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三つ目と最後の鍵。ついでに研鑽の日々

これにて幼少期本編は終了です。

走り気味な部分は閑話で補足していきます。

 オレの意識は覚醒した。


「知ってる天井だ……」


 ネタで言ったのではない。いや、確かに頭を過ったけども。

 何故、知っている天井――つまり自室にオレが寝ているのかが分からなかったからだ。


(オレは……切腹した筈。確かに投擲用の短剣(ダガー)だったから刃渡りが短かったし、アンナさんの声で思いっきり突き刺す事までは出来なかったけど……何で生きてるんだ?)


 この時は心底疑問に思っていたが、後々思い返してみれば、切腹では簡単に死ぬ事が出来ず、首を落とす介錯人がいるのが普通だと気づいた。

 つまり、駆けつけたオクタゴンに回復魔法を掛けてもらい、街で本格的に治療してもらえば、今こうして生きていてもおかしくはなかったのだ。


「坊っちゃま!」


 自分の現状に戸惑っている間に入ってきたらしい執事長のセルバフが、声を荒げて駆け寄ってきた。


「坊っちゃま……今回ばかりは肝を冷やしましたぞ。ご兄弟がいようとも貴方に代わりはいないのですから、どうかご自愛下さいませ」


 初めて、彼が流す涙を見た。

 セルバフはオレの記憶にあるどんな時も冷静で、執事としての所作を乱す事なんて無かったのに。

 だからなのか、まるでもらい泣きするかのように涙腺が緩む。だけど、心配を掛けた身である以上、泣き顔は見せてはいけないと思う。

 必死で堪えて胸に頭を預け、言葉を紡ぐ。


「ごめん、セルバフ。そして……ありがとう。セルバフがオクタゴンの皆に呼び掛けてくれたんでしょ?」


「ははっ、坊っちゃまの慧眼には恐れ入りますな。その通りではありますが、何、大した事はしておりませんとも」


「いやいやいや、九死に一生って感じだったから。立場が逆転してもおかしくない程の恩だから」


 老紳士が本当にそう思っている事を感じたため、流石に苦笑混じりに訂正を図る。

 だが、彼は何を言っても聞き入れてくれなかった。

 お礼ならオクタゴンの面々に言ってください、と。

 自分は何も出来なかったのだからお礼を受け取る謂れは無い、なんて言われた時は、流石に少しだけ声を荒げてしまった。


 だってさセルバフ。貴方もオクタゴンの面々と共にオレを捜索してくれてたの、分かってるからね?


 どうやらオレが目を覚ましたのは、倒れた日の深夜らしいのだ。

 だと言うのにセルバフの目には隈が出来ており、傍目からは感じさせないようにしているが疲労の色はかなり濃い。

 これでも狩人(仮)なんだから、相手の調子を見抜くのは得意なんだよ。頭を注視したらバッドステータスが出てたし。

 彼が、前日から徹夜でオレを探してくれていたのは明らかだった。




 そうして再度の眠りについた翌日、オクタゴンに礼を言いに行くためにギルドに行った。

 彼らは休息日だから宿にいる。そう聞いて向かおうとしたが、何処かの第六天魔王作の魔神像(黄金)すら裸足で逃げ出す程の(受付嬢)に捕まった。

 あの流派の開祖さんよりオーラを放っている気がする。魂が吸われそうだ。


 勿論、オクタゴンには後日きっちりとお礼をしたよ。当日? え、エリーね(バタッ!)……。

 その日のギルドの個室に、ダイイングメッセージが残されていたとか、いなかったとか。


 ボスゴブリンの話はギルドに報告したが、証明ができなかったので普通のゴブリンウィザード討伐と集落壊滅の分だけ報酬を貰った。オークに吹き飛ばされた際に荷物が散らばって、討伐証明部位が見つからなかったんだよな。ちくせう。

 血を入れた瓶が割れなかったのは幸運だったから、それくらい別にいいけど。


 エリー姉さんは怒りながらも信じてくれたものの、公的に証明できなければ報酬は発生しない。

 ゴブリンウィザードの討伐証明部位も無いけど? そう言ったら殴られた。

 秘密にせずに報告したのは、もう怒られてるから別にいいやと投げやりになっていたからだ。

 冒険者なら危険だと判断した瞬間に一目散に逃げなさいと怒鳴られたけど、何も言い返せないので自分への戒めとしてちゃんと聞き流した。間違えた、ちゃんと聞いた。ホントだよ?


 因みに、いつもの事だが両親は仕事が忙しい。なので怒られた上で謹慎を食らうだけで終わった。その後は特に何も無かったかな。


 余談だけど、ブルーウルフの親玉はオクタゴンに回収しに行ってもらった。

 彼らに事の経緯をぼやかしながら伝えていると、取ってくるか? と聞かれたのだ。

 ブルーウルフの毛皮は割と品質が良いらしく、その頭目なら結構な金になるらしい。

 命を救ってもらったばかりなので恐縮したが、気にするなと強く推されたのでお願いした。今度親父に便宜を図ろう。


 彼らが見事な連携で倒したらしいオークの肉は、魔物肉にしては珍しく肉が高級品として扱われているため、既に売ってしまったそうだ。バラ肉が特別美味いらしいから食べてみたかったけど、仕方ないね。

 昔の遠征以来、魔物食に地味にハマった剣士のネルトが自分も食べたいと主張したのだが、金になるからと仲間の反対を食らって珍しくショボくれていたとか。

 いつも元気でムードメーカーな彼が、のの字(異世界語で)を書いていじけ続けるなんて珍しい光景だったらしい。ちょっと見たかったかも。



 ◇◆◇◆◇



 そんなこんなで自宅謹慎しながらボスゴブリンの血を定期摂取して、ふと魔力値はどうなったかなと鏡を覗いてみた。

 鏡を利用するのは、全身を確め辛いから。デコボコで見辛いけど、高価なものだからあるだけマシだよな。

 尚、久々のゴブソースはくそ不味かったです。


「……は?」


 言葉が出なかった。予想を遥か彼方に放り投げるものを見たからだ。

 オレが驚愕したのは、かつてない伸びを見せていた魔力を司る丹田のステータス――ではない。魔力値も確かにかなり伸びてはいたけど、予想の範囲内に留まる。

 何故かと言えば、丹田以上に極度の伸び悩みを見せていた頭部のステータスが、爆発的に伸びていたのだ。今回の魔力値の上昇幅すら越えている。

 ちょっと意味が分からなかった。


 そもそも頭のステータスが何を意味するかも、まだ完全には解明していないのだ。

 おそらくは、反応速度や体の操縦能力の向上辺りだと予想しているけれど。昔よりそこら辺は上達した気がするし。

 とにかく、何故上がったのかが分からない。


 生死の境をさ迷ったから?

 それともこれもボスゴブリンの血の影響?

 或いはエリー姉さんの度重なる説教による……はっ、殺気が!


 上の二つも、確かに考えられない内容じゃない。

 でも、多分これだろうなって言うのが一つだけあった。


 あの綱渡りのような連戦を経験したからじゃないか、って。

 ボスゴブリンにしろ狼集団にしろ、紙一重の勝利だった。

 最後のオークも効果があったのかは分からない。


 最近全く頭部のステータスが伸びなかったのは、ああ言った経験が無かったからだと思う。以前は何度か伸びてたんだよ。

 罠を使ってなるべく安全に狩る努力は当初からしてきたが、如何せん昔は能力がかなり低かったために、危険に陥る事も少なくなかった。

 今回程ではなかったが、死を覚悟した事も何度かある。

 けれども、ある程度の力を手に入れた今では、あまり無茶をしなくなった。だからこそ、今回一気に伸びたのだ。そう考えれば辻褄が合う。


 非才な身でも今回の連続戦闘が経験になった……のかは不明だが、ボスゴブリンの血の分以上に、全身のステータスが微増している事も確認した。

 なんとなく、これもギリギリの戦闘による副次効果な気がする。




 こうして自己強化の三つ目の鍵を発見し、オレはそれに邁進した。

 魔物肉を食べ、魔法を扱うモンスターの血肉も積極的に取り入れ、命の危険を感じるようなスリル満点の戦い、死線を越え続ける日々を過ごしている。その過程で、過保護な誰かさんたちの暗躍を知ったんだけども。


 この頃になると、流石に両親にも冒険者の真似事をしているのがバレ、逆におおっぴらにできるようになった。数日程度なら外泊も許されたしな。

 高価な素材は商会に直接卸す事が条件だけど、今のところ毛皮とかいらないから別に構わない。


 父親は、冒険者ギルドを自分たち商人の金づるのように見ている。冒険者は、学も無く命の危険を常に抱える火の車だと言っていた。

 だからオレの行動を止められたり、冒険者になるのを怒られるかと戦々恐々としてたのだが、どうやら彼はオレが二番目の兄に憧れて騎士を目指していると思ったらしい。


 前にも触れたが、フェイロン商会は曾祖父が興したものである。

 元の家系は、代々騎士の系譜を受け継いできた。

 だからか、親父の弟のように商会を継がない親族には、騎士を目指す者が多い。

 三人兄弟の中で二番目の兄、ゲイルも昨年から騎士学校に通っている。

 幼い頃から騎士を志し、たまに街道に出るゴブリン退治をしていた彼は、学校の中でも結構優秀なのだとか。

 出世街道に乗れる最長の六年コースに通っているので、卒業するのにはまだまだ掛かるらしい。


 まぁ、勘違いしてくれるならさせておこう。

 確信は抱かれていないが、料理知識とかは父親にオレが情報元(ソース)だと疑われているからな。どちらもバレたら面倒だ。

 因みに疑われている理由は、オレが厨房に結構な頻度で出入りしているからだ。

 親がいる時はあんまり使ってない上に情報封鎖も試みてるのだが、相手は情報が命の商人だからな。そりゃバレるよね。


 そして、オレが物語の主人公のようになるための最後の鍵を握っていたのは、セルバフを筆頭にしたとある集団だった。

 基本ステータスをこれでもかと上げた後、伸ばしたのは実戦経験と技の研鑽、そして極限の戦いによる頭部ステータス……反射神経と体の操縦性の向上だ。対人を見据えた実戦訓練はかなりタメになった。

 それまでは、基本的に卑怯な手だ……狩人的手法で魔物狩りをしていたからな。正統派な力を身につけるためには、彼らの協力が必要不可欠だったのだ。


 鍵は揃った。

 これらを限界まで駆使して、オレは鍛え上げ続けた。

 今ならあのボスゴブリン相手でも、魔力を使わずに瞬殺できる。

 そんな領域に達したオレに転機が訪れるのは、成人である16歳を迎える数日前。

 一生忘れないだろう出会いと体験から、全てが始まったのだった。

徐々に力を付ける段階が今まででした。

その他描写は閑話で描く予定ですが、本編としてぶち込むべきだったかなぁと悩んでます(苦笑)

具体的には飯テロ(笑)の下地作り等ですが、仲間の増員にも関係してたりするのでσ( ̄∇ ̄;)


次回本編から強化終了後の青年期に突入します。

尚、とある集団(笑)の実態と名称は少し経てば出てきます。あのオークたちに何が起こっていたのかも。

本編次話にてステータス(仮)も実験的に載せてみますね。後書きに。


また、ようやくヒロインが登場します。

タグにあるですわヒロイン、やっと出てきます。

エリー姉さん? アンナ? はっ! 年増がヒロインになれるかよ!(その後、作者の姿を見た者は誰もいない……)


ここまでお付き合いありがとうございましたっ!

感想・誤字脱字報告頂けると、モチベーションアップに繋がりますヾ(o゜ω゜o)ノ゛

ブクマ・評価を頂けるとあまりの感謝で体調不良も和らぎ、執筆速度が上がります(笑)

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