領土戦①
年明け最初の祝日、成人の日。この日は朝からそわそわしていた。待ちに待った領土戦の日だ。祝日なので、私は仕事が休みだった。家事を済ませて、昼間は買い物に出かけた。最近お気に入りのNewtubuのチャンネルで筋トレをして、ゆっくり長風呂したりと休日を満喫した。
夕方からミストワールドにログインしたが、FUMIさんもライムさんもギルドで組んでいるのか、全然空かない。夜の試合に向けて、色々ミーティングや準備があるのだろう。場所もずっとギルドハウスから動かない。
「おこんばんは~」
タキさんがログインして、ギルドチャットで挨拶をした。
「タキ!領土戦見に行こう!」
私は直ぐに個人チャットでそう送った。
「もち観に行くよ」
「どこで見よう?」
パーティーの招待を送りながら、私はタキさんに聞いた。すぐに承認されてタキさんがパーティーに参加した。
「今まであんまし見たことなかったんだけど、フィールドっしょ?」
「今回は花仙の湖の西だね」
合戦の場所は毎回ランダムで変わる。地形が変化すればそれに合った作戦を考えなければならない。領土戦中は、エリアの中心から四方に立方体状のバリアが展開される。無色透明、見えない壁が出現し、そのバリア内には、試合中は領土戦関係者しか入る事が出来ない。逆に、うっかり領土戦と知らずに通りかかった人に流れた魔法等が当たらないようになっている。
「フラットだねー。ルールは?飛行機はなし?」
「そうみたいね。今回は遮る物が何にもなさそうだし、正面衝突の歩兵戦っぽいね」
「なるほど~、じゃあ騎乗もなし?」
「えーと公式HP見ると・・・騎乗は有りだわ」
領土戦も時々によって条件が異なる。場所だけではなく、飛行機の有無、騎乗の有無。職の縛り等。今回の場合は、FUMIさんの黒トラの出番もあるかもしれない。太陽の都と月の砦、それぞれの都市に所属する領土戦ギルドは3つある。領土戦ギルドの選抜は半年に1回、コロシアムで行われるトーナメントイベントで決まる。各ギルド内から12人(2パーティー)を選抜し、36人対36人でPVPを行う。コロシアムが拡大したようなシステムだが、単純に相手のHPを0にすれば勝利という訳ではなく、それぞれの陣地内にある、大きな石を多く割った都市の勝利となる。全ての石にはHPがあり、0になったらその時点で勝利、決着がつかない場合は制限時間30分の内、より多く石のHPを削った方の勝ちだ。石は人が背負う。セオリーだと、防御力の高い重騎士が背負う。1パーティ内に持てる個数は自由で、1PT内に固めてもよし、分散させてもよし、その時々の作戦による。36人をまとめるだけでも大変なものだろう。石のHPは回復職の魔法では回復出来ない。プレイヤーが盾となり、敵の攻撃を防ぐ。プレイヤーの方はHP0で戦闘不能となっても、15秒したら初期地点にワープさせられるが、また戦闘に参加出来る。石を背負っていたプレイヤーがやられた場合は、石のみがその場に留まる。直ぐに誰か別のプレイヤーが背負い直さないと袋叩きになる。
「歩兵だったら飛行機から見た方がが状況分かるよね~」
「そうだなー俺は公式の配信も点けとくかあ」
ディスコード等のボイスチャットは、ゲームマスターの監修の元、厳しく制限される。情報が洩れてしまうとつまらないからだ。恐らく、GMが作った部屋に、登録している人のみ参加する形だ。フィールドのバリア内にいるプレイヤーには、領土戦の制限時間中は外にいるプレイアーからチャットも送れない仕様となっている。中にいるプレイヤー同士の会話は出来るし、オープンチャット(所謂白チャ)にしていれば、バリア内の会話もバリア外にいるプレイヤーに聞こえる。
配信は運営が行っている公式のチャンネルで見る事が出来る。ゲームマスターの実況付きで、人気のあるコンテンツだ。私も時々時間が合えば見ていた。今までは意識した事がなかったが、もしかしたら、その配信の中にFUMIさんが映っていたのかもしれない。
「とりま会場まで行ってみようか」
「おっけ~」
私達は場所を取る為にミストワールドの中央に広がる広大な平原まで向かった。
領土戦エリアに入るべく待機中。外界との通信が遮断される直前に、さとーさんからチャットが来た。
「頑張ってね!」
耳元で流れる、通話を聞きながも、素早くタイピングする。ギルマスが何か言ってるが、自分にはこちらが大切だ。
「ありがと」
「応援してるー!」
その言葉に思わず口元が緩む。緊張しているわけではなかったが、少し気分がほぐれた。さとーさんの情報を確認すると2人でパーティーを組んでいるようだった。相手はタキさんか。
「あんましタキといちゃつかないでね」
我ながら試合前に大人げないチャットだと思うが、打たずにはいられなかった。
「ええ?wそんなんじゃないってw」
戸惑うさとーさん可愛いな。さとーさんは否定するけど、タキさんはそうは思ってないかもしれない。
「試合終わって、23時頃東の見張り塔に来れない?」
あそこなら人が少ないはずだ。
「いいよ」
「一人で来てね。じゃあ、また後で」
通信遮断されるギリギリに送って、一方的に会話を切った。一人でと念を押す辺り、自分も必死だな。でもご褒美は確定した。これで無様な姿は見せられない。さとーさんよりも、今はタキさんにぼろくそに負ける姿なんて見せたくなかった。
「ーって事でフミ、聞いてるか?」
「了解、右翼の情報は俺から流します」
慌ててギルマスに返答する。
「頼んだ。隣のパーティーにサブマスいるから、フォローし合うように。サブマスも頼んだ」
「了解~」
「了解」
自分とサブマスターの霊寧さんが、ギルマスの通話に答えた。集中しなければ。
今回は、自分が中央1チームのリーダーだ。構成は狂戦士2、盗賊1、魔法使い1、僧侶2だ。ライムさんも同じパーティーで魔法使いで参加している。自分は狂戦士。うちのパーティーは石は持っていない。完全に火力部隊で、まず相手の陣地に切り込んで攪乱させる役目を担っている。さて、相手はどういう作戦でくるだろうか。攪乱させて、それとなく退却する振りをして、敵をこちらに引きずりこむ作戦だ。上手くいけば、そのまま両翼が囲い込んで包囲出来るが、中央突破はよくある戦略だ。相手も対策してくるだろう。状況をみて、右翼に合流する。その合流するパーティーがサブマスター率いるパーティーだった。右側から周りこんで、飛び出てきた相手を分断していく。
開戦してすぐに全滅すれば、ただこちらの戦力が削がれるだけで戦局の流れを握れない。それではこちらの攻撃が石まで届かず、逆に相手に攻め込まれる隙を作ってしまう。今のギルドマスターは戦闘技術も凄いが、戦術を組むのが得意だ。逐一情報を流して指示を仰いだ方がいいだろう。ライムさんは初陣だし、自分がサポートしなくてはいけない。
「よし、行こう」
パーティーメンバーに通話で話かけた。
「うっす」
「よろしくお願いします!」
「はーい」
「いくかああ」
「・・・」
ライムさんだけは丁寧に返事をくれたが、5人それぞれの返答が返ってくる。バラバラな様に見えて、何回も組んできたメンバーだ。そこに今回はライムさんもいて頼もしい限り。
黒トラに乗って、配置についた。開戦のカウントダウンが頭上に出る。
領土戦で使用するクリスタル(石)は、装備枠にセット出来る。領土戦エリアに入ると、申請したプレイヤーの装備枠に自動で付与され、背中に大きなクリスタルが現れる。
領土戦ごとに個数は変化する。開催日10日前に、エリアや地形、騎乗・飛行機の使用可否等の公式ルールが発表される際に、クリスタルについての仕様も公表される。