氷VS炎 焔が照らす覇道
「貴女の手番もここまでですわっ!」
「くっ……ここが一番警戒すべきだと言うの――」
フランが、辺りに人魂を思わせる火を撒き散らした瞬間。
スターシアの身体は、悪寒が走ったかのようにぶるりと震えた。
こわばらせず、体から無駄な力を抜き、半身に構える。
予備の鉄扇の周囲に冷気を張り巡らせていたものを、全て取り出し、迎撃準備を整えていた。
フランのイレブン・フレア・ロードとやらは、魔力的な驚異は特に感じない。アレ自体が威力をもってスターシア嬢に牙を剥く事はないだろう。
だのに、それを警戒しただけでも彼女の戦闘センスは図抜けていると感じた。
「成る程。オレの動きから強さを見抜くだけあって、とんでもない女性だったのね」
ここまで一方的に痛め付けられているのも、納得するしかないな。
魔法素養だけならフランが圧倒していたので、正直ここまで圧倒されるとは思っていなかったのだ。後衛対後衛な訳だし。まさかこんな、詰め将棋みたいな戦闘が繰り広げられるとか思わないじゃん?
「これが――お嬢様の奥の手なのですね」
メルヴィナが、思わずといった風に言葉を漏らした。最早審判である事も忘れて見入っている。
眼前では、動きながら的を絞らせずにいた、フランの次の魔法が完成していた。
相手はどうしても周囲の魔法を警戒する上、詠唱の邪魔を予期して構えるフランを生半な妨害では止める事ができない。
「お受けなさいな――螺旋の火炎嵐!」
天才魔法少女が魔法を放つ。
それらは、火魔法と風魔法を組み合わせたものだった。
ただ、以前フランに見せられた火炎嵐の魔法とはまったく違う。
蜷局を巻く炎の旋風だった筈が、螺旋状に形取られた風の通り道を炎塊が突き進むような構造になっている。
風の道は極狭い範囲に展開されており、加速しながら敵へと向かっていった。
「確かに速いですが、この程度回避も迎撃も可能……なのに、何なのだわっ。この消えない悪寒は――ッ!」
向こうさんの動きは、超一流の暗殺者執事を師に持つオレから見ても、研ぎ澄まされている。
多分、セルバフ配下の暗殺者メイドに匹敵するくらい、近接戦闘の鍛練を修めているだろう。
動き出しは素早くとも、スピードに秀でていない事だけが救いか。
当然、それは強さの方向性の違いであり、決してあいつらに劣る訳じゃない。
例えるなら、ライト級のプロボクサーと合気道の達人みたいな違いだ。
「ただ……意図が読めなければ防げないと思うぜ」
グラウンダー性の打球のように、地を這う軌道で迫る魔法。
それが、突如として向きを変えた。
「?! 何故……」
転換された軌道はスターシアが避けた方向だが、真っ直ぐは向かわない。
その事実が、相手を焦らせていた。
「……だから何だと言うのです。第三階位、氷連槍・掃射!」
冷気を振り撒く鉄扇の挙動に合わせて、スターシアが氷魔法を使う。
複数の氷が斜めにぶつかり、圧縮された炎の軌道を逸らす。上手い使い方だった。
「でも、それじゃあ避けらんないな」
スターシア嬢は用意周到だ。おまけに警戒心も高い。
フランがあちこち傷だらけなのと違い、目立ったダメージが無い事から、こちらの攻撃は殆ど当たっていないと見受けられた。
あれで我が嫁も、戦闘においてはアホの娘じゃないからな。
色々手を尽くして、それでも全て回避か迎撃をされているのだろう。
回避性能と警戒心が高く、避け難い攻撃も迎撃され、微塵も攻撃が届かない。
そんな相手に対して、フランがこの場で出した答えは、実にシンプルだった。
「何故ジグザグにわたしに向かってくるの!? このぉおおぉぉ!!」
「喰らい付きなさい、イレブン・フレア・ロード!」
追尾すればいい。
撒き散らした人魂型の火に反応して、炎塊は吸い寄せられる。道とはよく言ったもので、次弾の魔法が火を取り込んで進むように構築していたようだった。
だからこそ傍目には不規則に動くし、その最終到達地点はどう足掻こうと変える事はできない。
正に、最初に放った小さな火球こそが、形勢逆転の一手だったのだ。
成る程、納得である。
古今東西、追尾性能を持つ魔法なんて、この世界に転生してから殆ど聞いた事がない。
恐らく、さんざっぱら読み漁った英雄潭の中にも、1回出てきたかどうかの頻度だ。
どうやって追尾させるかの確立が難しいのが原因だろうけれど、そんな事はどうでもいい。
希少という事は、相手にも経験がない可能性が高いという事。
当然、対策などされていよう筈もない。
「ぬっ、スターシア嬢もやるものだ。あの感覚は狩人に近いものがあるな……」
「どうかしたのですか?」
メルヴィナがオレの呟きに疑問を挟む。
スターシアは、どうあっても避けられないと早急に判断し、詠唱無しのワンアクションで氷魔法の迎撃を行った。そして、数瞬の拮抗中に新たな魔法をぶつけている。
目の前に繰り広げられる氷と炎の衝突は、とてもではないが咄嗟に捻り出せる魔力の量を越えていた。
「フランが技の真価を見せる前に、危険を察知したんだよ」
「そう言えば、さっきまでとフランお嬢様の魔法に対する反応が、最初から違ったような……」
フランの新魔法は、あくまで追尾性能を格段に向上し、着弾までの軌道が読み辛いだけなので、威力の劇的な向上はない。
螺旋状の軌道を描いたその後の炎も、火魔法にしては速度があった。
元々威力が高い魔法な上、相手が魔力お化けなフランじゃなければ、結果は違ったかもしれないな。
「ああぁぁ――!」
「貫きなさい――!!」
氷と炎の衝突は、冷やされた空気が膨張し爆風を生む。
――ドパァァアアァァン!
巻き上げられた砂埃と共に、激突地点がまったく視認できなくなってしまった。
これは、視界が晴れるまで結末が分からないな。
「どうなったんでしょうか……」
「さあな。ただ、無傷では済まないだろう。爆風だけじゃなくて、減衰した炎も相手に向かっていたから。例え倒せなくても、フランを褒めてやらんと」
「やっぱりフランお嬢様がやった事は、アイザック君から見ても凄いんですか?」
「まぁ、そりゃあな」
炎の魔法は基本的に直線の動きしか出来ず、それ以外は重力に引かれるような山なりの軌道のみ。
以前ワイバーン戦で見せた雷の模倣のように、ある程度の変化は加えられるが、速度にも限界がある。
魔法はイメージ。それは間違いないが当然なんでもアリじゃない訳だ。そこら辺、ハンター漫画の特殊能力みたいだな、系統や制約と誓約とかはないけど。
ナルヴィクの水魔法なんかが良い例だろう。
電気を通さない水、純水は実際に存在する。
なので、電気を通さないようにとイメージし、可能であると確信を持って発動するだけで、純水を知らなくとも、魔法で顕現する水は純水となる。……多分。
勿論純水の存在を知っていたり、構造イメージがあれば、その具現化が容易になる事は間違いない。
ただ、全ての法則を無視する事はできない。
火種がなくとも、魔力によって火を灯す事は可能。だが、酸素無しで燃え続ける火は、魔法でも造り出す事はできないのだ。
つまり、その他属性の魔法より火魔法は威力に優れ、速度で劣る。
その相性の悪さを工夫で覆した形となる。
「あ、煙が晴れてきました!」
「立っているのは……二人ともかっ」
爆風で吹き飛ばされたのはフランも同じだった。
ただ、激突場所はスターシアに程近い場所だ。双方傷を負っているが、見た目のダメージ量としては向こうの方が大きい。
けれども戦闘経験の差、それも負傷時の戦闘行為継続はフランは初めてである。
やはりスターシア優勢か……?
「はぁはぁはぁ……認めましょう。わたしはあなたを侮っていました」
黒髪の少女は、ヨロヨロと肩幅に足を開き、体力を回復させつつ相手の動きに備える。
時間稼ぎを兼任しているのはオレには丸分かりだが、フランは警戒しつつも追撃しない。
「今後は、好敵手となり得る存在と認識しましょう。その上で――あなたに勝つ」
フランも不敵な笑みを返し、宣言する。
「望むところですわ」
戦いが再開される。
その後は、暫し一方的な展開になった。
フランは恐らく、爆風を受けた時受け身を取れていない。足を痛めたのか、精彩を欠く動きと魔法の選択を繰り返している。
対する相手は、寧ろ風で後方に飛んでダメージを減らしたように見受けられさえした。
「ふっ! まだまだ立ち回りは甘いッ」
「くっ」
足元で破砕した氷でバランスを崩し、片膝を突くフラン。
そこで追撃を取らず、静かにスターシアは語り掛けた。
「戦いの素人の癖に、ボロボロな体で戦意を維持、高揚させていく姿は立派。そう評するのが妥当でしょう」
「何を……っ」
「けれど、攻める姿勢は気持ちだけでは足りないのです。あの奇襲で仕留められなかった時点で、あなたの勝ちは潰えました。降伏して然るべきです。あなたのお仲間もこれ以上は望まないでしょう」
自分を認めた上での、強者による降伏勧告。
オレならば頷いてしまいそうになる、その場面で。
「……そうですわね。格上相手に良く頑張ったな。アイズならそう褒めてくれるでしょう」
「……」
フランは違った。
自身に立ち塞がる、この場では越え難い壁に向かい叫んでいた。
「――ですが、わたくしが認められないのですわっ。こんなところで自ら敗北を受け入れ、英雄の妻になれる訳ないのですからっ!!」
誘導なしのイメージとしては、トルネードスネイク(の中心を炎が駆ける)を想像頂ければヾ(ゝω・`*)ノ ……テニプリ分からない人はスルーで←




