その才、理不尽につき
作業用BGMを作中イメージ風に紹介コーナー?第二弾ヾ(o゜ω゜o)ノ゛
良い曲なので聴いてみてー
ーー実況パワフルプロ野球⑭OP、Shining Road(MAKIさん)
「アイズ様、立ってください! まだ、まだ終わりではありませんわ! わたくしがおります、シャルもいるのです。だから、わたくしに貴方の物語を見せて――いえ、共に書き綴りましょう!」
最近ようやく本心から愛しく感じ始めた婚約者の声が、フランの声がオレを包む。
折れた心が、バキバキに折れたまま殴ってきた気がした。
「何、を……」
何を、考えていたのだろうか。
さっき自分で言ったばかりじゃないか。オレだけでは大群全てを倒せないと。
さっき思ったばかりじゃないか。彼女は足手まといなんかじゃなく、強力な手札を持つ仲間だと。
……サシなら倒せるという啖呵は忘れた。あれはフランを落ち着かせるための虚勢だ。本音じゃない。違うったら違う。油断じゃないぞ。
間違った認識を受け入れて、まだ立ち向かうと決めた瞬間、体は勝手にフランたちの下へ走り出していた。
「守って……くれるのでしょう?」
節々にガタがきているのを耐えて彼女の元に辿り着いたオレを、そんな言葉と不敵な微笑みが出迎える。
ありがたいけど、厳しいお言葉だぜ。
だが、表情にも言葉にも込められている感情が心地好い。
「勿論だ。オレが掻き回す。後は任せるぞ、フラン」
だから俺も引用による飾り付けなどせず、心からの言葉と信頼で託した。
「夫の頼みは黙して為すのが妻というものですわ。そちらも御武運を――アイズ」
長い会議など、この場には不要だった。
不思議な一体感に満ち溢れている。
ふと、自分の心が奮い立つのが分かった。
一度目を閉じ、しっかりと前を見据える。
オレは、努力の末とは言え、自分が手にした異常な程の強さと、助けた相手で弟子という境遇から。
彼女は、物語の英雄のように何処か遠い存在として、助けられた姫のように守られるだけという目線で。
互いが互いを、正しく扱っていなかった。
それが今、初めて対等に接する事ができたように感ぜられたのだ。
「お嬢様の御身は、この命に変えましても守ってみせます」
シャルさんも、空気になるまいと口を挟む。いや、オレの勝手な想像だけど。
「行ってらっしゃいませ、アイザック様」
そんな侍従の言葉を背に受けながら、メイド喫茶? と思ったオレは悪くない筈だ。多分。
「お体に気を付けて、なんてやってられないが、最後まで保ってくれよ」
暑中見舞いのような事を考えながら走る。
挙動を確認しつつも、勢いを殺さずドラゴンに再度死合いを申し込んだ。オレと一緒に死線で踊っちまおうぜ。
体を駆け巡る魔力によって、裂傷が激しい箇所から血が吹き荒ぶ。
「オレには守るべき仲間が、いや――」
巻き起こる風を裂き、爆裂するブレスを避ける。
その乱舞の中でドラゴンと目があったオレは、ゲームでヘイトコントロールをするタンク職のように叫んだ。
「――頼るべき仲間がいるんだ!!」
言霊がオレを奮起させ、ドラゴンの気を引き付ける作業に意識が没入する。
フランは、まるで魂に刻まれていたかのように魔法を上手く操るが、その分威力を出そうとすると詠唱に時間が掛かるのだ。
魔法の強度を上げるには、魔力の循環や練り上げ等の手間が伴う。それが顕著なフランのためにも、時間と隙をオレが作る必要がある。
「グギャオゥッ! グルギュアァッウ!」
未だ死んでないオレを見たからか、更に怒り狂う天空の蜥蜴。もし仲間になるなら、ゲレゲレと名付けてやろう。
自由に動けない相手の領域に、無策で踏み込み続けたのが先程までの苦戦の理由だ。
もう、焦ってその懐に飛び込んでやったりしないぜ。こいつは、飛んでなければオレより弱いんだからな。
そうして時間を稼ぐ事、数分程だろうか。
パンッという乾いた音が耳に届いた。シャルさんからオレへの合図だ。寒いとか言うな。
「待ってたぜ。んじゃ、前菜を喰らいなっ!」
目眩ましも兼ねた雷魔法をドラゴンの眼前で発動させ、注意を引く。
「赫灼たる耀きと共に、我らが覇道を拓きて爆ぜよ! ソリッド・フレア!!」
フランの力強い言葉に同期して、固く圧縮された炎塊が唸りを上げて突き進む。
視界が遮られている中でも、流石にこの獄炎弾には脅威を感じたのか、ワンテンポ遅れて翼を動かそうとするドラゴン。でも、それ避けられたら困るんだよな。
「行かせねーよ」
延々と地を這いずり回っていたオレは、一転して高く跳躍する。その勢いのまま、回避に意識を割く相手の目に深々と片手剣を叩き込んだ。
魔法で強化した事と相まって、剣身は一撃で折れてしまう。
けれども、その甲斐あってドラゴンは叫びながら隙を晒している。
これでチェックメイトだ。実写版新世界の神のように、ドヤ顔で宣言したりはしないが。
「グルラァアァアア……!」
炎はチュドーンというどこかアニメのような音を残して、彼方へと消えていった。
竜の断末魔が辺りをつんざき、森を薙ぎ倒しながら墜ちた巨塊は地面を抉る。
ダメージが大きすぎるソレは、多少の痙攣を残して動かなくなった。
「倒し……ましたの? わたくしの魔法で?」
無理矢理で、不格好で、仲間の攻撃頼りのラストアタック。これが無双なんて言える筈もない。
それでも、オレたちの勝利だ。生き長らえたのだ。
駆け寄ってきたフランを優しく抱き止める。
「フラン! ありがとう。フランがいなかったから、どうなっていたか――」
「ふふっ、礼など不要ですわ。わたくしと貴方は、夫婦で仲間なのですから。対等に、助け合う存在ですものね」
礼を遮りながらも、頬を染めて嬉しそうに笑っているフランが愛しい。
未だ彼女の両親にも認知されてない婚約者という立場で、正確にはまだ夫婦ではないが、フランの言葉を聞いて何があっても夫婦になろうと決意する。
彼女程背中を預けられ、彼女程対等に、彼女程好きになれる女の子には、この先きっと出逢えないから。
シャルさんの咳払いにより、フランとのいちゃつきを一旦止めた。
どうやら、オレの全身がボロボロなのが目に毒らしい。確かにあちこち破れてるし、血も止まってないもんなぁ。
淡い光のような回復魔法を掛けてもらいながら、今回の戦果を眺める。
「う、わぁ……」
「これは、凄まじいですね」
「え、これ、わたくしの魔法で開いたんですの!?」
目をパチパチとさせながら、ドラゴンを指差してワタワタと慌てるフラン。可愛いなぁオイ。
ドラゴンの土手っ腹には、大きな風穴が斜めに開いている。
そこにあった筈の肉は、『燃えては』いない。灰塵にされて突き破られたのだ。風が吹く度に腹から灰がさぁーっと流れている。
「火魔法なんて嘘は止めて、もう灼滅魔法とでも命名すればいいと思うよ……」
ボソッと呟いたオレの言葉は、誰にも届かず哀しげに風に流されていく。
かの有名な爆裂魔法に類するものを、際限無く撃てるだろうその魔力。
オレが苦労して削いでいったドラゴンの硬い肉体を、一撃で消滅させてしまう馬鹿げた威力。
(天才って……理不尽だなぁ)
そう思わずにはいられない、オレなのであった。
これは、凡人でありながらも強大な力をどうにか手にした、オレことアイザック・フェイロン16歳が無双を求めつつ各地をさ迷い。
仲間を増やして次の街へ、な物語である。
アイズ「灰塵にされて突き破られたのだ(キリッ)」???「黙れ中二病」
フランのキャラコンセプトに爆裂魔法はありませんが、アイズ君に言わせた灼滅魔法と語呂的に近かったのでパロ出演←友情出演みたいに言うな。
アイズ君もね。敵が地上にいて溜めが作れればイケるんですがね。奥の手もまだ色々あるし。今回は『使え』なかったですけど。
一応補足しますが、苦戦の理由は空飛ぶ硬い敵との戦闘経験が無い事、武器の耐久値問題、フラン達を気に掛けていた等が大きかったので、これ程までに純粋な苦戦は今後かなり少ないです。
凡人系主人公なので、初見殺しには確実に嵌まるタイプなのです(苦笑)




