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地雷プレイヤー

タキさんからのお誘いは100%断らない事にしている。それが、自分にはメリットの無いレベル上げのお手伝いだったとしても。

「ライムちゃーん、ごめんね、ヘルプお願い出来ない?」

「全然行くよ~」

そうやって参加したパーティーは確かにレベル77、85、99で後ちょい火力が欲しい所だった。恐らくこの前衛のSoraさんは100だし装備も強いので、フォローはいらなさそうだな。Kaiさんも多分大丈夫・・・と装備やパラメーターをチェックしていた。せっかくのタキさんからのお誘いだし、粗相はしたくない。一応領土戦ギルドの看板も背負っているし。こういう時、無駄にそういう自負が前に出てくる。

「フレのライムちゃん、ヘルプに来てくれたからよろしくね~」

「よろしくお願いします~」

タキさんから紹介されるのって、照れくさい。ギルドにはほぼレベル下の子がいないから、こういうお手伝いって新鮮な感じもした。

「ありがとねーうちのフレ全滅でさw」

「ソラさんうちのギルマスね!ソラさんが人呼べないの珍しいw」

Soraさんはタキさんとさとーさんのギルドのマスターって事なのか。なるほど、そういえば以前にちらっとタキさんとの会話の中で話には聞いていた気がする。

「タキさーん、サクラ魔法で行って的にならないかなあ?」

「大丈夫っしょー、ソラさんもライムちゃんもめっちゃ上手いから」

自分を名前呼びかー…姫プレイな感じかな?リアルならともかく、チャットでわざわざ名前をタイピングするなんて。いや、穿った見方は良くない。普通に良い子かもしれないし、タキさんのギルメンなんだから仲良くしないと

。そう思い直し、なるべく優しく返した。

「上手くはないけど、タゲは取るよ~」

「はーい、お願いしま~す」

うーん、その満面の笑みに裏を感じる。関係ない、私は私の役割を果たそう。

「じゃあ、行こうか」

「タキさんの飛行機可愛い!乗せてもらえます??」

私だってタキさんと同乗した事無いのに!目の前で同乗を見せつけられるのが、悔しかった。私もレベルが下だったら、あんな風に無邪気に甘えられたのかな。

「あー、まあワープの所までねw」

タキさんも戸惑いつつ断らなかった。優しいなあ。私だって乗せてもらいたいけど、でもこんなギルメンの前だとちょっと恥ずかしいかも。クジラ型の飛行機に揺られる二人の背中を見つめながら、狩場まで向かった。

「丁度空いてていいね」

Soraさんが飛行を解除して下に降りた。この狩場は、この間の領土戦で獲得したエリアだった。

「ライムちゃんの達のお陰でここで遊べるんだよなーw」

「いあいあwそんな事ないよ~」

急にタキさんに話を振られてドキドキする。

「ああ~どっかで見た事あると思ったら、フミと同じギルドの人か~」

「あら、お知り合いだったんですね!」

急にSoraさんの口からFUMIさんの名前も出てびっくりした。どうやらフレンドだったらしい。元々FUMIさんとタキさんはフレンドだったし、ギルド絡みで遊んでいてもおかしくはない。

「まあ腐れ縁的なねー・・・領土戦お疲れ様!観てたよー」

「うわー!嬉しい、ありがとうございます!」

こういう事言われるのは気恥ずかしいが本当に嬉しい。Soraさん優しいなあとしみじみしていた所、

「サクラは領土戦とか怖いかも・・・PVPとか絶対無理」

サクラコさんが割って入って来た。まあ、対人が苦手な人がいる事はしょうがない。にしてもちょっと突っかかられている感じがするのは気のせいだろうか?

「そう?俺コロとかも結構観に行っちゃう」

パーティーに入った際に挨拶したきり、全然喋っていなかったKaiさんがフォローしてくれた。

「カイぴょん、結構一緒に行くよねw」

「コロねー、見てる分には楽しいw」

タキさんとSoraさんも加わってくれた。

「俺まだ見た事ないんで、今度一緒行きたいっす」

「おーヤマトも行こいこー」

対人は好き嫌いが分かれる。でもタキさんが所属してい

ギルドだけあって、みんな初対面の私にも当たりがソフトだ。自然と話題はフィールド狩りに戻り、レベル上げが始まった。

「んじゃ雑魚ちゃん集め始めるね~」

重騎士のSoraさんがモンスターの近くを走りながら、プレイヤーに気づいて付いてくるモンスターを集めて、こちらに連れてくる。基本的にプレイヤーの方が足が速く、このカワミドリというモンスは近接物理攻撃タイプなので追いつくまで付いてくる習性がある。その特性を生かして、こうしてまとめて一気に倒す、を繰り返して効率的にレベル上げをするのだ。Soraさんが近くまで連れてきて、カワミドリ達がまとまった所で、私はスタンをかけた。両手剣のスキルでまとめて殲滅していく。両手剣は火力も高いし、ファンタジーの王道らしくエフェクトも派手なので好きだ。

魔法使いのサクラコさんも範囲魔法を投げてくるが、SoraさんもKaiさんも火力があるので、ほぼほぼ前衛の火力で落とせた。これだと次から次に集めてたくさん倒せるし、後衛も魔法連打しっぱなしにはならなさそうなのでMP管理が楽で良さそうだ。私が来たかいがある。後衛のMP薬は結構高いし、なるべく後衛の負担を軽くしてこその前衛だ。

「ヒュウ~♪」

タキさんも僧侶で回復に回っているが、かなり余裕そうだ。いい流れが出来て、この作業を何回か繰り返した。また次のカワミドリ達を連れにSoraさんが走る。うじゃうじゃとカワミドリが集まり、こちらに戻って来たその時だった。急にSoraさんが動かなくなった。恐らく動き的にインターネットの回線が切れたっぽかった。回線落ちして、急に敵のターゲットが変わった。

まず回復をしようと詠唱をしたタキさんにターゲットが移った。僧侶が落ちてはパーティーは壊滅する。私は咄嗟にタキさんの前に入って、スタンをかけた。タキさんから一旦私にターゲットが移り、その場は安定したかに思えた。

「!?」

ターゲットを取ってすぐ、前衛が範囲攻撃を入れるよりも先に、範囲フローマが飛んできた。ターゲットが安定する前に、サクラコさんが魔法を使ってしまったのだ。

ターゲットがサクラコさんに変わる。先回りしてもう一回スタンをかけに走るが、スタンのCTがまだ溜まり切っていない。範囲攻撃でこっちに振り向かせようとするが、踏み込みが甘く何匹か取り逃がしてしまった。Kaiさんも補助的にスタンをかけて戦士のスキルでターゲットを取ってくれたが、取り逃がした近接物理攻撃のカワミドリの攻撃は、1、2匹でも守備力の低い魔法使いには痛すぎた。

「あ!!」

サクラコさんが襲われてHPが0になる。

「生き返らないで!」

タキさんが経験値の還元がないように、復活せずにその場に留まる様に指示した。一先ずその場の鎮静の為、タキさんは回復から手が離せない。

「っ」

ターゲットを自分に全部集め直して、ようやくその場は落ち着いた。重騎士程防御力は高くないが、これくらいの範囲狩りなら、十分壁は出来る。Soraさんが居ない分少し時間はかかったが、Kaiさんとヤマトさんがいてくれたので残りの敵も殲滅させて、ようやくタキさんは回復から蘇生に手が回った。

「蘇生お待たせ~遅くなってごめんね」

「ごめんなさい、まさかこんな事になるなんて」

タキさんと私は謝った。幸い、その場で蘇生出来たので経験値の還元はなさそうだ。

「いえいえ・・・」

ヤマトさんは戸惑ったようだが普通にそう返してくれた。蘇生が終わって起き上がったサクラコさんは、

「タキさん、怖かった~~」

いきなりの発言にこっちが戸惑った。しかもモーション付き!こういうノリの子、やっぱり合わない。

「ごめん、自分も重くて動かないかも」

Kaiさんも動きがぎこちない。

「回線重そうだね」

「うん、リログしてくる」

「了解~」

Kaiさんももう一回ゲームを再起動する為に一旦落ちてしまった。突然のハプニングにしては、柔軟に対応したと思う。あの動きが出来る精一杯だった。しかし、サクラコさんはそうは思わなかったようだ。

「タゲとるって言ったのに~><」

「今のはしょうがないってw」

タキさんがフォローしてくれたが、これは今言われないといけない事だろうか。それでも一応謝る。

「ごめんね、でもタゲ安定する前に魔法打つと、タゲが移っちゃうから…」

「強い人って聞いたからなんとかなるかと思って~」

流石にそれは無理だ。ゲームシステムを外れた行動されては…イラっとしたけど、同時に悔しさも込み上げる。でも面と向かって怒るわけにもいかない。何もチャットを返せずにいると、初心者っぽいヤマトさんは、その様子にオロオロしていた。ごめんね、気を遣わせて。丁度パーティーメンバー2人が欠けた状態で、言い争っても仕方ないのだ。

「まぁまぁ、サクラコさんも還元なかったしそんな言い方ないっしょ!」

「自分弱すぎで、むしろ助けてもらってばかりですみません!」

タキさんもヤマトさんもフォローしてくれてありがたい。

「ううん、こちらこそだよ~」

私一人が悪いわけでもないから、もっと堂々としてればいいのだが、じわりとメンタルやられる。こういうタイプの女は関せず放っておくのが一番なのだが、タキさんのギルメンってだけでそうもいかない。

気まずい雰囲気に間がもたないけど、私が何を言っても火に油を注ぐだけのような気がするので、沈黙を守る。しばらく無言のまま4人で立ち尽くしていたが、私は沈黙がいたたまれなくて、こそこそとさとーさんにフレンドチャットを送る事にした。

「さとちゃん・・・後でお話し聞いてくれる・・・?」

さとーさんならサクラコさんがどんな人か知っているだろうし、タキさん達に迷惑をかけてしまったという報告もしたかった。

「え!何々!?全然聞くよ!」

すぐにさとーさんからは返事が返って来た。

「また後でタイミング合いそうな時にチャットするね」

「うん!いつでもいいから!待ってるね~」

重たい沈黙が続いたが、目の前に光りが舞い落ちて、ふわふわの聖獣族の女の子と男の子が戻って来た。Soraさん達が帰って来たので、一旦さとーさんとのフレンドチャットは区切りをつけた。

「ごめんねー!」

「戻りました」

ほぼ同時に二人が帰って来て、一目散に謝る。場が和んだのが手に取るように分かった。

「おかえりなさーい!」

「おかー大丈夫そう?」

「うん、ルーター再起動したから、もう大丈夫!」

「ソラさん~~私死んじゃいました;;」

サクラコさんが悲劇のヒロインぷりをアピールする。

「まじか!それは本当に申し訳ない!還元は?」

「立て直したから大丈夫だよ」

タキさんのお陰で立て直しもスムーズだった。

「そっか良かった!ライムさんも、急に来てもらってるのにごめんね」

「いえいえ、私の事はお気になさらず」

Soraさんは至極真っ当な人だった。ギルドマスターらしく、自分の事よりもちゃんと周りを気にしてくれる。

「よし、気を取り直してもっかい行こう~」

範囲狩りを再開した。それから30分程レベル上げをして、ヤマトさんが78にレベルアップした所で、とりあえず今日は時間的にも解散しようという事になった。

「お集まりありがとう~解散するね」

タキさんがパーティーを仕切る。

「タキさーん、一緒に都まで帰りましょ」

ここでもサクラコさんがタキさんに絡んでいた。タキさんとどういう関係かは分からないが、私は見ていたくなくなって、先に都に帰る事にした。

「まって、ライムちゃん」

タキさんからフレンドチャットが来た。フレンドチャットは周りには聞こえない。何を言うつもりかと思いワープを取りやめて、その場に留まっているとタキさんから同乗の通知だった。どきりとしたが、サクラコさんの目の前で同乗するのは流石に嫌な女過ぎるでしょ。そう思いタキさんに返信した。

「サクラコさん送らなくていいの?」

「先帰ってもらうから」

「いいよ、送ってあげて」

何で素直にうんって言えなかったのだろう。いい女ぶってタキさんの同乗を断ってしまった。承認すれば良かったと後悔してももう遅い。

タキさんの後ろから、サクラコさんがこちらをずっと見ていた。

「おつかれさまでした」

私はそう周りにチャットして、その場を離れた。


ギルドハウスが便利なので、ワープの転送先はいつもそこにしている。ギルドハウスに着いて荷物整理等をしてから一息ついていると、タキさんからパーティーの招待が来た。サクラコさんを送った後、すぐに私を追いかけて来てくれたのかと、期待してしまう。承認すると、

「外、出て来れない?」

とパーティーチャットで来た。

「今行くね」

ギルドハウスの中はもちろんギルメンしか入れないので、そう言ってギルドハウスを出ると、通りの向い側にタキさんが待っていた。

「さっきは本当にごめん」

「いあいあ、タキさんが誤る事じゃないし」

それでも気にかけてくれた事が凄く嬉しかった。

「ちょっと場所変えて話さない?」

「いいよ~」

再びタキさんが飛行機を出した。同乗のお誘いが飛んできたので許可すると、一緒にクジラの背に乗った。さっきまでサクラコさんが居た位置に、今度は自分が座るのが癪だ。でもタキさんの横に三角座りで並ぶのが可愛い。種族ごとに座り方が違うの、細かい配慮だけどこういうのが1番嬉しい。ああ、ちょっと男性側の肩にもたれた形になるのか~。アバター同士が仲良くしているのを見ているだけで、嬉しくなってしまうのは末期かもしれない。

「範囲狩り行く前は、さとーも一緒に雪山登頂してて」

「そうだったんだ~」

なるほど、私が呼ばれたのはさとーさんの穴を埋める為だったのね。大丈夫。嫉妬とか嫌な感じはしない。むしろしっかりその務めを果たさなきゃいけなかったのに。

「その時はさっきみたいな、あんな事なかったんだけど、」

「うんうん」

「サクラコさんの当たりがキツくてごめんね」

「やっぱ突っかかられてたよね?w」

「うんw普段あんな感じじゃないんだけど、なんかライムちゃんには凄く突っかかってたw」

「何でだろう~私何かしたかな?」

「いあ、ライムちゃんのせいじゃない」

「そっか、なら良かった」

「死なせちゃったのは申し訳ないけど、でもあのタイミングで魔法打ったらああなるしね・・・」

「そうだね・・・もうちょいタゲ安定するまで待っててもらえれば良かったんだけど、攻撃すると思わなかったから咄嗟にそこまでチャット出来ず・・・」

「うんうん、余裕無かったよね。ソラさんにも一部始終の事は報告しといたから」

「そっか」

「ギルド追放になるかは様子見だと思うけど、これからは鉢合わせないようにパーティー誘うわw」

「ありがとうw気遣わせてごめんねw」

「全然!むしろこっちの問題だよ。うちのギルドゆるいけど、迷惑行為は追放の対象になるって、最初に説明はしてるし」

大分高い所を飛んでいる。下にはミストワールドの中央を流れる大きな川が見えた。そのままタキさんは星屑の海岸の方向に飛行していく。

「あれだけで追放は可哀そうな気もするし、他メンバーと問題ないなら寛大な処置をw」

「あはは、ありがとねw」

「でも随分なモテようだったね?」

私は嫌味っぽく聞いてみた。

「やっぱアレって、アピられてたの?俺w」

タキさんは流石に好意に気づいていたらしい。でもそこで自惚れていない所が好感度しかない。ふっと笑いが漏れた。

「絶対そうでしょーw」

「ほんと急に同乗とか申し込まれてびびったわw」

やっぱり戸惑っていたんだ。タキさんの反応からするに、いつも乗せてあげている訳ではなさそうなので、少し安心した。

「あははwタキさんだって急に私に同乗申し込んできたのにー」

「それとこれは別wライムちゃんが騎乗してくれたら良かったのに」

いじってるけど、嘘。すごく嬉しくて、今すぐ嬉しいと叫んでしまいそうだ。いつでもタキさんの傍に居たい。本当は今いる領土戦ギルドも抜けてもいいくらいに。タキさんと同じギルドに入ればもっと一緒に遊べる。でもそれをしないのは、領土戦は領土戦で楽しいし、まだもっと上達出来る部分があると思うので、頑張りたいからだ。

それに、このままどんどんタキさんに依存していくのは怖い。私は好きになったらとことん寄りかかってしまう、所謂重い女。でも重いと思わせたくないから、すごく努力する。努力して良い女を演じようとする。

「あそこで同乗許可したら嫌な女過ぎるでしょwもっとあの子に嫌われてたわ」

「俺から誘ってるのに?」

「周りのプレイヤーにはそのアイコンは見えないからねーw」

「配慮が足りませんでしたすみませんw」

タキさんが素直に謝るのがまた可笑しい。本当に、どういうつもりでさっきは同乗を私に申し込んだのだろうか。テンパってただけなのかな。

「ほんとにだよーw私ってさー、女子に嫌われやすいんだよね」

「それは同性のひがみって奴じゃない?」

「んーでも私全然モテたりしないよ?w」

「それはライムちゃんが気づいてないだけでしょ」

「そんな事ないw変な男にばっかり絡まれるw」

「前ヤバいのいたねwその後はもう声かけてこない?」

「うんうん、フレも切ったし今は接点ないよ~あの時はありがとうね」

以前、ネット内でストーカーされた事があって、それをきっかけにタキさんと仲良くなったのだ。最終的にはタキさんにペアの振りまでしてもらった。

「いあいあ、お役に立てて何よりw」

タキさんのアバターをそっと眺める。ああ、やっぱり好きな顔。カッコ良すぎて反則だ。タキさんがさとーさんの事を好きなのはずっと前から知っているが、そろそろ私の事も意識して貰いたい。さとーさんにその気が無くても、今度はタキさんの周りにいる別の女性が放っておかないだろう。今回のサクラコさんのような女の子が。もちろん、中身はこんなにイケメンじゃないっていうのは分かっている。私だってこんなアバターのような美女ではないし。本当の容姿が気にならないというのは嘘になるが、私はタキさんの、どこまでも優しいところが好きなのだ。

「タキさん」

「うん?」

「タキさんはペア作らないの?」

「んー可愛い彼女は欲しいけど」

ふーん。リアル彼女が今居ないという情報はずっと前に話した事があった。でも、本当はそうじゃないでしょ?タキさんに軽くかわされている気がして、癪だった。だから、思わず切り込んでしまった。

「可愛い彼女じゃなくて、さとちゃんの事が好きなんでしょ?」

タキさんの飛行機が止まった。

「なんで」

「見てれば分かるよ」

「え、そんなバレバレだった?w」

こうやって自分から振っておいて、いざ認められるとやっぱり辛い。心臓がぎゅっとなる。最近通話も始めたとはいえ、まだまだオンライン限定のこんな関係なのに、それでも私はやっぱりタキさんが好きなんだなと再認識する。

「ずっと見てるからね」

「いやん、ライムちゃんのエッチ」

伝わったのか伝わらなかったのか、はぐらかされてしまって、悔しい。

またクジラがゆらりと動き出した。遠くに星屑の海岸の、キラキラとした虹色の煌めきが見えてきた。言うなら今かもしれない。ふとそう思った。望みは薄くても、意識してもらわないと始まらない。

「私はタキさんの事が好きだから、気づいたんだよ」

クジラは泳ぎ続けた。しばしの沈黙の後。

「ごめんね、俺まだ吹っ切れてないんだ」

「告白したの?」

「うん、でもあっさり振られたw」

「そっか・・・」

言われてしまった。こんなにもあっけなく終わってしまうのだろうか。チャットだと表情も見えない。タキさんは今どういう顔してる?困ってる?迷惑そうな顔をしてる?想像する事すら出来ない。文字だけのやり取りでも、振られたという事実がこんなにも辛い。何でこのタイミングで言ってしまったんだろうと後悔しても、このタイミングを選んだのは私だ。

でも今度は冗談とは取られなくて安心した。ちゃんと私の気持ちを受け止めてくれたって事でいいのかな。でも辛い。でも、でもでも、ここまできたら恥は搔き捨てだ。

「それでもいいから、ペアにならない?」

「それはダメだよ」

今度は即答された。うう、辛い。

「私はタキさんともっと一緒に居たい」

「そんな風に言ってもらえるの、すげえ嬉しい」

「なら」

「俺もライムちゃんの事好きだよ、一緒に遊ぶの超楽しいし、こうやって話してると安心する」

嬉しい反面、悲しい。それでもペアになれないんだ。タキさんは言葉を続けた。

「だから猶更、こんな中途半端な気持ちのままライムちゃんと一緒に居られないと思う」

「タキさんって、真面目・・・」

「そうだよ?知ってるでしょw」

「もっと私の事、利用してくれたらいいのに」

「嫌だよそういうの・・・俺弱いからすぐ頼っちゃう」

PCの画面が涙で滲んだ。ここまで言ってもダメだったという絶望感と、それでもやっぱり好きだという諦められない気持ちでぐしゃぐしゃになる。顔を覆って、涙が収まるのを待った。つくづく、チャットで良かった。通話で告白する勇気も無ければ、こんな顔見られなくて良かったと思った。

「私も諦められないから、待ってるね」

伝えるだけ、伝えたと思う。涙が収まる頃には少しすっきりしていた。

「ありがとう、本当に。ちゃんと決着付けるよ」

「うん」

さとーさんへの気持ちに蹴りをつけて、私の所に来てくれる事を信じてる。私は涙を拭ってクジラの上で揺れるアバターを暫く眺めていた。二人のアバターがお似合い過ぎるのを目に焼き付けておこう。星屑の欠片のプリズムが涙に滲んで、一層輝いて見えた。


それから暫くぽつりぽつりと会話しながら、ミストワールドをドライブしていたが、タキさんがもう寝るからと言って、また都まで送ってくれた。名残惜しかったがギルドハウスまで送ってもらって、タキさんは先にログアウトした。

パーティーが解散になってからは、さとーさんを捕まえて、久しぶりにまた女子トークをした。さっき送ったチャットを気にして、さとーさんは落ちるのを待ってくれていたらしい。サクラコさんとの事を話して、それからタキさんに告白した話もした。

「そうだったんだ…ライムちゃんからチャットが来た時にさ、タキからも一瞬やらかした的なチャット来て、」

「え!そうだったんだ!」

「やらかした~って言ってたから何かあったんだろうなとは思ってたけど」

「タキさんとは話した?」

「いや、結局何も言わず落ちちゃったよ」

「そっか~」

「たぶん、私に声掛けたの忘れたなw」

「www」

「でも、サクラコさんの事は意外過ぎるな・・・でもなんてゆうか、私とタキが一緒にいる事が多くて、ギルドの中でもペア的な扱いを受けてたからかな・・・その度に否定はしてるんだけどサクラコさんは勘違いしたままなのかも」

「てゆう事は、彼女不在の間、タキさんに近づくなっていう牽制だったのかな?」

「そうだったら結構いい子だと思うけど、同乗アピったりしてるから、どっちかというと彼女のいない間にタキに絡みたかったのかもねw」

さとーさんも結構言うな。後輩の不始末に怒っている感じがする。

「ああーwなんか腑に落ちたかもw」

「ちょいレベル上で戦闘上手いイケメンアバターってカッコよく見えるよねw」

「それはわかるw」

「でも何にせよ、ギルメンが迷惑かけてごめんね」

「いあいあ、みんないい人だったし、たまたまサクラコさんの虫の居所が悪かったんだと思うw」

「そんな風に言ってもらってありがとう~他のメンバーとはまた懲りずに遊んでね」

「もちろん!」

それから私はこの流れのままでさとーさんに話そうと思って、会話を続けた。

「後さ、私タキさんに告白した」

「ファッ?!」

「何その反応ww」

「ライムちゃんの好きな人ってやっぱタキだったのね」

「そうだよーw気づいてた?w」

「前にヒント出されたからね…でもそれがなかったら全然気づかなかったと思う…」

さとーさんの鈍さに恋敵としてはイラつく事もあるが、救われもする。

「もーほんと鈍すぎw」

「ううう、」

「フラれたよ」

「うううう、」

「さとちゃんの事まだ好きなんだって」

「あいつ、まじ・・・しょうもないな・・・」

さぞかしさとーさんは今反応に困っているのだろう。しばしの沈黙の後、さとーさんが言葉を続ける。

「クリスマスにタキから告白されて、でも私はきっぱり断ったの」

何で教えてくれなかったんだろうと思ったけど、タキさんの事を好きっていうのを知らなかったからかな?クリスマスと言えば、さとーさんはリアル彼氏にフられたばっかだったし、たしかちょうど会話も中断されてそのままだったから、まあしょうがないのかな。ああ、それでタキさんが「まだ」諦められないって言ってたのか。

「丁度ふーみんへの気持ちを自覚した辺りで、リアル元彼にも振られた所で、色々ぐちゃぐちゃしてたんだけど、」

「うんうん」

「驚くほどタキとペアになるという考えがなくてw」

「そっかw」

苦笑交じりでもこんなにもはっきり言われてしまうと、いっそタキさんに同情してしまう。

「タキとは話しあって、これからも良い友達でいてってお願いしたんだ・・・」

「うわー、それはタキさん辛いよw」

「ミスワ始めてから、タキが一番フレンド歴長いんだよね・・・だからどうしてもフレ解除とかしたくなくて」

私とFUMIさんもそういう感じだし、気持ちは分かる。それにタキさんとさとーさんがぎくしゃくしたら、いつもの4人で居心地のいいパーティーってなかなか出来なくなるし、これはしょうがないと思った。

「そっか」

「ごめんね、話してなくて」

「それは二人の問題だから、私はタキさんを待つよ」

「まじでライムちゃんいい女過ぎる」

おだてたって何も出ないぞ。さとーさんの事が好きだけど、どうしようもなく憎たらしく思う事だってあるのに。

「さとちゃんに言われたくないんだけどw」

「タキはきっともうライムちゃんの事好きなんだと思うよ」

これにはさすがにイラっとした。あなたのせいでフラれたのに、それをさとーさんが言うのは違うと思ったからだ。

「適当な事言わないでよ」

「理由ちゃんとあるから!」

私が納得出来る様な内容じゃなかったら、今日はここで会話を切り上げようと思った。時間も時間だし、このままさとーさんと話していると、八つ当たりしてしまいそうだ。

「聞いてやろうじゃない」

「タキって頼られるのが好きだから、ギルドの子と遊ぶ時にヘルプ頼んだりする事ほぼほぼないんだよね」

「ほうほう」

「かっこつけだからさ、お手伝いしてあげたり、皆に得になる事をしようとするんだよ」

「ほうほう」

「だから、今日のレベル上げでライムちゃんをヘルプに呼んだのは、相当ライムちゃんに甘えてると思う」

「ほほう?」

「ほんとに、私もお願いされた事ないし、自分でパーティー集められない時は野良拾うし、ライムちゃんに利益の全くないレベル上げに呼んだのって、相当信用されてるよ」

「でもそれくらいフレなら当然じゃない?」

「あと、通話にライムちゃんが来るとテンションが上がる」

「うそw」

「まじまじw」

さっきまでさとーさんを恨めしく思っていた気持ちも、現金なものでタキさんが絡めば簡単に浮上する。

「前、ライムちゃんが少し遅れて、ふーみんと3人で話してた事あるけど、ライムちゃんが来た途端テンション上がってたよ」

この情報は信憑性が怪しいが、信じたいという気持ちと猜疑心が押したり引いたり波の様にせめぎ合う。

「いや、その3人って複雑すぎない?w」

「んーまあ、表立っていざこざあった訳じゃないし、男二人は車の話題とかで結構盛り上がってたけどw」

「へーwいや、でもそれは、私を好きな理由にはならないよ」

私はまだ期待をするのが怖かった。しかもそういう思わせぶりな言葉をさとーさんが言って、後からやっぱり違いましたってなった時、さとーさんを今度こそ嫌いになってしまいそうなのが一番怖かった。

「なんていうか、私もそうだけど、そんな直ぐに違う人を好きになっちゃいけないと思ってる感じする」

「ふーむ・・・」

「だから本当はもうライムちゃんに気持ちが傾いてるのに、それを素直に受け入れられてないんじゃないかな」

そうだったら嬉しい。でも前向きすぎるさとーさんの発言を信じて、後で落胆するのが怖い。さとーさんは言葉を続けた。

「私が言うのもおかしいっていうのは百も承知なんだけど、もうちょっと待ってあげて」

「ほんとそれさとちゃんが言う?w」

「そうなんだけどさw」

「なんか私達っておかしいよね」

「え?」

「こんなに内輪で拗れちゃってるのに、私さとちゃんの事全然好きなんだもん」

「ライムちゃあああああん」

さとーさんがエモートで抱き付いてきた。

「私もライムちゃんの事大好き」

照れくさいけど、リアルよりももっと大事な友達が出来た瞬間だった。私は少しだけ、さとーさんの隣でまた泣いた。


範囲狩りでは、壁役一人にターゲットを取って貰う事が最重要だ。範囲狩りはプレイヤーの中で編み出され、各レベル帯ごとにオススメの雑魚モンスターが確立されている。

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