表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A Life Is Mine !  作者:
7/32

1-6

うちの家族は、私から見ても変わってると思う。


ごく普通の中流家庭だというのに、私立の女子校に幼稚園から通っていた私は、周りの子たちからすると浮いている存在だった。

別に仲間外れにされるとか馬鹿にされるとか、そういう事は全くなかったが、どこどこの社長令嬢や、一般家庭でも教育熱心な両親の娘さんに比べると、成績も中の上程度、ピアノやバレエなんかにはからっきし興味ない私は、のほほんと一人場違いに見えただろう。

本当はお金も掛からない公立で良いと言ったのだけど、何故、女子校に通っていたかといえば、父親たっての願いだったから。

所謂、草食系男子の父親。実年齢は四十過ぎだというのに、大きな眼とふわふわのくせ毛とが愛らしく、実年齢通りに見られた事は一度もない。二十代でも通ってしまう事があるくらいだ。ぽやぽやとした空気も一因だろうと思う。

父親似だと言われる私と並んで歩けば、兄弟にしか見られない。

その父親が、可愛い娘に虫が付くのを嫌がって、女子校に入れていたというのに。


お父さん、ごめんなさい。あなたがしっかり護ってきた娘の唇は、ゲイの男前に奪われました。

あ、ゲイじゃなくて両刀だったのか。


ラグラスの鳩尾に拳を埋めたまま、そんな事を考えていた私は、ふっ、と自嘲気味に笑ってから拳を戻した。

苦しそうに身体をくの字に折ったままの彼を見下ろして、捨て台詞を残す。


「その綺麗な顔に免じて、ボディだけにしといてあげるよ」

「お、まえは…本当に……」


私の鳩尾を喰らって喋れるなんて、中々やるなラグラス。あれ?私なんか悪役っぽくない?

空手有段者の警察官である長兄からは護身術を、格闘技好きの次兄からはムエタイを習っている私。痴漢撃退にはかなりの自信があるというのに、そんなに直ぐ復活されると困る。幾度も遭遇した痴漢どもは、一撃で撃沈して警察送りにしてやったのに。

もう一発いっておくかと一瞬思ったが、捨て台詞を残した後に追撃なんて格好悪い。


「まぁ、いい。これで俺が同性愛者ではないと証明出来ただろう」

「…なんだって?」


今、なんつった?!

轟々と起き上がる怒りに、私は頬を引き攣らせた。

まさかこの男、自分がノーマルだと主張するためだけに、この私の唇を奪ったというのか!

いくら男前でも、この星では王子様だとしても。

やっていいことと悪い事がある!


「酷いっ!」


わぁ!と、大袈裟に声を上げてしゃがみ込んだ。

こういう時は、悲しかった事を思い出すんだよね。子供の頃から一緒だった柴犬のたろが天寿を全うしたのは、昨年の秋だった。たろが死んでから僅か一月でチワワの子犬を買ってきた母親とは、愛情に差があるんだから!

う、うううう。

たろぉおおおおお!


「わ、わたし、初めてだったのに」


精一杯声を震わせて涙を零す。たろ…うううう。


「酷い……」


初めては好きな人が良かった、なんて事は言わない。

というか、実は初めてではないのだ。

中等部辺りから、何故だか分からないが女の子たちにモテるようになった私。背が伸びはじめたせいか、母親譲りの男っぽい性格のせいか分からないが、あい先輩、あい、と寄ってくる女の子たちは可愛かった。流石に「お姉様」は勘弁してもらったが。

友達に連れられて入部した演劇部では男役ばかりだったなぁ。可愛いカッコイイで分ければ、だれもが可愛い部類に入れてくれる顔立ちなのに。

高等部一年の文化祭で白雪姫の王子役をやらされ、超美少女の白雪姫にファーストキスを奪われた私は、なんで男として産まれなかったのだろうと涙したものだよ。


父親譲りのふわふわくせっ毛の隙間から彼を盗み見ると、物凄く狼狽してこちらを見下ろす蒼い双眸が眼に入った。

んふふ。私の唇を弄んだ罪は重いんだからね!まだまだ虐めてやる!


頬に出来た幾筋かの跡。潤んだ瞳を強調するため、私は瞼を落としてからゆっくりと押し上げた。そうして、じっとラグラスを見上げる。

彼は私の表情にぎょっとし、双眸を更に大きく見開いた。


「私の国ではね、結婚式で誓いのキスをするんだよ。一生を添い遂げる人に、神に捧げるために、大事に護ってるんだよ」


大嘘だ。

などと言う人間がここには居ないのだから、好き勝手言わせて貰おう。精一杯悲しそうに見えるよう、噛み締めた唇を震わせて視線を落とした。


「私にはもう…幸せな結婚は、出来ないん…だ……」


声音を震わせて再び膝を抱え込む。小さく肩を震わせるのも忘れない。

さあ、演劇部を怒らせると怖いんだぞ!(男役ばかりだったけどとか言わない)

さあ、どうする?!


「……分かった」


うぁお!危ない危ない、寝るトコだったよ。

数分の沈黙の後(あまりに黙りこくっているものだから、うとうとしてしまってた!)彼は零す様にそう言った。

ほう!慰謝料でも払う気になったか?でも、こっちの通貨を貰っても仕方ないんだよなぁ。地球でも価値があるような宝石とか金とかってあるのかな?

そんな事を考えていると彼が正面に座り込んだ。


「立ってくれぬか?」

「え、なんで?」

「いいから立て」


むう。何と俺様だ。

渋々と立ち上がると、彼は片膝を付いて私の手を取った。騎士が姫に傅くようだ、とぼんやりと彼を見下ろす。自分を見下ろしていた人間を逆に見下ろすというのは、ちょっと気分が良い。


「責任をとる」

「ふえ?」


えーと、責任をとって慰謝料、ってことだよね?

怖いくらい真剣な光を点した蒼い双眸に、まさか、と血の気が引いた。

これはあれだ。騙してはいけないタイプの人間だ!

手の甲に唇を落とした瞬間、私は全てを悟ってしまった。


「お前を妻に迎えよう」


おおおおお!冗談が通じない、超純粋な人間だぁ!

今時は幼稚園児でも疑うような事を、さらっと信じてしまった。君はオレオレ詐欺に簡単に引っ掛かるぞ!


「そ、そんなの無理だよ」

「何が無理だというのだ」

「えーと、ほら。ラグラス王子様じゃん」

「国に戻るつもりはない。戻ったとしても、血筋など気にせぬ。誰にも口を出させはせぬ」

「わ、私、この星の人間じゃないし、き、木村さんが許すはずないし!」

「あれには関係ないだろう」


ちょっとお!こんな展開聞いてないぃ!ムリムリムリ!

思考回路が壊れた。停止なんてもんじゃないよこれ。なんも浮かばない。脳みそパーンだよ!責任とって欲しいとかじゃなくてさ、慰謝料が欲しいとかでもなくて、ただ、仕返ししてやろうと思っただけだったのに。

っていうかさ。


「ラグラス、綺麗過ぎて好みじゃない」


あ、パーンってなり過ぎて、思わず言っちゃった。



ラグラスは完全に凍り付いている。

いや、そうだよね。これだけ完璧に綺麗な顔してて、好みじゃないとか言われたことないよね。傷付けちゃったかなぁ。

いやいやいや!元はと言えば、ラグラスが私の唇を奪うからいけないんじゃないか!私が罪悪感を感じる必要ない…よね?


「何て罰当たりなのお!」

「うお?!」


突然の叫びに、私はびくりと身体を震わせた。

すっかりと存在を忘れていたメイドちゃんは、大声で叫んだ後、洗濯物をカゴごと放り出してわなわなと震えている。


「アベル様の求婚を断るなんて、神への冒涜よ!あなた、世の女全てを敵に回したわ!」

「ええええー!?それは嫌だ!困る!」


私としてはこのメイドちゃんに嫌われるのも痛いのに!

女の子とは護り慈しむべき存在だ、と言われ続けて育てられた私。その信念を叩き込んだのは尊敬する母親だ。

だからと言って、ラグラスと結婚するなんてありえない。色々とまあ、ありえないよ!

今更冗談でした、なんてのはこの空気で言えるはずがない。


「どどどどうしよう!」

「お前…俺に聞くのか」

「だだだだだだって!女の子に嫌われるなんて、ありえないよー」

「……お前こそ、そっち系か?」

「そういう汚れた眼で見ない!プラトニック!プラトニックなんだよ?!私にとって、女の子とは愛でるものなんだよっ!」


恋愛対象なんかになるものか!女の子を汚すなんて、想像もしたくない!


「私の大事な女の子を汚す男なんか罰当たれぇ!」

「お前、産まれてくる性別を間違えたのだな」

「うん!心底そう思う!」


きっぱりと言い切った私を、冷やかな眼差しが貫いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ