-変わりゆく-
「あの・・」
「え?」
高山くんには似合わないような頼りない声で呼び止められて、私はすぐに振り返った。
すごく小声で呼ばれたのに反応が良すぎた、と、自分で気づいて恥ずかしくなる。
「ごめん、なんか俺ばっかり話しすぎたな、と。・・・うざくなかった?ほんとごめん。」
「え?」
予想外の言葉だった。
そんなこと考えるの、高山くん。あれ、この考えは失礼かな・・?
「そんなこと!全然、楽しかったし・・・うん。」
「あーほんと?でもこれどっちにしろ言わせたみたいになるな・・。じゃあ今度は木梨さんの話聞かせて。」
「今度?」
「・・・あ。」
そう言って高山くんは少しの間固まってしまった。
どうしたのだろうと軽く覗き込んでも、表情は俯いてよく見えない。
「えーっと。また本の続き借りに行くからさ、こうやって帰ることもあるかなーって思って。」
顔をあげた高山くんは、いつもの笑顔でまたこちらを見て、自分の腕をさすった。
辺りは暗いけれど、姿はちゃんとほんのり明るく見えて、微量の髪がまたサラ、と揺れた。
私の中で日常が大きく転換した気がした。
「そっか。それもそうだね。じゃあ、次の本を借りるときに。またね。」
私はもう行こうとすると、距離感の割には大きめに高山くんが手を振ってきたので、私も軽く手を振って別れた。
まっすぐ前を向いて、帰った。
遠くの方にあった光は、たった一つの共通点で突然目の前に飛び込んできた。
ただそこにあると認識していたものが、近くで横を歩いて、興味に変わった。
いつもは気にならなかった周りの音も気にしてみたくなる。
私の家に着くのはとても早かった。