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「ローズ、いる?」
ローズに会うため先ほどの部屋に向かった。思った通り、ローズは先ほどの食器の後片付けのためいた。
「ユリア様、何でしょうか」
「あ、ごめんね。邪魔しちゃって。後で話したいことがあるの、出来れば長めに時間を取ってくれると嬉しいんだけど…。ローズの都合の良い時間に合わせるから」
「了解致しました。こちらを片づけ次第時間が空きますので、ユリア様のお部屋へお伺いしても良いですか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
ローズと無事話す約束ができた。
(怖いけど、確かめなくちゃ)
ユリアという人物を知るため、これは必要な話し合いになるだろう。
自室で待っているとローズは間もなくして訪れた。
「失礼致します」
「来てくれてありがとう」
「いえ、それでお話と言うのは…」
ローズは不安げに私を見る。優しいローズにこんな顔をさせてしまうのが申し訳なかった。
「率直に言うね、私ローズたちにひどいことしてた?」
「え、いえ、そんなことは…」
(だめだ、これじゃ言いにくいよね)
「今までローズとどう接してきたか何も覚えていないの。今の私はローズたちメイドと仲良くしたいと思ってる。そのために過去何があったか教えてほしいの。責めているわけじゃない、言いにくいことは話さなくても良いよ。もし、話せることがあれば…」
「…」
そう言っても話しにくいのであろう。ローズはうつむいたまま口を開こうとはしなかった。
(私がユリアである以上話してもらうのは無理そうかな。マルク…相談なしにごめん!)
心の中で協力者であるマルクに謝罪すると、私の秘密を告げる決意をする。
「ローズ、今まで黙っていたことがあるの。信じる信じないもローズに任せる。聞いてくれる?」
「はい」
ローズはうつむいていた顔を上げて、こちらをみて返事をしてくれた。
「私ね、ユリアじゃないの。見た目はユリアなんだけど、中身だけが変わった別人なの」
マルクの時同様、驚かれるかと思いローズの反応を見るが、意外にも落ち着いたものだった。
「もしかして、記憶喪失のときからですか?」
「そう。実際は記憶喪失じゃなくて、中身が入れ替わって何もかもわからないから記憶喪失っていう嘘をついてしまったんだけど…。信じてくれるの?」
「…。ユリア様の様子がいつもと違うというのは気が付いていました。本当に別人のようにお優しくて…」
ローズは言葉に詰まる。私は大丈夫だよと言うことを伝えたくて、ローズの手を握る。
「ユリア様のこと、お話しさせて頂いてもよろしいですか?」
「ありがとう。無理しない程度で、ぜひお願い」
ローズは一息ついてから語り始めた。
「ユリア様は、表では本当に令嬢のお手本のような方でした。お優しくて、可愛らしくて、お上品で…。しかし、裏では自分より階級を低い人に対してはまさに悪女といった態度でした。メイドを理不尽に怒鳴りつけたり、奴隷扱いしたり…」
(……。ひどい)
想像していたこととはいえ、実際にそうであったと知ると不快感しかない。同時に、異様に世間体だけは気にする私の両親のことを思い出した。
(ああいう人って自分より弱い人を、裏で見つからないようにいじめるんだよね)
しかし、外面が良いため被害者が訴えてもみんな相手にしてくれない。私にも覚えがあった。
「ユリアの本性に気が付いている人はメイドだけ?」
「おそらくそうかと」
「マルクは?」
「お気付きになっていないと思います。ユリア様は、ご両親やマルク様、エルノア様など利用価値のある人にはとことん媚びを売って利用するのが賢いやり方だ、といつもおっしゃっておりました」
(マルク…。全然ユリアのことわかってないじゃん!)
あの、ユリアのことは僕が一番知っているドヤ顔は何だったんだろう。
「私を信じて話してくれてありがとう。そして、ローズ、あなたたちメイドには今後一切そんな扱いをしないと私が約束する」
「ありがとうございます。他のメイドにはユリア様は記憶喪失で改心したようだと伝えておきます」
「ふふっ。ぜひそうして。でも、今まで辛い思いをしたメイドがたくさんいるよね?私がお父様に頼んで転職先も探すから、辞めたい人は辞めて良いからね?もちろんローズも」
ローズは一番近いメイドだということは、今までいっぱい辛い思いをしただろう。優しい彼女には今後幸せな生活をしてほしい。
「いいえ、私は今のユリア様に仕えたいと思っております。これからもよろしくお願いします」
ローズは笑顔を向ける。ローズの心からの笑顔を初めて見ることができた。
「こちらこそ、よろしくね」
ローズに伝言を頼み、辞めたいメイドは辞めても良いと伝えてもらった。しかし、メイドたちは昼間のティーカップ事件で本気でメイドを心配するユリアを見て、本当に改心したのだと信じてくれたらしく、退職者は0人だった。
(ありがとう、みんな。自慢だと思ってもらえるような人になれるよう頑張るね)
優しいメイドたちに2度と悲しい顔をさせない、そう決意するのであった。
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