楽しい楽しい対人訓練が、無双どころかイジメになった件 前編
前話のあらすじ。
このイベント、(無双狙いの異世界転生者である)オレでなきゃ見逃しちゃうね。
尚、見逃さなくとも結果は変わらず。
オレがいじけた眼差しで床と睨めっこを始めて、数秒後。
「なんじゃ、騒がしいのぉ」
ぼやきにしては、かなり大きめの声がギルド内に響く。
瞬間、冒険者や受付嬢の雰囲気が少し変わった。例えるなら、先生が入ってきた学校の教室だな。
声と共に筋骨隆々の男が、上階から降りてくる。
隣には、先程までこの階に居た受付嬢が連れ添っていた。
このピリッとした空気。
どうやら上司を呼び出してきたみたいだな。
「クウォルさん!」
「ギルマス、これは違うんですっ」
おっ、当たり。
このおっさん、多分だがハーフ――いや、クォータードワーフだな。
中々に歴戦の勇士たる雰囲気を纏っている。
「えーっと、オレたちはいきなり襲い掛かられただけなんだが?」
勝手に冤罪を盛られても困るので、先に主張をしておいた。
実際、難癖付けられただけだしな。
「と、言ってるが?」
ジロリと向けられた視線に、背筋が凍った様子の群衆冒険者たち。
モヒカン冒険者など、一部言い訳を始める輩も居た。
対するオレたちは、基本的には受付嬢の申告に間違いが無かったので、彼女らの言葉に同意するのみである。
「成る程の」
どっちが信じられたかは、お察しの通りだ。
「ワシはクウォル。此処のギルドマスターでの。迷惑を掛けたな。ただ、周りのバカ共の気持ちも、まあ分かる」
だろうなぁ。
オレの今の見た目は、装備だけ見れば駆け出し冒険者みたいなもんだ。
フランはこの街――少なくともギルド内ではかなり可愛がられていたらしい。
心配もするって話だ。
前世で例えるなら、推しのアイドルが紛争地帯に向かうようなもんだろう。
自衛隊の大隊が護衛に付きます。そんな話なら不安や心配もまだ少なくなるだろうが、見た目一般人の男女二人だけが護衛とか正気を疑うよな。
「お前さんの佇まいから察するに、中々の実力を持っていて装備は普段のものではないのだろう。だが、ワシも実力の全てが分かるわけではないし、経験のないバカ共であれば尚更だ」
「確かにそうだな」
頷きを返す。
「そこで、だ。お前さん、いっちょワシと手合わせでもせんか」
「乗った」
「お、おう……?」
食い気味で言葉を放つ。
オレの実力がどれ程なのかを、周りに示せばいい。
そういう事なのだろう。
オレとしても、盗賊頭を最後に、最近は対人戦が出来なかったからな。
この前捕まえた集団? あれは戦闘じゃなく捕縛作業。
このおっさんクラスの実力者と手を合わせられる機会なんて中々ない。
是が非でもってやつだ。
◇◆◇◆◇
お互いの準備が整う。
互いの装備は木剣だ。おっさんの物は大剣仕様だが。
さて、まさか弱いってこた無いだろうが、どこまでの実力かは不明である。
多分オレの方が強いだろうけど。判別できる箇所のステータスは、オレの圧勝だし。
うーん、どれくらいの力を出せばいいか分からん。全力出したら色々面倒そうだ。
ま、戦闘スタイルの見極めも兼ねて、最初は様子見だな。
「どうした? 掛かってこんのか?」
「おっさんこそ、動かねぇの? フランを連れてくオレの力を見極めたいんだろ?」
「だからこそ先手は譲る。そもそも、こういった手合わせじゃ格下が先に攻めるのが暗黙の了解だろうが」
「……」
オレは大人だから、じゃあ先手はあんただろ? とは言わない。
ステータス的には差が明らかなんだが、これが見えるのはオレだけだしな。正直、技術で埋まる差じゃあない。
しかし、歴戦の猛者なら相手の実力くらいパッと見で分からんもんかね? と、思ったが。
――ザク坊は強ぇのに、強者のオーラとか全くねぇよなぁ。
……昔、ある冒険者に言われた事をふと思い出した。あの中年Sランク、元気にしてっかなぁ。確か通り名は、流浪の居候だっけ?
「アイズ、やってしまうのですわ!」
もたもたしていたからか、フランの声が響いた。うげっ、なんかまたギャラリーの視線がキツくなったぞ。
ふむ、新妻が応援してくれてるし、そろそろ行きますかね。
でも、掛け声は「やーっておしまい!」の方が良かったな。
「んじゃ、お言葉に甘えて。先に言っておくがオレは――」
膝の力を抜き、体が若干前のめりになる。直後、母指球に力を込めた事で地面がへこむ。そして。
「――速ぇぞ?」
一閃。
遠間からの飛び込み面のように大きな一歩目を活かし、継ぎ足を含めて三歩で斬りつける。
急接近からの横薙ぎに虚を突かれたのか、目に動揺が広がるおっさんの顔が視界の端に見えた。
「なっ!?」
焦り気味な中年の顔が近付く。……まぁ、それでもオレの剣線に自分の武器を割り込ませてるところは流石だが。
――バグゥッウッ!
材質が木だからか、そんな衝突音が鳴る。
「は? 今何した?」
「一瞬見えなかったんだけど」
「接近して一振り。つってもあの速度なんだよ……」
「おいおい、熊みてぇな図体のギルマスが浮きやがった。威力もヤベぇぞ」
ギャラリーが騒いでんなぁ。
木の大剣が盾になったとは言え、体勢は崩れ力も入っていなかった。おっさんの体が吹っ飛ぶのは自明の理だと思うが。
「今のは挨拶代わりだ。けど、これで格下って決めつけんのは早いって分かったんじゃないか?」
前言撤回、オレは子供でした。ほ、ほら、日本基準だとまだオレ高校生だし! セーフセーフ!
「……そのようだ。だが、初撃だけで優位に立った気分になられても困るな」
言うが早いか、巨体に似合わぬ動きで迫ってきた。
距離は大して開いてなかったので、すぐに互いの間合いに入る。
「おっけ、バチバチにやり合おうぜ」
攻守交代とばかりに迫る苛烈な攻めを、敢えて剣で捌きながら丁寧に相手の呼吸をはかる。
袈裟斬り、横薙ぎ、突きをフェイントにした斬り上げ、上段から振り下ろし、剣気を飛ばして牽制してからの回転斬り。
大剣の癖に剣先がブレるくらい速い。ステータス以上に技術の賜物かこれは。
大技も隙が少ないな。素でこれとは確かに化け物くさい。
「おっさん本当に引退して久しいのかよ、嘘つきは良くないぜ!」
「ワシは生涯現役、だっ!」
息を切らす事もなく斬線が閃く。それに応えてオレの木剣が音を鳴らす。
漫画のように、剣の打ち合いを通して対話する、なんて事は無いけれど――我ながらどうかしてんな。こんなおっさんとなのに、剣の交差が紡ぐ舞踏が、流麗な即興劇に見えてきやがった。
オレもエンジンが温まってきたので、軽妙なフットワークを交えて、体毎叩き付けるように木剣を振るう。
ギアをトップ間近まで上げる頃には、手数と重撃の一歩も退かない激戦となっていた。
オレの筋力は見た目よりあるから、重い一撃を受け止めても手が止まる事もない。だからなのか、形勢は僅かずつオレに傾き始めていた。
しかし、そんな事も分からない相手ではない。傾きかけた天秤を戻すどころか、力任せに掴み倒すような攻勢に出てきた。
「ふんっ!」
轟ッ! と唸りを上げる剣撃が連続で襲い来る。振りがデカイのに次に繋げるのが上手すぎるな。
一際大きい振り下ろしを避けると同時に、反撃に出向くオレ。
「遠ッ」
だが、いつの間にか間合いを開けられていた。
――誘われたか!
詰めるために発生した僅かな時間の中、デンプシーロールから繰り出されるアッパーのような軌道を描いて、巨木がオレの腰を砕きに迫ってきた。
完全に誘導されていたようだ。しかも、距離感を誤認させられたのに何故そうなったかも分からない。
老獪で狙い澄ましたようなカウンター。オレにはそう思えた。
(あ、こりゃ不味い。威力減衰させなきゃ木剣が保たねぇわ)
後方に飛びずさりながら木剣に手を添える。剣身を縦にして眼前に突き出し、接触と同時に腕を引いた。
ガツンとした衝撃が駆け抜ける。だが、振り終わり直前に合わせて再度剣を前に出す事で、剣がたわんだ。折れないかヒヤヒヤしたが、無事衝撃を弱められたな。
「吹っ飛べゴォラァ!」
瞬間、体がサッカーボールのように宙に舞った。




