豆腐程じゃないけど意外とメンタル弱いんだよね、人間だもの
割り込み投稿と置換で前話投稿しました。
割り込み投稿も通知がされないそうで……( ;´・ω・`)
まだ前話を見ていない方はお気を付けください!
数瞬だけ暗転していた自我が元に戻る。
上を見上げると木々が焼け焦げ、ぷすぷすと音を立てていた。
どうやら森の木を折り続けて勢いが無くなり、何本目かの木に磔にされていたらしい。まるでどこかの救世主様だな。
「あー。……意識飛んでたわ」
手にした剣の周囲に迅る、雷を眺めながら呟く。
ほぼ無意識で魔法を発動し、注意をこちらに引き戻したようだ。
現状切れる最強のカードは、剣が金属である事から予想できたように、バチバチとオレの右手にまで牙を剥いている。
――ボッ、ボッ、ボッ
油断せずこちらの存在を認識しているドラゴンにより、遠距離から炎弾が降り注ぐ。
着弾地点は、ギャグのようにボカ~ンという爆音を響かせている。
オレにはもう範囲ブレスは撃ってくれないらしい。まぁ、防ぎやすいからね。
(雷の維持にも継続的にダメージが入るし、速攻で潰さないと先が読めないな)
数多のおもてなしを掻い潜り、再度接近を試みる。
だが、ドラゴンも先程までの戦闘から、近接は不利と悟ったようだ。
「こンのっ! 逃げんな!!」
それをも捻り潰すかのように、身体能力強化を最大まで引き上げて、雷で強化された威力を活かした圧倒的な斬線と雷線を閃かせる。
「ガァウゥゥ……ッッ」
連撃のせいなのか多少高度を落とした蜥蜴には、攻撃を避ける速度も無ければ、脅威を覚える反撃も見られない。
電気が駆け巡って筋肉を弛緩させ、オレの全力が付与された刃は容易く竜の躰を裂く。
「グルァ、グルァ……グルグゥガァアア!!」
ボロボロの竜が、突然の叫びと共に筋肉を躍動させた。
これは、身体能力強化か。
「うおっと、いきなりギアチェンジかい」
高められた魔力で練り上がるその働き掛けは、本来人と比べるべくもない膂力を更に超越させていた。
ほんの少し動くだけで凄まじい風が巻き起こり、地形をも変えると共に重くのしかかる風圧でオレの動きを制限する。
魔物が魔法を使う事はあっても、身体能力強化を使うのは珍しい。
例があるのはオーガくらいだと聞いていたのだが。
「ははっ、やるじゃねぇの!」
空中では自由に動けないオレは、敵の体を利用したり、魔法で軌道を変えたりしないと応対できない。
人の限界に近いだろう機動力と、高威力且つ竜の挙動をも鈍らせる雷魔法の付与があるから、どうにか空中戦を戦えているのだ。
吐き出される火炎が地面を舐めた。
空に留まり続けるだけでなく、急降下と急上昇も要所で行われ、それに伴う重さと速さが圧力となって辺りに更なる猛威を振るう。
土が吹き飛び木が折られ、眼前を目まぐるしく遮った。
その衝撃と翼から送られる風により、視界が上下逆さまになる事も少なくない。
「グラァ! グルキュゥァアアァァアア!!」
表現しようのない、金切り声を数十倍凶悪にしたような咆哮が飛ぶ。
まるで、巨躯が持ちうる全てのエネルギーを殺意に変換し、オレだけに向けているかのようだ。
剣で攻撃の軌道を逸らすだけでも一苦労するレベルで、人外の本領を魅せられ続ける。カッコいいじゃねぇか畜生め。
だが、オレが極めた反射神経と剣技、そして身体強化も伊達じゃない。
目の前に飛んできた木を相手に弾き、巻き起こる土砂の影から鋭い一撃を与える。
跳躍にもフェイントを混じえ、カウンターに対するカウンターもお見舞いした。これが中々に効果的だ。
「綺麗……まるで一つの絵画みたい」
どうやらワイバーンを倒し終えたらしいフランの呟きが、強化された聴覚により聞こえてくる。
しかし、極限まで集中した状態だからか、先程のように意識のリソースが割かれることはなかった。
「ギャアォォ、ギュルグラァァアアァァアアァァ!!」
「ハッハッハッハ、楽しいなオイッ! 分かるぜ蜥蜴野郎、お前もそうなんだろ?!」
この世界のドラゴンは、大空の覇者と称されるだけでなく、万物の長と言われている。
当然、好敵手になんて恵まれなかったであろう。
オレには分かる。今、このデカブツの目はギラギラと光り、狂った愉悦を灯している。
それは戦闘に、死闘に魅入られた者の輝きだ。
怒濤の猛攻が引き起こす大空の舞踏に、舞い狂う剣舞で応手する。
互いが狂い、互いが空を舞った。
そして決着の時が訪れる。
それは勿論、オレの勝利――の、筈だった。
「ト、ド、メ、だァああ!!」
一際大きい雷輪が迸り、竜の首を落とさんと直進する。
オレ自身が単一の弾丸と化して雷を引き連れていた、その進路に。
「グルァ!」
バカみたいな大きさの爪が振り下ろされた。
「なっろぉぉ!」
万全ならその障害も、僅かな拮抗の後に断絶されていただろう。
しかし、魔力と衝撃の奔流が奏でる炸裂音が響き渡る中、オレの耳にとある音が届く。
それは、パキャアンという小さな破裂音で――。
「嘘、だろ……?」
――オレの絶望だった。
雷は竜爪をボロボロに焦がしている。けれども、オレの剣もまた砕けていたのだ。
(連続の付与、しかもダメージ重視の運用、挙げ句には竜の一撃を防御……。いや、酷使しすぎだろオレ!?)
改めて考えてみれば当たり前だ。
あんな乱暴な使い方をすれば、自壊してもなんら不思議ではない。
寧ろ、最後の衝突までその身を保ってくれたのだから、称賛に値する事だろう。
言わば、剣の耐久値を考慮できなかったオレのミスだ。
ドラゴンという超常の生物が相手なのだから、多少は言い訳が立つだろうけども。
「ギャオォォオオオオ!!」
走馬灯のような高速の思考が終わりを向かえ、空中で完全に無防備になった矮小な生物をドラゴンの当て身が襲う。
これは防げない。
はためく翼と強化された竜躯が織り成す強撃でもって、オレはドガンという音を他人事のように聞きながら地に叩き付けられた。
「がっ、ぅぐ……かっは」
口から多量の血が溢れる。
身体能力強化は、決して肉体の持つ力を越えない。
魔力が大きいから素手で斬撃を受け止められる……なんて事はこの世界では不可能だ。寧ろ、大きな魔力で体を強化すれば、その分肉体が悲鳴を上げる。
魔力を纏う事で多少は威力を減衰させられるかもしれないが、肉体が持つ防御力が物理的に急上昇したりはしない。
つまり、肉体が金属のような硬さを帯びる事は、どう足掻いても人間にはありえないって訳で。
多少はタフになれるけども、あくまで肉は肉のまま。
(痛い痛い痛い痛い! 今までも怪我なんて日常茶飯だったけど、これは桁が違うって! つーか、なんでオレは生きてられてんだよ?)
今世で経験した数多の痛みの蓄積と慣れ、限界近くまで高めたステータスに加えて高いレベルの身体能力強化。これらがあってこそ、『痛い』で済んでるだけな事は理解している。それでも、痛いものは痛いのだが。
気配からしてドラゴンは、未だ土煙が晴れないために滞空を続けているようだった。
煙が晴れたら追撃がくるだろうか?
ブレスがこない以上、死んだと思われてそうだ。
(ははっ、体が勝手に震えてやがる)
それは、以前死にかけたオークの時と比べる事も烏滸がましいもので。
(……やっぱり、オレに無双なんて無理なのか?)
そんな諦念すらも浮かぶ中、それら全てを押し退ける程強い感情が、胸中に一つ。
「なんだよ、あれ。怖いなんて言葉じゃ、足りねぇよ……」
純粋な恐怖だった。
先程までの、アドレナリンが作り上げた虚勢も含むハイテンションなど、とっくに消失している。
当然だ。『死闘』は好きでも『痛み』や『死』そのものが好きなわけではないのだから。
肉体にここまでダメージを負い、武器は予備武装の片手剣のみ。
手軽さと切れ味を追求した片手剣の耐久性が低い事を鑑みれば、もうドラゴンの堅固な肉体を貫く力なんて、オレには――。
「アイズ様、立ってください! まだ、まだ終わりではありませんわ! わたくしがおります、シャルもいるのです。だから、わたくしに貴方の物語を見せて――」
一度言葉が途切れる。
やはり、人間にこの化け物がもたらす恐怖は乗り越えられないのだろう、なんて考えそうになったその時。
再び聞こえた声は、覚悟に満ちていた。
「――いえ、共に書き綴りましょう!」
どうやら愛しの婚約者様は、まだ諦めさせてくれないようだ。
アイズ「(小説家に)なっろぉぉ!」←推敲中に気付いた
余談ですが、武器への付与はそれ自体の特殊性とイメージの具体性に左右される上、武器にも微妙にダメージが入るので金属製の武器を持たないフランは使えません。近接能力低いし。
それでは次回もお楽しみに。……楽しんでくれてますかね?
次話決着!




