第26話 2人の距離
「今僕にキスできたらな!」
「え?」
あかりは戸惑う。キスなんて出来るわけがない。だって、叔父さんである。実の叔父である。更に性格も悪くて母が好きな叔父さん。好きでもないのにキスなんてできない。
「断ったら、葵をもっと虐める!」
「!!」
断れない。断ったらきっと、葵君が危険に晒される!
「……わかった。」
あかりは嫌々ながら灯籠の顔に顔を近づける。近い、顔が近い。そっと、灯籠の頬にキスした。
「……まあ、お前にしては及第点だな。」
あかりは青ざめた。気持ちが悪い。早く洗いにいきたい。
「おい、顔が青いが大丈夫か?」
「だ、大丈夫。」
そう言ってその場を去ろうとしたあかりは落ちていた石に躓く。
「きゃっ!?」
思わず灯籠の服の裾を持ってしまった。あかりの上に、灯籠が覆い被さるように転げる。
「…………」
「…………何するんだ!」
灯籠は巻き込まれ、怒った。灯籠との顔の距離が近い。だが、灯籠は公園の時とは違い、すぐに退けてくれた。
「立てるか?」
「へ?」
おこっているのに優しく手を差し伸べてくれる。立とうとしたあかり。だが、足が痛む。
「痛っ!」
「お前っ……!?足を挫いたのか?」
「そ、そうみたい。でも、だいじょっ……」
大丈夫、そう言おうとしたあかりを灯籠は姫抱きした。
「へ?!」
「保健室まで行ってやる。動くなよ。」
「い、いいよ!恥ずかしい!」
「いいから黙ってろ。」
保健室へとつくと養護教諭が足を見てくれた。対した事はないが湿布をはってくれた。無理して歩かないようにと言われる。
「それにしても、2人は仲良しなのね!灯火君が灯火さんを運んでくるなんて……!」
「「?!」」
違うと否定するあかりに、灯籠は少し顔を赤らめながら何も言わなかった。教室へと戻り授業を受ける。放課後、灯籠と帰る。灯籠はあかりをおんぶして家まで連れて行ってくれた。
「灯火君、ありがとう!」
「ああ。」
「また、明日!」
叔父さんは悪い人ではないらしい。だが、薫への嫉妬が叔父さんを歪ませているみたいだった。葵が帰ってきたあかりに声をかけた。
「あかりさん。灯火君からなにか弱みでも握られているんですか?それとも……ボクの、せいで……」
「違うよ!私が、その、なんて言うか……」
「ボクのせい、ですか?」
「違うよ!私が好きで灯火君と帰ってるだけだから!」
「…………そうですか。」
葵はどこか腑に落ちない顔をして部屋へとかえってゆく。
「あかり、いい調子だと思うぞ。」
「翡翠様……」
「このまま灯籠が薫をライバル視しなくなれば2人が助かる可能性が高くなる。」
「……うまくいくかな?」
「……さぁな。」
2人で玄関で話していると薫が帰ってきた。
「ただいま。」
「おかえり。」
薫の眼にあかりの足の包帯が目に付いた。
「っ!もしかして灯火に何かされたのか?!」
「へ?」
「その足だよ!」
「ち、違うよ!私が勝手に転んだだけでっ!」
「……そうか。何かあったらすぐに言えよ?」
薫もどこか腑に落ちないような顔で部屋に戻ってゆく。
翌日も灯籠と帰るあかり。今日は葵への嫌がらせはなかったのであかりも機嫌がいい。
「ちょっと公園寄っていかないか?」
「うん!」
公園のブランコに乗って2人は話す。この公園ではいい思い出はない。叔父に押し倒された所だからだ。考えてみたらこれって犯罪では?
「葵君へのいじめやめてくれてありがとう!」
「……別に」
「灯火君は緑さんのどこが好きなの?」
「……優しいし美人だし、勉強もできるとこ。」
「そうなんだ。」
「なんだ、妬いたのか?」
「いや、違うよ。私はっ」
話していると天から水が降ってきた。雨は急に強くなる。ドーム状の遊具の中に入って雨をしのぐ。
「早く止んでくれないかな?」
「ああ、……っ?!お前!」
「へ?」
灯籠はあかりの服を指さして赤面した。あかりが自分の服を見ると透けている。今日は運悪く上着を来てこなかったからブラウスが雨ですけすけである。
「きゃっ!?」
「いや、見てない、見てないから……」
お互い顔を背ける。透けて下着が丸見えになっている。雨はやまない。しばらく黙っていた。
「ほら、これ、着ろ。」
顔を背けながら灯籠は上着を貸してくれた。
「あ、ありがとう。灯籠君。」
「っ!」
「あ、ごめん、嫌だっ……!?」
急に抱き寄せられ、膝の上に座らされる。
「と、灯火君?!」
「もう1回、言ってくれ。」
「へ?」
「名前で……」
「と、灯籠、くん?」
「あかり。」
「!?」
そのまままじまじと見つめられる。
「と、灯籠君?」
「あかり。」
「うん。」
「お前、もう少し大人っぽい下着つけろよ。まあ、お前に色気とかないし仕方ないか。」
なんてため息をつかれた。
「!!ひどっ!そんな言い方っ……?!」
「あかり、好きだ。」
「へ?」
そのまま抱き寄せられる。あかりは灯籠の温もりを感じた。いや、熱い。熱すぎる。触れられている所が熱い。ダメだ、相手は叔父さんなのだ。
「灯籠君、離しっ……」
「もう少し、もう少しだけ、このままでいろ。」
「?!でも、…………緑さんが、好き、なんでしょ?」
「…………あかり。」
灯籠から額にキスされた。
「おじっ……灯籠君?!」
「僕は確かに緑さんが好きだった。でも、僕の為に協力してくれたお前が、今は、気になって仕方ないんだ。あかり。」
「?!え、だって困っ……」
抱き寄せられる。抱かれていると男性らしい体つきがわかる。ドキドキするのが伝わらないか心配になる。
「灯籠君……」
「今のお前は僕のものだ。」
しばらく抱きしめられて、雨が止んだ。
「……そろそろ帰るぞ。」
「う、うん。」
灯籠はあかりの手をとり、離れないように繋いで帰った。




