拘泥の妹(拍手御礼文2・短編)
本編の数か月前。
小松家次男の一人称です。
俺がシステムエンジニアという職種に就いたのには理由がある。
俺の仕事は基本的にパソコンに向かってシステムを組み上げるだけだ。企業から依頼されたシステムを淡々と仕上げていく。
うちくらいの規模になると、その仕事を取ってくるのは営業部の人間で俺には関わりがない。
俺は、人と関わる仕事をしたくないのだ。
自分で言うのもなんだが、見目が良い部類に入る俺には女からの面倒な誘惑が多い。社内だけでも合コンの誘いだの個人的な誘いだのは多いというのに、営業なんてやっていたらこの比ではないだろう。
自分の容姿に自信を持った美人なんてのは、こちらが乗ってくるのがさも当然と誘惑してくるのだが本当に勘弁願いたい。そういう女は大概面倒で我儘。相手をしてもはっきり言って疲れるだけだ。
俺の好みは天然で可愛い子。ぽやぽやとしているのも良いが、飾り気なく笑う子が良い。
そう。
妹のあいのように。
七つ歳が離れていることもあり、あいの存在は妹というより娘に近いものがある。
父親もあいを溺愛しているが、俺はあそこまでの束縛はしない。ちょっと連絡が無いだけで騒ぎ出す、出張と称して修学旅行に着いて行こうとする。あれは異常だ。
あいの事は可愛いし心配もするが、基本的には信頼している。自分の理念を持って行動出来る、しっかりした子だ。女の子が絡むと人が変わってしまうのが難点だが…
「小松先輩、昼行きました?」
「ん、ああ、忘れてた」
作業に没頭すると時間を忘れてしまうのだ。ノッている時はこうやって声を掛けてもらわないと、休憩もせずに終業時間までなんてのも少なくない。
またですか、とっとと行って下さいと息を吐く後輩に促され、席を立った瞬間に携帯が振動した。
サブディスプレイには「あい」の表示。
俺は思わず破顔した。
「はいはい」
「桂くん、ごはんもう食べた?」
「どうした?」
「うん、あのね。桂くんの会社の近くに来てるんだけどね」
窺うような、甘えるようなその声に、俺は小さく笑った。
「この前言ってた洋食屋か?」
「凄い!何で分かったの?!」
「あいの事ならなんでも。今から下りるから、下で待っててくれる?」
「分かった!」
じゃあね、と切れた通話。
通話時間を知らせた画面が消えると、笑顔のあいとチワワの待ち受けが表示された。先月末、納品間近だったソフトのシステムエラーで土日が潰れた俺に「回復呪文(ベホマ!)」というタイトルで紘が送ってきた物だが、実質かなり癒されるのでそのまま待ち受けにしている。
「先輩…彼女ですか?」
「さあ」
今の通話を言っているらしい。俺は意味有り気に、薄く笑って見せた。
「無茶苦茶甘ったるい声して!なんすか、その表情!俺にもそれくらい優しい指導をして下さいよ!」
「何言ってんだ。十分可愛がってやってるだろうが」
「意味が違います!意味が!」
噛みつく後輩を笑い飛ばし、コートを手にした俺は、あいを待たせないようにと足早に部署を出た。
「待ち受けの女の子、超可愛かったんだけど…」
「やっぱり彼女居るんだ」
背後で聞こえた同僚の囁きに俺はほくそ笑む。最近しつこく言い寄ってくる経理部の子にまで噂が伝われば良い。
ドSのくせにと叫んだ後輩には残業確実な面倒な書類を押し付けてやると硬く誓った。




