壮麗な姉(拍手御礼文3・短編)
金の髪は光り輝き、透明感を肌は滑らかな肌は陶器のように輝きを放っている。整った面差しは文句の付けようもなく完璧で、嵌め込まれた対の青色は宝石のようだと謳われる。
彼の姿を視界に入れれば、それは燦然と輝き出し、誰もが眼差しも心も奪われた。
神が遣わした美の娘よりも美しい。
その少年は神が創造したものの中でも、群を抜いて美しい、稀有な存在だった。
「ラァ」
愛称で呼ばれ、その綺麗な少年はむっつりと唇を尖らせた。
振り返れば少年に良く似た美女がやんわりと微笑んで手を振っている。少年より僅かにふっくらとしたばら色の頬と、端がくいと上がった愛嬌のある口元が印象だ。
「いくつだと思っているのですか。いい加減にその呼び名は止めて下さい、姉上」
「何を言っているの。貴方はわたくしの可愛いラァでしょう」
この人に何を言っても敵わないのを少年は嫌というほどに理解している。小さく嘆息してから何用でございますか、と眼を細めた。
「まぁ、用が無ければ声を掛けてもいけないのかしら?」
「姉上」
「まぁまぁ。綺麗なお顔をそのように歪めては、お母様が悲しみますよ」
貴方のお顔が大好きなのですから、と続けた姉に何を言っても仕方ないのだ。
理解はしていても、まだ少年の彼にはそう簡単に納得が出来ない。
三つ年上の姉は、今年隣国に嫁ぐ事となっている。正式な婚姻が決まった頃から更に美しさに磨きが掛かったと言われている彼女も、当初は数える程しか顔を合わせていない婚約者に、国に不満を抱いていたようだった。
あの国とは美的感覚が違い過ぎると騒いでいた姉の我が儘にも、にこにこと緩んだ微笑みで、貴女の好きになされば良いと言ってくれた婚約者は温厚であると同時に、姉を上手に誘導出来る凄い人だと密かに尊敬している。
まあ--あの原色を貴重とした服装だけは受け入れられそうにないが。
今では、その趣味の悪さも可愛いと言ってのける姉は、彼を相当に気に入っている。我が姉ながら、理解出来ない趣味だ。
「今日はフィリカ殿下がいらっしゃる予定では?」
「お見えになるのは夕刻になるそうなの…スターチス様の機械を、早くあちらに付けて頂けないかしら」
「あれの力など、頼りにすべきではありません」
「全く、貴方は真面目で可愛いわねぇ」
こういう場合、可愛くない、と言うべきではないだろうか。この人の思考は突拍子がない。
「変に拒んでも、あの方がロベリアに加担するのを辞める訳ではないのだから、もっと楽に考えなさい」
「そうは言われましても。俺はあれが嫌いだ」
「ラグラス」
ぞんざいになってしまった言葉遣いを窘められたと思った少年は、小さく肩を竦めた。
だが、姉はにっこりと笑って言葉を続ける。
「使える物は何でも使っておくべきでしょう?」
この姉が自分の身内で本当に良かった、と少年は頬を引き攣らせた。
手放しの味方ではないのが、痛いところだと。
小さくごちたのを、姉が聞き逃すはずもなく。
少年は、姉が自分に向ける愛情とやらをくどくどと夕刻まで聞かされる羽目となった。