格というか純粋に、戦闘力の違いってやつを見せてやる
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眼前に肉薄する刃。それを完全に見切ってスウェーで避け、オレはお返しとばかりに剣を振るう。
が、相手は籠手で下から剣をかちあげるように弾いた。
下方向に力を込め、絡め取られる事を防ぎながら打撃を加えると、一足で遠間に離れていく盗賊の幹部。
……雰囲気でスウェーなんか使っちゃったけど、バレたらセルバフに怒られるな。
スリッピングアウェーとかも意味を成さないのだから、剣戟で使う技術じゃない。
「貴様があのふざけた格好をした奴らの主か」
ふざけた格好て。……うん、執事服とメイド服だもんね。言い返せないや。
「んー、まぁ、ウチの使用人たちだぁね。そんでお宅はお頭さんかな?」
練度的にも、こいつにはオレかセルバフしか敵わないだろう。
こんなのがただの幹部なら、セルバフの見立ては間違っていた事になる。
その方が無双しがいがあるけど。一瞬だけそう思ったのは内緒だ。
「貴様に贈る冥土の土産なぞ無い」
言葉と共に繰り出される三段突き。しかし、槍と短剣の二刀流ってどうなんだ?
接近しながら足捌きだけで躱すと、目の前には驚愕の表情が浮かんでいた。
――申し訳ないが、回避と接近を同時にこなすのは慣れてるんだ。どっかの無敵執事のせいでね。
少ないスペースを使ってコンパクトに斬り上げた剣が、盗賊の肩を浅く抉る。
それに対し、反抗するかのように回転して短剣を叩きつける動作を取ると同時に、奴は得物を手放して再度距離を取った。中々良いフェイントだ。
落下する短剣を足で掬い上げ、なんとなくで蹴り飛ばして奴の退避先にある木に突き刺してみる。
「うん、そうだね。死ぬのはオレじゃないもの」
忌々しいとばかりに睨み付けながら、ペッとツバを吐き捨てられた。
「……この化け物が」
心外だな。あんたも十分強いじゃないか。
目の前の男は身体能力強化の練度を含め、かなりの大物だ。およそ地方都市に巣食う盗賊のレベルじゃない。
昔からお世話になっている冒険者パーティー、オクタゴンでも勝てないだろう。1対8でも、だ。
想定する敵が違う事もあるが、個の実力が違いすぎる。
「まだ隠し玉がある癖に、演技が上手いね」
オレはやれやれとばかりに肩を竦めてみせた。
「……」
返されたのは無言。
情報を与えないようにって姿勢は感心だけど、警戒レベル上げちゃってる時点で事実と認めてないかな。
「それと、あんたらがここに本拠地を構えたのは、六年前で合ってるかい?」
問い掛けに対し、目の前の男の眉がピクッと動く。
「貴様……何者だ?」
「初歩的な推理だよ、トウゾ君。内容は秘匿するけどね」
説明が面倒臭いから。その言葉だけは飲み込むが。
トウゾ君についてはだんまりを決め込む。
(ま、簡単な話だ)
ここら一帯には、昔はオークの縄張りが広がっていたのだ。
砦が放棄された一つの要因でもある。
街道からも離れているし、オークの縄張りを抜けてもブルーウルフの生息圏だしな。
だが、ここまで来るのに狼はともかくオークに全く遭遇しなかった。
そこから導きだされる結論は、こいつらが追い出した以外は考えがたい。
バレにくい拠点の確保がしたかったのだろう。
(あの時遭遇したオークは、武装した人間を明らかに警戒していた。手負いで死にかけの子供にさえ病的な慎重さを見せていたのは、こいつら相手に敗走した苦い経験があったから。そう考えると納得がいく)
古来から生物の生息地が変わるのは、環境の変化と相場が決まっている。
食性や気候、地形の変化に加えて外来種との生存競争。
今回の場合、最後の可能性が一番高いのは、状況証拠が物語っているという訳だ。
「中々の規模を誇る大盗賊団みたいだけど……。オレに見つかったのが運の尽きだね」
強者と言っても、所詮は魔力を一切使っていないオレと互角程度である。
客観的に見て、負ける可能性はオレの油断以外では有り得ない。
ニヤッとした表情を向けると、冷静を気取っていた男の額にうっすらと青筋が浮かぶ。髪も若干うっすらだ。
あんたらには、昔のオレの借りを返さなきゃ気が済まないんだよ。たとえ半ば八つ当たりだとしてもな。
そのためにも、すぐに仕留めたりしてやらんぞ。
「ほざけ! 舐めるなよガキが!」
繰り出される各種投擲具を避け、森に張られた鉄線が乱れ飛ぶのを二本の剣で逸らす。
直接戦闘にも優れてる上、盗賊的な技術にも精通してる訳ね。
でも、明らかに直接戦闘よりは練度が低い。最近使ってなかった技術なんだろう。
本来なら、ここで切るべきカードじゃない。
(さぁーて、隠し玉はなんじゃらほい)
これは誘導だ。オレには分かる。
伊達に狩人をしてきてないし、暗殺親衛隊にしごかれてないのだ。
怒りは本物だろうけど、それで軽率な攻めをする程こいつはバカじゃない。
「まだまだァ!」
痺れを切らしたかのように距離を詰めてくるが、そんなタマじゃないのは分かってるぜ。
「あめぇぞおっさん!」
こちらも短剣を投擲し返し、それによって作られた時間で迎撃の体勢を整える。
ガキィィン! という派手な金属音を立てて交錯する、オレの片手剣と敵の短剣。まだ隠し持ってたんかい。
追撃として至近距離から横向きに振られた槍は、正直脅威にはなり得ない。だからこそ、ここに罠がある。
「ぬおっ?!」
隠し玉があると分かっていても尚、対応に苦慮する急激な変化。
それは、今まで経験した事の無い軌道から鋭さと重みを持って放たれる、斬撃と打撃のオーケストラだった。
目の前の盗賊は既に短剣を手放して、両手で長物を操っている。
「だらっ!」
武器の軌道が読めないなら、使い手本人を狙うべしとターゲットを変える。
けれども、それを予見してたかのように、ステップと変則軌道の攻撃でオレを絡め取ろうと試みる盗賊頭。
(そのパターンは予測済みっ)
防御とカウンターを狙ったその挙動に、追うと見せ掛けて退いてみる。
間合いを確保して相手を見れば、ここで倒しきりたかったのか鋭くオレを睨め付けている。
「三節棍ならぬ三節槍か……現実じゃ初めて見たわ」
前世でも漫画で少し見た程度だ。
その発想は無かったって感じで、分かってても完全には躱しきれなかった。いや、服しか裂けてないんだけどさ。
髪も薄いし、もしや漫画のキャラをリスペクトしてる転生者? とかバカな事を一瞬考える。
だって、盗賊が槍ってだけでも意外性抜群なのに、三節棍付きだよ? しかも暗器まで併用。鉄線使うとか濃すぎる。
この男、ここでオレに瞬殺される運命じゃなきゃ、存分にキャラ立ちしてたかもしれん。
「でも、まぁ……。見えなきゃどうにもできないだろ?」
刹那の間に、敵の眼前からオレの姿が掻き消える。
「? なっ!? ぐうぅ!! がぁっ!」
先程まで行っていなかった身体能力強化を全開まで発動し、木を利用した立体的な高速機動で乱打を繰り返す。
腹筋ヒロインや潔癖兵長もかくやとばかりの速度を用いて蹂躙し続けていると、決死のカウンターを狙っているのか、体を縮こませて筋肉が収縮している様子が目に入った。
でもそれ、このレベルの戦いだと結構無意味だぞ。
「むんっ! ……何?!」
気合一閃と振るわれた一撃は空を掠めた。
奴はオレの放った鋭い殺気に向けて、全力のカウンターを撃ってしまったのだ。
「わりぃな。あんたの動き、透けて見えてんだ」
気分は氷の眼力を持った王様である。
セルバフとの訓練によって拡がった視野は、高速戦闘の最中であろうと僅かな予兆も逃さない。
空振りをして唖然としている盗賊頭の顔から、鼻水が垂れてるのもな。
「おいおい、何て面してんだよ。さっきまでとのギャップで、最高にカッコ悪りぃぜ」
「ほざ……っ!」
剣閃が言葉を遮る。
「んじゃま、これで大人しくしてくれな」
左足を斬り飛ばし、返す刃を引っ込めて柄の部分で後頭部をトンッと叩く。が、何も起きない。
……あれ? 痛がるだけで気を失わないぞ。
面倒なので、顎を蹴り飛ばして物理的に沈黙させた。鬼畜と言うなかれ。敵は盗賊、死ななきゃよろしい。
「さって、頭は潰したしオレも残りを――」
「お疲れ様でございます。こちらも丁度終わらせたところです」
……終わっちゃったよ。
セルバフが数人のメイドを連れて、オレの元まで戻ってきた。
「あれ? 残りは?」
使用人軍団は半分程度が見えない。まさか全員やられたって事も無さそうだが。
「今現在は捕らえた盗賊を地下牢に移し、アンデルの衛兵を待つと共に、他の拠点や団員がいないか尋問を行っております」
まぁ、他に仲間がいたら報復とか面倒だしな。
「そか。あくまでここは敵の拠点なんだから、地下牢とはいえ罠や仕掛けに注意してやらせろよ?」
セルバフが理解してないとは思えないけど、主らしく一応の指示はしておく。
「そちらも手抜かりなく」
それじゃあ帰りますか。そう思いながら撤収準備を進めていると、一人のメイドがこちらに駆けてきた。
「執事長!」
「どうしました? 焦らなくていいので、落ち着いて報告を」
そんなセルバフの婉曲な注意も意に介さず、彼女は叫ぶ。
「街が、街が危険です!」
メイドの言葉は、この一連の騒動がまだ終結してない事を如実に物語っていた。
ブルーウルフも間接的にこいつらに押し出された形です。生息域広い設定だから、当時に影響があったかは謎ですが。
書いてる途中にあの坊主を思い出しました。意図して無かったんですが。最後の方、あいつ出番あったっけ……。




