ミスリルアーマーはドM装備
テンポと言いつつ、今回は戦闘無しで掛け合いのみです。
まぁ、コメディ回と名付けよう。
「あれがっ、ミスリルゴーレム……放浪時代にも感じた事のない威圧感ですね。困ってしまいます」
言葉の割には余裕を感じさせる声色と仕草で、そう漏らすメルヴィナ。
正直、迫力はドラゴンには劣る。
だが竜を越える体躯が放つ異様さは、今日まで類似の存在を見た事がないため余計に際立って感じられた。
「実在したのですわね……。ゴーレム自体今日が初見ですが、まさかこんな希少鉱物のゴーレムが居るなんて」
いつものように、英雄潭に思いを馳せていそうな表情を見せるフラン。
夢見る乙女みたいで可愛いけど、もう少し地に足着いていないと些か不安だな。
「猫の体高は、大体30センチ弱。ニャイトはそれより10センチは大きいから……ふむ。ざっとニャイト五十匹以上の大きさか」
「なんでニャイトで比較したのですかっ」
迅速なツッコミが飛ぶ。
「身近なもので例えた方が、現実味あるじゃん?」
「それはーー確かに……?」
即座にピンと来なかったようだが、徐々に噛み締めたのかフワフワした空気感は薄れていった。
だが、世間知らずはこのパーティーに一人ではない。
「アイザック君、アイザック君。あれ、総重量どれくらいになるのでしょうね?」
メルヴィナ、お前もか。
普段は敬語お姉さんキャラなのに、時折無邪気さが混じるな。
冒険中も、もう少し学びの場を設けるべきか……?
尚、「誰の体重と比較する?」と悪意なく聞いたところ、見事なチベスナ顔を披露してイソイソと戦闘準備を始めた。
すまんな、いつ敵が襲い掛かってくるやも知れんダンジョンで、長く無防備で居たくはないのだ。
「この武器の稽古、帰ったらお姉さんとしましょうね、アイザック君」
因みにメルヴィナの武器はバトルメイスである。
身体能力強化無しでも鈍器を振れる、可憐な見た目に反した筋力。異世界女子って、地球人の感性で見るとちょっと怖いよね。
「いつまでもふぬけた空気でいるなよ?」
「はーい」
ほら先生に怒られた~。
「アイズ、アルドーさんからの視線が少し厳しくなっておりますわ。わたくしが言えた事じゃないけれど気を引き締めません?」
せやな。キリッ。
心なし意識して視線をゴーレムに向ける。
「……もうよい。いいか、普通ゴーレムったって、純何々製と言える程単体の金属で構成されている訳じゃねぇ。だがあれはかなりミスリルの純度が高いぞ。それでいて戦闘用に調整されていやがる」
その言葉を聞いてじっくり観察してみると、オレにも分かる違いが幾つか見受けられた。
「成る程。今までのゴーレムは巡回や運搬に向いてそうなデザインだったけど、確かに細部が洗練されている気がする」
「そういうこった」
他にも、武器を持った個体も初めて見た。
「武器もそうですけど、そもそも複数相手取る事自体未体験ですので、気を付けなくてはいけませんよ?」
鉱山内部のため、ダンジョン構造的にそこまで広い空間がない。
ゴーレム自体も群れるより単機行動が多いのか、複数で現れる事はなかった。
けれど、流石にボス戦の雰囲気漂う今は、取り巻きも複数居る。
軍勢と言うよりは小隊って感じだが、巨人の小隊が2つと数の上でも三倍近いため、十分恐ろしいが。
「でも、こちらに近付いてきませんわね」
道中で出てきたゴーレムは全て、こちらを発見したら接近して来たからな。
まさか自分の体が光を反射しているのに、侵入者に気付いていない訳でもあるまい。
「それは、あのデカブツがおるからじゃろう」
「あぁ、あの巨体では通路に出れませんものね」
いわゆる、統率者ってやつか。
各個撃破はさせてくれない訳だ。
「無生物系の魔物にも当てはまるか不明だが、あの手の指揮官タイプがいる軍勢は個々の動きがまるで変わるから、注意して掛かるべきだぜ」
オレの言葉に反応したメルヴィナが、メイスを持ちながら隣でゴーレム小隊を見据える。
あまり広くない通路だが、警戒はもう微塵も怠っていないようだ。
でも、その持ち方だと胸が目茶苦茶強調されるから、もう少し自重しよう? 童貞を殺す気?
「あらあら、怖いですね。でも、作戦を立ててから臨めるのは有り難いですよ」
それはその通りだと思う。
奴等は末端に至るまで、陣形を崩さずに地を踏みしめている。
ただ、作戦より未来の計画を建てたいお年頃なオレは、別の事を話題に挙げた。
「あんだけあったら、武器だけと言わず色々作れるんじゃないか? ミスリルアーマーとか憧れるなぁ!」
「アイズ。気持ちは分かりますけれど、それは捕らぬワイバーンの皮膜算用ですわ」
ワイバーンの皮膜は色々な事に使えるらしく、この大陸一帯ではかなり需要がある。
しかし、実際に倒すと破れている事も多い部位なので、この様な冒険者から産まれた諺があるようだ。
だが、回復術士が加入した以上、最早オレに枷は無い。
強いて言うなら武器が心配だが、後で体が治せるのなら、ぶっちゃけ素手でも勝てると思う。
「いやいや待て。ミスリルで鎧など作る訳なかろう」
突如、現役鍛冶師から待ったの声が掛かった。
「かなりの量が必要なのは分かるけど、でもやっぱ憧れるじゃん?」
「お前はバカか?」
辛辣ぅ!
だが、前世のファンタジー脳だけで会話していたオレは、続く説明を脳が理解した時、冷や水を掛けられたように冷静になった。
「ミスリルなんて魔法伝導率や親和性が高い代物で鎧なんぞ作ったら、魔法が不倶戴天の弱点になってしまうじゃろうが」
「な、なんだってぇーー!!??」
ミスリルアーマーって言ったら、普通魔法耐性めちゃ強い防具なのでは?!
目の前のゴーレム含め、ミスリルってオレが異世界語を勝手に訳してるだけだけどさ!
「魔法による壊れにくさは、確かにあるじゃろう。じゃが、例えばお前さんの魔法、雷とやらが貫通したり熱がそのまま伝わるぞ? 伝導率が高いからの。ミスリルそのものが幾ら魔法に強くとも、それでは意味があるまい」
光魔法や闇魔法にも少ないながらある攻撃魔法まで、ミスリルアーマーは素通りさせてしまう危険性が予想されるらしい。
それなんて自滅ゲー?
魔法や魔力と親和性が高く、前世で数多見たフィクションでもこの世界でも、魔法剣には向く素材ミスリル。
確かにそんな素材が魔法抵抗高い防具になるって言われるとおかしいよね! ごもっともだよこんちきしょう!!
「では、あのゴーレムも魔法に弱いのですか? それなら楽勝ではなくて?」
久しぶりの失意体前屈を見せるオレを他所に、フランがそんな事を聞く。
その予想は理に適っているな。
もしそうなら、オレの最大魔力でもって消し飛ばしてやろう。八つ当たりだ!
「いや、恐らく対策済みじゃろう。魔法が通りやすいと言ったが、比率や純度を変えればその通り道は誘導できる。あのプリズム状に乱反射する表面と濃さの違う内部を見るに、魔法が着弾しても拡散するように構成されているようじゃ」
表面からだと、魔石がある中心部分には魔法が届かないらしい。
「そ、それを鎧にも応用すれば!」
パッと見ただけでここまで見破れる熟練の鍛冶職人が、そんな事思い付かない筈がない。
そう考えながらも、オレは僅かな望みを掛けて言葉を放った。
「そうじゃな」
希望が生まれた!? 難しいってだけなら全力で協力してやるぜ!
そう思った瞬間、おっさんの加齢臭漂う口から絶望の言葉が続く。
「と、言ってやりたいところだが」
オレをこれ以上絶望に叩き込むのはヤメロぉ!
拙者、上げて落とす語り口、絶許侍なるぞ。
「衝撃は勿論、拡散させても多少の熱は伝わる。そもそも、あの構造を再現するには人間では小さすぎる。痛みを感じず、分厚い装甲を纏えるゴーレムだからこその形態じゃて」
またしても嫌なところで現実が襲ってくるぜ。
そこはファンタジーだからで良いじゃんか異世界。
鎧の薄さとか重さとか、色々凄いだろ。え、それはフィクションの異世界の中だけ? ふぁっく!
「まぁ、総ミスリルじゃなく鎧の部分部分にアクセントとして付けるなら、色々出来そうな気もするがの」
「もうそれでいいや。いえ、お願いします」
さて、少しテンションも下がったが。
作戦会議も終わった事だし、早くボス戦に突入してこのやるせなさを解消しよう。
「よし、気を取り直して討ち入りじゃコラァー!」
メルヴィナの内心「うふふ。若いと喜怒哀楽が激しいのねぇ。――あら、いつの間に作戦会議したかしら……」
最近ブクマ数がまた伸びてきました! ありがとうございますっ。
この調子でランキング入って色んな人の目に揉まれてみたいですが、中々難しいですね。
もっと精進が必要……戦闘は次回です!




