-知らないで-
キノが食い気味に驚いて見せた。
大輔も「そーなん?」と興味を示している。
俺もその話は気になった。
少し自分の背筋が伸びるのを感じる。
何となく、いま俺らの周りにいる、会話に参加していない奴らの気持ちもざわついた気がした。
木梨さんが、男子に人気。
隣にいた麻衣が説明してくれる。
「みこっちゃんでしょ?めっっっっちゃ優しいんだよ〜。普段あんま喋んないからわかんないかもだし、暗く思われがちだけど、女子もみんな好きだと思う。ていうか大人しめの男子の好意総なめじゃない?話してみると結構面白いし。なんか頭良くて清楚?みたいな。」
「あー、確かに。あんま知らないけど、他クラスのやつが言ってるの聞いたことあるかもな。」
大輔も木梨さんの方をチラリとみて、呟く。
デジャブ感。
俺は不意に思い出した。
確か小学校の時もこんなような会話を聞いたことがある。
普通だったら忘れていてもおかしくない記憶だ。
同じクラスでもなんでもなかったし、特に接点もなかったが、何回か友達の好きな人の名前に登場したのだった。
だから見かけた時は何度か名前を思い浮かべることがあったが、実のところ、友達の話に比べて地味な子としか思わなかった。
しかし、今の俺では、二度とそんなことは言えないのだろう。
何も知らずに語ることが、こんなにも浅はかだとは知らなかった。
そんなにたくさんの人が木梨さんの普段は見せない部分に気づいていたなんて。
もしかして、他の人もあの時間をもらっていたなんて。
いつもより少し口を固く閉めた。
あの時間は、俺にとってなくてはならない時間になりつつあった。