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魂のフラン

決闘の経緯です。

次回から戦闘に戻ります。

 決闘(それ)は貴族令嬢冒険者と、見た目は完璧大和撫子な冒険者の一つの対立から始まった。


 相手を一目見た瞬間、互いが互いを直感で宿命の敵と認識している。ある種の一目惚れかな?

 正に竜虎相搏つ5秒前(RA5)と言った雰囲気だ。キレやすい若者かよ。


 視線の牽制に始まり、立ち振舞いで威圧を飛ばし合う。

 オレはともかく、ワプルは完全に空気と化した。この変人を霞ませるとか女って凄いね。


 スターシアは、フランとの睨み合いに益がないと思ったのか、オレに向き直った。

 何か言うべきか。


「おっと、名乗ってもらったのに、こっちはまだだったな」

「助けただけの相手に、名乗る必要はありませんわ。早く行きませんこと?」


 とは言っても、この修羅場的な雰囲気。

 名乗らなければ、多分彼女は判明している呼び名としてアイズと呼び始め、フランを更に不機嫌にさせる気がした。


「それではアイズ様と――」

「アイザック・フェイロンだ。妻がすまない」


 予想通りの展開に、即座に名乗りを上げる。

 フランはオレの意図を汲み取ってくれたのか、多少眉間に皺が寄る程度だった。


「それでは、アイザック様。とお呼びしても?」


「よろしくありませんわ。フェイロンさんとでもお呼びなさいな。これ(・・)はわたくしの夫でしてよ」


 フランの口撃に、相手は少なからず苛立っているようだ。まぁ独占欲全開だもんな。

 その影響か、スターシアが口許を隠していた鉄扇周辺に薄く氷結を展開させる。


「あら、ただの会話にそこまで青筋を立てて……やる気かしら?」


「ここが街中だと理解してらっしゃる? まったく品位に欠けますわね」


 あくまで攻撃する意思はなく、感情的に魔法が漏れてしまったのだろう。

 そんな状態でも、無意識下でコントロールしている事と、自分の得物である扇に負荷がない範囲で展開しているのは、相当な鍛錬の賜物に見受けられた。


「初見の相手に言葉でマウントを取ろうとする方が、品位ある女性を語るとは驚きですね」


「なんですって? そう。そうやって周囲を顧みず挑発を向けるのね。大したじゃじゃ馬お嬢様ですわ」


 ワプルが目の前の女をお嬢呼びした事から、相手が相応の地位にあると仮定したフランは、そんな言葉で返した。


 因みに、母国では大きな街だと街中で魔法を使ったら一発お縄だったりする。唯一ギルド内は、被害者が冒険者である限り治外法権だ。

 今いる国は小国家群のきらいが強いので、そこまで魔法関係の法整備はされておらず、被害を出さなければお咎め無しだと後から知った。


「ふふん、周りに被害を出さない自信が無いのですか? 魔力は相当あるみたいだし、ただの固定砲台のようですね。滑稽なのだわ」


「ッ――!」


 制御できない大魔力なんて、宝の持ち腐れ。

 そう言いたげな嘲笑を微かに浮かべる、大和撫子風美少女。いやこれ、自分で言っといてなんだけど、高飛車系大和撫子って、ちょっと意味分かんねぇな。

 声色には、僅かに哀れみさえ感じる。


 正直な話、それはフランのコンプレックス直撃だ。魔力制御に難がある訳ではないが、彼女はどちらかと言えば高火力の大砲役である。

 武道なども習っていないので、オレのように魔法を使った近接戦闘もできない。

 細やかなコントロールで、今も優雅に魔法を漂わせるスターシアとは、恐らく方向性が真逆な冒険者と言える。立ち振舞いから、武芸者の気配を漂わせているし。


「なぁ、二人共――」


 焦って口を挟もうとするが、オレが原因である以上効果的とは言えない。

 よっぽど上手く言わなければと、言葉に数瞬迷ったため、その後の発言を止める事ができなかった。


「いいですわ。その挑戦、キャンベル子爵令嬢たるわたくしが受けて立って差し上げましてよ」


 彼女は普段、こんな浅い煽りに乗らない。

 少なくとも、子爵の名代として高位貴族も集まるパーティーに参加する人物だ。基本的には冷静に受け流す。

 ただ、それには例外があった。オレに関係する事だ。


(イルネストの冒険者ギルドでもそうだったが、オレに対する沸点低すぎませんかね? いや、嬉しいんだけどさ。TPOが行方不明なんですが)


 チラッとフランはオレを見た。

 僅かに残った理性が、万が一の際のフォローを求めている気がした。


「わたくしが、大火力しか扱えない能無しだと思ったら、大間違いですわ」


 そして魔法が発現される。

 辺りへの影響を考えたのか、その規模は小さい。

 だが、目を見張る魔法の展開だった。特にオレにとって。


 彼女の白魚のような手。スラッと伸びる五つの指。

 その先端に、小さな火球が指の数だけ灯されていたからだ。


「ちょおお?!」


 ちょっと待てフラン。それは、かの有名なフィン○ーフレアボムズじゃないか?

 いや、特に炎弾を圧縮していないところを見る限り、威嚇重視の大した魔法ではないのだろうが、何故それを君ができるっ。

 ……まさか、夜営の不寝番の時に再現できないかこっそり練習していたところを見られていたと言うのか?


 確かにアレなら制御力のアピールに有用かもしれんが……。


「成る程? ただの才に任せたお貴族様ではないようですね」


「貴女のその脆弱な氷、全て溶かす事ができますわ。アイズも含めて諦めるのね」


 三度(みたび)、怒気がこもった視線が交錯する。

 ちょっとこの雰囲気マジどうにかしてくれんか。


「あのー、フランさーん? 初対面相手にそこまで敵意剥き出しじゃなくても良いんじゃないかなぁ」

「アイザック君、それは悪手だよォ……」


 剣呑な空気に耐えられず、オレは失言してしまった。

 スターシアに声掛けした後、巨漢の癖に空気に徹していたワプルすら言葉を漏らしてしまう。


「ア・イ・ズ? そうやって優しくするから付け上がるのですわよ? そして、無駄に惚れさせてしまうんですの」


 冷ややかな声と発する圧で、否応なしに気圧される。


「ふっ、狭量な事ですね。彼はわたしが一目見ただけで、優れた武威と潜在魔力を持つ、傑物と言うべき殿方ですよ。一人の女性に縛られる器でもないでしょう」


 いや、オレって武威とか強者のオーラを感じさせないってよく言われるんだけど……。

 あと、確かに一夫多妻はある程度認められている世の中だが、オレにそんな気はないぞ。


「そして何より、愛する旦那様にそんな態度を見せるあなたが、伴侶に相応しいか疑問を禁じ得ませんね」


 空気が凍る。

 氷魔法を得意とするらしき向こうではなく、本来炎魔法を得手とするフランが、一帯の温度を下げていた。比喩ではなく。


「――――それは、わたくしへの果たし口上と受け取って構わなくて?」

「そうですね」


 間髪入れずに肯定が返される。

 それを聞いて逆に落ち着いたのか、軽い深呼吸を挟んでフランはオレを見た。

 その目には、何故か慈愛のようなものがこもっていた。


「ねぇ、アイズ」

「なんだ?」


 だからオレは、いつものように返事をする。


「分かっておりますの。アイズは、わたくしだけを愛してくれていますわ。確かにデレっとした態度も多いけれど、殿方ならある程度は仕方ありませんもの」


 優しい笑みが浮かぶ。

 それは、どこか諦めてもいるようだった。そんなに心配する程、オレはモテないと思うけどな。今回は例外だ例外。


「彼女にしてみても、容姿に優れ、実力は十分、優しさにも満ち溢れている将来性抜群の異性(アイズ)となれば、惚れてしまうのも当然ですわ。え? 贔屓目が入ってる? それこそ仕方なき事。だって夫ですもの」


 迷いなき断言を聞いて、勝手に頬が熱くなった。

 相対するスターシアさえも口を挟めず静かになった空間に、更なるフランの言葉が響く。

 ここまでは、普通に聞く事ができたからな。


「でも、魂の中に居るもう一人のわたくしが叫んでいるのですわ。アイズの視線、興味、愛。全てをわたくしが独占していたいと! アイズはわたくしの嫁だと! ……あら? 何かが違ったかしら」


 うん、色々間違ってる気がする。

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