ゴキブリ転生
奇妙な物語へ…
俺の名は、佐野薫。暴力団組織三浦組の幹部だ。
俺は、今、組長の三浦賢吾に殺されようとしている。何故こんな事になったのは、俺が敵対組織の一之瀬組に脅され、三浦組の極秘情報を教えてしまったのである。
「テメェ!何で一之瀬組にうちの極秘情報を教えたんや」
「す、すいません組長!脅されたんです…」
「ハァ…脅されただけでゲロりやがって…下っ端なら小指を切るだけですむが、お前みたいな幹部は…殺す」
そう言い、組長は殺傷力のあるピストルの銃口をこちらに向けた。
「あ、あぁ…組長、じ、慈悲を…」
俺は怯え、後ろに下がった。しかし組長には慈悲なんてものはなく、俺の頭に向けて、ピストルを撃った。即死だった。俺は撃たれた瞬間、倒れた。そしてその時、ある命を殺してしまった感覚があった。
俺が次に目覚めたのは、雲の上。まさに神が居そうなところだった。俺が不思議そうにいると、向こうから何か神々しいものが来た。それはゲー厶やアニメに出てきそうな神の姿だった。
「フォフォフォ、お前さんは悪よのぉ」
「な、何…」
神が笑ったかと思うと、神は仁王立ちをしながら話しかけてきた。
「仕事のためだといえ、人を殺し、人を傷つけ、お前さんは大量の人に迷惑をかけた…」
「だ、だから何だよ…」
「これならまだ地獄行きでよいが、最後の最後で、ある一つの尊い命を無くしおって…」
「は、はぁ?」
「お前さんは倒れた瞬間、ゴキブリを背中で潰したのだ」
「は?ゴキブリ一匹如きで何なんだよ」
「全く、救いようの無いのない奴じゃ…まぁ、確かにお前さんら人間は確かにゴキブリは苦手だ。実際、人間界ではその命を殺すスプレーも作られておる。しかし、ゴキブリも尊い命の一つ。だからお前はこれから一年間、ゴキブリを体験じゃ。なんとか一年間生きられたらお前さんの死ぬ1日前に戻そう」
「は、はぁ?ゴキブリの姿で一年間?嫌だね、それなら地獄行きでのほうがまし…」
「全くしつこいのう…ホレ」
神は自分の持っていた杖をこちらに向けたと思うとその杖の先から一直線の電撃を俺に流した。
「ギ、ギャァァァァァァァァァァ……………」
俺はまた意識をなくした。
俺がそのまた次に目覚めたのは、暗闇であった。自分の姿もわからず、適当に歩くと出口らしき所につき、暗闇から出た。するとそこは、自分の体より、いろんな物が大きくなっていた。いや、自分が小さくなったのは気がするのだ。俺はこのことがすぐわかり、洗面所に向かおうとすると飛べたのだ。まるで鳥、いや虫になった様な気分だ。洗面所に着くと、俺の姿はゴキブリに変わっていた。俺は、ショックだった。本当にゴキブリにするなんて、神のただのいたずらや戯言だと思っていた。
その時、ドアの開いた音がした。俺は、すぐに隠れられるようなところを探し、結果、タオルの棚の奥に隠れた。
「はぁ…全くアイツの死体を隠すの大変だったわ…」
俺はこの声に聞き覚えがある。それは、俺を殺した男、三浦賢吾だった。なんと、俺が、転生した先はまさかの組長の家だったのだ。(くそっ…なんでよりによってココに転生させるんだよ神様…)
その夜、組長は、キャバクラに行ったきり帰ってこなかった。しかし、これは、俺にとってはチャンスである。(全く、馬鹿組長め、窓を開けたまま行きやがった。俺が、人間の状態だったらとっくに閉めていたが、ゴキブリの状態で良かった…さて、窓から出て、このボロい家から出るか)しかし、俺が、窓から出ようとすると、電撃が体に流れた。
「ぐはぁぁぁぁぁ!!」
唐突の痛みだった。あの時の神が俺に流した電撃と同等、いやそれ以上の痛みだった。その時、急に神が目の前に現れた。
「フォフォフォ、すまんのぉ」
「テメェ、窓になんの細工しやがった!」
「実はあの時に話そうと思ったがお前さんが暴れたから話すのを忘れておったが、実はその窓は電撃のトラップが仕掛けておる。ホラ見ておけ」
神がおもむろにりんごを出したかと思うと、そのりんごを窓に投げた。そしてりんごは音もたてずに塵となった。
「な、凄いじゃろ」
「ま、まぁ凄いのはわかったけど、なんで俺はあのりんごの様にならなかったんだよ」
「フォフォフォ、それはお前さんに電撃の耐性をつけたからじゃ」
「な、なんでそんな能力付けたんだよ」
「それは、お前さんの勝手な脱出を防ぐためじゃ」
「な、なんでそんな事がわかった…」
「フォフォ、お前さんの禍々しいオーラから分かる。『早くここから出たいよ…』とか、『ここから出ないと死ぬかも』と、ワシには分かる。何故なら、お前さんの様な悪い奴らは紀元前から見てきたわい」
「う、うぅ…」
「まぁ、半年経てばその電撃は解除される。今が3月だから9月になれば電撃は解かれる。あ、あとその電撃トラップは窓と玄関ドアにつけておる。まぁ、今の事で、しないじゃろ。ホホホホ」
神はそう言い残し空へ去っていった。
その時、俺が悔しそうにしていると、家のドアの開いた音が。なんと組長が帰ってきていた。組長は酔っ払っており、千鳥足だった。おそらくそうなるほどお酒を飲んだのだろう。しかし、ある意味ピンチでもある。俺が人間だった頃、部下のチンピラから、『酒界のピエロ』と言われるほど酔っ払ったとき、何をしでかすかもわからないのだ。俺は部屋の隅っこに隠れようとしたが、組長はすぐそこまで近づき、俺は、死ぬ覚悟を決めた。しかし、組長は布団に近づき、そのまま倒れてしまった。俺が、恐る恐る近づくと、組長のトレードマークの丸眼鏡が無かったのだ。その眼鏡は、度が強く、組長はそれをかけない限り、目が悪い。俺はホッとした。だがしかし、半年経たない限り、外には出られない。まるで、『シェアハウス』…『一人の男とゴキブリの共同生活』…更にこの『共同生活』は『かくれんぼ』でもある。見つかったら『死』…俺はこの『かくれんぼ』をしながら『共同生活』…いわばその状態を半年、早いようで遅い…そんな半年間になりそうだ…
それからの俺は大変だった。勘がよい客人を呼び入れたり、殺虫剤をかってきたりと、半年間の『かくれんぼ』は大変だった。しかし、何故だろうか、自分を殺した筈の組長に愛着がわいたのだ。そして自由に外に出られるようになっても組長や一般人に気づかれないように組長についていった。まるで、俺が三浦組に入ったばっかの新米のように…
しかしこの生活もあと数時間、少しだけだが、むなしかった。
その夜、組長が護衛も付けずに(まぁ俺は仮の護衛をしている)夜の歌吹野町をぶらついていると、
「お!お前さん、三浦組組長、三浦賢吾さんやないか〜」
「ん…それこそお前は、一之瀬組組長一之瀬権八郎じゃないですか」
「へぇ〜にしても一年前はスマンの〜」
「いや、その件はアイツの自業自得ですわ」
その時、俺は何か嫌な予感がした。
「にしても護衛も付けずに歌吹野町ですか〜」
「ん、何か悪いか?」
「全く…馬鹿やのぅ…ここはな、危険やぞ」
俺は気になり、後ろから見てみると、一之瀬は銃を出していた。更に周りは一之瀬組の構成員。全て囲まれていた。
「フン、死ねぇ!!」
一之瀬が声を荒げて言うと銃を組長に向けて発砲した。俺は(危ない!!)と思い、組長の前に出た。
「な、なんだこの虫公!」
そして銃弾は、俺に当たった。意識が薄くなっている中、組長は構成員をかき分け、逃げて行ったのがわかった。
「く、組長…あ、後は頑張って下…」
俺は構成員に踏まれ、そのまま息絶えた。
「はぁ…しょうがないのう…」
何故か暗闇の中、神が俺に魔法かけた……………
「ハッ!」
俺はホテルで目覚めた。どうやら寝落ちしていたらしい。朝になり、俺はホテルを後にした。俺がブラブラ歩いていると一之瀬組の構成員が俺を耳元で脅した。
「おい、三浦組の極秘情報を教えろ…さもなくば…お、おい待て!」
俺はそのまま構成員から逃げた。実は正直言って脅された時、俺は人生を諦めていた。しかし、俺は生きるのを諦めなかった。何故なら、俺は『人間として生きる』と『ゴキブリとして生きる』、そして『組長の元で生きる』の3種類生きたんだから。
この度は読んでいただきありがとうございました。