-十分な-
小声で話すとはいえ、いつもは遠いはずの人が、普通よりも気持ち近くにいることにおののきつつ、
「うん。私も読んでるよ。それにほら、私がいつも新書購入のリクエストを出しているから、」
私は本棚に指を刺して見せた。
高山くんは首を傾けて話すから、一見目線が近く感じるけれど、男子の中では背の高い方の人だ。
きっと足元には気づかなかったのだろう。
私は、小説コーナーの中の一角にある、本棚の一番下の段を指差した。
「わ!ほんとじゃん!」
高山くんはすぐにしゃがんで本の列を凝視した。
「普通にあった。これ探せないとか、俺目悪すぎん?」
わはは、と軽く笑いながら、高山くんは本を手に取る。
「多分背が高いからだよ。」
「んー、てか、木梨さんも背高い方だよな。なんか目線が近い感じ・・・」
しゃがんだまま高山くんが振り返って、そばに立っている私のことを見上げる。
私の影の下にしゃがんでいる高山くんは、暗がりの中でもほんのり明るく見えた。
それは多分、首を傾けて話す癖のせいだよ、と、言いそうになってやめた。
「探してくれてありがとう。これ借りてもいい?」
高山くんは立ち上がって、本を一冊胸の前で持った。
単行本で1から読み直すつもりらしかった。そういえば私も去年読み直したな。
私は軽く一歩下がって本を受け取った。
「うん。じゃあ先に図書館出てていいよ。私もそろそろ帰るから、バーコード読み取ってくる。学生書借りてもいい?」
「そっか、学生書で借りんのか。・・・これ、お願いします!」
「はい。すぐ返します。」
私は手続きをして、本を高山くんに渡した。
図書館の鍵を返してくると言うと、なぜか高山くんも付いてきて、一緒に帰ることになってしまった。