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婚約者に逃げられました。  作者: 砂臥 環
第四章 婚約の終わり
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心の中でだけ


「──ティア!!」

「!」


名を呼ばれ振り向くと、諸悪の根源であるフェル様が走っているのが見える。

こちらに気付き、更なる速さで駆け寄ってきた。


「フェルさま──!!」


私も彼に駆け寄ると


「ティ……」


──ドーンッ!


「ぐふゥっ?!」


頭突きさながらに前のめりの、強烈な体当たりを喰らわす。


いくら小柄な私と言えども、助走をつけての渾身の体当たりは、無防備だったフェル様の腹部にそれなりの威力を発揮。

彼は飛び込んだ私を庇いつつ、そのまま地面へと倒れ込んだ。


「ええ……」


漏れ聞こえる、ジゼル卿の困惑した声。


やってやった感が凄い。

ジゼル卿にももう一度『私も騎士になれますかしら?』と、盛大なドヤ顔で尋ねてやろうかと思い、立ち上がろうとした。

その時──


「ひゃっ?!」


フェル様に肩を掴まれ、そのまま彼の胸へ倒される。


「フェルさ」

「好きだ」

「!」


私は驚いて彼の顔を見た。

今まで態度では散々示されてきたが、いつだってフェル様はハッキリと『好き』だの『愛している』だのと口にしたことはなかったから。


「……騎士には」

「戻らない」


逆に信じられなくてわざと発した心無い言葉だが、全て口にするより先に答えが返ってきた。


身体にかかる、フェル様の腕の力。


「愛している」


初めて情熱的に好意を口にしてくれた。

そんなフェル様だったが──




「……捨てないでくれ!」


(なんか情けないこと言い出したわ!?)


「俺は駄目な男だが、君が好きだ! 大好きなんだ!」

「っていうかフェル様痛い痛い! 大体いつまで転がってるつもりですか?!」


ぎゅうぎゅうされて最初は嬉しかったが、加減ってモノがある。そしてこの人、背中が痛くないのだろうか。


少し腕の力を弱めるも、拘束したまま身体を起こして立ち上がり、私を立たせるとなんと、その場で土下座をした。


「一生一緒にいてください!!」

「うわぁ」


ハッキリ言って、滅茶苦茶格好悪い。

色々台無しである。


(もう少しやりようがあったのでは……)


なんて不器用な人だろうか。




でも……それが愛しい。


形振(なりふ)り構わないで私を必要としている。

今までは格好つけていたのだ。

おそらくそれも、私に好かれる為に。


(だからルルーシュ様のことも隠していたのね……)


凄く腑に落ちた。

他の諸々も、そうだったのだろう。

勿論、それが全てではないだろうけど──


それでも。



こうして今、格好悪い姿を晒しているのは、確実に私の為だ。



「……まだ婚約中ですよ? ちょっとそれは早いのではないかしら」

「もう君を伯爵家になど戻さないから関係ない! 戻ると言うなら全力で阻止する!! どうか見捨てないでくれ!! 君がいなければ生きていけないッ! ……死ぬぞ?!」


額を地面に擦りつけ懇願するフェル様。

懇願しているようだが、言っていることは脅しである。

……大分錯乱している。

今までも時折おかしかったが、流石にここまでみっともない姿はなかった。


(そう……追い込まれるとこうなるのね)


「──とんでもない人を好きになってしまったわ」

「……え」


そう言いつつ、口角が上がるのを止められない。


そういえば私だって、ちゃんと『好き』と口には出していなかった。私も大概だ。


そして私だって、結構ダメな子の部類だ。

なにしろ当初の理想は『旦那様任せのインチキ侯爵夫人』である。


フェル様とでは『旦那様任せのインチキ侯爵夫人』としての、安穏とした未来は望めそうにないけれど……


(いいわ、頑張るから)


今は、それも悪くないと思っている。


随分私も変わったものだ──そう思いながら、決意を新たに手を差し出した。


「ティア……」


力なく呼ぶその声に、微笑んで応える。

フェル様はまだ情けない顔のまま、私を見上げながら手を取った。


重なる、てのひら。


なんだか結婚式のような気分。

心の中でだけだが『婚約』はもう終わりで、これを機に()()()()()()でいればいいや、と思った。


(だってこの人、私がいなくなったら死ぬらしいし)


先の言葉を思い出し、少し笑う。


『健やかなるときも、病めるときも』


そんな文言を思い浮かべながら。

共に手を取り──




──まずは、ジゼル卿への謝罪からである。


★客人(※しかも公女)放ったらかし──!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「私は何を見せつけられているんだ?」 (by ジゼル(公女)) ……御愁傷様です。
[一言] ジゼル完敗……! 目の前でこれやられるのキツいだろうなぁ、と思ってたら後書きがあって、つい吹きました。 でもいいシーンですね! ふたりの成長を感じます!
[良い点] ヽ(*´▽)ノ♪♪ヽ(´▽`)/ 思わず踊ってしまいました 「好きだ」「愛している」までは良かったのですが 「・・・・・・捨てないでくれ」からの土下座しての「見捨てないでくれ」「死ぬぞ?!…
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