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引き込んで爆弾街作戦、完遂

大分お待たせしたので、文量増量中。

次回は今週中に更新。


前話までのあらすじ。

主人公(アイズ)「やっべ、万を軽く越す魔物の大軍や。今は居ないけど四天王みたいなのも裏で糸引いてるし、このままだとこの国は終わりやで……せや!」

作者「街を爆破して敵の棺にしたろ!――って、そうはならんやろ! 少なくともそれ主人公がやる所業じゃないんよ」

アイズ「知らんがな」

「なあ、あいつらバカなんじゃないか? 幾ら戦力差が大きいからって、あっさり敗走した俺たちを追撃する班と街内で陣地を築く班に別れやがったぞ」



 オレを含む殿(しんがり)が撤退の最中、一人の男がそう溢した。

 今は、辺境の街クーサンでの防衛戦の後、怪しまれない程度に演技した上で敗走しているところだ。


 敗走(それ)が作戦に組み込まれている以上、殿を担当する者たちは、精鋭中の精鋭を配備している。少しでも被害を抑えるためだな。

 だと言うのに、その精鋭の一人が漏らした台詞に呆れてしまう。


「おい、敵を舐めるな。奴らが取っている行動は極めて合理的だよ。まぁ、罠の類への警戒を除けば、だが」


 この後の策を思えば、ここで誰一人欠く訳にもいかない。

 しっかりと釘を刺しておかなくては。

 軍人と指揮力の高い将軍が居るとは言え、あくまで主力は冒険者だ。

 統率の取れた、流れるような撤退など訓練している筈もない。油断は厳禁を通り越して死活問題である。


「そうだ、ルード。行軍において、水と糧食、休憩場所は非常に重要だ。それは魔物でも変わらん。寧ろ、追手を出しているだけ奴らの知能の高さが窺える」


「むっ、そうなのか。あんたが言うなら気を付けるぜ」


 追手を飛び道具で迎え撃ちながら、外壁の上をひた走る。

 その際に見えたのは、軍事的な動きでキビキビと休憩の手配をする魔物たちの姿であった。


 川や井戸があるところで休むのは当たり前。

 固まって休憩を取るのも、雨風凌げる建物などを使うのも当たり前。

 そう。戦争の常識を知り、人間に迫る知恵を持つ生物であれば。

 奴らが行っているのは、魔物らしからぬ事だった。


「よし、川を越えた地点で壁上の通路を爆破した! これですぐに追手は来れない。だが敵の飛び道具には気を付けろよ」


 川と建物で足を止めさせる。

 街の周囲にグルっと張り巡らされた壁。その上に通じる梯子(はしご)を落としながら進んだ。

 街を縦断するデカい川に掛かる橋は、事前に全て落としている。

 奴らが追い付くには、空を飛ぶか川を渡河するかだ。


「へっ。奴ら、罠を大して疑わずに、街の中で休憩を取ってやがるみてぇだな」


「いや、最初は警戒してたぞ。散発的な抵抗をしてからの撤退で、門近くの家屋に罠が無かったから、警戒を緩めたんだろ」


 そんな会話をしながら街を脱出。

 追手が諦めたのを確信した後、街から数キロ離れた簡易陣地へと辿り着く。

 怪我人多数ながら、幸いにも死者はゼロ。その事実に人知れずホッと溜め息が漏れた。




 その夜。


 まだ人が寝静まる程ではない時間に、街の外壁を辿る数人の影が浮かぶ。

 見れば、夜の帳に隠れて街の中にも数名が駐留する魔物軍に向かっていた。

 勿論、川を隔てたところまで、だが。


「よし、それじゃあ反撃開始だ」


「ブレメンス連合国の未来が、この作戦に掛かっていると言っていい。決して躊躇うなよ!」


 配置に付いたオレたちは、将軍の号令を機に動き始める。

 各種火魔法や火矢で、敵の陣地を狙うのだ。風魔法で飛距離を伸ばせるし、割と遠くまで届きそうだ。

 勿論、敵も夜襲を警戒しているのか川向こうすぐには陣を張っていない。見回りだって居る。


 だが、街を半分に区切った事が功を奏した。

 万を越える大軍が、家屋を使って休むには、それなりの数の建物を必要とする。

 必然的に、防衛戦で戦った門の近くだけでなく、川の辺りまで部隊は押し出されている。


「各建物の中に、複数置かれた瓶。中身は油だったり、可燃性の物が仕込まれてんだろ?」


「辺境の家屋は基本、木造だしな。街一つ犠牲にする、ぶっ飛んだ策だぜ」


 うるせぇ。

 だからこそ、敵も予想できないだろうが。半端に知恵があるからな。

 これが野生の魔物なら、糧食は奪っても、敵の元テリトリーで休んだりしなかったろうに。


「でも、これだけ物資があったなら、街を犠牲にしなくても、とは思うけどな」


「それはもう、軍議で散々話したろ。諦めろ。俺たちヒラの軍人は命令に従うだけさ」


 その通り。正面から無理だから、こんな苦肉の策を取ってるんだよ。

 軍の陣形は、基本的に縦長である。

 また、一人一人の距離も取られている。槍とかもってるしな。

 そういった状況では、敵を纏めて倒す事は出来ないし、作戦への対処もされやすい。


 例えば、以前ナルヴィクが使った津波を起こす魔法。

 あれを使ったとして、横幅も奥行きも足りないため、百体くらいの魔物を蹴散らせるかどうかだ。

 相手は人間より強靭な身体を持ち、魔法や知恵を持った指揮官も居る。

 何かしらの対策を取られる事を考えれば、今この場で正面から相対するのは完全に賭けだ。


 そんな博打、やる訳にはいかない。

 せめて、こちらの戦力をもう少し整えて、補給線も構築しない限り、な。

 少数の冒険者が集まっての迎撃では、どうしたって魔力と物量に限界があるのだ。

 攻勢を掛けても、耐えきられた後に反撃されれば、簡単に捩じ伏せられてしまう。


 だから、焦土作戦だ。

 焦土の意味が違ぇわ! とかのツッコミはスルーだ。

 敵ごと街を焦土にしてやんよ!


「じゃあオレは、川への排水路を通って潜入してくるぜ」


「承知した、フェイロン殿。貴殿は殺しても死ななそうだが、一応武運を祈ろう」


 一言余計だ。(オレ)は死ぬぞ。

 あ? なら問題ありませんな、ってどういう事だオイ。


 オレことアイザック・フェイロンは、身体能力だけで言えば魔物たちに引けを取らない。

 そして、火魔法が使える。

 更に更に、ドラゴンを倒して血肉を喰らってから、何故か火の耐性がかなり付いた。

 極めつけに、魔物が居る世界で海の無い国では泳ぎなんて学べないが、オレには前世で水泳の経験がある。つまり川を渡れる。


 じゃあ、いっちょ潜入してくるわ。

 そう言ったら、頭がおかしい奴を見る目でフラン以外の皆に凝視されたのは内緒だ。



 ◇◆◇◆◇



 ――ドカーーン!!


 下水道の中にまで、景気の良い音が聴こえてくる。

 あれは多分、フランの極大魔法だな。


「始まったか。ワプルの野郎がフランをガードしてるから心配不要だが、オレもさっさと掻き回して戻らないとな」


 四盾流とか言う、海賊狩りも真っ青なホモタンクのワプル。

 フランのライバルであるメロディと、オレのライバル(笑)のナルヴィクのパーティーメンバーだ。

 盾をぶん投げて攻撃してくるイカれた奴だが、タンクとしても一流なのだ。

 ただ、奴自身は弓矢などは使えないので、川越しに火の手を加える連中の護衛に付けていた。


「ぶも、ぶもぉぉー!」


「ぎゃぎゃ、ぎゃ!」


 魔物たちが騒いでいる。

 しかし、驚いた雰囲気ではあるものの、その鳴き声は何処か指示を出したり連携を取っているようである、

 なら、更に慌ててもらおうか。


「下水と言っても、貴族の屋敷から脱出通路も延びている……腐っても元小国だな」


 隠し通路から這い上がり、スニーキングしながら川向こうからでは狙い難いところに火の手を放っていく。

 事前に設置していた可燃物により、盛大に燃え上がりつつあった。


 見れば、魔物たちもバカではなく、井戸水や魔法で消化活動に当たっていた。

 だが、今回の火は、単なる火災ではない。

 油火災に、水は危険だぜ?

 水が油を伸ばして、延焼の面積を広げるだけだからな。


 敵軍が懸命に油火災を広げてくれる間に、次の手を打つ。

 国の秘匿技術として存在した、火薬を用いた原始的な手榴弾である。

 接触信管式の炸薬ってやつだ。

 オレの火魔法は遠距離まで飛ばせないので、こいつを人間離れした膂力を用いて、敵軍の参謀が居るであろうデカい家屋に放り投げた。


 ――ちゅどーん!


 うむ、火魔法と油火災と爆発による飽和攻撃!

 正に、昔の日本での大火の原因である。

 複数箇所からの火の手が上がり、敵が持つ消火能力を上回ってしまった結果がそこにはあった。


「げぎゃ!? ぎゃっぎゃぎゃ!!」


「やっべ、見つかった。ズラかるぜ!」


 バレてしまっては仕方ないとばかりに、オレは置き土産として雷魔法を周囲に降り注いで駆け出した。

 オレに向けて矢雨が降らされた時には流石にヒヤッとしたが、そこを狙って火魔法、氷魔法、水魔法が逆に降り注ぐ。

 これは、フラン、メロディ、ナルヴィクか。ナイスアシストだぜ。


「最後にこれを喰らいやがれ、贅沢な花火だぞオラァ!」


 川に飛び込む直前、アイテム袋から竜の爪を元にした巨大なブーメランを取り出す。

 これは竜剣の製作者アルドーさんが、ミスリルとの合金にする際、比率を誤り切れ味が無くなったため、ブーメランに加工した物だ。

 切れ味が無くとも、竜素材が持つ耐久性は抜群だからな。

 雷光を棚引かせた飛来物が、縦に弧を描き飛んでいく様は、まるで流星のようであった。


付与(エンチャント)解放(リリース)、ライトニングボム」


 格好付けたが、オレの魔法制御力では距離が離れると、付与をしても勝手に保てなくなる事は秘密である。

 投げた瞬間に川へ飛び込んだオレの背後で、稲光が辺りを白く染め上げる。

 竜の爪の限界まで込められたその雷は、炸裂して盛大に火事を助長し、大きな爆発を産んだようだった。

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