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解体だけは死んでも慣れそうにない

 七歳でいられる時間も残り少なくなってきたある日。

 つまりゴブソース実験から半年あまりなのだが、ステータスは向上したし戦闘経験も少しは積めた。

 でも、まだオレが安全に狩れるのはゴブリンとウサギどもだけ。

 ゴブリンはサシなら正面から瞬殺できるようになったが、複数同時に相手取るのはまだ慣れてない。周りに気を配りながら戦うのが苦手なんだよな。

 だから食べられるのも、ウサギ肉とゴブの血ソースだけ。いい加減飽きた。


 そう思っていたのだが。


「うっへぇ、グレイトディアーさんじゃないですかー。何してんですかこんなところでー」


 オレの目の前には、無駄にデカい鹿がいた。自分の顔が少々引きつってるのは自覚している。

 クロウラビットの中でも大きい個体が多いここら辺には、相応の罠を仕掛けていた。あ、爪のクロウだから、苦労人ならぬ苦労兎な訳じゃないよ。


 ここに設置した罠は、クロウラビットの鋭利な爪でロープを切断された経験から、ロープとトラバサミ風な罠のハイブリッドにしている。

 その自信作に、ゴブリンや各種ラビットより上位の魔物であるグレイトディアーが掛かっていたのだ。

 ご丁寧に罠で足を痛めているようで、暴れたのか周りの木が抉れている。なのにトラバサミ擬きさんは壊れていない模様。


(素でエグい)


 暴虐の限りを尽くしたような周りの木々の惨状と、頑丈に作って欲しいという要望に応えすぎな鍛冶師の腕、どちらにもオレはそう感じてしまった。

 二日間くらい雨が強く降り続いていたのだが、この衰弱ぶりを見るにその辺りから捕らわれていたのかもしれない。

 だが、雄々しい角も頑強な毛皮も強靭な蹄に至るまで、全く衰えてはいない。毛ヅヤは悪いけどね。

 強靭、無敵、最強! とか言い出しかねないくらいには今のオレと力の差があるだろう。


 故に人の知恵(こざいく)だ。

 先日ゲットした、遠くの街から商会が仕入れていたピアノ線擬きを使う。

 珍しい物だったらしく、番頭経由で買い付けるのに苦労した。


 昔見た、人外が女子高校生を隠れ蓑に謎解きを行う探偵漫画で見た某トリックを応用するのだ。

 森で狩りをするうちに、前世でほとんどしてない木登りも得意になった。

 高所から迫り来る鋼線をくらえー。


 こうしてピアノ線擬きを使って鹿さんの首をチョンパしたのだが、グロいから割愛する。


 鹿のデカい体を引き摺りながら川に向かう。

 未だ戦闘にはまだまだだが、鹿を運べるようになった自分の身体能力に少し驚いた。普通の鹿の数倍の大きさなのに、だぜ? そら驚愕だわ。

 到着次第、取り合えず腹を捌いて内蔵を摘出してみる。


「はぁ…………、このニチュャアっとした感触がどうにも慣れないんだよなぁ」


 グロいのはもう最近では慣れた。

 血がいきなり噴き出すスプラッタなんて、既に日常茶飯事だからな。

 と言うかその犯人オレだし。おまわりさん、あいつ(オレ)がジェイソンです。

 だが、この内臓の感触だけはダメだ。ダメダメだ。

 腸とかを傷つけないよう気をつけてはいるんだが、偶に回虫とか出てくるのもいただけない。

 異世界仕様だからか、デカいんだよこいつら!


 ウサギが地球の豚より大きい時もあるから、鹿さんは初めてだけど回虫は経験済みだ。

 ファングラビットは特に雑食だからな。ホーンラビットは完全な草食だから肉もより美味いんだけども。

 因みに、クロウラビットは他のラビット種より比較的体がデカいから、そんなに仕留めれていない。


「うげっ、ウサギはまだ可愛げあったけど、こいつの汚物引くわぁ」


 二日近く飯をロクに食ってないだろうから、中身なんて無いと思ってたけど、垂れ流しだったのかお尻にめっちゃ付いておられました。それとも便秘さんだったんかね。

 川まで引っ張って行くときは、足持ってたから気づかんかった。

 というか周りの草木が禿げてたのって、もしかしてこいつが食ったから?


 鹿の肉は内臓を抜いた後、川の水に晒して低温にする。

 じゃないと生臭くなると、この世界の猟師から聞いた。魔物と動物が同じかは分からないけども。


 川の中にも魔物はいなくもないが、その数はそこまで多くない。

 更に言えば、奴らは肉食の魔物に捕食されないよう、川岸にはあまり近づかないからな。川に意識を割く事は少なくてすむ。

 ピラニアみたく、血肉に吸い寄せられるってのも少ないから気が楽だ。


「血抜きだけで十分だと思ってたんだけど、違うんだなー。しっかし、川の水が冷た過ぎるのはどうにかならんかね」


 微生物は、発酵などを通してこの世界でも認知されている。

 常温で放置しておくと微生物(そいつら)が血液を腐らせるため、血抜き(そんなこと)より冷却が何より大事だと教えてもらった。アイザック、またひとつかしこくなった!

 まぁ、魔物だから血抜きは絶対しなきゃなんだけどね。肉が傷む。


 頸動脈を切りつけてから川の水につければ、流水が血を運んで血抜き作業をある程度短縮できる。

 血の臭いが水に流されて帰りも安全。一石二鳥だ。

 今回はピアノ線首チョンパさんだったから、少し時間が経過してる筈なのにまだ結構出てるな。

 因みに、最初に勢い良く噴き出した血は、ソース用に確保済みである。

 やっとゴブリンでもウサギでも無い血のソースが……って肉はともかくこっちはあんまり変わらなさそうだ。


 余談だが、短縮可能とは言っても下流に流されていかないよう縛るのが面倒だし、他の魔物に持っていかれないよう見張らなきゃいけない。

 強い魔物が来たら詰むので、場所の選定と警戒には非常に苦労する。川は生き物が集まってくる場所だから尚更だな。ホント現実はクソゲーだよ。

 だから冷やしたら、血抜きとか考えずにさっさと回収する事も多い。血の臭いに群がられても困るし。無論、後でするが。


 ここら辺に強い魔物は滅多に出ないと聞いてなければ、危険を覚悟したオレでも流石に被れないリスクだと思う。

 万が一があるから気楽にはなれないけど。

 そもそもゴブリンですら複数同時に来られたら危ういからな。

 この前三匹に囲まれた時は、片腕叩かれて内出血したし。

 奴らの棍棒はところどころがささくれ立ってるから、引っ掛かって痛いんだよ。服が破けちゃうだろうが!


「はぁ、早く人間にな……違う、雑魚から抜け出したーい」


 スキルがある世界なら気配察知とか取れてもおかしくないくらいには、周辺を警戒できるようになったと自負しているんだけどね。




 帰り道、ヒィヒィ言いながらのグレイトディアー運搬中に、昼寝をしていたらしいホーンラビットに不意討ちを食らった。

 危うく横っ腹に風穴を開けられそうになったから、やっぱりまだまだかもしんない。

 先生、索敵スキルが……欲しいです。

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