最初で最後の無双劇 後編
前話のあらすじ。
「チャリで来た(プリクラ)」
アイズ「嘘つくな、嘘!」
「ははっ」
迫る敵を見て、思わず笑みがこぼれる。
(結構な強さを誇る敵との連続戦闘。それも膨大な数だなんて、正にオレのための舞台じゃないか)
人が死んでいる以上、些か不謹慎だがオレはそう感じていた。
元々、当初の予定より大分早く家を出たのだ。親父の名馬を借りれる事にテンションが上がった、ゲイルにぃの主張でな。
だから、もっと早く家を出ていれば、なんて葛藤も薄い。
第一、ここはアンデルからY字路に近い形で分かれる街道の片方だ。
本来オレたちは逆の道を進む予定だったので、タイミングが合わなければ通り過ぎてしまっていただろう。
(まっ、そんな事はどうでもいいや。今やるべき事は、敵を倒す事だ)
敵の数が多い以上、費用対効果の問題でライトニングボルト連発は旨味が無い。
発動から炸裂するまでにタイムラグがあるから、狙い撃ちが難しいってのもある。
「なら、火魔法しかないか。身体能力強化、二重付与」
基本的には両手で扱っているオレの愛剣だが、片手でも扱える程度の重さだ。前世のバスタードソードに近い。
だが、西洋剣がどれも切れない剣だと思ったら大間違いだぜ。ロンクソードと違って肉厚じゃないから切れ味は鋭いのだ。
そして筋力が強化された今なら、刃渡りの短めな剣を用いて双剣士として戦う事ができる。
(普通の双剣士ならともかく、オレにはリーチを伸ばせる魔法剣がある)
こうでもしないと、殲滅速度の問題で後ろの馬車に魔物が到達しかねない。
一応、ゲイルにぃが持参した魔物避けの粉末を撒いてあるから、馬車に蜂と熊が群がる可能性は薄いけど。
この粉は、弱い魔物や虫系の魔物に強く効果を発揮する。だがその反面、強い魔物や亜人タイプの魔物には影響力に乏しいのだ。
リザードマンには効かないだろうし、ナイトグリズリーにも効果は薄めな筈だからな。楽観はできない。
「グルァアァァ!!」
「一番手は熊公か、よッ!」
涎を撒き散らしながら迫るナイトグリズリーに対して、オレは高速で距離を詰めつつ後ろ足を撥ね飛ばす。
「グゴォッ!?」
足が切断されて、地面を削りながら倒れていく熊たち。
奴らは前足を切っても動けなくもないが、後ろ足ならロクに身動きが取れなくなる。
乱戦に発展するここからが本番だ。
「グゥワアァァ!」
「グガッグワッ!」
逆巻く炎で足留めし、閃く剣線が四肢を断ち切る。
目にも止まらぬ速度で撹乱。その中で蹴りを何度か放ち、熊やリザードマンを吹き飛ばして轟音を響かせ続けた。
時折伸びる炎のチャクラムは、飛び交う蜂を焼いて注意をオレに引き付ける。
「グワゥッ!」
オレに突き出される鋼。
それを避けながら一振りで武器を巻き上げ、返す刃で命を絶つ。
「グゲェイッ!」
隙を見つけたとばかりに繰り出され続ける、リザードマンの刀剣。
他の二種もオレという脅威を先に取り除くべきと判断したのか、蜥蜴集団と共闘しているように見える。
「閃雷光ッ!」
迸る白い雷が、リザードマンのぬめった表皮を叩く。連鎖した光は、ラインを繋ぐように結ばれていった。
「ふっ! らぁ!」
感電し、動きを止めた奴から撫で斬りだ。
「ヴェェ!」
「叫んで戦況が変わればっ、苦労しないん、だよッ!」
雄叫びを上げながら迫る敵を、下がりながら投剣で仕留める。
「ヴヴゥゥェェェェイ!」
素早く回収した剣を抜くと同時に、その勢いを利用して背後から飛び蹴りを仕掛けてきた蜥蜴を両断する。
「お前は何処ぞのヘラクレスライダーかっ!」
敵が良い具合に固まり始めたので、オレはトドメとばかりに大技の準備に入った。
「追加付与、追加付与、追加付与」
剣の許容限界を見定めて、ギリギリまで炎熱を溜め込む。
短い方の片手剣は、既に足元に突き刺してある。
「ブゥーーン」
「グマッグガァッ!」
「ギュワッグワッ」
蜂、熊、蜥蜴のカーニバルだ。
さてここで問題。彼らの共通点はなんでしょう。
……そう、地球では割と一般的に食用とされていたのだ。
焼けば食えるなら、火で熱しないとね。
「紅蓮炎獄剣!」
中二病紛いの技名を叫ぶ。大技に名前は、ロマンを越して義務なのだよ。魔法と違って意味は皆無……いや、オレのテンションが上がるから意味はあるな。よし、理論武装完了。
「どりゃあああ!!」
剣身が、火を纏うどころか炎によりそのリーチを伸ばした。
刃の周囲を蛇のような火焔がうねり、オレ自身も炎に包まれるようにして包囲陣に突撃する。
――ジュギュアアァァッッ!!
横凪ぎに振るわれた愛剣から弾かれるように解放された炎熱が、荒れ狂いながら付近全てを真っ赤に染める。
もはや地面は融解し、敵は纏めて消し炭になり、燃え盛る残り火が辺りを煌々と照らしていた。
「これじゃ食べれないな。まっ、分かってたけど」
少しおどけてから、火の付与を解いていく。
踊る火の中に佇んでいるため、暑い事この上無い。が、外に出て一気に冷やしても剣の寿命が縮むからな。
火の中と言っても、半径数メートルは空気が食われたかのように消火されているため耐えられる。息止めとこ。
「紅蓮の貴公子……」
馬車の中の美少女がポツリと呟いた言葉を、強化した聴覚が辛うじて捉えた。
(あの子も英雄譚とか読むのかな?)
紅蓮の貴公子とは、オレが昔愛読していた英雄譚に出てくる人物の二つ名だ。
主人公でなくライバルキャラなのだが、オレのお気に入りの登場人物だったりする。彼を知っているとは、彼女もお目が高いね。
「ふぅ、怪我はなかったか?」
熱気を払ってから馬車まで戻り、最後まで良い格好を見せようと言わんばかりの態度を取る。
「はい……わたくしには微々たる負傷もございませんわ。あ、あの……」
「ん? 何かな」
ちょっとガラじゃない気もするが、死を予感する程の軍勢に囲まれた後だ。優しく接しなきゃな。
「かっこ、よかったです……。まるで、おとぎ話に出てくる英雄様のようでしたわ」
少し頬を染めながら上目遣いで語るその表情に、不覚にもオレの方がときめいてしまった。
(くっ、チョロインじゃないんだ、そんな簡単に惚れてたまるか! オレは男だけどっ)
「まぁ、君たちだけでも助けられて良かったよ。さ、ここはまた魔物が寄ってこないとも限らない。行こうか」
「はい……。命ばかりか、心まで掬われてしまいましたわ。是非、街に着いたらお礼をさせてくださいませ」
オレは曖昧に返しながら、馬車の牽引具を掴む。
重さの原因になりそうな部分を分解して軽量化されたこの箱なら、強化された筋力を用いれば帰れるだろう。タフな経験をした馬車の車輪部分が壊れなければ、だけど。
ヒロインと言って差し支えない美少女を連れながら、故郷へと凱旋する。
それはまるで英雄譚の結びのようで、オレは晴れやかな気持ちを抱いて街道を歩き出した。
……そう。結びだ。
後に思い返せば、この出来事が俺の人生を変える事になったのだろう。
皮肉にも、原因の一端は助けた女の子にある。
けれど訪れる未来は嘆いても、助けた事に後悔は微塵も無い。
それでも、忌むべきターニングポイントはここに在ったのだ。
つまり。
今回この美少女を助けるために成した無双が、俺の英雄譚において最初で最後の主人公的な無双であったのだ――――。
人生ではなく、あくまで「英雄譚において」なのがミソです。
ふと思いましたが、モンスターのランクとか表記した方が良いのでしょうか?
基本的には、一部を除いて大体の魔物を主人公が軽く蹴散らせる強さを手に入れた形なので、木っ端モンスターには単純な強さによる遅れは取らないんですよね……。なのに載せても空しいかなって。
上位種や変異種もいますし。
ご意見あればお気軽に伝えてください(*^^*)




