器用最貧のオレに何ができるのだろうか
陰謀でも疑いたくなる程の無理ゲー的現状を確認してから数日。
オレはふて寝したくなる衝動に必死に抗い、数々の方策を考えては実行に至る為の問題点を洗い出していた。
手っ取り早いというか、効果が比較的高いのが魔物食ドーピング。……プロテインのが近いか?
だがそれに伴う危険を鑑みれば、考えなしに動く事などできない。
道筋は見えたんだ。ただその道が荊どころか、死神の鎌が至るところに生える道ってだけで。
道すら見えなかった今までよりは大分マシだ。そう信じたい。
あとはこの道筋を踏破するだけなんだが……どうしたもんかなぁ。
誰だ全く。簡単に主人公最強になって無双ができるなんて言った奴はっ。
え、なんて? お前だろ? ごめん、よく聞こえない。あーあー、聞こえない情報は真実にあらず~。
「まぁでも……夢を叶えたきゃ、やるしかないんだよねぇ」
今のところ、これしかピースが手元に無いから仕方ない。
他にも見つかれば良いんだけど、簡単には見つからないどころか、以前散々探したもんなー。
強くなっていく過程で更なる強化方法を発見、それくらいしか予想がつかない。
例えば、魔力を使い切って超回復とかはありそうだ!
こういうのって、幼少期に少ない魔力で生活魔法とか使って増やすのが定番だよな。
ははっ、魔力の欠片も現存しないオレには取れない手法だ。
「そもそも生活魔法なんてこの世界には無いしなー」
浄化!とか言って体や部屋を綺麗にできれば楽なんだけどな~。それでも風呂は入りたいが。
魔力は、才能によって成長と共に伸びてゆく。それがこの世界の常識だ。
つまり才能が無い奴は魔力なんて大して伸びない。オレの魔力は全く伸びない。
魔力が少ないどころか微塵も無い奴らも普通にいるなんて、ファンタジー世界にしては世知辛い部類に入るだろう。
魔法の訓練をしないと魔力があっても使えないのだから、尚更面倒臭い事この上無い。
魔力が有り余っているのに、それを知らずに一生を終える人もいるのだ。その魔力寄越せっ!
魔法が使えるアドバンテージは大きいから、孤児院や貧しい家庭では成人を迎える前に確認する事は良くあるらしい。
才能が有れば人生の逆転も可能だものな。オレ? 商会経営者の息子だから、別にいらないってさ。
冷却とかできても、オレ自身が物運ぶ訳じゃないからね。零細商人とは違うのだよっ。
伸ばすには金と時間が掛かる場合も多いから、結局は面倒なのだ。
確認するのにも魔法使いの力を借りるため、冒険者ギルドにはたまにその手の依頼が舞い込む。
因みに才能が図抜けて高い所謂天才って奴らは、教わらなくても魔法が使えたりする。
果てしなく人外のような気もするが、そんな奴らがいなければ魔法が普及しているのはおかしいもんな。確かに頷ける話だ。
彼らの多くは、幼少のちょっとした切っ掛けで開花するらしい。
火傷したときに水魔法で冷やしたり、盛大に転びそうになったところで風魔法が発動したり。
歴史に名を残す人物はそういう人間が多いので、オレの愛読していた英雄譚でもこういった経歴は数多く描かれている。
中には、盗賊に襲われたときに火魔法で撃退したとか、ドラゴンのブレスを風で弾いた、なんてのもある。後者は間違いなく作り話だと思うけど。弾けねぇし弾いても物理で殺されるわ。
魔法と言えば、魔力の使用には適性がある。
例えば、火の魔法に適性がある奴は、水の魔法が苦手な事が多い。ファンタジー物には良くある話だな。
魔力を使った身体能力強化ですら、相性が良くないとできないと言う。
オクタゴンの剣士が、肉体と魔力の親和性がうんたらかんたらと長々語ってくれた。
確かに魔力があれば誰でもできるなら、魔法使いは魔力が無い奴らより身体能力が高くなってしまうよな。
魔力があまり無い、又は活用できない冒険者も決して珍しくないから、そんな奴らがお払い箱になりかねないし。
「ふ~い、こんなところかなっと」
そんな事を思い返しながら、手元の作業に一段落つける。
器用貧乏を越えて全てが貧弱、言うなれば器用最貧なオレが魔物を倒すには、危険を冒さなきゃいけない。
だが、そのリスクを減らすのが人間の知恵と言うもの。有り体に言って罠だ。
以前ゴブリンを仕留めた時は落とし穴を作って、悪友と協力した上で仕留めた。
だが、これからはそんな事できない。
悪友だって大して面白くもない魔物退治に何回も付き合ってくれないだろうし、あいつの親から家族にバラされては堪らない。怪我をされても困る。
魔物食に貪欲なのもあまり見せたくない。下手したら取り分が減るし。
何より落とし穴なんて大掛かりな罠、毎回作ってられないからな。効率が悪すぎる。
ってな訳で、オレが作っているのは携帯性のある罠だ。
それも一つや二つじゃない。勿論全てを自分で製作できる訳も無く、既製品を組み合わせたり街の鍛冶師に発注したりしている。
フェイロン商会という後ろ楯があるから、子供のオレでも何とか承ってくれた。
数ある作品の中でも、設置した罠と手持ちの道具で発動できるギミック型が作ってて楽しいな。
「うーん、色々作りすぎちゃったか。考えつく端から製作したからなぁ……」
まぁいいか、試行結果を見てから採用不採用を決めていこう。
杭やロープを利用した簡易仕掛け罠――スネアトラップ等もあるが、小動物な見た目でも相手は魔物だからな。
自力で抜け出せる奴も少なくない。デカイ個体はロープを引きちぎるし。
小物専用だけど、ゴブリンなどの他の魔物に壊される事も考慮しないといけないから数が必要だ。
掛かりさえすれば、魔物特有の生命力ですぐには死なないから、あまり小まめに見なくていいし。
追い掛けられた時の撒菱も、少数だが用意している。忍者が使うアレだな。
獣はともかく、ゴブリンには有効だろう。あいつら二足歩行で裸足だからなー。ふっふっふ。
逆説的に裸足だからこそ、普通の人間より足裏が固そうだから油断できないけど。
「ぶっちゃけロマン枠だよな~。趣味と実益を兼ねるってこういう事なんだろうか?」
手のひらで撒菱を弄くりながら呟く。
今は自室だから、前回みたいにメイドの奇襲はない。
よし、準備もできたしまだ昼前、行くか!
夜以外は家族と一緒に飯を取る事もないから、適当にパンと果物を持っていこう。
◇◆◇◆◇
「あら、アイザック君。今日はどうしたの?」
受付に立つお姉さんが、建物に入ってきたばかりのオレに話しかけてくる。
「あ、エリー姉ちゃん。ちょっと山菜採りに森の中入るから、安全かなって思って」
ここ、冒険者ギルドには魔物の異常発生などの情報が入ってないか確認しに来たのだ。
危険は事前に察知しておかないとな!
七歳も近くなってきた現在、森の浅いところまでなら、お目こぼししてもらえるようにはなった。
これも冒険者ギルドの冒険者見習い制度を利用して得た信用と、オクタゴンの口利きの成果だろう。彼らには頭が上がらないな。
「うーん、特に危なそうな情報は入ってないけど……。また一人で行くの? 浅い場所でも危険が無い訳じゃないのよ?」
「大丈夫だって、この前も無傷で帰ってきただろ? 奥までは行かないからさ!」
嘘だッ。
当然モンスターと遭遇するために中に入っていく。
雑魚しか出ないような浅さではあるが、安全な場所とはとても言えない。
「ならいいけど、無理はしないようにね。採取依頼は受けてく?」
「依頼が出てる薬草なんて、オレが行くところじゃほとんど取れないじゃないか。欲に釣られて奥に入ってっちゃいそうだから、止めとくよ」
オレがそう言うと、少しイタズラっぽい微笑を湛えながらカウンターに乗り出してきた。
「ふふっ、正解」
「ちぇっ、姉ちゃん意地悪だよな」
「テストよ、テ・ス・ト。冒険と無謀は違うからね」
仮にさっきの問いに受けていくと答えたら、潜在的なリスクが見えてないとして、お小言を食らっていただろう。
もしかしたら、しばらく森に入るなとまで言われてたかもしれない。
まぁ、本物の子供になら通じる手でも、オレの精神年齢は通算でアラサーだからな。……ん? 前世の記憶を自覚したのが五歳だから、そこまでは含まないのか? 分からんな。
成人や働き始めが日本より早いとは言え、魔物が闊歩する森付近を七歳にも満たない子供が彷徨くのだ。
彼女の老婆心は一般的なものかもしれない。聞かんけど。
因みに薬草類を採取しないのは、モンスターのテリトリーに侵入している事がバレないようにと、そんな事やっても強くはなれないからだ。
山菜? いや、取らなくても帰りにギルドに寄らなきゃいいだけだもの。門番は山菜云々は知らないし。
「ギルドマスターの座右の銘だろ? 聞き飽きたよ。じゃ、行ってくんね!」
そう言って駆け出す。
目指すは森の奥、以前罠を設置したところだ!
そこを中心に回り、新しく罠を現地製作。
その後は慎重に索敵しながら、食べられる魔物の確保に尽くす予定である。
村人Aより弱いオレでも、自分にできる事を最大限組み合わせれば、きっと何かは成せる筈だ。
そう信じなきゃやってられるか!
ようやく次話より戦いに突入。ここからは戦闘描写多めです。
魔物とモンスターはこの作品でも同じ存在を指しますが、言葉の響きや連呼しないために統一してないです。
魔物肉は良くてもモンスター肉って何か微妙な響きなので。




