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血反吐にまみれる覚悟 後編

※今回、二回目の◇◆◇◆◇以降に、人によっては引いてしまうかもしれない内容が描かれています。ご注意下さい。

「うっわー、すっごい複雑」


 オレは今、かなり微妙な顔をしているだろう。

 何故なら、地獄から何とか復帰した後に魔物が降りてこない程下流の川で服を洗っていると、腕のステータスが目に入ったからだ。

 上昇していたのだ。それも、あの程度の戦闘で上がるとは思えない程に。


 以前ゴブリンを倒した時は微塵も変化しなかったから、原因は絞られる。

 まだオレはファングラビットの肉も食べてないしな。

 ギリギリの戦いを制した事も関係無いとは断じれないが、脳裏に過る理由は唯一つ。恐らく真実だろう。


「ゴブの血のせいだろこれ……」


 ゴブリンの血を飲んだ際に襲い来る吐き気。

 それに苛まされつつも、オレは吐かなかった。否、()()()()()()

 疲労のせいか、体が勝手に吐き気よりも酸素の供給を優先したからだ。反射みたいなものだったのかもしれない。

 正に生き地獄と言える体験だった。

 けれど、吐かずにゴブリンの血を体内に取り込んだままにした事で、体外に魔力が放出されず調和されていったのだろう。

 それがこのステータスアップの要因だ。

 オレが予定していた魔物食の、過激なバージョンってところだな。


 今のところ体に異常は無い。

 血を飲んだ当初は悶え苦しんだし、体がまるで中から焼かれるかのような熱さを感じた。

 そこに激しい吐き気と後から来た鈍い痛み。

 森で何時間かのたうち回った後、やっと歩けるようになっても気分は最悪のままだった。


 現在では、未だ体内を廻る魔力によって全身が若干の熱を帯び続けている程度だ。

 先程より幾らかマシになってきているので、(じき)に収まるだろう。

 衛生面も疑ったが、もしかしたらゴブリンの血に病原菌とかは無いのかもしれない。

 寄生虫とかは血にも潜むかもしれないけど、主に腸にいるって聞くし。


(予断は許さないから観察は続けないとな。五日くらいは外出せずに、体調を見た方が良いかもしれん。……死んだりしないよな?)


 ゴブリンの血を飲んで感染症で死にました、なんて事になったら死んでも死にきれないぞ。英雄を目指した者の末路として、あまりにも惨めな死に様すぎる。

 取り合えず体にバッドステータスは見られないので、大丈夫だと信じたいけれど。


 あ、バッドステータスってのは勿論オレが勝手につけただけで、毒とか麻痺とかが表示される訳じゃない。

 そもそも、オレに見えるのは棒グラフ的なフレームだけだからな。

 このフレームの中で、ステータス、つまり現在値が灰色表示になる場合があるのだ。

 これをオレはバッドステータスと呼んでいる。


 バッドステータスの例は、骨折などの怪我が一番分かりやすい。

 怪我をした箇所のステータスを見ると、その怪我の度合いによって灰色表示が大きくなる。

 以前、筋に大きな裂傷が入ったおっさんを見たが、かなりの腕力ステータスだったのに、七割程が灰色になっていた。

 逆に突き指程度なら、大した低下にはならないのだが。


「しかし、初めてマトモな実戦をしたが…… 一歩間違えれば死んでたな 」


 これは何て言うのだろうか、オレは。


「でも危なかったとは思うけど、恐怖でもう戦えない、みたいなのは無いんだよなぁ」


 奇襲した直後に奇襲を食らってパニック状態に陥っただけで、恐怖で体が固まった訳じゃない。

 反射的に痛みで体を引いただけで、別段腰を抜かしたりした訳じゃないのだ。寧ろ……。


(そう、オレは高揚していた!)


 ひりつくような命のやり取り。

 珍しく運が味方したような勝ち方ではあったが、それでも興奮を覚えずにはいられなかった。

 前世で一時期やっていた格闘技とは違う、命を賭けた上での全身全霊のやり取り。

 相手の大きさも武器も規定など無い。こっちの武器も罠や仲間の存在に至るまで、制限なんて掛かっていない。

 大した成績も残せず辞めたあんなものとは、一線を画すと思う。逃げた負け犬の考えかもしれないが。

 泥臭く、運任せで、夢見た無双には掠りもしないけど、悪い気分では無かったのだ。


「ははっ、オレって大概頭イカれてんのかね」


 まるでバトルジャンキーだ。

 そう感じずにはいられなかった。

 あんなのが楽しかったなんて、と。


「まぁ、こんなんでビビッて戦えない、なんて思うタマじゃなくて良かったのかも。じゃなかったら、こんなハードモードから強くなって無双なんて、できっこないし」


 第一、ヘルモードを覚悟して立てた人生の目標を、一歩目で諦めるなんて最高にカッコ悪い真似なんてしたくない。


 そう結論付けて、絞った衣服とゴブリンから奪ったファングラビットを担ぎ、生まれ故郷アンデルへと足を向けるのだった。



 ◇◆◇◆◇



 帰宅してからメイドに軽く問い詰められが、何とかやり過ごす。

 衣服が濡れている理由を聞かれたのだ。

 アリバイと言うか話を合わせるように悪友に頼んでいるので、今日はあいつと川の下流に遊びに行った事にした。

 若干訝しげな視線だったように思うが、追求は免れられたから気にしない事にする。


「ふふっ、やっぱり思った通りだ」


 オレは今、処理したファングラビットの肉を調理して食べていた。

 元々このウサギどもを狙っていたため、処理の手順は予習済みである。

 そして、摂取によってステータスが微増している事を確認したのだ。


「これで、才能が無いオレでも強くなれる」


 魔物食ドーピングで得られるステータスが、各人の才能に影響されないであろう事は、オクタゴンのステータス変動から推察済みだからな。男衆は全員似たような上がり方だったんだよね。

 そうじゃなけりゃ、こんな手段取らんけども。


「この瓶の中身は……何日くらい放置すればいいかね? 二日くらい? いやいや、ファングラビットもゴブと同じで低級だから、明日でいいか」


 オレが手の中で弄んでいるのは、ファングラビットの血が入った瓶だ。

 回収に行った時、こいつは瀕死ではあったがまだ命を保っていたので、血抜きをして出てきた血液をこの瓶に詰めたって訳だな。

 オレはこれを使って、ソースを作ろうと思っている。

 どっかの旅行紀では動物の血のソースが普通に出てきたり、今でも作られてるらしいからな。漫画で読んだ。

 あのヤクザ風の執筆家が作っていたソースが気になって一度調べたから、うろ覚えだけど何とかなるだろう。


 血のソース以外にも、スープに混ぜるという方法もある。それこそ調味料みたいにな。

 効果は格段に薄まるだろうが、筋トレするよりは間違いなく上の筈だ。少なくとも、成長速度がゴミレベルのオレにとっては。

 まぁ、どちらも内包する魔力をある程度拡散させてからじゃないと、壮絶な吐き気に見舞われるんだろうけど。あれ、混ぜる方はそうでもないか?

 ともあれ、これで肉、血のソース、スープ混入と三種類の使い方で強化を図る事ができるようになった。

 ははっ、笑いが止まらねぇぜ!


 まぁ、翌日辺りにこのハイテンションも冷めて、昨日みたいな死闘を繰り返さないとロクに強くなれない事を思い出し、ため息をついた事は忘れよう。



 ◇◆◇◆◇



 あれから数ヵ月後、嫌な発見をしてしまった。

 今のオレが狩れるレベルのウサギどもは小さいから、得られる血液が少ない。肉も当然小さい。

 ステータスが上がるとは言っても、遅々とした上がり方だから無理はできない。何回か怪我をして数日狩りに出れなかったのも影響している。

 狩れる対象は少ないし、奴らの生息圏に深入りすると危険度がグンと増す。

 だからオレは血迷ったのだ。文字通り。


(あれ、ゴブリンの肉は流石に食う気にゃならんけど、以前飲んでから体に異常は無かったし、ゴブの血もソースにできたりするんでない?)


 なんて思い立ったのだ。思い立ってしまったのだ。

 それから家によく食料をたかりに来るネコたちの餌――勿論自腹だ――に、魔力が抜けたゴブリンの血をかけたり混ぜたりしてみたのだ。

 瓶詰めにして腐敗しないように保存した血を少量加えて、少しずつ増やす形を取った。

 今思い返しても、血も涙も無い鬼畜の所業だと思う。血液だけに。

 自分でやっておいてなんだが、ネコたちが死んでたらトラウマくらいにはなってたかもしれない。

 だが、あいつらは毎日遊びに来続けた。特に不調などを感じさせなかったのだ。


 だから、意を決してゴブの血液を使う事にした。

 実験には浄化の丸薬という、毒や腐敗を調べる魔道具も使った。当然ネコの時も。

 この丸薬は、毒が入った水や悪質な菌が混じった液体に入れると、泡を噴き出しながら溶けていくのだ。浄化とか命名されてる癖に、解毒効果は無いんだけど。

 しかし、これをブラッド・オブ・ゴブリンに入れてみても、ほとんど反応を示さなかったのだ。え? 言い方がウザい?


 こうして、嫌な事実が露見してしまった訳だが、強くなるために背に腹は変えられないとばかりに使っている。味については言及したくない。

 消極的に使っているから、悪影響なんて無いと信じてる。煮沸もしてるし。

 突然、ゲギャギャッ! なんて叫び出したりしたらどうしよう。語尾にゴブとか付き始めたらどうしよう。

 鬼畜生は御免ゴブ! ゴブリンのゴブリンスレイヤーなんて絶対なりたくないゴブよ! ……やめよう、色々危うい。


 この数ヵ月を通して、(物理的に)血反吐にまみれる覚悟は決まった。比喩でなく。

 今のオレの実力でも倒せる魔物、それはまだゴブリンとウサギ系の魔物だけだ。というかこいつら相手でも正攻法じゃまだ厳しい。

 だから、こいつらを一定の強さを得られるまで卑怯な手で延々と狩り続ける事になる。


 罠は試行錯誤を繰り返したので不発は減ってきたが、目覚ましいと言える程でもない。

 狩りで主に使ってるのは、爆竹みたいな音を出す小物だな。屑魔石の粉末を使っているらしい。

 安く仕入れてた時があったので買い占めた。

 メイドに、坊っちゃまがグレた! と騒がれた事は嫌な思い出だ。

 てか、坊っちゃま言うなっての。

 音を出すこいつを陰から使用して、不意討ちしたり嵌めたりする。

 これが良い感じに機能するんだよな。




 こうして自身の強化に余念無く費やす事三年程。

 オレは強くなった。うん、小学生並みの説明だな。略してこなみせっ。怪しい粉を見せる訳じゃないぞ。


 強いと言っても、そこそこなんだけどさ。

 十歳で冒険者の平均ステータスを越えてれば……強い方だよね。

筆者は格闘技経験はありません。ので、経験者の方を不愉快にさせてしまったらすみません(´・ω・`)


次回は閑話になりますが、本編次話から魔法や身体能力強化等が出てきます。微俺TUEEEっぽい展開を経て、時間を飛ばした後に主人公は最強レベルの力になりますゆえ、それまでお付き合い頂ければ嬉しいです(。・∀・)ゞ

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