第1話 ただ一つの祈り
「神様、どうか、弟を救ってくだ、さい……。」
それは一人の少年のただ一つの願いだった。そこから全ては始まった。
20年前……。
一人の少年が祭囃子の中夜道を走る。
「葵ー!」
少年は弟を探していた。たった一人の大切な家族を。
「葵ー!どこだぁ!!葵!?」
虚しくも少年は林の中で変わり果てた弟の姿を見つけてしまった。
「葵?!誰がこんなひどい事を?!」
ぼろぼろの弟を抱き抱えながら彼は涙する。そんな彼の後ろに影一つ。
ガンッ
「なっ?!」
薄れ行く意識の中、彼は祈った。
「神様、どうか、弟だけはっ…」
意識は暗闇に飲まれていく。
「神様、どうか、弟を救ってくだ、さい……。」
“その願い、聞き届けた。”
★★★★★★★
「あかりー!もうすぐ着くわよ。」
「母さん元気かなぁ。」
山道を一つの車が走っていた。目的地はこの山にある一つの村である。灯火村、かつて陰陽師の里として栄えた村だ。今も尚祀神たる翡翠様を祀っている。そんな村へと引っ越しする事になった灯火あかりはこの村の村長の孫娘である。父がリストラされた事によって町から実家に引っ越す事になったのだ。紅葉参散る山道を進んでいく。
「ついたぞぉ。」
車から降りるとあかりの祖母の灯火蝋事、蝋婆が迎えてくれた。
「あかり!よくきたのぉ!」
「おばあちゃん久しぶり!」
「おお、おっきくなったのぉ!」
「お義母さんお久しぶりです。」
「緑さんも元気そうでなによりじゃ。」
「母さん、元気そっ…」
「こんのバカ息子がっ!緑さんに苦労かけよって!!」
「ぎゃぁあああああっ!?」
蝋婆に首根っこを捕まれたあかりの父、炬は悶絶した。
「さっ、あかり、緑さんも、早く中へ入りんしゃい。」
「はぁ~い!」「はい。」
「炬は荷物さっさと運びんしゃい!」
「わかってるよぉ!母さん。」
門から庭へ入ろうとしたあかりの眼にふと隣の空き家が止まった。
あんなに大きな家なのにボロボロだなぁ。
★★★★★★★★
「お母さん、お昼御飯はー?」
「緑さん話を聞いてくださいよ。」
「やめてくださいっ!」
部屋を覗くと叔父と母が喧嘩をしていた。炬の兄でこの村の次期村長の灯籠叔父さんだ。
「あなたが葵君をいじめてた事は知ってるんですからね。」
「緑さん、まだ薫の事…」
「あなたには関係ないでしょう。とにかく、付きまとうのはやめてください!」
「お母さん?」
「あ、あかり……」
「緑さん、僕はあなたを諦めませんから。」
おじさんはそのままその場を去っていった。母にはさっきまでの話しをはぐらかされた。
★★★★★
リビングでおばあちゃんと一緒にお茶をしているとおばあちゃんから不吉な話しを聞いてしまう。
「あかり、この村にはな、翡翠様って言う神様がいらっしゃるんじゃ。」
「うん。」
なんでもその翡翠様は、この村の守護神で、この村が土地開発にあおうとするとたちまち事故が起こり、旅館が焼けたらしい。そんな話しをききながお菓子を食べる。
「だから、祠に行った時はちゃんとお祈りするんじゃよ?」
「はーい」
そして、この話しが後に大変な事を引き寄せるとは思いもしなかった。




