転生神様、追加のチートはありますか?
「よし、オレに才能が無い事は分かった。痛感した。これでもかってくらい思い知らされた。認めよう」
だが、そんな事くらいで諦められるのか?
(前世で)夢にまで見た異世界、(前世で)なんか夢に出てきた記憶保持転生、そして夢にまで見た(鑑定擬きとは言え)特殊能力なんだぞ。勿論、特殊能力は記憶を取り戻す前から妄想済みだ。
建国とかの前世知識成り上がりがやりたい訳じゃないし、できる頭も無いからそっち方面はどうでもいい。
オレがやりたいのは無双。男なら誰もが一度は憧れる、一騎当千でカッコイイ主人公のような戦闘なんだ!
魔法もある、記憶もある、親が商会経営してるから金にも困ってない。
「理由があり、下地があって、金銭的余裕まであるなら、簡単に夢を諦めたりするもんかっ」
今までは、どちらかと言うと常識的な鍛練方法で模索してきた。
それも、すぐには効果が出なさそうなものばかりだ。筋トレとかな。
他にもチート探しが結構なウェイトを占めていたから、そっちはすっぱり諦め、諦め……あきら、め……ようっ(血涙)!
ふっ、オレは前世で様々な異世界ファンタジーを読んできた。
なればこそ、常識外の成長方法も数多く心得ておるのだっ! ……なんだこのテンション。
と、取り敢えず。試せるものから片っ端じゃー!
あ、強奪系チートは既に試し済みです。勿論無かったよ。
まずあり得そうなのは、協会でのお祈り! ……いやちげぇーよ教会だよ。農協か何かかっての。
よくよく考えればチートのおねだりとかこっちが本命じゃないっすかー。
あっ、まだ諦めきれてない。
「ま、まぁ、試すのはタダだし……」
荘厳な雰囲気を放つ立派な建物、とか言いたいけど、そこそこ大きい街にある教会とは言え、オレが今まで一度も来なかった程度の場所だ。
この世界の宗教的な問題なのか、建築技術の問題なのか、大した建物じゃない。ぶっちゃけみすぼらしい。
教会と言えばイメージカラーは白なのだが、この世界もそれは変わらないと言う。
なのに、この街にある教会の外壁は、濃い乳白色に所々茶色を混ぜたかのような色をしているのだ。
傷や汚れも目立っている。
更には内装までもが、現代日本で生活してた身からすると、ちゃっちいとしか言えない。
前世で教会に入った事があるのなんて数回だけだが、それでも比べるべくもない。
とは言え、発達した文明を誇る地球と同列に並べるのは流石に間違いかもしれない。
そう思い直し、神父様に話しかける。
「あの、お祈りに来たのですが」
「ほう、君みたいな小さな子がお祈りに来られるとは、我らが主も喜ばれるでしょう」
神父様はにっこりと微笑まれると、彼らが崇める主の説明を始める。
そして話があらかた終わると、奥にある礼拝堂にオレを招いた。
「今のうちから主に寄り添い、敬虔な大人になってくださいね。では、どうぞこちらへ」
すみません、オレ別に信徒になるつもりとか無いんです。
ち、チートとか頂ければその限りじゃないですけどね? うーん、こういうゲスな考えばっかしてるから、ちゃんとしたチートが無いのかな。
どっかのゴブリンが教会で祈ったらスキルが生えたとか、前世で読んだ気がしたから試しに来ただけなんです。ほら、ゲームや小説によっては、教会で能力値上がるやつもあった気がするし。経験値反映とか。なんて、言える訳もない。
てか、言っても理解してもらえないよね。
「それでは、片膝を地面につけて……おっと、君は体が小さいから両膝をつけた方が良いですね。手はこう組み、肘は閉じて体の脇に。視線は……」
神父様が直接祈りの捧げ方を教えてくれる。
それに習ってオレも祈りの形を整えた。
普通の人は三十分、敬虔な信徒は一時間からそれこそ半日くらい祈っているらしい。
オレは五歳児な上に初めての礼拝だからか、十分辺りを勧められた。
簡単には効果が出ないだろう事を鑑みて、一時間程祈る事を伝えたが。
それ以上? 流石に集中力とか色々大変だから……ほら、オレ五歳児だし?
時間と言えば、この世界の時間の数え方は独特だった。
単位が違うのは今更だが、体感で100秒程が異世界換算での1分に当たる。単位はディルだ。つまり、36ディルで1時間。分かり辛っ!
そして100ディルで1時間と似た括りであるシィルになり、10シィルで1日になる。
簡単に言えば、1日は約28時間。
そして1日を十分割したのが1シィルで、地球換算では2時間45分程だ。
地球とは自転周期が違うらしく、1日毎に大きなズレが生じていない事は確認済みである。
大きな街には必ずある、時刻を知らせる鐘の音は半シィル毎に鳴らされる。
計算し直すの大変だから正直やめて欲しい。
何より問題なのは、これはオレが暮らす国だけの時間換算と言う事だ。
他の国に行けば同じ数え方の国もあるが、違う数え方の国の方が多い。
そもそも時間なんてテキトー、という国も少なくないらしい。
父親に聞いたら嬉々として教えてくれたのだが、些か面倒だった。
時間だけは基本的に世界共通な現代日本で前世を過ごしたオレからすれば、ハッキリ言ってややこしい事この上無いけども、まず腕時計とか無いしな、この世界。
細かい時間で判断する機会も特に訪れないだろう。
オレの中ではこれからも地球換算の時間で数えるつもりだから支障はきたさないし。
因みに1年は300日で、地球換算だと350日弱くらいの時間で1年が経過する。
1月は全て25日だ。そこは30日で良くね?とも思ったが、それだとクリスマスが消えるから良しとしよう。……クリスマスの文化なんて勿論無いけどな。
前世と違って月毎に日数が変化しないのだけは、分かりやすくて良いね。カレンダーとか一家庭には無いから、数えるのは結局ダルいけども。
ウチは商会だから捲るタイプじゃないカレンダーは有るけど、いずれ旅に出るオレには関係無い。
おっと、煩悩は消して祈りに集中せねば。
スキル生えろ~、能力値上がれ~、経験値反映ぃ~……煩悩まみれじゃねぇか!
セルフツッコミも邪な考えも脇に置き、今度こそ真摯に祈る。
そして、気がつけば一時間どころか二時間近くも祈ってしまった。
無心ってこういう事なのかって、少し分かったような気がするのはさておき。
神父様も驚く程祈っていた結果は。
…………ダメでした。
まぁ、そうだよねー。
第一祈って強くなるんだったらここまで廃れてないし、周知されてる筈だもんねー。
成長限界も現在値も、1ドットすら動いてないな。
祈る前に確認したから分かる。……そういう所だろうか。
参拝時に贈られる転生者特典とか無いよね。うん、知ってた。
祈り始めたら神様と意識通じるとかあるかも、なんて考えたけど、その場合って転生した時に神様と会ってるのがほとんどだもんな。
ファンタジー世界では往々にして、神の加護とか神が定めし契約とか神の力の一部を扱う聖職者とかがいたりするけど。
どうやらこの世界ではそういった類いの話は無いらしい。
信者の眉唾な話はあるみたいだが、一般的に認められてはいない。
精々、教会で貢献しやすいように回復魔法などを使える人間を勧誘したり育てたりするくらいのようだ。
教会所属だから回復魔法が使えるとかではないのね。
オレは学んだ。
この世界に神などいない。
多分。