第8話 2人の家族
翡翠の思惑は分からぬまま次の日を迎えたあかり。目覚ましがなる中、寝ぼけて目覚ましを切ってしまった。そのまま眠るあかり。そんなあかりの部屋をノックしてきたのは葵だった。
「あかりさん。朝ですよ!」
「ほへ?」
あかりは寝ぼけまなこで葵を見てしばらく沈黙したあと気づいた。
「あーーーーっ!お弁当!?」
「大丈夫ですよ。ボクが作っておいたので……」
「ごめんね!葵君!」
「全く、葵が念の為早く起きて弁当を作ってなければ弁当なしだったぞ?」
薫も不機嫌そうに部屋に顔をだす。
「ごめんっ!2人共!!」
「いいからさっさと用意して食卓につけ。」
「あかりさん、待ってますね。」
薫はぶっきらぼうだがどこか優しく急かし、葵は優しい笑顔で部屋のドアを閉めて出ていった。着替えて居間に向かい、食卓へとつく。
「葵君先に起きてたなら起こしてくれれば作れたのに。」
「あかりさんに無理して欲しくなかったので、つい……」
「無理してなんかないよー!」
薫は黙々と食事を食べてすぐに席を立った。
「兄さん今日はいつもより早いね。」
「ああ、ちょっと用があってな。」
薫は荷物を持って出ていこうとする。葵が笑顔で
「行ってらっしゃい!」
と、言った。
「うん!行ってくる。」
と、薫も優しく微笑んだ。
あかりも行ってらっしゃいと言うと薫は無愛想にああ、行ってくると言った。
「っ!なんで私には愛想ないのーー!」
「たぶん、照れ隠しですよ。」
「照れ隠し?そうは見えないけど……」
「そうかな?兄さん素では結構不器用だから……」
「へー。」
そう言って食事を終え、流しに食器を起き、学校へと向かう。
「葵君、虐められてる事先生に言った?」
「……言いました。でも、ボクが悪いと言われるばかりで……」
「教師の風上にも置けないわね。」
「灯火君は兄さんの次に成績優秀で、先生からも気に入られているので、ボクなんかの意見なんて、聞いてもらえません。」
「うーん、そっかぁ。私の時代なら大問題なんだけどなぁ。」
「?」
校門に付くと薫達が立っていた。いつも通り挨拶をして校門を通る。下駄箱にきた。昨日の今日だ。きっと何か入っているに違いない。そう2人は思った。だが、そこには何もなかった。
「……?」
「なんでだろう?」
葵もあかりも不思議に思う。あのいじめっ子のおじの事だ。何倍にも返してきてもおかしくない。だが、今日は入っていなかった。教室もそう、机の中には何も入っていない。2人は不思議で堪らなかった。
「葵君、よかったね?今日は何もしてこないなんて!」
「……たぶん、後でもっと痛い目にあうのかもしれないです。」
「あ、ははっ。」
あかりはその言葉に呆れたように笑うしかなかった。
お昼休みの事である。葵がトイレに立った時、階段を降りようとした時である。後ろに影あり、葵は気づいた時には前のめりに転んでいた。
「いっ……!?」
そう、灯籠は葵を階段から突き落としたのだ。なかなか帰って来ない葵を心配してあかりが見にいくと葵は階段の踊り場で寝転がったまま動けずにいた。
「葵君!!??」
あかりが駆け寄ると葵は大丈夫、大丈夫と空言のようにいいながら足を押さえていた。あかりはすぐに保健室へと葵に肩を貸して向かう。一応念の為に病院へと運ばれたが、軽い捻挫と打撲だけであとは問題ないそうだった。早退して葵は家に帰った。帰ってすぐにあかりは葵の部屋へと急いだ。
「あ、あかりさん!」
「よかった!葵君に何かあったら、私っ!」
そう言って涙を流すあかり。そこに薫も走ってきた。
「葵っ!!」
「兄さん?!今日は生徒会の仕事早く終わったの?」
「そんな事なんてどうでもいい!それより、階段から落ちたって本当か?!」
「うん。」
「何やってるんだ……、まさか、灯火?」
「……違うよ!大丈夫だから気にしないで兄さん!」
薫に健気に笑顔でそういう葵。
「葵っ!」
「葵君!」
「……、ボクが勝手に落ちただけだよ。」
「嘘つかないで!おじ、……灯火君がやったんでしょ?!」
「葵……本当はどうなんだ?」
「…………灯火君が階段で急に出てきてボクを押したんだ。」
「こんなの殺人未遂だよ!」
「…………灯火がまさかそんな事までするとは思わなかった。」
「でも、大丈夫!気にしないで2人共!」
「「……」」
あかりと薫は顔を見合わせて悲しそうな顔をした。
「2人共、心配してくれてありがとう。」
「当たり前だろ!たった1人の家族なんだから!」
そう言えば2人の両親を見かけない。出張にしても今の言い方は不可思議だ。
「今日はゆっくり休んで寝ていろ!」
「うん!ありがとう兄さん。」
薫と共に部屋の外にでる。
「警察には言わないの?」
「目撃者がいないだろ。いたらもっと早く保健室に運んでもらえてる。証拠がなければ言おうにも言えない。」
「薫君、そう言えば2人の両親は?」
「…………はぁ、両親はいない。事故でなくなった。」
「っ!!ごめん。」
「何故謝る?」
「聞いちゃいけなかったかなって、思って……」
「……別にいいさ。もう慣れた。葵の目の下のくまが消えないのは何故だと思う?」
「……寝てない?」
「そうだ。両親が事故にあったあの日から葵は睡眠をとることが難しくなった。毎日泣いて夜は眠れなくて……。そんな葵を俺が支えてやらないといけないのにっ……。くそっ!灯火めっ!」
「……ごめんなさい。」
「今こそ何故謝るだ。お前の事じゃないだろ?」
「でも、親戚だし……」
「……関係ないだろ。灯火は灯火灯籠、灯火あかりは灯火あかりだ。気にするな。それより葵の傍に居てやってほしい。」
「私が?」
「俺だと葵は心配かけないと気丈にふるまうからな。お前にいてやってほしい。」
「わかった!」
あかりは葵の部屋へと戻る。その様子を翡翠は廊下から見ていた。
「このままでは、また……」
翡翠は何かを心配するようにそこに立っていた。




