表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/210

最初で最後の無双劇 前編

チュートリアル無双? はっじまっるよーヾ(o゜ω゜o)ノ゛

 魔法適性により、オレは遠距離魔法や広範囲魔法は苦手だ。

 憧れを原動力とした修練の成果と雷のイメージを強く想い描けた結果、雷魔法はその限りではない。

 それでも得意とまでは言えず、燃費も悪い方だけどね。射程すら中距離に留まるくらいだ。

 それに何より、落雷は別に広範囲への拡散ダメージが高い訳じゃないから、密集してなければ多数を纏めて倒す事はできない。魔力消費が大きい割に、一撃で二桁の敵を削れないのは面倒だな。


 つまり、付近に散開していた狼は未だ数を残している。

 馬車周辺に害を与えれば、中の人を巻き込みかねない。

 あくまで落雷で薙ぎ倒せたのは、雷を落としたところを中心とした位置にいた狼だけ。

 だから、まだまだ物理で倒していかねばならないのだ。


(だがそれが良いッ!)


 オレがしたいのは無双だからな。

 外から魔法一発ぼーんで終わっちゃっても面白くない。

 更に言えば、それだと無双より殲滅の字面が似合いそうだし。


「ちょっ、ザック、何それ!? そんな魔ほ……本当に魔法なのかすら、意味分かんないだけど! ていうか君が魔法使える事自体、僕初めて知ったんだけど!」


 ぽかーんと大口を開けていた我が兄に再起動が掛かり、辺りを見回して叫び始めた。少しうるさい。

 というか、まだ敵はいるんだから気を抜かないで欲しいよ。

 騎士学校の先生は、常駐戦陣の心構えを彼に教えなかったのだろうか? ああ美しき侍の精神。


「あれ? 言ってなかったっけ。ゲイルにぃが家を出てから覚えたから、見せた事は無かったかな」


 そう返しながら投擲を続け、端から敵を狩っていく。


「絶対そういうレベルの話じゃないよね! 何を落としたか知らないけど、街道が辺り一帯焼け焦げてるんだけど! ここ馬車が通る道なのに、思いっきり抉れてるんだけどッ!!」


 仕方ないじゃないか。斬り込むよりこっちのが早いんだから。

 それに、こうすれば馬車に群がっていた狼たちもオレに意識を向けずにはいられない。

 その分、中の人が助かる確率が上がるのだ。


「グルルルル」


 鋭い敵意を四方八方から向けられる。

 どうやら馬車を挟んで反対側にも奴らは布陣していたらしく、威嚇の雄叫びを上げて囲むように動き始めた。


(いや、端から狙ってるんだから良い的なんだけど)


 そう思いながら短剣を飛ばす。

 たまに魔法を込めてから放っているので、固まっているところは一網打尽だ。

 正面に立つ狼は距離を詰めずにいる。戦況が整うのを待っているのだろう。


「んー、例によって作業っぽくなってきましたなぁ……うん?」


 そう愚痴っていると、オレの気持ちに呼応するかのように姿を現した敵に注意を奪われる。

 それは筋骨隆々な体躯を誇り、地面を逆巻くかのように轟かせている一対の魔物だった。


「へェ、中々大物じゃん」


 その二匹の通称はブルーオーガ。

 こう聞くと、ゴブリンのような亜人型モンスターのオーガを想像する人も多いだろう。

 しかしその実態は、ブルーウルフが何段階も進化した個体の別名だ。

 まるでオーガのようなゴツい見た目だから、なんて理由でそう呼ばれている。紛らわしいから勘弁して欲しいよ。


「おっと! 流石に部下にも上位種がいるんじゃ、余裕綽々とはいかないか」


 ガッ! バキッ! ドゴ! そんな音を立てて飛来する物体を避ける。石や土の塊だ。

 先端が尖っているため、直撃したらオレでも動きを阻害される。

 彼らが脳筋たるオーガと違うのは、土魔法を使えるところだ。いつぞやのボスゴブリンよりも、威力や規模に優れているしな。使い方も上手い。


「ウオォン!!」


「危なっ!」


 先程までのように礫を射出するだけでなく、今度は地面自体を土魔法で隆起させて接近してきた。某金属兄弟が、足元に術を使って移動する感じのやつ。

 周りの雑魚狼や上位種に加えて、もう一体のブルーオーガが放ってくる爪と魔法を掻い潜りながらだったので、回避は間一髪だった。


 連携して戦う狼に、土魔法の恩恵は大きい。火と違って留まらないから、仲間を巻き込みにくいしな。

 だからこそ、進化前の個体ではオーガに大きく劣るブルーウルフが、オーガの名を冠しているのだ。


「くっ! この!」


 ちらりとゲイルにぃの方を見ると、端側のブルーウルフと交戦している最中だった。

 確かに弱くはないが、数匹に囲まれて苦戦しているようだ。

 弓矢とかで後ろから援護してくれた方が嬉しいんだけど……。騎士だから持ってないか。


「フレイムサークルッ」


 サークルと言いつつも、出現したのは半円を少し長くした程度の炎。だが、下がりつつ発動したので狼たちの猛攻を食い止める事ができた。

 時間稼ぎにしかならないけど、それで成せる事もある。


「フッ!」


 ゲイルにぃに群がる狼を、この場所から狙撃する。

 更に、そこから目的地を結ぶラインを短剣の投射によって確保し、オレは叫んだ。


「ゲイルにぃ! こいつらの相手はオレに任せてっ。その代わり、馬車の守りを頼んでいいかな!」


「成る程、それなら僕も役に立てそうだ!」


 騎士の仕事は守る事だ。

 自分から赴き道を切り開くよりも、持ち場を中心に防衛する方が向いている。それは一人であっても変わらないだろう。


「んし、じゃあオレは……全力で無双しますかっ!!」


 フレイムサークルが効果を無くし始めた段階で、オレは剣身に指をあてがって呪文を唱える。


付与(エンチャント)


 手の中の剣は勢い良く燃え上がり、(ほむら)を纏って赤々と煌めいている。

 それはまるで、灼熱の使者のようであった。

 その剣を掲げ、オレは駆け出す。赤子のような表情で。


「ハッハッハァ! いくぜ犬畜生どもぉぉぉ!!」


 踊るように駆け、閃く敵の爪や牙を躱しながら切断する。

 時折飛んでくる土魔法は、避けるか剣の腹で叩く事で対処した。

 剣の炎で溶かしても切断しても、オレを目掛けて飛んでくる以上危ないからな。


「無駄無駄無駄無駄無駄ァァッ!」


 上がるテンションが抑えきれない。

 素早い狼の連携と高い知性、今までにない数の上位種。

 巧みな魔法と圧倒的な膂力が織り成す、演舞のようなブルーオーガの攻撃。

 畳み掛けるように襲いくるそれらは、モンスター戦では久しく感じていなかった緊張感をオレに与えてくれていた。


(やっぱ、これくらいじゃないと戦いは面白くねぇよなっ! 滾るッ!)


 優勢を誇ってはいるが、別段楽勝とは言えない。

 彼らの攻めはスピードと手数に優れている。

 おまけに、ブルーオーガの一撃で動きが止まれば、飽和攻撃に曝される事だろう。


 そもそも、ここ数年の研鑽で新たに身に付けた付与(エンチャント)魔法は、オレの切り札の一つだ。

 開幕に放ったショックライトニングのような使いきりの形であれば、手頃なカードとして切る頻度は高い。

 しかし、常に剣に魔法を纏わせる使い方は、魔力消費が高いだけでなく威力過剰気味なため、使用機会は今まで少なかった。


 オレは、それ程彼らを強敵と認めているのだ。相手を見くびらず、出し惜しみしないで相対している。

 奥の手はまだ幾つかあるが、開発中のものも多い。

 通常戦闘の括りにおいて、オレは既に全力を出していた。

 ……身体能力強化(フィジカルブースト)? 知らない子ですね。


「追加付与ッ!」


 舞い裂きながら剣身に魔法を当てて、更なる力を引き出す。

 こちらのリーチを完全に把握していた二匹のブルーオーガの的確な間合いを、迸った炎の線が潰した。


「グギャゥン!?」


 首魁の片割れは下半身と泣き別れし、(つがい)であろう相手が崩れ落ちる姿を見て、もう一匹も驚愕と表せる反応を見せている。


「え、付与(エンチャント)魔法まで使えるのか……。でも、それって剣の破壊力が上がるだけじゃないの? なんで炎の線が円状に発生するの? 真っ二つどころか切り口から燃えてるんだけど?」


 ゲイルにぃが、もはや茫然自失といった様子でうわ言のように疑問を唱えている。

 会話をしている暇も少ないので、オレは兄の呻きを無視して敵に躍り掛かった。

 余裕が無いとは言わないけど、一応早く助けなきゃだしね。


「もういっ、ちょ!」


 振られた炎剣から、一筋のサークル状の炎が飛び出す。首魁の残りも脚が宙を舞い、大勢が決したのは誰の目にも明らかだった。

 余談だが、オレはこの円形の炎を出す技をサンクスと命名している。深い意味は無い。無いったら無い。


「そもそも、火魔法ってこんなに威力高かったっけ? 焼くんじゃなくて切れるってなんなのさ?」


 いい加減子供じゃないんだから、あっちも復活してくれないかな。

 いい歳してなんでなんで期かよ! とツッコミたい衝動に駆られちゃうっての。

 実兄としては正直、最高にカッコ悪い。


(まぁ、仕方ないのか?)


 オレの火魔法は、近距離だけなら火魔法特化の一流冒険者と同等以上の威力が出せる。

 だからか、付与魔法とは相性が良いんだよな。

 国軍にいるらしい一般的な魔法騎士では、そこまで魔法の威力が高くないらしい。

 剣身を火で熱して焼き切るか、土で硬度を上げて鈍器にしたり壊れにくくするのが普通だとか。

 それと比較すればこの現実は、とても成人前の子供が成し得る事柄とは思えないのだろう。


「さっきから僕、現状を理解できないか驚くかしかできてないんだけど。ねぇ、誰か助けてよ……」


 彼の悲痛な呟きを拾ってくれる存在は、残念ながらこの戦地にはいなかった。

コンビニなんて関係ないよ!(すっとぼけ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ