第33話 勝負のゆくえ
「さて、誰もあかりを目覚めさせれなかったな。」
「また、ジャンケンですね!兄さん!」
「ふんっ!今度は僕が勝つ!」
ジャンケンをしようとした時だった。あかりの瞼が僅かに動く。
「「あかり!?」」「あかりさん!?」
「……あれ?皆?なんで……?」
あかりはついに目覚めた。
「あかりさん!返事をずっとまってます!」
「あかり、僕のだと言え!」
「お前ら落ち着け。」
あかりは起き上がり、皆の顔を見渡した。
「あかり。お前が何故、自殺未遂なんかしたか、俺達は理由を知っている。」
「……皆にはわからないよ。だって……」
あかりの眼から雫が溢れる。
「あかりさん?!」「あかり!?」
葵と灯籠がハンカチを渡そうとするが薫に阻まれた。薫は泣いているあかりを見た途端にあかりへの思いが溢れてあかりを抱きしめた。
「薫、君?」
「知っている。知っているから。翡翠様から聞いたから……」
薫はそう言いながらあかりの頭をなでた。
「おい、紫源…?」
「兄さん……」
2人の視線が刺さった。薫はあかりを離した。
「すまん。つい……」
薫は頬を赤らめて頭をかいた。
「じゃあ、ここにいる皆知ってるの?」
灯籠も葵も頷く。
「ごめんなさい!私、何度も何度も、止められなくて……!」
あかりはさらに泣きじゃくる。
「……灯火が悪い。」「灯火君のせいだと思います。」
「っ!お前ら!?僕を許したんじゃないのか?」
「許した。」
「ボクも許しました。」
「じゃあっ……!」
「許している。あかりは悪くないと言っただけだ。」
葵も頷いた。
「……僕が悪かった。あかりは悪くない。わかってる。3人共、すまなかった。」
「まあ、まだ今はしてない訳だしいいがな。」
「……ちょっとモヤッとしますが、確かに兄さんの言うとおり、まだ起こっていませんから、許します。」
「あかり、それより僕のあかりだと言ったな?覚えているか?」
「……うん。」
灯籠は誇らしげに2人に、だそうだと言った。
「あかり。本当は灯籠のこと、どう思っている?」
薫は落ち着いていた。自分の仮説の方が正しいはずだと。
「……灯籠君のこと、好きだよ?でも、それは友達として好きってことで……」
「っ!そんな……」
「……なるほど」
薫が納得したようにため息をついた。葵はすかさず聞いてみる。
「あかりさんが好きなのはボクですよね?あかりさん?!」
「……うん、大切な友達だよ?」
「あかりは俺達3人のこと、友達だと思っているんだな?」
「……うん。」
「っ!僕の物になれ!あかり!」
「ダメです!あかりさんはボクのです!」
「落ち着け。2人共。あかりは誰のものでもない。俺達の友人だ。」
「……薫君。ありがとう。」
「僕は認めないからなっ!あかりを諦めるつもりはない!」
「ボクだって!」
「……」
薫は1人押し黙った。
「退院までジャンケンして、誰があかりを手に入れるか勝負だ!薫!葵!」
「……お前なぁ。はぁ。」
「ボクは賛成です!あかりさんはボクを好きになってくれるはずですから!」
「薫、フラれるのが怖いのか?怖気付いたんじゃないか?!」
「……あのなぁ……あー、もう、わかった。俺も参戦する。」
薫は頭を抱えながらそう言った。こうしてジャンケンして順番を決め、またあかりのところへ通う事になった。
次の日、病室に来たのは灯籠だった。
「灯籠君?!学校は?」
「休んだ。」
「へ?!」
「お前を少しでも長く独り占めしたいからな。」
「灯籠君……」
「何か食べたいものとかないか?なんでも、用意するぞ?」
「大丈夫だよ。」
「そうか……あかり。」
灯籠はあかりを抱き寄せる。
「どうして、嘘をついたんだ?」
「嘘?」
「そう、僕のものだって。」
「……」
あかりは暗い表情をした。
「僕が怖いのか?」
「……ちょっとだけ。」
「……そうか、すまない。」
灯籠はあかりを離した。
「灯籠君はどうして私の事が好きなの?」
「……それは、その。あれだ。」
「?」
「察しろ!」
「……難しいな。」
「…だから!薫と比べて薫を選ばないからだよ。お前だけは僕自身を見てくれていた。ように思う……。」
「灯籠君……」
「……だからってその、僕に遠慮して薫を選ばないのはやめろよ?」
「え?」
「お前が好きな相手を選べばいい。例え僕じゃなくてもだ。」
あかりは驚いた。あれほど薫と比べ、嫌悪し、薫を憎んですらいた灯籠が薫を選んでいいなんて事を言うとは思わなかったのだ。
「……まあ、僕が選ばれるのは決まっている事だけどな!」
「ふふっ、灯籠君らしいね。」
「……もっと笑え。」
そういってあかりの頬にキスをする。
「お前の笑った顔が好きだ!」
「……ありがとう。」
それからはたわいのない話をして1日が過ぎた。
翌日の放課後、病室に来たのは葵だった。
「あかりさん!」
病室に入ってきた葵はあかりに抱きついた。
「葵君?!」
「あかりさん。好きです!」
「……ありがとう。」
葵はあかりから離れる。
「あかりさん、ボク、不思議でたまらないんです。翡翠様はどうして、あかりさんにループなんてさせたんでしょうか?」
「?どうしてって、2人を助ける為に…」
「それですよ。神は人の営みに干渉しない。それが神々のルールです。なのに今回は違った。翡翠様にとって、あかりさんは重要な存在だった。何故なんでしょうか?」
「いや、重要なのは葵君と薫君なんじゃない?だって2人を救う為に……」
「……あかりさん、あかりさんには陰陽師としての才があります。ボクが居なくなっても陰陽師がいれば村は繁栄するんです。」
「……陰陽師が居れば?」
あかりは不思議そうな顔をした。確かに、陰陽師がいればそれでいいはずだ。なのにわざわざ自分をループさせる意味なんてあったのだろうか?
「私が力に目覚めないからじゃ?」
「……そうかもしれません。でも、ボク達が死んで翡翠様の生活が変わったのかもしれないですね。」
「……翡翠様の生活?」
「翡翠様は悪霊をよせやすい。そのため、陰陽師がこの村に来る悪霊を退治する必要があります。仮説ですが、翡翠様はきっとこの20年で力の大半を失ってしまったのではないでしょうか?」
「葵君が居なくなったから?」
「はい、そうです。ボクがいなくなって悪霊は翡翠様自身が退治しなくてはならなくなり、力が失われた。そして村は衰退した。だから、ボクが必要だと考えた。あかりさんに陰陽師のコツを教える為にもボクが必要だった。そうじゃないでしょうか?」
「……なるほど?」
「でも、わからない事があります。」
「?」
「あかりさんにループさせる必要なんてなかったんじゃないかって…」
「どうして?」
「だって、そんなの無駄な時間じゃないですか。助けるだけなら助言をして、もっと上手く、早く、助ける事ができたはずです。」
「でも、神は人の営みには干渉しちゃだめだからじゃ?」
「いえ、タイムスリップさせる時点で干渉しています。それは理由になりません。」
「……うーん?つまり?」
「……翡翠様には他に何か目的があるのかも、しれないです。」
葵が話終わると外はもう暗くなり始めていた。葵は、ではまたと言って帰ってゆく。
翡翠様の目的かぁ……。
あかりは翡翠の考えが分からなくなった。確かに葵の言うとおりなのだ。効率が悪い。つまり、
「ループすることに意味がある?」
あかりはその後ももんもんと考え続けた。次の日、放課後、薫がやってきた。
「あかり。」
「薫君。来てくれてありがとう!」
「ああ。りんご、食べるか?」
「うん!」
薫は置いて持ってきたりんごを剥き始める。
「ほら!食べろ!」
剥いたりんごを皿に入れて、そのひとつを爪楊枝で刺して、差し出した。
「え、あっ……」
これでは恋人同士あーん、である。またあかりは思い悩んだ。
「要らないのか?」
「た、食べるけど…自分で食べれるよ!」
「……そうか。」
薫は少し残念そうにりんごを皿に戻して差し出した。
「ありがとう。」
もしゃもしゃと食べるあかり。
「その食べっぷりならすぐに退院出来そうだな。」
「うん!」
「あかりは誰が好きなんだ?」
「へ?」
「その、恋愛対象として……」
「えーと」
「いや、いい。皆友達だと言っていたな。すまん。変なこと聞いて。」
「……」
「……俺、自信がないんだ。」
「?自信?」
「お前が俺を選ぶ自信。だって、俺だけ生き残った未来では、物凄い醜態を晒して死んだ訳だし……かっこ悪いだろ?」
「そんな事ないよ!」
「……いや、いい。わかってる。俺はかっこ悪い。それに、陰陽師としての力もない。本来なら葵のように力を持ったものが家を継ぐべきだったのに、俺なんかが継いでしまったが為に葵に負担をかけてしまっている。本当に情けない兄貴だよ。」
「…意外だなぁ。」
「?そうか?」
「薫君ってなんでも出来るイメージがあったからもっと自信があるんだと思ってたよ。」
「……なんでも、じゃないだろ?陰陽師としての力はない。」
「……私だって、嵐を呼ぶことさえできなかったよ!それに力を持ってないのは薫君だけじゃないじゃん!」
「確かに、そうだが……」
あかりは薫の手をとって握る。
「薫君はそれ以外なんでも完璧でかっこいいよ!それに優しいし!」
「っ!あかり!」
「……私、どうしようって思ってたんだ。」
「?何がだ?」
「3人と仲良くなったのはいいけど、3人の恋人見たいになっちゃって、どうしようって!だって、私はそんなつもりじゃなくて、ただ2人に生きてほしかっただけなのに……」
「……」
「だから、薫君が友人だって言ってくれた時、正直、肩の荷がおりたんだよ。」
「ふふっ、そうだ。あかり、誰も選ぶ必要はない。お前の好きにすればいいさ。」
「……ありがとう!薫君!」
2人は笑いあった。その後、薫はしばらくして帰った。
「……好きな人、か。」
あかりは夜空を見上げながら感慨にふける。
「私なんかにはまだ早いよね。でも……でも、もし、誰か選んでいいのなら……。」
あかりの頭の中に彼の姿が過ぎった。
「はわわっ!?」
赤面したあかりは恥ずかしそうに布団に潜った。




