僅かばかりの光明
前回までのあらすじ。
「凡☆骨☆王。……はキミっさーげーんきーを出しーてー」
アイズ「出せるか!」
目を皿のようにして道行く人々や冒険者から、強くなる可能性を探る事数日。
どうにか事案としてお巡りさんを呼ばれたりもせず、警ら中の衛兵に見咎められる事も無かった。子供は便利だなぁ。
まぁ、この世界でお巡りさんを呼ばれたら、そいつは間違いなく異世界人だろうけど。全力で逃げるわ。
あ、今のオレはこの世界の住人であるつもりなので、地球出身の奴らは総じて異世界人です。
異世界人と言えば、やはりこの街で分かる程度の情報では、奴らの存在を示すような足跡は見つかってない。
仮に居たとしても、オレのこのなんちゃって鑑定、異世界人の判定なんてできないしな……。
それを除いても使い心地悪すぎるんだけどさ。
鑑定擬きでは名前も分からないし、パッと見れる訳でもない。
分かるのは成長限界値と現在の能力値の二つだけ。
加えて、ウィンドウが出てきてそこに表示されるとかじゃないから、遠いと見にくいし相手が歩いていると困難を極める。
部位毎に分かれてるのも、逆に使い勝手が悪いし。
それ故に、鑑定擬きを成長の足掛かりとしては使ってこなかった。
使用を決意して実行に移ってからも、割と目立つ上に相手の体つきや性別なども総合的に考慮しないとならない為、苦労は尽きない。
オレに反映できなきゃ意味が無いからな。
けど、どうやら数日に渡る苦行の成果はあったようである。
オレはふと気づいたのだ。
「あれ? 現在値ばっか見てよく確認してなかったし、執事やメイドしかじっくり見る機会がほぼ無かったから分からなかったけど……。もしかしてオレの成長限界、メチャ高いんじゃない?」
◇◆◇◆◇
突然だが、ウチの執事やメイドの潜在能力は異常だ。メイドは一部だけだけど。
普段はあまり発揮していないが、成長限界値も現在値も……紛らわしいから、響きも考慮して素質値とステータスと呼ぼう。なんかそれっぽいし!
そのどちらも高い奴が多い。
こいつら、なんでこんな戦闘力高いの? なに? 戦闘民族執事なの? 野菜なの?
仕えるメイドに、前職は暗殺者かと聞こうとしたが思い止まった。
六歳児が聞く事じゃないし、何より生命の危険を予感したからだ。
執事やメイドの戦闘能力が高いのは、この世界の一般常識なのだろうか……。執事は分かってもメイドは解せない。
まぁそんな事は置いといてだ。
彼らのおかげで、自分の素質値がかなり高い事に今更ながら気づけた。いや、おかげと言うのも変か。
凝視しないと分からないし、見てどうなるものでもなかったからスルーしていたが、強くなる為の情報を求めて街の人たちを眺めていたら、彼らの素質値が軒並み低い事が判明したのだ。
それは冒険者であっても変わらない。
一般人よりは確かに高い者が多いが、そこに隔絶とした差は無かった。
相対的にオレの素質値の高さが浮き彫りになり、オレは今、若干浮かれている。
「オレは、オレはあの影の薄い主人公とは違うんだー!」
自室で軽く叫んだ後で、恥ずかしくなった。
相当フラストレーションが溜まっていたのだろう。
だが、成長も遅い、ロクなチートも無い、すぐ成長限界を迎えるなんて状況ならどうしようもない。
今ですら手詰まり気味なのに、トドメを刺されるが如しだ。
それが一つだけとは言え、突き抜けたものを持っていたのだからテンションが上がらない筈がない。
歓喜している理由はこれだけじゃない。
普通、人の素質には偏りがある。
大抵の人は利き腕の方が成長素質が高いし、それでなくても足寄り、腕寄りなんて分かれている。
一度覗いただけなのでハッキリとは言えないが、例えば街の鍛治師の中で一番の名工とされる人物は、腕周りの素質値が高かった。当然ステータスもだ。
ステータスと技術に関連性は無いが、やはり鍛治をする上でハンマーを扱える膂力は必要不可欠なのだろう。
その中でオレの素質値は、と言うと。
「う、おっ……オレの素質値、大体全部高いじゃんか!」
という事だ。
一度親父の取り引き相手として魔法使いが来たときの経験に加え、冒険者ギルドで盗み見て気づいたのだが、魔法適性もオレは見る事ができる。
前世で丹田と呼ばれる位置が、どうやら魔法の素質を司るらしい。魔力が貯まるところみたいだ。
これすらもオレは高かった。今のステータス? そもそもフレームすら無いよ。
魔力? なにそれ美味しいの? 微塵も感じないけど?
本当に素質があるのか不思議だ。
何が原因で素質値全般が高いのかは分からない。
転生者だからなのかもしれないし、これこそが神様が与えてくれたチートなのかもしれない。……成長速度はゴミレベルだけどなっ!
この商会を作った曾祖父さんの家は代々優秀な騎士ばかりだったらしいから、もしかしたらその隔世遺伝的なものかも。いや、それにしては全素質が高すぎか?
あ、オレが大器晩成型の天才だから、とか無いかな! ……無いな。
はい、調子乗ってすんませんしたっ。
大器晩成が過ぎるし、鑑定擬きが無ければ気づけなかったからな。
というかそもそも、大器晩成って言っても最低限の戦闘能力は普通あるだろ。オレ皆無だぞ。
最低限どころかそこらの村人にも勝てないよね、こんなんじゃ。
レベルって概念がある訳でも無いから、パワーレベリングも楽じゃない世界だし。
ともかく、この高い素質値を活かして無双の下地を築いてやるぜ!
◇◆◇◆◇
少年奮闘中、少年奮闘中。
…………。
……。
◇◆◇◆◇
結論だけ言おう。素質値が高かろうと、成長できなければ何の意味も無い事を改めて実感した。
畜生! やっぱ世の中全て才能だってのかよ!
素質、つまりポテンシャルがあろうと、それを引き出せなければ、活かせなければ無いも同じ。
とあるナチュラルムービングな野球少年も、スカウトされなければ木っ端プレイヤー止まりだったろうしな。
オレの美人スカウトさんは何処ですか?
ダメだ、光明が見えた気がしたけど幻覚だったようだ。
いや、本物ではあったけどそこに辿り着くまでが暗中模索で五里霧中だった。
要するに、スタート地点までが真っ暗闇だ。
だからと言って、この程度の絶望に屈してたまるかっ。
慣れてるんだよ、こんくらいの挫折は。最早お友達って感じだよ畜生。
こんな壁ぶち破って、必ず這い上がる。
そして、あの日見た夢を叶えるんだ!!
だから、だから今日だけは……。
ちょっとふて寝してくる。
アイズ君が主人公になるための要素、成長限界がメチャ高い(ただし成長速度は凡人にも劣る)。
これにはどちらも理由がありますが、作中に出てくるのはまだまだ先かな。