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婚約者に逃げられました。  作者: 砂臥 環
第三章 冬祭り

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フェルナンド視点⑫


「若君……いくら可愛らしいからといって、なんでも買うというのはオススメできません」

「えっ」


女性の好みそうな店で、その都度ティアを想い、ティアの好みそうな物を買って数軒。

コーディにそう諌められた。


「僭越ながら申し上げますと、婚約者様も明日には『冬祭り』を見て回られるのでは? これではその楽しみがなくなってしまいます」

「なるほど……」


確かに彼の言う通りである。

そもそも祭で見て買うから楽しいものであり、ひとつひとつはそう大したものではない。


「それよりも、明日婚約者様を楽しませる為に尽力する……というのはいかがでしょうか」

「どういうことだ?」

「効率よく楽に回れるよう、婚約者様の好みそうな店に目星を付けておくのです」

「ふむ」

「お土産は、市ではなくブティックに入り、ローラン子爵領の豚革を使用した手袋を購入するのをオススメします。 婚約者様が身に付けるのに恥じない、それなりの品も売っておりますし……『冬祭り』には欠かせません」

「『冬祭り』には欠かせない?」


養豚が盛んでもあるローラン子爵領では、豚革加工品も有名だ。

コーディ曰く、寒さが厳しくなる前の『冬祭り』で意中の女性に手袋を渡すことは、『一緒に冬を越えたい』という意味を持つ行為だそう。

『冬祭り』で求婚する地元民も多いらしい。


土産というか、プレゼントだが……その話と共に渡すなら、なかなか粋である。


「コーディが居てくれて良かった。 ……ニックだとこうはいかなかった……」

「まあニック卿はそういうの、鼻で笑いそうですもんね……」


完全に同意だ。

『イベントに頼るとか女々しいですね』などと言いつつ鼻で笑うニックの姿が、容易に想像できる。




休憩できるところなどを考えつつ、店に目星を付けながら軽く一回りした後、ケプトで一番のブティックに入った。


ニックの地元ということもあり、ケプトには領地に戻ってから何度か訪れている。

そのせいか、顔が知られているようだ。

平民のような服を着ているにも関わらず、すぐに個室へと案内された。


『婦人用の豚革の手袋を』と言うと、好みを聞かれるが、そう言われてもいまひとつ表現できない。それにコーディも見たいだろうと思い、とりあえずそれなりの品を並べて貰った。


俺が席を立っても、当然コーディは先に立っていたソファの後ろに立ったままだ。


「コーディ、君も見なさい」

「いえ、私は任務中ですので……自由時間にでも」

「どのみち選ぶのに時間は掛かる、構わないから君も好きに見て、気に入ったのがあれば買えばいい」

「あ、ありがとうございます」


彼は戸惑い気味に礼を言い、暫く手袋の置かれたテーブルの前で、見るでもなくただウロウロしていた。

俺は俺でティアにプレゼントする手袋を選ぶのに真剣で、その後暫くはコーディを気にしてはいなかったが……ようやく決めてから彼を見ると、一双の手袋の前でなにやら悩んでいる様子。


「──なんだ、金額か? なら」

「いえ……」


コーディは俺の方を見て苦笑し、決心したように購入を決めた。


(ああ……なるほど)


「ネルとは付き合っていないのか」

「はは、実はそうなんです。 情けない話ですが、フラれるのが怖くて……」

「君は女性から好かれそうな感じだが。 それにネルとは仲が良いだろう?」

「まあ……幼馴染ですから。 でもネルは男女関係なく、小柄で細いのが好みなんです」


コーディは長身の逞しい青年だ。

こざっぱりした短めの髪に温厚で優しい性格そのままの顔。


「男嫌いなんでライバルは少ないのですが、それだけに逆に躊躇してしまって」


幼馴染の友人という立場を捨てたくはない──それで、一歩踏み込めずにいたらしい。


とても共感できる。


「若君のおかげで決心がつきました」と笑いながら、ラッピングされたプレゼントを大切に抱えた彼に、無責任な応援の言葉など出てこなかった。


(……想いが報われるといいな)


改めて、自分が恵まれた立ち位置にいるのだと感じた。


本来伝えなければいけない想いなど関係なく、ティアは俺から手袋を喜んで受け取ってくれるだろう。

だが何故か、コーディが眩しく感じられた。




子爵邸に戻ると、ティアは湯浴みをしているところで会えなかった。パーティーに出る為、ゆっくり準備をしているそうで、暫く会えそうにない。


俺も軽く準備をすると、トーマに促されて軽く飲みながら世間話に興じた。

流れで少しばかり今日の話になると、トーマは笑う。


「この辺りの女性は気が強いので、男性は気が弱い代わりに鍛えるのが多いんですよ。 ほら、私も」

「ヴァネッサさんは気が強いのか?」

「そりゃあもう。 今も邪魔だと追いやられてしまって。 しっかり者なんで助かってますが……まあ男なんてしょうもないモンです」


そう肩を竦めながらも、幸せそうだ。


トーマがヴァネッサさんを射止める為に東奔西走したのは、(ちまた)では有名な話である。


「せめて肉体で『君を守る』と格好をつけたい気持ちなんですよねぇ……兄に言ったら『筋肉で示さず口で言えよ』って言われましたけど」


そしてニックはやはり、昔からニックであった。


「それが言えない男心をわかっていないな」

「そうそう、そうなんですよ~」

「だが筋肉が嫌と言われたら……どうしたらいいだろう? 例えばうちの兄やニックの様な細身がいいと言われたら」


コーディの不安は俺の不安でもあった。

違うのは、俺は彼女の好みを知らないところだが、聞いたところで真実を知ることはおそらくない。

それを知れることと、どちらがいいかは謎だが、どちらも多分やっぱり不安なのだ。ニックは女々しいと言うだろうが。


「ああ……まあ人それぞれ好みはありますけどね……ただこれは、妻に言われたことなんですが──」


トーマが照れつつ話を続けようとしたところで、子爵家の家人が呼びに来た。


そろそろパーティーが始まるようだ。




ホストであるトーマを見送り一旦部屋に戻る。


俺は手袋の入った箱を袋に入れ、ベルトに付けてジャケットの内側に隠すと、ティアを迎えに行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 不器用な男たちのボーイズトークでしょうか。
[一言] コーディ×ネルもクッッッソ萌える( ˘ω˘ )
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