氷VS炎 才能と努力が合わさりドラゴンを見せる
明日も更新しますヾ(o゜ω゜o)ノ゛
前話のあらすじ。
次撃に追尾性能を持たせる魔法により、強烈な一撃を与えたフラン。
しかしクレバーな判断を見せられ、メロディを倒しきれない。
逆に追い詰められた彼女は、天も裂けよと大喝した。
アイズ「それなんてザグル○ム」
作者「黙らっしゃい。威力増加してないから」
攻める姿勢は気持ちだけでは足りない。
相手が発したその言葉は、実に的を射ていた。
フランの戦意は、未だ衰える事を知らない。
先の宣言の通り、モチベーションもバッチリだ。
ただ絶望的なまでに体がボロボロである。
外傷が凄いという訳ではない。
勿論裂傷は多々ある。しかし、致命的なのは足首の怪我だった。
このバトルにおいて、機動力こそが最重要なポイントである。対人戦であり、互いの力量は既にある程度把握しているのだから。
もう走れない。その事実さえなければ、まだ戦いにはなっただろうが……。
「そこまで言うのならば……こちらも手は抜きませんからね」
フランの言葉の真意を図りかねていた風だった、黒髪美少女スターシア。
彼女は、冷然と覚悟を決めたように己の武器を構えた。
ただ慎重に。
フランに隠された奥の手を探っている。
「……」
「……」
沈黙が辺りを支配する。
息を呑むような状況。
本人とオレだけが、その舞台裏を把握していた。
(どうすんだフラン……お前にまったく打つ手がない事はすぐにバレるぞ?)
彼女の研鑽の日々を殆ど知り尽くしている。
そんなオレからすれば、フランチェスカ・キャンベル子爵令嬢として生きる中で身に付けたポーカーフェイス。その僅かな変化でさえも彼女の心境を察するばかりだった。
もう隠し玉はない。覆す手段もない。
――そう。今この瞬間は、まだ。
だからオレは叫んだ。最愛の女を支えるために。
「捻り出せ、フラン!!」
本来、決闘中のアドバイスはタブーだ。
ただ、野次や応援は黙認されている。
こんな一言、アドバイスの内にも入らないだろう。だから、この瞬間しかなかった。
「え、アイズ!? いつからそこに居ましたの? ……何処から聞いてました?」
そう言って恥ずかしそうにする愛しの奥さんよ。ずっと居たぞ。一瞬ズッコケかけたわ!
いや、幾らなんでも鈍感すぎませんかね。相手のスターシア嬢は気付いてたようだぞ。
呆れ気味の顔で窘められる。
「アイザック様は途中からずっと居ましたよ……。そんな事にも気付けないなんて、愛が足りないのじゃなくて?」
「ぐはっ」
やめろスターシア。その言葉はオレにも特攻だ。
まぁ、格上相手に戦線を拮抗させるため、相当な集中をしていたのだから、仕方ないという事にしておく。
「くっ、やかましいですわっ。わたくしとアイズは心で繋がっていますの。物理的な距離なんて、そこまで重要視していないのでしてよ」
煽りよる。そして煽りに煽りを返しよる。
「心が繋がっている? よくもまあそんな恥ずかしい事が言えますね。……証拠も無い癖に」
嫉妬心からか、最後はボソッと言葉にする。
そして、扇子で自身の口元を隠した。
「証拠? 幾多ある証拠の内の一つがこの杖ですわっ! 見なさいこの芸術的なロッド。我が街に流れ着いた、鍛治士兼武器屋のドワーフ。彼が旅の中で手に入れた売り物の中でも、圧倒的な性能と希少性を誇るこの杖を」
「……だからどうしたと言うのだわ」
成金め。そう言わんばかりのイライラした態度で、言葉を返される。
フランは喜色満面とした笑みを返した。完全にマウントを取りに行っている。
「この杖を見つけてくれたのもアイズ。ドラゴン素材と高純度ミスリルで、強化してくれたのも夫ですの。愛ゆえに、わたくしの力が光り輝くようにと。……っ!」
見せびらかすように顔の前に出した杖を見て、フランはハッとした表情を浮かべる。何か思いついたようだ。
でも、心の中だけで言っておくが、その杖は単に仲間の強化ってだけなんだが……。同じ物が仮に回復術士向けであったのならば、迷わずメルヴィナに買い与えた事だろう。
ほら、正直な話最近尽きかけているが、金銭は潤沢に用意して旅に出たので。
減った分も、ドワーフ職人のアルドーさんに追加でミスリルを売って、だいぶ補填されているけれど。あの人が抱える在庫が国家の倉庫よりも多い件。
「ふん、物品を貢がれたからって心が繋がっているなんて、浅ましい思い違いですね。その杖の真価も引き出せないと言うのに」
いい加減戦えよと思いつつ、更に喧嘩腰に返される。
どこか負け犬の遠吠えのように聞こえてしまうのは、オレの気のせいなのだろうか。
その言葉にすぐに反応を見せなかったフランの僅かな呟き。それを強化された聴力が拾った。
「速さが欲しいの……連携や不意を突いた一撃ではなく、純粋な速さが」
「使いこなせない武器を贈られて喜ぶ程度の低さで、この期に及び何をぶつぶつと……」
覚悟を決めた顔をしたフラン。
その両の手からは、逆転を予感させる風声が微かに響いていた。
それらを覆い隠すかのように、最後の煽りを相手に向ける。
「敬愛する殿方から、心のこもったプレゼントを貰った事が無いのかしら? お可哀想……」
「――ぬっころすのだわっ!」
フランからすれば、オレを絡めた煽りに対する時間差の意趣返しだったのだろう。
今までと違い、戦いのために意図して紡いだ言葉は、完全に相手の冷静さを奪っていた。
だからこそ、それまで完璧だったスターシアの対応が一手遅れる。
「ここで決めてみせますわっ」
寸前までの戦いのように、火魔法で火球を生み出す。
加えるように土で礫を作った。今まで通りそのまま射出しても、簡単に避けられる。
それを分かっているフランは、三段階目を自身の杖に向けて込め始めた。
「おい……おいおいおいっ。なんだよナルヴィクもフランも竹の子かよ!」
「あれは……アイザック君が使う付与魔法?!」
思わず興奮して意味不明な事を口走る。
頬が紅潮し、手に汗を握っているのが分かった。
知ってはいたんだ。
オレが出来る事を伝えるため、まだアイズ様と呼ばれていた時分に見せた付与魔法。
それを、ずっと前から彼女が練習しているのを。
ただ、さしもの天才令嬢も付与魔法は不得意なようだった。
まぁ、近接戦闘能力ありきの魔法だし、身体付与ではないただの付与魔法でも、肉体へのダメージはあるからな。
フランの才能とは方向性が違うだろう。
だからこれは、才だけじゃない。彼女の努力の結実だった。
「これが――これがわたくしの答えですわ!」
辺りにばら蒔いた通常の魔法を、風魔法を付与した杖で振り抜く。さながらクリケットのようだ。
加速した魔法がスターシアを襲う。
通常の速度で目が慣らされたスターシアからすれば、緩急が付いて実際よりも早く感じた事だろう。チェンジオブペースってやつだ。
事実、氷細工のように綺麗な顔が、僅かに強張っている。
「――第六階位、氷壁城郭!!」
会話をしながらも練りこんでいた魔力で、見事なまでに威圧感を放つ壁が創造された。
圧倒的な屹立。
「番外戦術とは卑怯なっ。しかしこの程度、乗り切れないと思われるとは、わたしも舐められたものなのだわ!」
加速したとは言え威力が弱いため、フランの攻撃は生み出された氷の壁で阻まれた。
風を纏って少しばかり炎が大きくなったとしても、焼け石に水ならぬ大氷にマッチだ。
しかし、足を止める事はできた。
「多少意表を突いたところで、これでは先程までと変わらないのでは?」
「そうでもないさ。今、戦いの主導権はフランが握っている」
読んで字の如く、戦いを主導する権利。
ではどうすれば、それを握っているかという話だが。
オレが考える具体的な定義の一つとして、自身の思うように戦場を展開させているかが挙げられる。
「ナルヴィクもそうだったが、基本、大魔法を発動させると移動が困難になる。あいつと違って、彼女はそこら辺も訓練しているようだけど、まだ甘い。咄嗟の行使だったから、ロクに動けないだろう」
それだけじゃない。攻撃用に準備していた魔力を防御に使ってしまっている。
それ自体は問題じゃない。一歩遅れた反応、迫り来る数多の魔法、早さと範囲が体感した攻撃より図抜けていた。完全に身を守る手段は、あれしかなかった筈だから。完璧主義者の彼女でなければ、また別の方策もあったけれど。
問題はその後。精神的にも追い詰められた現状、まず自慢の壁を使って、魔力を練る時間を稼ごうとする。
それがフランの狙いとも知らずに。
「固定標的なら恐るるに足りませんわ――風玉・竜爪牙ォオオ!!」
自身の袈裟懸けに振り降ろす挙動を、風で無理矢理加速させる。
付与した風魔法はナルヴィクよりも下手だが、発想が上手い。
火魔法で膨張させた空気。
それを風魔法と込めた付与の風で加速させ、無理矢理射出した。
「きゃああああ!!」
氷壁の一部が、断絶される。
「まだまだですわぁっ!」
一振り目で貫通した攻撃は、スターシアの美脚に傷を付けている。
二振り目、土魔法の砂礫も混ぜて、広範囲の攻撃が、相手が傷つきながらもより厚くした氷の壁を破壊。
「このぉっ……あと少し、動きなさいわたくしの体!」
なんなら、魔法が命中した敵よりもダメージを負ってしまっている、華奢な肉体。
この時点で、腕を中心とした体へのダメージを考えれば、三撃目はどう見ても不可能だ。正直、今すぐ止めたいくらい、見ていられない惨状になっている。
必死に衝動を押し殺していると、フランは力の入らない体を無理矢理動かし、風で体を押し込みながら、とある物を投げた。
「使いこなせない武器ならば、使わなければいいのですわっ!」
華美な杖が、戦場を舞うようにクルクルと横断した。
流石、ですわお嬢様系ヒロイン。
作中では誰も追随できないマリー力だ……ヾ(ゝω・`*)ノ←
パンが無ければ、生地を捏ねれば良いじゃない(庶民的思考の基礎)。
今話で決着と言ったな、アレは嘘だ!←
も、もうほぼ決着ですんで……(;`・ω・)ノ




