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氷VS炎 鬼才の真価・異才の進化

推敲してたら遅くなりました(;`・ω・)ノ

文量はいつもより多め。三人称視点です。

 

 決闘が始まって数分。


 麗しき魔法使い同士(こちら)の戦いの主導権は、常に氷を操る魔法少女が握っていた。


 決闘の始まりを告げる合図と共に、フランチェスカが大きな火の玉を放ったのだが、簡単に避けられた。

 それを見越して同時展開していた火の槍が、左右に十本づつ掃射される。


 アイザックがよく使う、陽動と本命を織り交ぜた目隠し的戦法だった。

 勿論、戦いの経験値が低いフランチェスカでは、それを完全に模倣する事ができない。

 そもそもの前提として、アイザックの人並み外れた筋力から放たれる投擲とは速度がまるで違う。火魔法は、他の魔法と比べて遠くに飛ばす際、どうしても減速してしまう傾向にある。


 メロディーは落ち着いて、氷を纏わせた鉄扇で火の槍を排除した。

 今この時まで、フランチェスカの見せ場はそこだけである。

 新米天才魔法少女と比べて、戦闘経験豊富な彼女は、自身の立ち位置調整も含めて圧倒的な差を見せ付けていた。


「くっ、ちょこまかと」


「冒険者たるもの、そして魔法使いたるもの。守られながらでしか戦えないのでは、話にならないのだわ」


 単純な魔法の威力と使える属性の多彩さは、アイザックが認めるだけあって、他の追随を許さない。

 しかし、彼女が魔法と出会ってから、まだ半年も経っていないのである。

 選ぶ魔法の選択、相手の動きの読みなどの経験的な部分。そしてそれらを冷静に行使できるだけのスタミナとメンタル。

 どんな魔法の天才でも、すぐには手に入れられないものだった。


「魔物と人、そして1対1では何もかも違うんですよ。それを痛感するといいのだわ、籠の中のお嬢様」


「うるさいですわっ」


 加えて言うのであれば、フランチェスカの対人経験は皆無だ。


 イルネストの冒険者ギルドで、人に向けて魔法を撃った事はある。

 ただ、その時は不意打ちであったし、相手の反撃もなかった。そんなものは対人戦ではない。


 今後を危惧したアイザックも、多少の模擬戦は行なっている。

 けれども、何度か盗賊と遭遇したアイザック自身も、圧倒的な実力差のせいで、未だに人殺しの経験は無いのだ。どうしたって、兵の教官としては二流だ。

 自分だけではなく、エルミアやメルヴィナとも訓練させたが、あまり効果的ではなかったのは、この決闘の流れを見ても明らかである。


「これならば――拡散する火塔スプレッド・ファイヤタワー


「何が来るのか、詠唱でバレバレなのだわっ」


 メロディーは距離を置いて、発動する魔法に備えた。予備に構えた扇子の周囲にも魔法を展開し、氷結を促す事でノータイムで迎撃する彼女の得意技である。

 魔法先進国のクレイドル魔導教国で、ワン・クイック・マジックと持て囃された常人には真似できない技術だ。

 無詠唱も多用するため、敵に手の内を悟られ辛い。


 発動したフランチェスカの魔法が、天空を焼き焦がすように、極太の炎として立ち上る。

 直後、その体積を半分程にして、減った分の火炎を周囲に撒き散らした。


「動きを捉えられないからって、馬鹿の一つ覚え? アイザック様もお可哀想……」


 今までよりも、その身に迫った手数は多かったが、扇子から射出される氷柱(つらら)で迎撃。勢いを緩めたものからステップで躱した。

 その他、どうしても回避が難しいものだけ、魔法を込めた鉄扇の面で薙ぐ。


「才能が泣いてますね」


 嘲るようにそう独りごちる。


 教国の魔法の規模や威力を表す基準、階位で言えば、初撃の大きな火の玉は第四階位、今目の前に迫る、拡散する火塔は第六階位に分類されるだろう。

 教国の魔法使いの中でも、トップクラスであるメロディー。彼女が同規模の魔法を真似しようとするならば、事前準備が必要となる。

 フランチェスカも多少の詠唱時間はあったが、本来触媒もなしに気軽に発動できる魔法じゃないのだ。


 それを、まったくもって活かせていないとメロディーは嘆いていた。

 しかし、彼女は常識破りと評されるアイザックの奥さんである。夫婦は似るとはよく言ったものだった。


「――敵を侮らば、百戦が危うくなるのでしてよ」


「なっ、火の塔から!?」


 体積を半分ほどに減らした火の塔が、崩れるように散らばる。

 そのまま、後退したメロディーを追撃及び包囲するかのように、複数の火炎が舞い踊った。

 その先には、ようやく相手の余裕を崩す事ができて嬉しいのか、ニヤリと微笑むフランチェスカがいる。


 動きながら魔法を放つメロディーに触発されたのか、魔法を警戒して下がる相手と位置を保つかのように接近していた。それも、屹立した塔でその身を隠しながら。

 立ち上る火の塔に杖を突き刺し、新たに魔力を込めて、追加の操作を施した結果が今、顕現している。

 キザなイケメン魔法剣士ナルヴィク・ランカスターと、彼女の夫であるアイザックの戦いから学んだ技術だった。


「逃げ場はありませんわよ!」


 アイザックが見ていたら、一目で模倣した彼女の才能に嫉妬しつつ、魔○包囲弾!? とはしゃぐ事請け合いの魔法だった。


「逃げる? 必要ないのだわ」


 確かに、多少驚きましたけどね。

 そう付け加えて、それまで準備をしていた大魔法が行使される。


「第六階位――氷穿牙・貫破!」


 ピシャっと閉じられ、前方に突き出された扇子を起点として、厚く鋭い氷が発動者の後方まで斜めに作られていく。

 もう片方の手で、氷の膜を後方に張りながら前進して、火の玉による包囲陣を突き破った。


 因みに、ここにアイザックがいたら、氷のドリル!? 天○突破でもするのか? などと、とんちんかんな事を言っていただろう。

 必要がないため回転はしていないのだが、仮にその台詞が発せられたとしても、誰も指摘できなかったのは間違いない。


「わ、わたくしの魔法が喰い破られて――くぅっ!」


「戦いとは、事前の準備で八割決まる事を覚えておきなさい」


 日本に伝わる『段取り八分』という言葉ならば、決闘が始まる前までの事を指す。

 ただ、メロディーが言っている意味には、戦いの最中(さなか)の準備も含まれている。

 彼女は、瞬間的な魔法の行使において、爆発力があるタイプではない。

 そのため、相手に気取られないように、移動しながらも大威力の魔法を用意していたのである。


 今彼女のいる立ち位置こそが、その準備してきた場所。

 リスクマネージメントを行っていた計算高い少女に、フランチェスカが誘き出される形となった。

 見届け人のメルヴィナからも、思わず声が漏れる。


「お嬢様!」

「がほっ、う、うぅ……」


 咄嗟に張った魔法とロッドを盾にしたものの、吹き飛ばされる小さな体。

 か弱い令嬢なら、衝突の前から悲鳴を上げそうな程の威容が迫り、結果として少なくない裂傷が刻まれた。

 それでも、彼女のプライドが乙女のように泣き叫ぶ事を許さなかった。


「あーず、ほぅる……」


 痛みを感じながらも、緊急回避的に使った土の魔法で地面を抉った事で、なんとか敵の追撃を遮る。

 アイザックに、もしもの時に反射的に使えるように仕込まれたものだった。


「へぇ、まだ戦意を失わない事だけは、褒めてあげるのだわ」


 時間稼ぎにしかならないけれど。そう言いたげな笑みを浮かべる。

 やはりアイザックが察していた通り、腹黒又は気位の高い一面があるようだ。


「おだまり、なさいな」


 フランチェスカは、自身の仕掛けを突破されると脆い。

 攻勢を返された時の対策まで、想定できていないからだ。

 勿論、本来は経験で身に付くものなのだから当然と言えるが。

 メロディーはそれを看破していた。


 彼女にとって、フランチェスカの弱点は明らかだ。

 決闘に至る前に見せられたように、魔法の制御力はかなりあると見ていい。

 ただ、それは十分に意識すればできるというだけの話で、一流の魔法使いのように、無意識で行える程ではなかった。

 そしてそれ以前に、瞬間的な魔法の行使の際、威力がある魔法を発動できないという、致命的な欠陥がある。


 まあこれは、大抵の魔法使いに通じる弱点なのだけれども。それを様々な手法で克服するのが、一流と呼ばれる所以である。

 そもそも、この才に溢れた令嬢様は、無詠唱の魔法自体得意ではなさそうだ。そうメロディーは断じていた。


 ほら、今も。


「くっ!」


「小賢しい!」


 至近距離から放たれた小さな火魔法を、鉄の扇で一閃。それだけで魔法は消滅する。

 キラキラとした魔力残滓が、メロディーの体に振りかかった。


「……?」


 本来は出ないエフェクトなため、僅かに思考が鈍る。

 だが、それで追撃を怠る程、彼女は戦いの素人ではなかった。


「うっ、くふゅ」


 無詠唱で咄嗟に撃てる中でも、打撃力のある魔法が相手を襲う。

 第二階位の氷魔法、氷岩(ひょうがん)だ。

 刃も作れない無骨な魔法だが、物量による吹き飛ばしは中々の威力を誇る。

 なんとか耐えたみたいだが、ダメージは大きいだろう。


 その前の一撃から、もう既に勝敗は決している――と、思っていた。

 そんな氷の美少女にとって、予想外の言葉が飛んでくる。


「ぐっ、はぁはぁ……くらい、ましたわね?」


 明らかに向こうが劣勢なのに。

 追い詰められ、苦しそうに歪んだ顔から、僅かに口角が上を向く。

 例えるなら、ニヤリとした表情だった。


「準備が大事。えぇ、大いに賛同、しましてよ……」


 ――死にかけの癖に


 その例えようのない気味の悪さに、無意識に体が震える。


「膳立ては、整いましたわ――イレブン・フレア・ロード!」


 上半身を支えていたロッドを地面に突き立て、交差した両の指。

 その先には、小さな10の火球が儚げに浮いていた。

最初はメロディー視点で書いていたんですが、敵視点が続くのもどうかと思い三人称視点に変えました。

次回からアイズ視点に戻ります。


緑の宇宙人の技やドリルより、最初の魔法のネーミングセンスにアイズなら反応するだろう事は内緒。

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