小なり傷つけてしまった自覚があるので、通話等で直接話すのは気まずかった。時間が解決するものだろうか。

「さっきまでギルドの先輩にダンジョン連れて行ってもらってただろw」

そう、ライムさんはうちのギルドで結構人気がある。アバターのせいもあるが、女性らしいチャットと、少し抜けている所もあり、先輩達に可愛いがられていると思う。領土戦ギルドだと、ちょっとのミスでギスギスする事もあるが、ライムさんはそういうののあしらい方も上手い。

「アルスさんにしごかれてたw」

「あーアルスさんライムの事気に入ってるからw」

「そんなんじゃないってw今度の試合に向けて突貫工事よwレベル上げは間に合いそうなんだけど、装備が弱いんだもん~」

「武器出来たか?」

「最低ラインのはね~こっから錬成だよw運ゲーすぎるw」

「素材足りない時は行くから声かけて」

「フミやさしーいって、そうじゃなくて」

「ちっ」

「あ、意図的に話をずらそうとしたんでしょ?!今の舌打ち!」

ライムさんはどうあってもオレと恋バナをしたいらしい。

「なんでそんな気にすんの」

「早くくっついちゃえばいいのにと思って」

「ライム、お前怪しいぞ?何か企んでない?」

「そんなんじゃないけど・・・」

急に通話をかけてきたかと思えば、何がしたいのか。ライムさんの心理は、さっぱり見当もつかない。

「最近タキさんとさとーさんと4人で遊ぶじゃん?俺あの時間結構好きよ?」

「あー楽しいよね~だいたいどこでも行けるし」

「それな。今度通話誘ってみようか迷ってる」

「えーなんで迷うの?フミがどう思ってるか分からなかったから、今まで通話の事は話しに出さなかったけど」

「んー、男が女を通話に誘うってハードル高くない?」

「たしかにwまあそれはお互いの距離感によると思うけどね?」

「それにチャットはチャットで楽しいじゃん?」

「あー言いたい事は分かる気がするけど」

「明日辺り、誘ってみるか~」

「あ、私明日の日課したらレベル上がりそうだから、冥界指導してよ!」

「おーいいね」

「楽しみ~タキさんってもう100なってるよね?」

「うん、この間一緒に冥界も行ったから大体分かると思うし」

「良かった~じゃあタキさんも行けるね」

タキさんにライムさんを紹介したのは自分だ。タキさんの繋がりでこうして今4人で遊べるようになって、縁って本当にあるんだと感じる。

「あとはさとーさん待ちだな」

「あ、さとちゃんはまだ99?もうすぐ100って言ってたけど」

「あー後いくつくらいで上がるんだろ?この間一緒にクエストして大分経験値も入ったと思うんだけど」

「さっすがフミ!手厚いじゃない」

「だからそういうのじゃないって」

「でももしレベルアップまでまだ結構あったら、みんなで範囲狩りでも良いよね」

「もち。さくっとさとーさん上げようぜ」

ああ、早くさとーさんと冥界に行きたい。まあ一緒に居れるなら、どこだっていいんだが。

「ライムこそ、最近どうなんだ?」

「えー?自分の話はしないくせに、私の話は聞き出そうってわけ?」

「いあ、そういうんじゃないけど、彼氏の一人や二人、お前の事だからいそうだなって」

あ、調子に乗ったなって思った。

「はぁ?何よそれ!」

「冗談だって、ギルドでモテてるからさ」

慌ててフォローを入れる。まあ8割は事実だ。本当にこの人はモテる。でもいつも変な男にひっかかってるイメージだ。

「みんなそんなんじゃないって・・・どうせ絶賛片想い中ですよ・・・」

急にしおらしい声になった。そこで、今までの会話の流れからしてピンときた。

「タキさんか」

「う・・・」

「なるほどねwでも何でそれで片想いなわけ?」

「フミって鋭いのか鈍感なのか・・・」

「ええ?」

「分からないの?ほんと鈍感!」

「何の事だよ!分かるわけないだろw」

「はぁー先が思いやられるなぁ~・・・」

「ストレートに教えてよ」

何でも直球なのがライムさんの良い所だと思っているのに、この歯切れの悪さ。

「・・・タキさんって絶対さとちゃんの事好きじゃん」

タキさんとライムさん、二人はお似合いだなって呑気に構えていたとこから一転、心臓が止まるかと思った。確かに、なんで今までその可能性を考えなかったのだろうか。勝手にさとーさんも自分と一緒にいるのが居心地の良い事だと思っていた。

「・・・まじ?」

「ほんと鈍いなー!うかうかしてると取られちゃうんだからね?」

タキさんとさとーさんは確かに仲が良い。大体どちらか一人を誘うともう片方が付いてくる。二人ペアでパーティーを組む事が多いし、ギルド内でもよく一緒に遊んでいる。付き合いの長さを考えると、自分なんてさとーさんに存在を認知されてからまだほんの1カ月にも満たないのに。

「は?・・・あ?うそw全然分からん!」

「フミが本気で焦ってるwほんとに好きなんだね~・・・」

ライムさんの軽口をスルーするくらいには焦っている。

「タキさんが・・・?」

「見てれば分かるわよ」

「俺勝ち目なくない?w」

「PSくらいじゃない?w」

「タキさんもそれなりに上手いじゃん・・・」

自分のプレイヤースキルに自惚れていた自覚があって辛い。そんなの練習次第でどれだけでも追い越されるのに。ていうか、PSなんて、ゲームの世界を離れてしまえば何の価値もない。

「せいぜい頑張りなさいよw」

「頑張るも何も、選ぶのはさとーさんだしなあ」

この後に及んで、まだ自分からがつがついけないのは、要らないプライドが邪魔をしているからだ。

「まあね・・・とりあえず今度4人で通話しようよ。いい感じにセッティングするから」

「ライムがそう言ってくれるなら任せるわ」

「はん!最初は自分が誘う!くらいのプライドはないわけ?」

ライムさんには全部見透かされているのか。もう的確に急所を突かれてばかりできつすぎる。だがこの通話の件に関しては、自分にも考えがあった。

「考えたんだけど、さとーさん滅茶苦茶緊張しそうだしなあ。ライムに任せた方が絶対上手くいくw」

「まあ・・・それは間違いないわねー・・・男よりも女の子から誘われた方が、警戒心も薄れるしね」

「間違いないでしょ?」

「まあフミが言っても普通に通話してくれるとは思うけど、たぶん通話するとか、あの二人全然頭になさそうだし、慣れてなさそう」

「タキさんとさとーさんはしゃべった事ないのか?」

「それとなく聞いてみたけど、ないみたいよ?タキさん誰とも通話した事ないって言ってたから」

「そっか・・・」

「何安心してるのよwてかそもそも敵はタキさんだけじゃないかもよ?」

「え?」

「さとちゃん、リアルに彼氏いるかもじゃん」

本当に、なんでその発想に至らなかったのだろう。本日2回目のホームランヒット。これだけゲームしてる人は彼氏彼女がいないと信じ切っていた。大体夜は毎日ログインしているし、自分と遊んでいるわけで。休日だって結構な頻度で昼間からログインしている。彼氏がいたらお泊りとか?(想像するだけでぞっとするが)そういうのもあるだろうし、夜ログイン出来ない日があるかもしれないのに。何も言葉を発せずにいると、

「まじで何も考えてなかったのね・・・」

ライムさんの心底呆れたという声。

「そうだな・・・」

「それは女子トークの時に軽く探り入れといてあげるわ」

「助かる・・・」

「成功報酬は九尾の虹尾1つで」

「金とるのかよ・・・まあいっかストックあるし、了解したわ」

「さとちゃんの為ならぽんと出せるのが凄すぎだわwレア素材なのにww」

たしかに。自分は何をしているんだろうか。高級な素材でも、こんなんでさとーさんの情報聞き出そうとか、必死すぎる。

「そのくらいギルメン誘って行けばぽろっと取れるだろ」

「冗談よ!その代わり、ちゃんと好きならさとちゃんの事捕まえててよね?」

「善処するわ」

それから30分くらいは領土戦の話になって、ギルド内での狩りの募集もかかりライムさんと二人でその募集に乗っかって遊んだ。遊んでる間に、いつの間にかさとーさんはログアウトしていた。

「あらあら、さとちゃん落ちてるじゃない」

「ギルドの活動に時間取られすぎたw」

さとーさんがもういないと知って、途端に眠気が襲ってきた。

「しょうがないよね・・・領土戦近いしさあ」

「まーな、そろそろ自分も落ちるわ」

「そうね~今日は久々に通話してくれてありがとう」

「こちらこそ」

「おやすみー」

「おやすみ」

ライムさんとの通話を切って、ゲームからログアウトした。乱暴にベッドに転がると、ベッドが悲鳴を上げた。さとーさんの彼氏かあ・・・深いため息が漏れる。リアルの相手はどうしようも出来ない。いっそ会ってみませんか?とでも誘おうか。いや、こんな知り合って間もない男から軽く誘ったりしたら、きっと警戒されるだろう。てか引かれるかも…もっと、距離を詰めないとと思うが、一体、どうやったらそんなスマートに距離を縮める事が出来るだろうか。ああ、会ってみたいな。同じ都内にいるらしいから、すぐ会えるはずだ。オンラインゲームは色々してきたが、初めてアバターの向こう側の本人に会ってみたいと思った。会えばさとーさんに好きになってもらえるほど、自分の容姿に自信がある訳でもないのに。久々に絡まなかったからか、どうしようもなく今夜はさとーさんが恋しかった。

悶々と、考えても仕方がない妄想を繰り広げる。さとーさんの声はどんなだろう?可愛い感じ?でもゲーム内では賑やかだけどあっさりした感じだし、アバターは綺麗で少しクールだから、高すぎず聞き取りやすい感じの声で・・・想像しているうちに、脳内にはいつものアバターが登場する。思い浮かべるだけで、胸の中が暑くなった。寝付きは良い方だと思うが、こんなに気持ちを止められない夜は、久しぶりだった。

しばらくぐるぐるとさとーさんの事を考えていたが、やっと眠気がやって来た。明日も仕事だ。社内イベントの手伝いで、珍しく休日出勤の日だった。でも夕方には帰れるだろう。明日はさとーさんと遊びたいな。目を閉じると、あっという間に眠りの海に沈んだ。




ボイスチャット用のアプリとしてよく用いられているものの一つに、ディムコードというアプリがある。特にミストワールドにおいては、PCでゲームを楽しんでいるユーザーから人気で、通話だけでなく、画面を共有したり、様々な機能がある。

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