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テンプレ? そいつならオレの隣で寝てるぜ

※本編では後程描写しますが、主人公一行がドラゴンを討伐した事は、主人公とキャンベル子爵間の合意の元、隠匿されています。

 夜。


 今更だが、まだ正式に結婚していないオレとフランは、当然違う部屋で夜を越す。

 ベッドに身を沈め、 オレは自分のギルドカードを見つめていた。

 何故かって? 暇だからだよ。

 事前に着々と進められていたとは言え、流石にフィクションじゃないんだから到着即結婚! とはならない。

 オレとしては早く冒険に出たくてウズウズしてるんだけどな。


「最低限のパーティーメンバーが揃ったし、取り敢えず基礎を叩き込むべきかね」


 また、メルヴィナだが。

 実は生き死にを賭けて何年も生活してきた反動で、どうにも屋敷の仕事がしっくりきていなかったらしく、今ではやる気に溢れている。

 大好きなお嬢様を守れて、周りからも望まれ、上手くいけば自身の夢も叶う。踏ん切りが付けば、迷う理由が無かったと言っていた。

 オレとしても無理に連れていく気は微塵もなかったので、何よりである。


 そんな事情もあり、明日はまずフランとメルヴィナの登録のために冒険者ギルドへ向かう事になった。

 朝イチは混むので昼前くらいに行くと伝えたら、何故かフランが少しガッカリしてたな。

 恐らくは、冒険譚でも良く描かれるギルドの喧噪に憧れがあるのだろう。アレは、依頼の取り合いが発生する朝イチがピークだから。

 フランはギルドカードの発行が待ちきれないのか、夕食後に廊下で会った時も鼻歌を歌っていた。


「そういや、オレも最初は興奮したなぁ」


 因みに、ラノベで良くあるロストテクノロジーによる生体認証型ギルドカード……なんてものは存在しない。普通に登録して終わりである。

 その代わり、昔の英雄とかが獲得した大きな魔石を分割加工して情報の共有をしているらしい。ポケベルみたいな感じだろうな。

 カードには魔力を通して登録するため、波長がどうたらで二重登録はできない。と言っても、同じ魔石の範囲ギルド――主にこの国では街の位置によって四種類に分かれている――でなければ可能なのだが。


「けど、倒した魔物のカウントとかを自動でやってくれないのはダルいよなー」


 だからこそ、討伐証明部位は魔物の貴重な部分が選ばれるのだ。え? ゴブリンは耳じゃないか? いや、だって使えるとこ無いしね、あいつら。

 ゴブリンキングですら何の素材にもならないのだから、あのミドリムシもどきはホントに害悪でしかないな。あ、ミドリムシ様に失礼でしたわ。


 話を戻そう。

 ギルド云々以前にこの世界には、滅亡した超古代文明の遺産というロマン溢れる数々……なんて影も形もない。

 そんな話は神話にすらなく、テンプレ好きなオレは非常にショックを受けた。マヨ……じゃなくて、ロマンが足りないんだけどォォ!


 そんな世界だから、ダンジョンに眠る秘宝もある筈がない――訳でもない。

 こう聞くとダンジョンマスターとかダンジョンコアとかがあんじゃね? と思った人もいるだろう。オレもそうだった。

 しかし、この世界にはそれらも基本的にない。いや、これは確認できてないだけかもだが。

 しかし、ダンジョンに宝が眠っているのは、ままある事だ。

 何故ならば、古代文明のロストテクノロジーはなくとも、秘宝はあるからだ。


「秘宝って言っても、英雄クラスの天才が作ったワンオフ品だけどな……」


 この世界には魔法がある。だから、優れた魔法が使えれば、秘宝と言えるレベルの魔道具も作り得るのだ。

 しかし。しかしである。


「天才、それも歴史に名を残す英雄クラスの力を持つ人間は数が少ない。その中に生産系の発想力があって、実現を試みる奴がどれだけいるのかっちゅう話だよ」


 想像してみよう。

 簡単に魔物を倒せる力を持っていて、楽に稼げる上に周りから囃し立てられる人間が、わざわざ成否が分からない難事に取り掛かるだろうか?

 答えは否、とまではいかないが、そんな奴らは奇人変人の類に分類されるだろう。


 つまり秘宝とは主に、稀少な才ある変人たちが産み出したアイテムなのだ。

 数限られた秘宝。これを貴族やら好事家が集めない訳がない。

 そして他者に盗られないように、死後も自分だけのものであるようにダンジョンのようなものを作って隠すのだ。これはオレの勝手な予想だけどな。


 隠し場所が後からダンジョン化するってのもあると思う。

 秘宝クラスのアイテムは、それ自体が魔力を放っている場合もあり、淀んだ空気と迎合して魔素だか瘴気だかを産み出す。

 それを求めてモンスターが蔓延る訳。なんだろ、居心地でも良いのかね……?


 その後も益体の無い考察を続けていると、案の定睡魔がオレの意識を攫っていった。

 明日は無双できると良いなぁ。



 ◇◆◇◆◇



 明けて翌日。


 オレたちはイルネストのギルドを訪れていた。

 ランクが低いと入れない魔境とかもあるから、将来を見越してそこそこのランクにはしておきたい。


「ふふっ、ここはわたくしも時々顔を出してましたのよ。勿論依頼する側でしたが」


 普通は使用人がやる事だが、冒険者を間近で見たいというフランの希望で、護衛を付けて顔を出していたらしい。

 恐れ多くて使用人側から固辞しそうだけど、あの親御さんだからなぁ……嬉々として任せてる場面がありありと思い描ける。


「私は、初めて入りました。こう言うのもなんですが、想像していたより小綺麗ですね?」


 メルヴィナが少し申し訳なさそうに呟く。

 気持ちは分からんでもない。


「確かに、オレが見てきた幾つかのギルドと比べても清潔感があるな」


 他所のギルドは、もっと雑然としていたと思う。

 貴族のお嬢様が出入りしてたからだろうか。

 アンデルよりも規模は小さいが、凝った装飾が施された置物などにより、ギルドの雰囲気は華やかに見受けられる。


「すみません、冒険者登録をお願いしたいのですが」


 比較的空いている初心者用窓口に足を運び、手持ち無沙汰にしている受付嬢に話しかけた。

 うん、故郷の某受付嬢と比べると見目の戦力差が圧倒的だな。

 ……あれ、早速悪寒がしてきたぞ。

 ほら、女の子は最終的に内面が一番重要視されるから。内面美人だから大丈夫大丈夫。

 念仏のように内心で本心を唱えてたら、少しマシになった。アンデルの受付嬢はエスパーか?


「えーっと、三人分かしら」


 体を震わせていると、やや躊躇いがちに受付嬢が尋ねてくる。

 おっと、今回は登録と依頼の受諾だけだから、以前村で買った安物の剣しか持ってきてない。

 安物装備だけの若者じゃ、そう思うのも無理ないか。

 いや、後ろの二人だけ。そう口を開こうとした瞬間に、背後から声が掛かった。


「おいおい、ここはお前みたいなガキが活躍できるような場所じゃないぜェ?」

「駆け出しみたいな装備だしな。ハハハッ!」


 お? おお!?


「そうだぜ! お前みたいなガキが調子乗って登録した挙げ句すぐ死ぬから、俺らが身を固めらんねーんだよ!」


 なんかちょっと個人的な野次も混じってるけど、テンプレだよなこれ。

 このままオレがガツンと言い返せば、取り巻きとかが集まってくるやつ。

 実力的には開きがあるけど、一対多は魅せやすいからこれは良い無双イベント。受けない理由が見当たらないね。


「なんだよあんたら」


 分かってるけど、まずは惚けて見せる。

 いやー、アンデルでは子供の頃から見習いとして出入りしてたから、このイベント経験出来なかったんだよなー。

 初登録以外でも絡まられるとは、嬉しい限りである。


「おれァ、この街を拠点に十年近く冒険者やってるテメーの先輩だよ。後輩のテメーを可愛がってやる義務があると思ってなァ?」


 そう言って厭らしく口角を上げる、三十路くらいの男。

 まぁ十年に満たないなら、俺の方が先輩だけどな。こちとら六歳の頃から冒険者だ。見習いだったけど。

 その理論なら、このおっさんをオレが可愛がってやらなきゃいけないが、字面が嫌だ。


「へぇ、あんたらがオレ――」

「お前みたいな優男が冒険者なんて務まるかよ!」


 イラッ。言葉遮んなモヒカン。

 お前には世紀末な雑魚キャラしか務まらないだろ。

 ステータスも低いんだしヒャッハーとか叫んでろよ。


「そうそう、冒険者なんて辞めて貴族の常識でもママに頼んで教わっときなぁ!」


 は? 貴族の常識?


「この街のアイドルを危険な場所に連れてくなんて、許さない」


 アイドル? なんか雲行きがおかしいような。


「おまけに爆乳なねーちゃんまで……新婚なら二人で行け! いや、やっぱ行くな!」


 どっちだよ。

 メルヴィナを仲間に迎えた理由はそんな理由じゃないんだがな。

 しかし、メルヴィナがおまけって事は街のアイドルとやらはフランの事か。

 貴族令嬢らしからず、頻繁に街やギルドに顔を出してたそうだから、さもありなん。

 結婚云々の話が漏れてるのは、何処ぞの恋愛至上主義お義母サマの仕業に違いない。


「連れて行きたければ、私たちを倒してから行くのね!」


 脳筋発言担当が、見目麗しいお姉さんって。

 少し抵抗はあるが、罵られ続けるのも勘弁だ。ここらで挑発を一発。

 これ見よがしに大きくため息をついてから、クイクイッと上向きにした指を曲げる。


「テメっ、舐めてんじゃねェ!」

「死にたいようだなっ」

「痛い目を見なきゃ分からないの!?」


 来たな。

 囲んでた集団の半分強が、オレに向かって武器を繰り出そうとしていた。

 ……いや、いきなり半分以上来んのかよ。煽り耐性無さすぎじゃね?

 脳筋お姉さん方が混ざってるのは少しやりにくいが、まぁいいさ。

 ここから華麗な無双タイムを――


「ほぐぅっ!」

「きゃあ!」

「あべひっ!」


 ――できませんでしたー。

 あと最後に声出した奴、絶対さっきのモヒカンだろ。


 振り向くと、肩をプルプルと震わせたフランが手を前に突き出していた。

 風の魔法を複数展開し、不可視の空気弾を放ったようだ。

 しかしマイハニー。折角のテンプレ無双展開を何故奪っちゃうんですかね?


「ふ、フランチェスカ様? お、おれたちは貴女様が何処の馬の骨とも知れぬ輩と旅立つと聴いて心配で……」

「私たちのアイドルを連れゆく資格があるのか、確かめたかったのです!」

「そ、そもそもこれは、そこな男との問題であり、何故フランお嬢様が手出しを?」


 そうだ、オレもそれが聞きたい。

 そうだそうだーとか言ったらフランに睨まれそうだからやらないけど。


 彼らの困惑が混じる声と視線に、対するフランは顔を上げて一喝。


「おだまりなさいっ! 夫を理不尽に馬鹿にされて憤らなければ、妻とは名乗れませんわ!」


 あー、オレって愛されてんなー。

 それを凄く感じる。素直に嬉しい。

 嬉しい、けど……。


 愛してくれてるなら、そのまま無双させて欲しかったなー。


 その言葉を飲み込んで地面を遠い目で見つめる事くらいは、許して欲しいと思った。

ヒロインが主人公の為に怒りをあらわにして決め台詞を言う、漫画ならドンッ!と効果音が付きそうなシーン。

その横で主人公が死んだような白い目で地面を見て、黄昏れている所をイメージすると中々にシュール。


さて、フランの戦闘()でした。

次話からは本当に主人公のバトル開始です。

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