情報精査の結果、事実は小説より現実(クソゲー)だった
前話のあらすじ。
獰猛な顔の幼児()
遠征から帰還した冒険者パーティー、オクタゴンに道中の魔物をどうやって倒してどのような処理をしたか、オレは根掘り葉掘り聞いた。
魔物に与えた致命傷は何が多かったかに始まり、血抜きの仕方、調理方法、どの部位を食べたか、逆に何処は食べなかったか、魔物の種類、それ以外にも沢山聞き出した。気分は取り調べを行う警察官だ。
尚、パーティーメンバーが八人いるからオクタゴン。非常に安易である。
当然異世界語なので、正確にはオクタゴンという名前ではないのだが、異世界語で八角形を意味する単語らしいからオクタゴンでいいだろう。異論は認めないっ。
一応、冒険譚に憧れる子供を装って聞いたから大きく怪しまれてはいないだろうが、大半が普通の少年が目を向けるポイントじゃない。
まぁ、将来的に冒険者になろうと考えている事は、向こうにも伝わってるからな。役立つ知識を得ようとしていると受け取ってもらえないかね?
結果として、少し不審に思われたかもしれないが、なんとか一切合切を聞き出す事ができた。
とは言っても、気にかけて行動していた訳ではないから、忘れているところも多いみたいだったけど。
「ふぅ……。得られた情報は多いな」
それこそ、この鑑定擬きが無ければ確信できなかった事実だが、魔物肉の摂取は成長に直結している。
前回の失敗との比較は実験してみないと分からないが、おそらくは鮮度と処理の仕方が要だ。
魔物の体内にある魔力が死後は拡散していく。だから殺してすぐに食べるか、又は加工しないと体に取り込む事ができない。そんな仮説を立ててみた。
当たらずとも遠からずなように思える。
同じモンスターなのに個体によって味の優劣が激しい種があるのは、多分処理の仕方やタイミングの差だな。
効果が出たオオトカゲの肉を食べたとき、オレは何かを肉から感じ取っていた。それは一種の違和感のような感覚だった。
もしかしたら、あれが残存する魔力なのかもしれない。
オクタゴンの話によると、最初は丸焼きにしたそうだ。
しかも、内臓とかも取り出さずに。
バカか!? と叫び出さなかったオレは褒められて然るべきだろう。寄生虫とか細菌とか汚物とか、危険が満載過ぎる。
怖くなったので、商人の息子としての知識と言う体で忠告しておいた。
一部のメンバーが暴走しただけで、ある程度の危険性を理解している人もちゃんといたので一応は安心しておく。
とにかく、未処理の丸焼きは食えたものじゃなかったらしい。そらそうよ。
その後仕留めた魔物は、内臓を取って丸焼きにしたそうだが、同じく食べてから急激に気持ち悪くなって吐いたとか。
まるっきり未処理よりは味もマシだったが、それでも不味かったと苦々しい顔つきで語ってくれた。
血抜きもしなかったら当然だよ、そう漏らしてしまったオレは悪くない。
吐き気の件だが、オレは魔力が肉に充満していたからだと予想している。
魔力の摂取が力の向上に繋がるという仮説は、この世界に存在する魔力による身体能力強化を根拠にしてオレが立てたものだ。
オレはまだ使えないが、肉体に直接魔力で働きかけて強化するんだとか。魔法とは別物みたいだ。
この時、当然と言えば当然なのだが、許容量を越えた魔力を肉体に行使すると体が悲鳴をあげる。とは言っても、自分の魔力なんだからそんな事は中々起きないが。
魔法使いが無理に身体能力強化をすると起こる現象なのだそうだ。
これと似た状態が、オクタゴンが食べた丸焼きによって引き起こされたのではないか。
実例を何度も聞いた上で断言するが、充満する魔力は主に血に含まれている。
美味かった例と不味かった例は色々な要因が考えられるが、気分が悪かった例は大半が血抜きが不十分と思われた時に起きているからだ。
オクタゴンは、魔物の血は食えねぇんだなーとかぼやいていたが、そんな事はない。
何故なら、血抜きをしようと肉から完全に血を無くすのは不可能だからな。
「ようは、量が問題なんだよな」
食堂で出された料理に一人舌鼓を打ちながら、思った事を呟く。
今日の夕食のメニューはポトフ。塩味が効いていて美味い。
前世の料理と味の差をそこまで感じない、数少ないメニューだ。
「お食事の量が足りませんでしたか?」
「うおっ!? い、いや、何でもないよ。こっちの話」
扉際で待機していた筈のメイドが、いつの間にか背後に立っていた。
いきなりの事態に、思わず声を上げてしまう。
気配を消して近づくのをやめろっ! というか耳良すぎだろ、この暗殺者メイドがっ!
そう言いたかったが、堪えて食事に戻る。どうせ言っても直さんし。
残ったスープを取り敢えずかっ込み、食後の紅茶を飲む。
異世界独特の茶葉から淹れられた紅茶は、無駄にフローラルな香りを撒き散らしている。
あれ? 子供に紅茶って、カフェインが悪影響を及ぼすんじゃ……まぁいっか。
落ち着いたところで思考を戻そう。
魔物肉に含まれる魔力、これらは時間経過によって空気に溶けていくのだと思われる。
だが、それ自体が高いエネルギーを持つ以上、殺した後に適切な処理をしないと肉にダメージが入り、味の低下や人体への悪影響を招く事は想像に難くない。
余談だが、初期のような無様な調理を晒しているのに、オクタゴンが何故魔物肉を遠征中食べていけたかと疑問に感じたのだが。
魔物食の先達とも言うべき冒険者と偶然出くわし、その人に魔物肉の処理の基本を学んだと語ってくれた。
もしその冒険者に出会う機会があれば、是非師匠になってもらおう。きっと馬鹿みたいに強いんだろうな。
夕食を終えて自室に戻り、計画を練る。
今まで立ち塞がってきた壁を壊す為の糸口、明確な打開策を得たのだ。それは素直に嬉しい。
だけど、実行への道は極めて困難だ。
新鮮な肉と言っても、何処までが効果が保たれるのか分からない。
オレが体感した前回は、確か倒したその日に食べた筈だ。
そうでなくても、早めに食べるに越した事はないだろう。
遅ければ遅い程、効果は薄れるのだから。多分。
つまり、オレ自身の手で魔物を仕留めなければいけない、という事だ。
新鮮な魔物肉なんて市場には出回らない。普通の魔物肉すらあまり出てこないのだから当然と言える。
以前食べたコモドオオトカゲのようなモンスターは、金になる部位が少なかった。鱗も大して硬くないし、牙も小さいからな。
何より仕留めたのが街の近くだったので、運びやすかったのである。
だからこそ、肉が売られたのだ。
本来魔物肉は、余程美味いものを除き、持ち帰る冒険者は少ない。
理由は単純。嵩張るから。
そんなものを持ち帰るなら、金になる爪や牙、鱗などの部位だけ解体して戻るべきだろう。誰でもそうする。
食用にできないモンスターも少なくない。
そもそもがゲテモノに近い扱いを受けている以上、日常的に食べている冒険者も多くない。
自分で動かず新鮮な魔物肉を食す事は絶望的と言えた。
依頼を出すには金がいるし、受けてもらえるとも限らない。
何より、魔物肉でのドーピングは劇的な効果がある訳でもない。
いや、単なる訓練などに比べれば劇的と言えるのだが、それはあくまで継続摂取を続けた時の話だ。
オレに確信を抱かせてくれた冒険者の面々が、オレに指摘されてからも魔物肉の摂取による強化が事実だと認識しなかった事が分かりやすい例だろう。
数年単位で繰り返す事で、ようやく他者との差を明確に感じられるのだと思われる。
定期的な依頼を出し続けられる金、引き受け続けてくれる冒険者。そんな金無いしそんな奴はいない。
家が商会を経営しているってのは、家が裕福ってだけだ。
オレ自身が大金を持っている訳じゃない。
「まぁ、小遣いは多いし、それとは別に貯蓄された金は割とあるんだが」
因みに、後者は使用する場合報告が必要だ。
幼少から商人としての金銭感覚を養うための金らしい。
親に冒険者になるとは言ってないし、魔物肉による強化を開けっ広げにする気は無いから、家族の許可は得られない。
ご存知の通り、オレのステータスは低い。
素質値が高いだけのポンコツ少年だ。全力でポンコツなんだ。
こんなオレが、限られた金で、仲間も得られず、基本日帰りで、継続的に、食べられる魔物を倒し、血抜きなどの解体処理をする。
肉体年齢は六歳、食べられる量も多くない。
「………………。これなんてムリゲ?」
こんなん、紛う事なき無理ゲーや! 間違いあらへん!
タイトルは、許してくれない転生無双。とかどうかな? 売れなさそうだね!
せめてクソゲーじゃない事を祈ろう。
やはり、そう簡単に強くはなれません。
高い壁が伴う無理ゲーロード。ゲロじゃないよ←
渡りきれれば君も主人公!(私は無理です)
世界観というか、主人公を取り巻く状況と足掻きの描写でここまで長くなってしまいました……。
次回で無才系主人公の初戦闘準備が終わり、森に入ります。