生死の綱渡りと抉じ開ける扉
新年早々風邪引きました……(´・ω・`)
皆さんも体調にお気をつけをヾ(o゜ω゜o)ノ゛
オレの剣撃を防いだのは、魔術師が使うような杖ではなく、幅広の長剣だった。
鍔競り合いのような形になったが、力で押し負けて数歩後退する。
囲まれて袋叩きにされるのを警戒して、自分から下がったとも言う。
「はぁ……。これってウィザードじゃなくてキングさんじゃないっすかね」
ため息が出るのも仕方ないだろう。
魔法強化の為に魔力値が伸びそうなゴブリンウィザードを狩りに来たのに、蓋を開けてみれば魔法が使えないゴブリンキングだったのだから。
ゴブリンウィザードより強いところがまたタチが悪いよな。
ゴブリンの肉は流石に食いたくないし。
(襲撃仕掛けといて最高にカッコわりぃが、撤退するべきかな。火はまぁ……多分こいつらが消してくれんだろ。森に燃え移る程じゃないし)
そう一瞬の思考に耽ると同時に、近くの雑兵ゴブリンどもが攻めてきた。
それらを捌きながら、退路をどこから確保するか検討する。
(どこが突破しやすいかなぁ……ん?)
体を動かしながら逃げ道を探していた事もあり、襲撃対象が淡い燐光を纏っている事実に気づくのが数秒遅れてしまった。
「は?」
気づいた時にはゴブリンキングの詠唱は完了していた。
オレの目の前に迫るのは土の塊。回避動作は間に合わず、脇腹とその上辺りに直撃してしまった。
かはっ、と肺の中の空気が漏れる。地面を踏みしめ、どうにか倒れこむ事だけは回避した。
「がっ……ぐうぅぅ。くっそ、バカかオレは!」
反射神経がそこまで良くない事を抜きにしても、避けられない程ではなかった。
ゴブリンキングが魔法を使うなんて聞いた事がない。故に、その可能性を勝手に頭から追い出していたのだ。
――ゴブリンウィザードからゴブリンキングに進化していた、その可能性を。
いつぞやのゴブリンとの初戦闘を思い出し、咄嗟の事態に対しては全く成長していないと歯噛みするしかない。
(帰りもあるからあんまり使いたかないけど、仕方ないか! ったく、余裕こいて負傷とか最高にカッコ悪いぜっ)
痛みを堪えて周りの雑魚ゴブリンを斬り払い、少し開けた場所でゴブリンの親玉を迎え撃つ準備を整える。
油断しなければあの程度の土塊なんて躱せるし剣の腹で叩き落とせる。重さがあるから、あまり速くはないしな。
だが魔法を除いた肉弾戦は、今のオレでは制する事ができない。
「身体能力きょ――」
だからこそ己の肉体を強化しようとした瞬間、先程の魔法とは一線を画す速さで飛来するものがあった。
今度は流石に避けられたが、背にしていたボロいゴブリンの棲み家に当たり、爆ぜた残骸を被る。
「魔物の癖に二属性持ちだと!?」
飛来物の正体は、明らかに火の球だった。人間でも二属性の魔法が攻撃に使用できればかなり優秀な後衛だと言えるのに、魔物が使えるなんて聞いた事も無いぞ。因みにオレは、遠距離攻撃が出来ないのでその限りではない。
この立ち位置も射線は遮っていた筈なのに、どうやらオレが見える位置まで移動したようだ。しかも詠唱しながら。
随分と行動的な敵の首魁である。ふんぞり返ってもっと部下とか仕向けようぜ! イー!
(強いなこいつ。ここまで魔法が使いこなせる個体なら、得られる魔力値も高い筈だ)
体勢を低くして飛び込もうと試みるが、魔法での牽制の後に雑魚が群がってきて近づけない。
いや、無理をすれば不可能ではないのだが、そんな事をすればあの馬鹿みたいにデカい体躯を用いた攻撃によって沈んでしまうのは想像に難くない。
「駆逐したるっ!」
そもそもが、あのレベルの魔物相手に多対一は得策じゃないのだ。
持久力はかなりついたから、周りの雑魚を減らしてから相対すべきだな。
そこを狙って魔法を使ってきたら、魔力を減らせて一石二鳥だ。
オレが作業のようにゴブリンを殲滅していると、ゴブリンウィザードキング……長いからボスゴブリンが石を投げてくる。
魔法じゃないのかよ! と叫びたいが、二属性魔法を使えるくらい熟達しているのだから、魔力配分も心得ているのかもしれない。
ゴブリンの癖に生意気な。破壊神の力でも借りて、地下にダンジョンでも作ってろよ。
「なっろ、小賢しい真似しやがって。キレたぞオレは!」
こっちから襲撃を掛けた上、その前に小細工を仕掛けた事は忘れよう。あれは大細工だからセーフセーフ。
ほ、ほら、相手は人に仇なすモンスターだし! 放っておいたら人里襲撃するかもしれないし!
……ゴブリンキングだったからって逃げようとした奴の台詞じゃないな。声に出してないけど。
投擲のスピードは中々速いが、脅威と言う程でもない。
オレは陣形を掻き回しながら時間を稼ぎ、奴らが痺れを切らすように仕向ける。
ボスゴブリンのカリスマ故か予想よりも時間が掛かったが、望んだ状況は作り出せた。
今はボスゴブリンの周りから何体ものゴブリンが剥がれ、円を描くような軌道でオレが動いているため、ウスノロどもが辺りに散らばっていた。これなら間隙を突ける。
奴らの棲み家に隠れるようにしてボスゴブリンの視界から消え、身体能力強化を掛けてすぐに物陰から出る。
直前の緩慢な動作から一転してボスゴブリンに直進し、全力で横凪ぎに剣を振るった。
急な動きの変化に反応が遅れ気味ではあったが、初めにオレの剣撃を防いだからか、ニタッとした顔で防御態勢を取るボスゴブリン。
だが、その巨躯はまるでサッカーボールのように吹っ飛んでいった。
「はん。さっきの一撃とは、込めた重さも使った魔力も違うんだよ!」
最初に放った一撃が、そもそも魔力を使ってない事はスルーしておく。
飛び掛かりの斬撃と、地を踏みしめた斬り上げ気味の横凪ぎでは威力に差が生まれて当然だ。
しかし、吹き飛ばされたボスゴブリンは足にある程度の裂傷こそ負ったが、そこ以外にダメージを受けた様子は無い。
それどころか、今度はこちらの番とばかりに魔力を練り上げていた。
その動作を見てオレは駆け出す。
「まだオレのターンは終わっちゃいないぜ!」
飛んでくる土の塊を剣の腹で斜めに弾く。
すると、今度は火魔法を放ってきた。
成る程、確かに火魔法なら剣で防ぎにくいし、今は直線的な動きで接近しているから躱し辛い。
加えて、瓦礫もあるしゴブの死体が散乱していて、普通のゴブリンにも囲まれている。スペースが無いな。
降り注ぐ火の球。
避ける術は無い。避ける術は、な。
オレは手頃な盾を引っ掴んで眼前の脅威に晒す。
「追加、モンスターガード! 追加、モンスターガード! 追加! モンスターガァ-ドォオォォ!!」
オレは今、走り抜けながら子分のゴブリンを盾にして距離を詰めている。
死体は燃えやすい筈なので、新鮮な盾を供給する事も忘れない。
叫んでいるのは、ノリと威圧と己を奮い立たせるためだ。
だって手元で火球が炸裂するんだぜ? そんなんメチャクチャ怖いだろ。
まぁ、盾と言いつつも手前に軽く放ってるから、爆風だけで直接的な衝撃は来てないんだけどさ。角度を付けて投げないと、吹き飛ばされた遺骸に巻き込まれるから神経も使う。
そもそもがゴブリンウィザードとゴブリンキングのハイブリッドなんて、今のオレでも格上にあたるってのもある。
不意を突いて混乱を招いて、相手の想定外な動きを連発しているから何とか優勢に見えているだけだ。
この勢いを失えば、オレは簡単に殺されてしまうだろう。
というかそれこそ、手下のゴブリンに大量に組み付かせて魔法連発とか、あの剣を振り下ろすとかだけで終わりそうだ。
真正面からでは一対一ですら勝てるか微妙なのに、オレの魔力はそんなに余裕がある訳ではない。と言うか、そろそろ切れる。
節約して使っていても、オレの魔力はそんなに多くないんだ。
だからこそ、魔力増強を目論んでこいつを狩りに来たんだし。
「らあァ! 続けてモンスタァースロォォー!!」
何の事はない。ただ両手に掴んだゴブリンを、魔法の切れ間を利用してボスゴブリンに全力で放り投げただけだ。
続いて瓦礫を蹴り上げ、憎きデカブツに飛ばす。
魔法を連発して若干の疲労を見せたところに、飛来する自分の下僕。
一瞬の躊躇は見せたが、自分の命を優先するかのように手下を斬り伏せるボスゴブリン。中々判断が早いね。
でもさ、見えてねーだろ。オレが蹴った瓦礫。
「グギィッ?! ゲグゴォオオォォ!!」
投擲したゴブリンの陰から姿を見せた瓦礫が、奴の裂傷した足に当たる。
先が尖っていた箇所は刺さりこそしなかったものの、傷ついた足に追い討ちを掛けるように肌を裂いた。
「ショックボルトォォォ!」
一瞬だけ見せた隙を逃さず、なけなしの魔力を使い果たす勢いでオレは雷魔法を発動する。
ボスゴブリンが未だ手に持っていた長剣を斬り上げる寸前に、スタンガンを模した雷撃が奴の首筋に決まった。
「ガグォ、グァ……」
気絶まではしなかったようだが、手に持っていた長剣は取り落とされ、その体躯も上半身だけのようだが硬直している。
突然の衝撃に固まっているのか動かないけれど、ダメージは少なそうだ。
だが、この魔法でケリをつける気は無かったから問題は無い。
「こいつで、終わりやがれ!」
今まで習熟してきた技術を全て乗せ、強化された筋力でもって放つ一撃。喉元を刺し貫く全力の突きだ。
――ズグッッッ!!
魔力による筋力駆動を利用した、某組の隊長が使う必殺の突きを思わせるその一閃は、ボスゴブリンの首を見事に貫通している。
突きは威力の高い攻撃ではあるが、狙いが悪ければそれだけで命を刈る事はできない。
だからこその雷魔法だったのだ。
奴を一撃で仕留めるには、回避行動を封じた上で急所に的確な突きを叩き込むしか手が無かった。
袈裟斬りでも斬り上げでも奴の命には届かなかっただろう。唐竹割りならイケたかもしれないが、子供の身長じゃ不可能デス。
「悪いな。全力の突きは、まだ固定標的にしか命中させられる自信が無いんでね」
剣を動かして体内を掻き回した後、最期の反撃を食らわないように数歩下がる。
見回すと、配下のゴブリンたちはボスがやられたのかと恐々としながら突っ立っていた。
(流石に終わったろ。これで死ななきゃ完全に化け物だ)
と言うか、終わってください。身体能力強化も切れたし、立ち上がられたらもう打つ手無いっす。
もうやめて! とっくに(雑魚)ゴブのライフはゼロよ!
まぁ、彼らに攻撃してるのはあくまでボスゴブリンなんですけどね。
バトルフェイズって、カードとかゲーム抜きで言ったら、中二病っぽく聞こえるのは何故なのでしょうか。
元ネタがある描写が多いので、不快であれば今後(書き貯め分はご勘弁を)控えますのでお伝え下さい。
八話の初戦闘と比べて、主人公の成長を少しでも感じて頂けたら嬉しいです。
まだ十歳だし発展途上なので、色々甘いですが。作者の描写も含め。




