表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/210

オレのオレによるオレのための食事情改善① スパイス求めて三千里(部下の商人が)

ゴブソース発見前(10歳前)辺りの話です。

「……不味いッ」


 オレは掴んでいたフォークをポロッと落としながらため息をついた。

 額に手を当て、露骨に気落ちしている事を示す。まぁ、周りには誰もいないんだけど。


 魔物食を繰り返す事で、ステータスが上昇している事は間違いない。

 だが、本格的に狩りを始めてからそれ程経過していない事もあり、オレが食肉用に仕留められるのは未だラビット系の魔物だけだった。

 それだって楽な訳じゃない。ウサギの集団に追い掛けられて命からがら切り抜ける子供なんて、前世や今世通して見てもオレくらいだろうな。

 そんな感じで必死になって得た肉なのだが……。


「はぁ、ラノベではウサギの肉はかなり美味いって聞いていたんだけどなぁ。この世界のウサギ肉は、ぜんっぜん、そんな事無いよね……」


 オレは哀愁が漂いかねない語調でぼやいた。

 完全草食のホーンラビットは確かに中々イケるのだが、雑食な上に肉食寄りなファングラビットはかなり微妙だ。

 クロウラビットはまだマシだけれど、結局は奴も雑食だからな。

 草じゃなく樹皮をバリバリと食べてた時はドン引きした。あれって大した栄養無いよな? だから美味くないのか?

 発達した爪は獲物を獲るためじゃなく、木をバラして食うためだったのだろうか。謎は尽きない。


 とにかく、小さいウサギはホーンラビット以外食えたものじゃない。デカい程味が良くなるらしいのだが、まだそんな個体は無理だ。分布も更に森の奥になるし。

 ――なら、ホーンラビットだけを狩ればいいじゃないか。そんな声が聞こえてきた気がする。

 だが、奴らは数がそんなに多くないのか、あまり出会えないのだ。

 更に言えば、ホーンラビットは完全な草食。故に他の二種と違って、積極的には他の生き物に攻撃を仕掛けてこない。

 無論、無遠慮に近づいた場合や自分に危害が加わる時は別だ。好戦的な個体もいるしな。


 結局としては、あまり美味くないウサギ肉をどうにかして食べられるレベルに引き上げなければならない。でなきゃオレの心が折れる。

 幾ら無双への憧れと渇望があっても、数年単位で不味い肉しか食えないのでは、どうしても挫折する姿を幻視してしまう。

 ジビエ専門の狩人の力も借り、なんとか食えなくもないメニューは生み出したが、毎食だと流石に飽きる。精神が病む寸前まで追い詰められた事もあったな。


「か、カレーだ。カレーならこの肉でも誤魔化せる。偉大なるスパイス様の力でどうにかできる筈だ!!」


 そう断じたオレは、丁度この前の狩りで右腕と肋骨にヒビが入っていたので、市場を見に出掛けた。動くと痛いけどまぁなんとかなる。だから折れてはいない……筈だ。

 オレは強くなったら冒険者として世界を回り、無双の機会を探すつもりである。

 その時、道中でくそ不味い携帯食料なんて食ってられないので、技術の向上や調味料の確保などは必須命題と言える。

 だから、断じて無駄足でも寄り道でもないのだっ!

 調味料や食材の持ち運びの当ては、もう目星が立っているからな。そのためにも金を稼がねば。


 尚、スパイスこそが今までの異世界道中でも屈指の鬼門だと言う事に、この時のオレはまだ気づけないでいた。




「わ、忘れてた……」


 オレは今、市場の端でローマ字三文字で表せるあのポーズ(orz)を披露している。レッツ異文化交流。

 前にも触れたが、オレには異世界言語理解なるスキルも無ければ、日本語に変換されるような魔法も無い。

 五歳まで生きた知識とその後の勉強で、異世界語を必死に身に付けただけなのだ。今思い出してもげんなりする。

 時間や長さ、重さなどはあくまでオレの頭の中で変換しているに過ぎない。


 速いや重いなどの表現は簡単に覚えられた。

 じゃあ、固有名称は?

 変換機能に類する何かがあれば、地球にあるものじゃなくても割と聞ける名称になるのかもしれない。

 だが、玉葱に似た野菜が、ベヌクエスタとか言うんだぜ。

 じゃあ、ネギはクエスタ? とか思うだろ。ディロニアルドだって。

 規則性とかまるで無いのよ。第一、何でネギの方が名前長いんだよ!

 もっと異世界人に優しい仕様にしようよ……。寒い? うるせぇ、ギャグじゃねぇよ!!


 主要なものなら名前も良く聞くし、知らなくても形を伝えられる。オレはこの手法でネギを発見した。ここらではあまり見ないものらしい。

 食材なら何とかなるよ、頑張れば。だけどさ、スパイスって無理くね?

 スパイスの特徴って……何? オレ粉末のものしか知らないよ。原形詳しく説明できるのなんて、精々唐辛子くらいだよ。

 しかも、地球と同じスパイスがあるとも限らない。何せここは異世界だからな。ネギはあったけど。


 第一、カレースパイスを再現するにしても、中に入っているスパイスは基本的に十種類を越える。

 その中で前世のオレが単体で振り掛けたり舐めたりしたものなんて、数える程度でしかない。

 一度ノリで、ルーでなくスパイスからカレーを作った経験はあるが、その時に選定した味など記憶に残ってる筈もなく。

 そもそも、大半はレシピを参考にして作った訳だからな。味見程度にしかスパイスは舐めてない。

 名前は覚えてるんだけどなぁ……。だから作れると思ったのだが、前世で覚えた固有名詞は、この世界では何の役にも立たなかった。


 うん、完全に暗礁に乗り上げた。

 スパイスに類する言葉が無いのも理由の一つだ。なんて言うか、統一されてないんだよね。

 胡椒や唐辛子は一応見つけたんだけど、地球ならどっちもスパイスとして括られる。

 だけど、この世界では同一の枠組みとして認識されてないのだ。

 その気持ち、分かんなくもないけどね。歓迎はまるでしない考え方だけどさ!


 とりあえず、子飼いの零細商人的な奴らに捜索を依頼する。

 オレが知る限りの大まかな特徴や、スパイスとしての使用感を伝え、オレの元に届けさせるのだ。それが当たりなら報酬をやる。

 成功報酬は商会への口利きだ。ここは父親じゃなく母親に聞いてもらおう。なんだかんだ言って彼女は息子に甘いからな。


 彼らにとって、フェイロン商会への口利きはかなり恩恵が大きい上、スパイスの捜索はおまけ程度にやるように言ってある。失敗の罰則も無いから気楽にやって欲しいね。

 一部、野心ある商人が今までの商いを逆におまけとして、全力でスパイスの捜索を行ってくれるそうだが……。

 まぁ、何て言うか、頑張れ。オレはそっちの方が嬉しいよ。責任は持たないけど。


「目指せ商会幹部! 俺たちは一蓮托生だ、皆の気持ち(ゆめ)……全部すぱいすに預けてくれるか? 死ぬ時は一緒だぜ」

 そう言って円陣のようなものを組んでたところなんて、オレは見ていない。肩を寄せ合いつつチラチラと視線をこちらに向けてたのなんて、見てないったら見てない。

 彼らには念書まで書かされたけど、ああ言う団結は高校野球でやって欲しいと思う。ドッカの投手(エース)じゃないんだから。


 彼らの活躍によってスパイスはかなり集まり、元貴族令嬢だからか美食に興味を持っている母親の琴線に触れ、彼らは()()()本当に口利きによって良い立場に着くのだが、それはまだ先の話である。


 依頼した商人によって早い段階で見つけられたハーブ系のスパイスと、元から市場にあったものを組み合わせた事で、臭みやエグみがかなり抑えられたのも行幸だった。

 一度試みて失敗した唐揚げを、肉の下処理にしっかりとハーブを揉み込んだ事により中々美味しく仕上げる事ができた。料理長のジェフと取り合いになったのは記憶に新しい。


 それ以来、怪我の療養中は市場を頻繁に見て回っている。これが意外と、見落としていた食材やらがあるんだよな。

 日本と違って定期的に仕入れられている商品なんて一部だけだから、品揃えは結構な頻度で変わる。あまり売れなければ、二度と入荷しない事もあるらしいから尚更だ。季節にも左右されるしさ。正に一期一会。


 そんなある日。


「ん? これはまさか……大豆か? ここらでは見なかったから無いものかと思ってたけど、これとスパイスがあるなら、恋い焦がれたあの三種の神器が……。ふふっ、夢が広がるぜ!」


 自分の妄想で見た光景に嬉しさを感じながら、買い付けを済ませてオレ専用の倉庫に送ってもらう。

 踵を返して家へと戻るが、手順や必要な品を考えながら歩いていたのであっという間に帰りついた。

 気持ち悪い顔をしながらブツブツと独り言を漏らしている少年を、周りがどんな顔で見ていたかはお察しの通りである。

 ん? なんだジェス。……カレー? できてねぇよ。それこそ察しろ。




 余談だが、オレ付きのメイドが軽い回復魔法を使えたので、以降の怪我は彼女に治してもらえるようになった。それでも数日寝込む怪我も当然あったけども、骨折が一週間と少しで治ったのには驚かされたよ。

 できれば怪我は隠したかったのだけど、着替えの手伝いとかを断ってもやろうとしてくるから、反応でバレてしまったのだ。

 彼女は昔からオレに良くしてくれているので、周りにはバラさないように頼み込んだところ、かなり渋られたが承諾してくれている。

 ……執事長や一部のメイドには、既にバレてそうな気がするけれど。

ネギなどの異世界語は適当に考えました。

因みに、流石に自重した没ネタがこちら↓


「俺たちは誰だ……」

「(金の)亡者、脆商(せいしょう)!!」

「誰よりも(金を得るために)汗を流したのは」

「脆商!!」

「誰よりも(商売に失敗して)涙を流したのは」

「脆商!!」

「誰よりも金を愛しているのは」

「脆商!!」

「(取引先と)戦う準備はできているか!?」

「おおお!」

「商会の後ろ楯を胸に、狙うは全国踏破(して行商)のみ。いくぞぉ!!」

「おおおおおおお!!」


脆商は勿論造語です。零細商人→脆い、という無理矢理なこじつけ。零細商人略して細商と迷いましたが。ふしっ!

スパイスの閑話に仄めかしたメイドを、会話相手兼癒しキャラとして序盤に挿入(テコ入れ)するか迷ってます(*つ´・∀・)つドーシヨー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ