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鹿を巡るあれこれと、煩わしくも温かい人たち

場所引っ越しました。1/8投稿の閑話です。

 今、オレの目の前には本日仕留めたグレイトディアーの肉塊が広がっている。

 流石にここまでデカいとなると、家族に隠す事もできないから適当にでっち上げた話をした。

 まぁ基本的に食うのはオレだけだから、特段騒ぎ立てる事でも無いんだけど。


 魔物食には、まだまだ偏見が付き纏ってるからな。

 魔物食イコール全て下賎と見なされるのだって、貴族の中じゃ当たり前だし。

 裕福な一般人とかだと、ゲテモノ一歩手前みたいな認識だけど。日本で言うなら(いなご)の佃煮みたいなものかな。いや、あれよりはマシな認識かもしれない。


 オレは平民だが、大きな商会の息子として貴族の若い子女向けのパーティーに参加させられた事がある。

 その中の一人にアンデルの領主のバカ息子がいて、何処から知ったのかオレが魔物肉を食してる事がバラされた。

 暴露直後に向けられた周囲からの汚物を見るような視線と、避けるどころか近寄るなという叱責。

 元々前世知識のせいで貴族に良い感情なんて抱いてなかったが、これがオレの中で貴族イコール関わるべきでない存在という式が成り立った瞬間だった。

 あれ以降貴族の集まりには絶対に近寄らないと決めた。


 尚、魔物食がゲテモノとされてる理由は大きく二つあり、ゴブリンなどの食肉に向かない魔物と同じ枠組みであるという先入観が一つ。

 まぁ、食べられそうな魔物でも普通に食えなかったりするからな、この世界。例を挙げると、ポイズントードとかは明らかに食えないが、蛙系の魔物肉は何故か全て毒らしいのだ。

 ホントかどうかは知らないけど。ここら辺にそいつら出ないし。


 二つ目は、魔力を持った生物が死ぬとエネルギーが拡散するまでに肉が傷つけられ、傷んでしまうからだ。

 これは夏の直射日光に長時間当ててから調理するようなもんだからな、美味い筈がない。

 回避するためには適切な処理が必要になる。冷却と血抜きだ。

 冷却する事で熱を持った魔力の働きが抑えられ、肉が熱される事も魔力が激しく動き回って傷む事も防ぐ事ができる。当然、限界はあるが。

 血抜きは言わずもがなだな。血と肉どちらにも魔力があるのだから、死後も一緒にしておけばヤバいのは間違いない。


 勿論この鹿肉は処理済みだ。さて、調理を始めよう。

 今日は家の料理長であるジェスも手伝ってくれる。

 今までもウサギ肉を持ち込んでたとは言え、グレイトディアーなんて初めてお持ち帰りしたから他の家人たちは驚いてたけど。

 表向きは猟師と共同で狩った事にしたので、大事にはならないと思う。狩人のイロハを教わった人には、その辺の許可も貰ってるからな。


 肉の量が多いのは、手早く燻製にする事で解決を図る。

 干し肉はダメだったが、燻製なら一応ドーピング効果が引き延ばされるのはウサギ肉で確認済みだ。コンソメスープにはしない。


「鹿肉かったい! 硬すぎだろこれは」


 エイジングが足りてないからか、肉が硬かった。

 つってもエイジングなんてしたら、魔力が放散されるだけだからやらんよ。


「ここはミンチだな。んでもって、パン粉にまぶしてメンチカツだ! あとは……シャリアピンステーキかな」


 丁度良く一匹確保できたウサギ肉と、一先ず合挽きにしておく。

 配合的には鹿肉が多めになるのは仕方ないが、これだけ大きければ魔力が完全に無くなるのにも数日かかるかもしれない。

 一応色んな割合を試してみよう。


 パン粉を用いるのは今日が初めてじゃない。

 ジェスには、旅の料理人から教えてもらった情報として幾つか伝えている。

 様々な知識と引き換えに、親を含めた外部に漏らさないようにと言い含めた。

 ジェスは料理長だけど比較的新しくこの家に来た人物なため、親に聞かれても秘伝として口を閉ざしてもらっているのだ。

 親としても、貴族を招いた時や貴族主催のパーティーなどで調理の助力に出た際、良い接待になるとして渋々ながら黙秘を了承している。


 ふっふっふ、やつはもうオレの忠実なる下僕よ! (ボン)なんて呼び方してくるけど。

 今もオレの指示に従って、鹿肉をミンチにしてくれてるしなっ。オレは腕が疲れました。


 ゲテモノに近いとされる魔物食だが、食材が鹿とウサギを基調としているものだからなのか、調理場の面々は不快感を示したりはしなかった。当初は驚かれたけど、悪感情は感じない。

 だからか味見なども手伝ってくれる。ありがたい。


「んんっ、野性味溢れる味わいだな。ぶっちゃけ不味い」


 配合比率が悪かったのか、消臭のための香草が足りなかったのか、メンチカツの中からはワイルドな肉汁が滴ってきている。

 生臭いとは微妙に違うから表現に困るな。不味い事だけは確かだ。


「おぉっ! (ボン)、こっちは中々イケますぜ! 程よい噛み応えで、玉葱の甘味が染み込んでやがる。バターの風味も移って肉と油が調和してるみてぇだ」


 ジェスが鹿肉のシャリアピンステーキを食べながら言う。だからボンは止めろっての。


「何ぃ……って、ちょ、おまっ、食い過ぎだ。味見の範疇超えてんだろうが!」


「開発のお手伝いしてんだから、かてぇ事言わんで下さいよ(ボン)。あっ、そっちの不味いのは自分で食べて下さいね」


「お前な……。料理長の癖に仕える主人の息子舐めてんだろ。まぁ、折角作ったし勿体ないから食うけど」


 メンチカツも配合によっては美味いものもあった。比率、メモってて良かった。

 尚、オレが口調を取り繕う必要が無い数少ない人間だから、こいつと本気でケンカしたりはしない。地味に感謝してるんだよ。



 ◇◆◇◆◇



「アイザックくぅ~ん? お姉さんが言いたい事、分かるわよねぇ?」


 翌朝、日課のように訪れた冒険者ギルドで、オレは受付嬢(はんにゃ)と対面している。

 オレの専属受付嬢みたいな立ち位置にいる、エリー姉ちゃ……姉さんだ。最近、ちゃん付けだと怒られる。何故だ。

 モンスターが出ない街の近くで解体してから戻ったとは言え、グレイトディアーはかなりの大物。

 周りには当然、デカい肉塊を隠しきれずに運ぶオレの姿が確認されている。


 エリー姉さんは、山菜や薬草採集に赴き、ゴブリンに遭遇すれば基本逃げると認識されているオレが、デカブツを仕留めて戻ってきた事に腹を立てているのだ。

 冒険者見習いが浅い森の中でそんな大物を仕留められるなんて、偶然でもありえない。

 故に、オレが森の奥まで入り込んでいるのがバレたという訳だ。


「はっ、はいぃー!!」


 思わず姿勢を直立不動にしてしまうくらいには、エリー姉さんの威圧感は凄まじかった。

 お節介焼きの彼女の事だ。弟分が、相対すれば死んでもおかしくない魔物を討伐したなんて、自分の日頃の心配が裏切られた気分になったのだろう。

 驚いたり誇らしいと思うよりも心配が先とは、彼女らしいとオレは感じていた。


 その後、日が傾き始めるくらいまで説教という名の愛の鞭を食らった。

 途中で泣かれた時は流石に焦ったが、良く見たら嘘泣きだった。

 慰めようと近づいたら、膝の上に水が入ったスポイトのようなものを見つけたのだ。女って怖い。


 グレイトディアーの角や毛皮、蹄などは部位毎に提出して売却している。

 どうやら品薄だったらしく、結構高めになるかと思ったが未処理だったので、中途半端な価格で止まった。エリー姉さんには、見習いとは言え冒険者ならしっかりやりなさいと怒られた。ガクガクブルブル。

 冒険者として世界を巡る予定である以上、いつかは覚えなきゃいけないとは思うのだが、今はそんな事してる暇あるなら強くなりたいからな。


 ついでに今まで取っていたゴブリンの耳などの討伐部位も提出し、全てを話はしなかったけど、自分が最低限の実力をつけた事を説いてみたりした。

 案の定、エリー姉ちゃんには追加のお説教食らったけども。

 日が完全に暮れ、続きは彼女の家で行われた程だ。


「一人で大丈夫? 送っていくわよ」


「心配しなくても、これでもグレイトディアーを倒した冒険者だよ? 完全な実力とは言えないけど、ここから家くらい問題ないって」


 この世界には月が無いが、その分星々が強く大きく輝いているため、それも説得材料にして彼女の提案を固辞する。

 鹿さん討伐は、完全な実力じゃないどころか棚ぼたで得た戦果だったのだが、仕留めたのは嘘じゃないしね。


「いやー、長い説教だったなぁ。あんな怒られたの、前世通してもいつ以来だろ?」


 オレの事を思って言ってくれているのはありがたいのだが、如何せん苛烈過ぎる。

 それでも、実力の一部を認めてくれて、ゴブリンやウサギ狩り程度なら許してくれるようになったから良かったよ。

 グレイトディアー? そんな大物を狙うのはまだ早い、自分の実力を過信しないためにも当分禁止と厳命を受けたよ。破ったらもう口を聞いてくれないそうだ。

 可愛いな、顔面偏差値は普通なのに。

 そう思った事は内緒だ。

次回から本編に戻ります。


感想・ブクマ・評価は作者の栄養となります。いただけると、モチベーションが上がって執筆速度が上がり、更新話数も増やせます。


PV数増やせるよう頑張りますヾ(o゜ω゜o)ノ゛目指せ日間!

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