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 2日目はマルクの自宅へ招待されている。ユリアの自宅の広さにも驚いたけれど、マルクの家も同じぐらい大きくて広い。


「今日は自宅へ招待してくれてありがとう」

「ようこそ、ユリア。今日も可愛いね」


(ほんと、息を吸うように褒めるな)


 その自然さに感嘆する。


「さぁ、おいで」


 まずは書斎へ招かれた。


「すご!!広い!!」


 ユリアの書斎も素晴らしい品揃えだったが、マルクの書斎はもう市の図書館レベルだった。


(なんか凄く古そうな本もある。貴重そう…)


「そんなに興味があるならいくつか持っていっても良いよ」

「ありがとう!あとで借りるね」

「いや、あげるって意味だったんだけど…」

「え!?こんな貴重そうな本なのに!?」


 昨日からマルクの贈与精神には驚かされる。マルクの反応を見るにそれは当たり前のようだけど、こちらが何もしていないのにひたすら与え続けられる状況は凄く居心地が悪い。


「そんなのいいんだよ」

「いや、貰うほどじゃないから借りさせてもらうね」

「ユリアがそれで良いなら良いんだけど」


 貴重そうな本を含めて数冊借り、次はお茶をすることにした。来客用の部屋へ招かれる。テーブルを挟んで2つソファがあったため、私はマルクと対面するように座ろうとする。


「違うよ、ユリア。僕達は普段横並びで話してたんだ」


 こっちにおいでと言わんばかりにマルクは隣をポンポンと叩く。


(そんなことある!?まぁ仲良いからね…)


 マルクに促されるまま、隣へ座る。二人用のソファなのか、距離が近く触れ合いそうな距離で左側がソワソワする。


「今日はユリアが好きなものを用意したんだ。ほら、ユリアが好きな茶葉の紅茶とフルーツタルトだよ」


 メイドが美味しそうな紅茶とケーキを用意してくれる。隣は気になるけれど、今日は味わって食べられそうだ。


「ありがとう!いただくね」


 今まで見たことないぐらいフルーツが山盛りのタルトを口へ運ぶ。


「お、おいしい…」

「良かった。どんどん食べてね」


 あまりの美味しさにパクパク食べてしまった。そんな私をマルクは自分のタルトには手を付けずじっと見ていた。


(行儀が悪かったかな…)


「そんなに見られたら恥ずかしいよ」

「え、いや、あまりに美味しそうに食べるから」

「だって美味しいから」

「……それは良かったよ。ところでさ、今日の本題話しても良い?」


 そう言うとマルクに手首を掴まれる。そういう甘酸っぱい雰囲気は今までなかったのに。


(まさか、マルクはユリアのことを好きなの?)


 そう思って私はマルクの方を見ると、思っていた反応とは違った。マルクは驚くほど冷たい顔をしている。


「お前は誰だ?」

「え…?」

「質問に答えろ。お前は誰だ?」

「え!?えぇ…?ユリアだよ……。何言ってるの…?」


 動揺しながらも、目を逸らしたら負けだと思ってなんとか伝える。しかし、マルクの顔は怖いままだ。


「本当のことを言え」


 手首を持つ手にどんどん力が入っているのがわかる。痛い。


「本当のことしか話してない。記憶を失って迷惑をかけているのはごめんね」

「ハッ。記憶を失ったからって性格まで変わるものか?あんなに可愛くて甘えたなユリアがここまで変わるか?話し方まで変わるか?」


 私の意見を聞く気はないようだ。マルクは冷たく怖い声のまま続ける。


「それに、以前は苦手で飲めなかったカフェラテを飲んだり、苦手なスイーツを食べたりするか?記憶喪失は味覚まで変わるのか?」


(…やられた)


 先ほど食べたフルーツタルトにはユリアが苦手だったフルーツが入っていたらしい。愚かにも私はおいしいとパクパク食べてしまった。

 マルクはいつからかわからないが、私がユリアではないということに疑問を持ち所々試していたのだ。


(頭が切れるとは聞いていたけれど、こんなの太刀打ちできない)


「なんとか言え」

「降参。そう、私はユリアじゃない」

「ユリアをどこへやった!?!?」


 物凄い剣幕でマルクが迫ってくる。胸元をつかまれ苦しい。殺気がこもっていて私殺されるのかな、なんて思いもした。


(異世界へ行けたら絶対に幸せになれるんじゃないの!?…いや、ユリアはみんなに好かれていたらしいし、そんな中私が入れ替わったところで私が悪者よね。私なんかが異世界へ行けたからって幸せになれるわけないのに。)


 漫画では異世界転生や転移をすれば必ず主人公は幸せになっていた。そんな世界に憧れていたのに。私の現実はそう甘くない。


 私は観念して全て正直にマルクに話すことにした。


「ユリアはどこへやってもいない」

「じゃあお前は何なんだ」

「中身だけが変わったの」

「は!?そんなことあり得るはずが…」

「マルクが変わったと思うのは外見?中身?」


 マルクはじっと身体を見る。


「外見は何も変わってはいないね。鎖骨のホクロの位置も変わらないし。外見が似ている偽物かと思ったんだけど」


 ホクロの位置まで覚えてるの!?とドン引きしたのは置いておく。


(なるほど、私はユリアのそっくりさんで、取って代わった悪者だと思っていたんだね。間違っていないけど)


 それだと先程の殺気も頷ける。


「そう、中身だけが変わったの」

「元に戻れる方法は?」

「わからない。しかも、私この世界の人間じゃないの」

「は?どういうこと?」


(まぁ、普通の人間は自分が生きている世界と別の世界があるなんて思わないよね。私もまさか、だったし)


「こことは街の景色も文化も何もかも違うの。例えばルラなんていうお金の単価知らないし。この国の名前も聞いたとこがない。普通ここまで栄えている国だったら誰でも知ってるものでしょ。私は日本って国に住んでいたの」

「二ホン?」

「知らないでしょ?私の元居た世界では日本は有名で外国の方でも知っていると思う。双方国の名前を知らないって、まったく違う世界って考えたほうが良いと思う」

「そんな…」


 マルクは一応納得したのか掴んでいた胸元を解放してくれた。頭を抱えるマルクを見て心が痛む。


(マルクもユリアの両親もユリアのことを大切に思ってくれているんだよね)


 そんな中、全くの別人が入ってしまった。申し訳なさでいっぱいになる。


「他に知っている人は?」

「誰もいない、マルクだけだよ。どうする?みんなに話す?」


 マルクにとって中にいる私が憎くてたまらないだろう。ばれてしまった以上、好きにしてほしかった。


 マルクはどうするか考えているのか、しばらく沈黙が続いた。


「いや、僕と君だけの秘密にしよう。そして僕は君の協力者になる」

「え!?」


 意外な答えに驚いた。


「一緒にユリアと君が元に戻れるよう協力しよう。君だって元居た世界にもどりたいだろう?」

「……うん」


(本当は帰りたくなんてないけど。でも、私のせいで元のユリアや周りの人が悲しむのはもっと嫌)


 この3日ほどでマルクやローズ、両親、とユリアの周りの人がいかに優しくて良い人たちかがわかっていた。


「それじゃあ、協力者としてよろしく」


 マルクから右手を差し出される。


「こちらこそよろしく」


 差し出された手を握り返す。


 異世界転生3日目で、まさかの協力者ができた。これが私の異世界人生においてどういう方向に転ぶのかはまだわからない。


お読み頂きありがとうございます。

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連載は続きますのでよろしくお願いします。

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