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婚約者に逃げられました。  作者: 砂臥 環
第四章 婚約の終わり

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もうピヨピヨもしてられない


フェル様が、女性を連れてきた。


「フェル様……?」

「──あ……ああ、ただいま」


それだけでなく、フェル様の様子は明らかにおかしい。

いつもならはにかんで「ただいま」と言うのに、気まずそうに目を逸らす。


「そちらの方は?」

「ああ、彼女は──」


胡乱(うろん)に視線を彷徨わせながら、フェル様は少し後ろに立っている女性に目配せした。

女性は馬に乗ってきたのか、細身のジャケットにガウチョパンツというスポーティな出で立ち。長身でスレンダーなのに、出るところは出ている……ネルのような身体だ。


しかも、物凄い美人。

服も一見質素に見えて、いい生地だ。

おそらく平民ではない。




「やあ、初めまして婚約者殿! 私はジゼル・ウィンダー」

「!」


ウィンダー公爵令嬢……!?


想像していなかった目上の方に、慌てて淑女の礼(カーテシー)を取った。


「大変失礼を致しました。 私はベッカー伯爵家が娘、ティアレットにございます。 ようこそ、()()()()


ウィンダー公爵家四女であるジゼル様は、フェル様と同様に騎士である。彼女は令嬢扱いや家の名前を出されるのを嫌うらしいので、騎士として名前で呼ぶことにした。


彼女に目配せしたのは、フェル様もどう紹介するかで少し悩んだのかもしれない……

そうは思いつつも、心の中では舌打ちしたいくらいには苛立った気持ちでいた。


女性であるジゼル卿は、先の戦では戦地には赴けなかった、と聞いている。仲が良いとも知らなかった。


「ははっ、気楽にしてよ!」


快活にそう言って、彼女は私の手を両手で包むように握り、微笑む。小首を傾げると、全部を後ろに束ねただけの金の髪が、ふわりと揺れた。


睫毛が凄く長い。

エメラルドみたいな瞳。


なにもかもが全体的にキラキラしている。

間近で見ると更に、物凄く綺麗な人で、その迫力に後退(あとずさ)りそうになる。


()()()とは騎士仲間なんだ。 婚約者殿と会えて嬉しいよ」

「……光栄にございます」


私も辛うじて笑顔で返す。

しかし、腹の中はモヤモヤしていた。


(……なんとなく、()()()()()()()()()()()気がする)


『気安くしてほしい』という言葉通りに『一介の騎士である』アピールをしてくれている……と取るのが妥当であり、ただのヤキモチで穿った見方をしてはいけない。

──そう自分に言い聞かせた。


彼女の家が公爵家であることを除いても、ジゼル卿はフェル様の大切な騎士仲間であり、客人(ゲスト)である。

まだ侯爵家の人間ではないが、婚約者として許されるレベルでもてなすべきだろう。


「グレタ、突然で悪いが客室を」

「畏まりました」

「フェル様、私がジゼル卿を応接室までご案内しても?」

「いや、いい」

「……えっ?」


その温度の冷たさに、おもわず聞き返してしまうという失態。それをなんとか持ち堪えて、ジゼル卿に笑顔を向けた。


「──失礼致しました。 それではごゆっくり」


出過ぎた真似だったことや、フェル様の態度に少なからずショックは受けているが、これ以上醜態は見せれない。

動揺を隠しつつお辞儀をして下がろうとすると、フェル様に腕を取られた。


「?! フェル様……?」

「…………ティア」


フェル様は怖いような悲しげなような、なんとも名状し難い顔で、私の名前を呼ぶ。

しかし、その後に言葉は続かない。


「……ジゼル卿がお待ちです」


耐えきれなくなった私の口から出たのは、気持ちとはうらはらな言葉だった。本当の気持ちは、不敬だがジゼル卿などどうでもいいし、ふたりになどさせたくない。


(と、いうか……)


そこで私はあることに気付いた。



このままだと、ふたりきりになってしまうのでは?



公爵令嬢のくせに、従者を付けてる気配はない。それに『騎士仲間』を強調していた。

フェル様だって『騎士として大切な話があるから人払いを』とか言われたら断らないかもしれない。



「──やはり、私がご案内致しますね!」

「えっ」


四の五の言ってられないので、暴挙とも言える行動に出た。

フェル様に有無など言わせない。



目の前には、高位貴族で騎士仲間でもあるナイスバディ美女。

かたや私は、ツルペタストーンの政略婚約者(※しかも兄の元・婚約者)だ。



持ち物以上の自信など簡単には手に入らないし、それ故にフェル様に向けられた愛情を、全て信じられている訳でもない。


──それでも譲りたくないのなら、ヒロイン気取りで凹んでいる場合に非ず。


(危ない危ない……自信のなさに流されるところだったわ)


スペックで負けているのだから、奪われないように必死になるのは、至極当然なのだ。


私を動かした憤りとともに、改めて自分が今までどれだけ恵まれていたのかを思い、反省した。

さながら餌が落ちてくるのを、ピヨピヨと口を開けて待つ雛鳥の如し。




「フェル様はどうぞ、お着替えになっていらして? お待たせして申し訳ございません、ジゼル卿」


私は武装した猫を被り、出陣する。

多分、今までで一番の淑女の笑みを貼り付けて。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 美人騎士VS猫武装、ライバル出現!?にドキドキハラハラします♪
[一言] ティア、一皮むけたと言いたいところですが、何か別の裏があるような……
[良い点] 何なのっ。この嫌味なナイスバディはっ。フェルナンドっ。なんでこんな女を連れてきたっ。( ̄O ̄;)って怒りたくなるほど可愛いティア嬢を応援しちゃいます。頑張れ。(^◇^)
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