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オトモニャンコの夢想劇

「へっ、お(あつら)え向きな軍勢じゃんか!」


 オレは今、万を越えかねない程の大群に囲まれている。

 見渡す限りの魔物の群れ、それも様々な種類が団結している様子だ。

 その最奥には、明らかに知性を感じさせるドラゴンに似た魔物が、仁王像のように立ちはだかっているのが見える。


 こちらは単騎。だけど恐怖も感じないし、この戦いに負けるとも思えない。

 何故ならオレは、強いからだ。一騎当千なんて言葉ですら生温い。負ける筈がないな。

 オレに倒されるためだけに集まってくれて、感謝すらしたいくらいだ。


「ふっ! はぁ! おりゃっ!」


 まずは愚かにも飛び掛かってきた雑魚どもを蹴散らす。振るうのは純白の西洋剣だ。

 一振りで敵は粉々になり、二振りで敵は燃え盛る。……ん? 粉々? 燃え盛る?


「ブモォォォ!」


 ミノタウロスのような巨体がオレに迫る。

 ふっ、今や貴様もオレにとっては雑魚同然だぜ!

 地面に叩きつけるように放たれた、その仰々しい大斧を片手で受け止め、オレは笑う。


「はっ! どうした、その程度か。この牛野郎!!」


 そのまま斧を握って砕き、柄を掴んでミノタウロス毎持ち上げる。

 奴の顔は驚愕と恐怖に彩られていた。

 だが、そうしてモタモタしてる間にも周りの雑魚が群がってくる。

 牛の体を手刀一閃で真っ二つにし、オレは後方に跳んだ。


 魔力を練り上げ、虹色の光を前方に放射する。

 しかし、それを受け止めたのは醜悪な合成獣(キメラ)だった。……あれ、虹色の魔法って?

 それに合成獣なんて居た……って危ねぇ!


「こんの、人が考えてる時に攻めてくんなよ!」


 そう叫ぶとピタリと止まるモンスターの軍勢。おろ?

 いや、合成獣は飛び出してきている。それに追従するように他の魔物も突き進んできた。でもなんか輪郭ボヤけてるような……。

 まぁいいや。


「ここからが本番だ」


 そう言って、オレは深紅の刀を脇に構える。

 彼我の距離が狭まり、接敵の瞬間を今にも迎えようとした、その刹那。


「アイズ、僕に任せるニャ!」


 なんか、ネコが飛び出してきた。喋ってんだけど、え、何?

 あのネコ、野良どもの中で一番ボスっぽい奴じゃんか。しかも、何故かオレに懐いてる。

 え、何お前。オトモなタイプのネコだったの? 出発前に一緒に飯食べる系の。

 ネコが敵を蹴散らしている。名前はまだ無い。


「僕はアイズが与えてくれてたエサを食べてパワーアップしたのニャ! だから安心ニャ!」


 え、エサって……あのゴブリンの血混ぜたやつ? ちょっ、罪悪感刺激するから止めてくれよ。


「大丈夫ニャ! そもそも危険だったら食べたりしないニャ。ネコの警戒心舐めるニャ!!」


 それは舐めろって事なのか?


「な、舐めるニャニャ!」


 ニャニャ! 可愛い。


「うるさいニャ! 言えないんだから仕方ないニャ!」


 な、が言えないなら何故に語尾以外では言えるんだよ。

 まぁいいか。


「そうニャ。どうでもいい事ニャ!」


 だな。でもなんで言葉に出してないのに伝わってるんだろ。


「そんなの相棒だからで十分ニャ!」


 そうな。でも、ゴブリンの血は魔力抜いてなかったっけ。


「細かい事グチグチうるさいニャ~。でもでも言ってばかりだと、そのうちハゲるニャよ!」


 は、ハゲへんわ! でも……エサは本当に美味かったか?


「それは間違いなく美味しかったニャ! じゃなかったら、あんなにいっぱいのネコが毎度集まったりしないニャ。普段メイドさんとかが来ても、皆警戒してるニャよ?」


 そっかー。なんか嬉しいな。

 血の安全性はある程度確認されたからもう入れてないけど、これからはもっと美味いメシを、たまに食べさせてやるからな。


「それはありがたいニャ! 僕も精一杯頑張るニャ! 家のネズミ獲ったり!」


 そ、それはしなくてもいいかな。……いや、ちょっそんな悲しそうな顔すんなって。し、してもいいからオレに見せびらかさなくていいぞ。


「それだとアイズが褒めてくれないニャ……」


 褒める! 褒めるから! 毎回可愛がるしアピールしてくれたらちゃんと褒めるよ! 可愛いから尚更な!


「ふニャニャニャニャ。なら元気百ニャいニャーー!!」


 そう言ってネコが突撃していく。うお、正に無双だな。四足歩行なのに何故奴は武器を構えられるんだろう。

 って、オレの出番は?

 そんな風に悩んでいると、なんか悪友まで出てきた。執事にメイドもいるぞ。

 皆武器持ってるや。


 ――ドガ! バキ! メキョ! ガンガン! ドォーン!!


 んーと、悪友。お前……そんな強かったっけ?

 まぁ、強いと言ってもオレには及ばないみたいだしお前はいいや。

 執事は……うん。執事長のセルバフは知ってた。ステータスやばかったしな。

 おいおい、メイドまで乱舞してやがる。やっぱりあいつら、暗殺者かなんかが前職だろ。見立て通りだ。


 爆発音に振り向くと、とある組織(ギルド)受付嬢(じみがおおとめ)がいつの間にか現れてて、魔王らしき雰囲気の奴と空中戦繰り広げてるんだけど……。あ、四天王っぽいのが出てきたけど纏めて消し炭になった。おっかねぇ。


「っと、オレも続かなきゃ! なんか変な感じになったけど、道を切り開いてあのドラゴンを倒せば無双達成だろ!」


 走り出すと見えてきたのは、ネコとドラゴンの一騎討ちだった。あれ? これ邪魔しちゃいけないやつ?

 いやいやいや、奴がオトモなニャンコなら、オレと協力して倒す流れだろ。最高の無双とは言えないけど、それはそれで憧れなくもない。


「よし、行くぜニャンコ! オレの一撃で決めるッ!」


「ニャニャー! 必殺、ニャ王昇猫撃!!」


 ネコが氷みたいなのを纏いながら回転して、弾丸のような体当たりをかましている。


「ギャオオォォ!!」


 ドラゴンも負けじと光を放ちながら、なんちゃらソードブレイカーを放っている。ん? なんで今オレはドラゴンが放った技の名前が分かったんだ? そして、どっちかって言うと逆じゃねとか思ったのは何故だ?

 とにかく、激しい火花を上げながら両者は激突していた。


「あ、熱い!!」


 気づけばオレは傍観者になっていた。

 しかし、ネコが弾き飛ばされたところでようやく我に返る。


「ネコ!! 待ってろよ、今オレが奴を倒す!」


 そう言って、身長の二倍近い大きさの大剣を(かざ)しながら敵に向かって駆ける。


「くらえ! えーっと、えっと、ファイナルなんちゃら!!」


 斜めに振り下ろした剣身からは光輝くエネルギーが溢れ、辺りを焼いていく。だが、ドラゴンは空に舞い上がってオレの一撃を回避していた。

 辺りでいい匂いを漂わせているのは、ベジタブル風の魔物だけだった。美味そう。


「くそっ、何か打つ手は無いのか?!」


 そう叫んだオレに、あのネコの声が聞こえてくる。


「アイズ、そのまま走って跳ぶニャ! あとは僕がなんとかするニャ!」


 流石相棒! 魔法とかでオレの体を射出してくれたりするんだな?

 それとも羽を生やしてくれたり?

 そんなウキウキした気分で、ドラゴンに向かって跳躍する。

 僅かに届かないが、オレは相棒を信じるっ!


「ニャぁらぁ! これぞ野猫御爪流(のねこみそうりゅう)に伝わる最終奥義、地跳猫粉ちからとぶねこのまたたびニャア!!」


 そう叫んだネコは高く跳躍すると、オレの顔面に着地し、更なる大ジャンプを決めた。

 おう、良いモフみ。というか肉球ぷにぷにしとる。しかも爪を立てないなんて、うちの子良い子……じゃない!

 僕がなんとかするって、オレが跳んだ後に何かして攻撃届かせるって意味じゃなく、オレを踏み台にしてお前自身がなんとかするって事かよ!?

 オレのこの上段に振り上げた、雷を帯びた魔剣はどこに振り下ろせば良いんだよ!


「くらうニャ! くらうニャ!」


 そう言ってネコが空中で手を振り振りしている。可愛い。

 いや、そうじゃなくて。なんか粉撒いてるぞ? 何やってんだ?

 そう考えている間に、オレとネコは落下する。

 うわっ、後先考えず跳躍したけど、この高さから落ちたら流石にヤバくね?

 はっ。ならあいつもヤバいんじゃないか?! ネコだけど!


 オレがネコを仰ぎ見ると、そこに奴はいなかった。ついでにドラゴンもいない。何処行った?


「ギャオオォ~ン♪」


 いた。なんかオレの左下で、ハートマークが出そうな感じの咆哮を上げてる。

 そしてその頭には、オレの相棒である筈のネコの姿が。


(さっきマタタビとか言ってたけど、その効果がこれか! なんでドラゴンにマタタビが効くんだよッ!!)


「ニャニャーん! これで僕もドラゴンニャイトなのニャ!」


 ――ポフ。


 相棒の楽しそうな声を聞きながら落下していると、地面と衝突する間際にオレは目を覚ました。その瞬間には、あーこれ夢だったのかーと納得がいっていたが。

 こめかみに少しの重みを感じる。


「夢ですら無双ができないのかよ!!」


 ガバッとオレが起き上がると、頭の上に乗っていたらしい何かが足の付け根辺りに落ちる。それは一匹のネコだった。

 ニニャーと抗議のような鳴き声を上げて、布団をカリカリしている。

 昨日は中々暑くて寝苦しかったので、窓を開けていたんだったな。どうやらそこから入ってきたみたいだ。


「ったくもー。お前がオレの頭に乗ってたから、あんな夢になったんだなー?」


 少しデレッとした顔をしながらも、オレはネコを撫でくり回す。

 普段はニャーニャー言って手を押し返すのに、今日はされるがままにされていた。


「……なぁ、お前がいいならさ。うちのネコにならねーか?」


「ニャア!」


 一際大きい鳴き声を上げたネコは、ゴロゴロ喉を鳴らしながらオレの体に自分のもふもふを押し付けてきた。その後、感触を楽しんでいるとネコはすやすやと寝てしまった。

 ネコの小さな手は、オレの指を両側から挟んだまま離れない。肉球最高。


「あらら。腹の上で寝られちまった。これじゃ起き上がれねーじゃんよ」


 そう言ってオレは、これ幸いと二度寝に移るのだった。




 あのネコは数ヵ月経った今もうちでゴロゴロしている。使用人のアイドルになっているが、何故だかオレ以外にはあまり懐こうとしない。

 その仕草に、何故だか夢で聞いた台詞が本当のように感じてしまい、少し目頭が熱くなった。(ゆる)されたような気持ちになるのは、勝手だろうか。


 まぁ、そもそもゴブリンを餌にしてる魔物がいる以上、問題が起きる可能性は少ない筈なんだけどな。

 普通の動物がゴブリンの死骸を食ってる光景だって、たまに見かけるし。

 とりあえず、こいつも他のネコも元気だし、これ以上何かする気もないから時間がある時は精一杯遊んでやろう。


 ネコの名前は決めてなかったが、ドラゴンニャイトドラゴンニャイトとからかっていたら、ニャイトと呼ばれた時に反応するようになってしまった。まぁ、本人ならぬ本猫も気に入ってるみたいだし、ニャイトでいっか。

新年二日目らしく、主人公の初夢の話でした。

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