君子()は危険人物に近寄らず
ライバル導入回(*つ´・∀・)つ
幼女薬師マールが住むウコロフ村は、この街エルーダが襲われる前の警報装置兼時間稼ぎで間違いはなかった。
だが、冒険者もよく利用する場所なので、有事の際は即壊滅、とはならなそうである。
そんな村に彼女が住み続けた理由だが。
赤ん坊の頃、霊山に捨てられ師匠に拾われた故郷である。それが大きいそうだ。
尚、実の両親は恐らく既に廃村となった付近の村に居たのでは、との予想だった。
危険地帯に近い村では、夫婦のどちらかが亡くなり、育てられなくなった子供を――なんてよくある話らしい。胸糞悪い話だな。
自分が村に住む限り、素材採取含め冒険者が近くに居てくれる事が多い。
村人たちにも愛着があるので、彼らを間接的に守れるなら、自分を育てた師匠も報われる筈だ。そんな事も語っていた。ホント健気だね、あの子。
当初予想していた『霊山奥地でないと取れない素材、しかも鮮度が重要な秘薬がある』というのも確かにあるそうだが。
「貴殿が、傲岸不遜のアイザック・フェイロンか?」
再び、似たような文言で誰何される。
ねぇ大事な事なの? 大事な事だから二回言ったの?
そんな意思を込めた白い目も流され、オレの言葉を黙って待つ目の前の冒険者。
ちっ、このイケメン優男め。
面倒臭そうだからスルーしてた事に気付いてほしい。
てゆうかそのまま帰ってほしい。
これだから空気読めない奴は。え、ブーメラン? なんの事かな。
「いきなり失礼な奴だな。オレ達に何か用か?」
「貴殿ら、ではない。用があるのは君一人だ」
そう言って、オレの顔でなくパーティーメンバーにまで視線を走らせる。
言葉の割にジロジロ見やがって。オレの嫁を変な目で眺めるの止めてもらえます?
「噂通り、自分の周りに綺麗どころを侍らせているようだな」
「はぁ?」
なんだこいつ。そもそも噂って、この街にはまだ一日しか滞在していないんだが。
そんなんで普通噂なんて立つか?
「さっきから色々と不躾だが、人を誰かと尋ねるなら先に自分が名乗れよ」
「何? 目上の者に先に名乗らせる気か」
社会人かお前は。
いや、冒険者は一応社会の歯車だったわ。自由気ままな存在なんて、正直大半がイメージだけだ。
金も強さもそこそこあるから、オレたちは自適にやらせてもらいますけどね。
「あんたとは初対面だろ。目上の人間かどうかなんて、分かる訳ないっての」
「貴様はCランクだろう」
なんでオレの冒険者ランクまでバレてんの?
怖っ、ストーカーかよ。
しかも最初は貴殿とか話し掛けてきたのが、もう貴様とか。
化けの皮剥がれてないか。
「……で?」
「僕はAランクだぞ」
出たー!
いるよね、こういう段位だけで威張り散らしてくる奴。
前世で武道かじってた時も、この手の輩に絡まれた事がある。
その時は凡人スペックだったからボロ負けだったな。
……思い出したら、なんかムカついてきたぜ。
ここら辺からオレの対応は、よりおざなりなものに変化していった。
ほぼ無意識で、盛大な溜め息が漏れる。
「はぁ……。冒険者ランクは、冒険者同士を目上目下と組み分けするようなもんじゃないだろうに」
「何だと。元より不快だったが、余程僕に喧嘩を売りたいようだな」
反論が気に障ったのか、奴の目尻が上がった。
奇遇だな。オレも、ただの指標をこれ見よがしに突き付けてくる輩が嫌いでね。先に喧嘩を売ってきたのは、どっちだって話だし。
「そもそも話し掛けてきたのはそっちだろ。こっちはあんたに用なんてないんだが」
「君にはなくとも、僕にはある」
駄目だ、会話にならねぇ。
沈黙が数拍流れていく。
少し落ち着いたのか、目の前の男の眉間の皺が少し浅くなっていた。
「ふっ。聞いているぞ、君の傲慢な振る舞い。この僕の留守を良い事に、好き勝手やってくれたようだな」
……ちょっと何言ってるか分かりませんね。いや、ホントに。
そんな心うちが漏れ出ていたのか、更なる言葉が飛んできた。
「とぼけるなよ。証言は各所から上がっているんだ。物証は処分したようだが」
なんだこいつ、推理物気取りかよ。
イケメン探偵とか女子ウケ極振りの王道は、現代日本辺りでやってください。
ここはファンタジーど真ん中の異世界ですよ?
口振りや態度も鼻につくが、それ以上に生理的に気に食わない。
興味が無いので観察するまで気付かなかったが、その理由が分かった。
こいつ天才タイプだ。しかも気障で調子乗るナルシスト。オレの大嫌いな人種である。
(アイズ、お知り合いですの?)
(多分、噂のAランク冒険者サマだ)
流石に蚊帳の外に置き続けてしまった皆を代表して、フランが小声で尋ねてきた。
伝えた見立ては、恐らく間違っていない筈。
頭部から見えるステータスは、反射神経などを司る。
勿論努力で伸ばせなくもないが、簡単に上がるところじゃあない。
それに反して、服の隙間から覗く手のひら――主に握力の強さを示す――のステータスは、あまり高くなかった。
見た目よりは数値が高いけれど、それこそイルネストのギルマスの方が遥かに上である。
外見に逆行せず、なよっとした輩なのだろう。
つまり、生まれ持った才能だけでAランクまで駆け上がってきた可能性が高い。
「気に食わんな」
オレはボソッと呟いた。奴には聞こえないくらいの声量で。
ただ、オレの態度だけは伝わったようだ。
相手も露骨な嫌悪感を覗かせ始める。
「強者特有のオーラを全く感じない。やはりコネと金でハリボテのランクを作り上げたのだろう。騙される女性たちが可哀想だ。僕が目を覚まさせてやらなくてはいけない……」
ブツブツと独り言が流れる。
そっちは無理だったようだけど、オレにはお前の小声もある程度聞き取れてるからな? 元狩人舐めんな。
思い込み激しい奴とは、なるべく関わらんが吉ってな。
あと、オーラ垂れ流しじゃなくてすみませんね。
こちとら凡人ってのもあるが、その手の気配を消す癖が染み付いてんだよ。暗殺者家系の天才児方面のネタじゃなくて、普通に狩人として。
いや、強い生物の気配垂れ流す狩人なんて、地球にも動物にも魔物にも居ませんよ?
「おい、お前! 貴様の剣はドラゴンから作られた、そう喧伝したと聞いたが本当か」
「喧伝した覚えはないが、嘘か真かで言えば本当だな」
オレの言葉を聞いた優男が、ピクッと額を動かす。
「では、道中で魔物の大群に襲われた村を助けたと聞いたが、それは?」
「なんでそんな事まで知ってるのか謎だが、間違ってはいないな」
まあ、やったのは大半エルミアだけど。
オレの言葉にしかし無言を貫く、なんちゃらスター君。なんて名前だったか、こいつ。
「それでは、貴様が女性に御者をさせていた馬車と馬は、どうやって手に入れた」
こいつまさか馬車強盗でも疑ってやがるのか? であれば、ここまでの態度にも少しは納得がいく。
あと、オレたちのパーティーは御者は持ち回りだぞ。
色々と意味不明だが、疑いは晴らしておかないとな。
「オレのパーティーメンバー、フランチェスカ・キャンベル子爵令嬢。彼女の実家から頂いたものだ」
「……ッ! 貴様そこまでクズだったか!!」
はいぃ!? 何故そうなる!
「さっきから本当になんなんだ。支離滅裂な言い掛かり付けやがって。温厚なオレだってたまには怒るんだぜ」
「温厚……」
「ねぇ、フランちゃん。ここ笑うところ?」
「違うと思いますわ……」
三人娘が姦しく会話をしている。
これ以上待たせたくもないし、早く切り上げたいところだ。
「成る程。自分の悪行はあくまで認める気はないようだな」
「だから、悪行とか意味不明ないちゃもんをつけるのは、いい加減にしてくれ。もう行かせて貰うぞ」
オレは後ろに視線を送った。
いいのですか? と目で聞いてくる仲間に頷きを返して、すたすたと歩き始める。
「いちゃもんだと? Aランク冒険者として清廉潔白を貫いてきたこの僕を、貴様愚弄する気か!」
「その言葉、そっくりそのまま返したいくらいなんだが……」
激昂する似非爽やかメンズに呆れた笑いを向けながら、歩みは止めない。
少しだけ距離が開いた時、怒髪天を衝いた様子の男は高らかに謳い上げた。
「よろしい、ならば僕と決闘したま――「嫌です」――え!! ……え?」
何故、この流れで嬉々として受けると思うのか。
一応過ごした年数は、アラサー越えてますからね。いくら戦闘狂だからってホイホイ受けませんよ。
※後の話で経緯含めた補足が入りますが、勘違いされています。
具体的には、実力も無いのにそこそこ高いランクになり。
美少女貴族に馬車や馬、(ホラで無ければ)伝説級の武器を貢がせ。
おっぱい美女に御者をさせ。
(一般的に魔法が得意な)エルフに杖も持たせずに付き従わせている。そんなクズ野郎だと。




