うわっ……オレの才能、無さすぎ……?
この作品は、『凡人の英雄潭』です。
求める形の無双が少ないだけで、活躍はします。
天地神明に誓ってエタだけは無いので、どうぞ宜しくお願いします(。`・x・´)ゞ♪
オレはアイザック・フェイロン、精神的には地球育ちの異世界人だ。五歳だ。
今さっき、異世界に転生した事に気づいた。というか、前世の記憶を突然思い出したのである。
何だこの状況、オラわくわくすっぞ! でも、腹減ったーってばよ! ……失礼、実はかなり混乱している。
だって考えてもみてくれ。
何となく青空を見上げてたら、唐突に前世の記憶なんてモノを思い出したんだぜ?
普通こう言うのって、原因不明の頭痛に苛まされたり、高熱に倒れたり、夢の中でナニカと邂逅したり、ノートに触れた拍子に「うぐあぁあぁあ」とか言いながら衝撃を受けたりするんじゃないだろうか。
オレはあっさり思い出して、それこそ砂糖は甘いみたいに、それが当然の事柄であるかのように脳が受け入れていた。
寧ろそっちの方に驚かされたよ。
死因は分からないが、日本のどこかで死んだ事は覚えている。何故だ。
だが、そこは前世で似たような展開の小説や漫画を読み耽ってきたこのオレ。恐らくはトラックか何かに轢かれたのだろうと適当に結論を出し、今後の事を考えようと思う。
「取り敢えず、何かチートが無いか確認しよう」
いやまぁ、前世の記憶がそもそもチートとか言われたらどうしようもないが、只の大学生だったオレには大した知識も無い。ニートでもひきこもってもいなかったから。ホントだぞ。
これでは内政チートも農業チートも開発チートも多分無理だ。ノーフォーク農法? だかも詳しいやり方なんて知らないし。
というか、農家じゃないから土地が無い。権力も無いからやれとも言えない。
オレに可能なのは、精々前世の料理知識によるちょっとした食の向上くらいだ。
それでも、やり方次第では異世界で一番の食堂経営者や有力な商人くらいであれば、なれるのかもしれないが。
だが、オレがやりたい事はそんな事じゃない。
そもそもの話、他に強チートを持った転生者やら召喚された勇者やらがいる世界なら、転生者と知られれば食い物にされかねない。
商売敵としての暗殺も怖いし、オレがチートを持ってればそれを理由に同行を強制されたりするかもしれないのだ。嫌な展開例なんて幾らでも考えられる。
そんな結果を迎えないためにも、チートや前世知識はバンバン見せびらかすべきじゃないのだ。
オレは、目立ちたくないと言い張りながらも全く隠そうとしない、やれやれ系主人公じゃないからな。
陰謀に巻き込まれたくなんかないでござる! 自分から突っ込んで行くなんてもっての他だっ!
……オレが本当に主人公なのかどうかという話は、この際脇に置いておく。
あ、目立つのは別に嫌いじゃないよ?
チートや前世知識が世間にバレて、それが原因で面倒な事態に巻き込まれるのが嫌ってだけで。
話は逸れたがチートの話である。
オレが知る程度の知識なら、自分とその周り程度に留めておけば、転生者とバレる事もないだろう。
だから前世のアドバンテージは考えない。考えるのは今世の事だ。
前世では割と憧れていた異世界転生、オレの体にも簡単に主人公最強オレTUEEEになれるようなチートスキルや天賦の才が備わっている筈。いや、無い訳があろうか!
◇◆◇◆◇
…………結論。そんな都合の良すぎるチート! なスキルはありませんでした。寧ろ、スキルなんてあるの? って感じである。
ステータス! とか叫んでも何も起こらず、言い方を変えても何かが出てくるような事は無かった。
剣を振っても呪文を唱えても徐に手の平を合わせても何も起きない。代価が足りないのだろうか。
その他にも色々試してみたけど、自分が平々凡々な人間であると気づかされるだけだった。
身体能力も別に高くない。それどころか、前世で同じ歳の時より低い気がする。
言語チートも無いようだ。普通に日本語に聞こえないし読めない。
まぁ、五歳までこの世界で過ごしてきたから、ある程度は理解しているんだが。
弊害が無い訳じゃないけど、それは後日。
「しかし、考えに一区切り付けて思い出してみると、幼少期は実にオレらしく過ごしてきたみたいだなぁ」
英雄物語の絵本等を読み耽り、近所の友達や兄と英雄ごっこをして遊んできた。
まぁ英雄に憧れる凡人と言ったところさ。
転生してもオレはオレ、という事なのだろう。前世で蛇蝎の如く嫌っていたレーズンや椎茸を、今世で記憶が無い時も大嫌いだったのは笑うしかないな。
前世の記憶を思い出さなければ、このまま何も感じずに平凡な自分を受け入れ、一般人として暮らしていったに違いない。
畜生。出生が、魂がオレの無双を許してくれないと言うのか……?
そう思っていたら、自分がある一つの能力的なものを持っている事に気づいた。
なんとビックリ、鑑定紛いの事ができるようになっていたのである。
何故『紛い』かと言うと、別に名前や称号、STR等の詳細なステータス数値が見れる訳では無いからだ。
では何が分かるかと言えば、一言で言えば横向きの棒グラフ。目を凝らして腕等をジッと見ると、うっすらと知覚できる。
恐らく、その部分の能力値と潜在能力を表しているのだろう。
何人か見定めて確認したから、大体そんな感じの筈だ。
例えるなら、影の薄い主人公がいる部活に所属する、現役女子高校生監督が持っている能力。あれに近いと言えるだろうか。
横棒が一本あり、その中にもう一つ横棒が見える。
……低いな。現在値があまりにも低い。
身体能力だけなら、影の薄いあの主人公と良い勝負ができそ……負けるな、余裕で。年齢的な差もあるしね。
この能力の一環なのか、対象を凝視すれば、そいつの職業的な何かが感覚的に分かるような気もするのだが、気がするだけかもしれない。
第一、これに何の利点があるだろうか。
親の顔を見る……商人。家令の顔を見る……執事。友人の親の顔を見る……農家。いや、全部知ってるわ!
戦闘時なら相手の戦闘スタイルを予測できるとか思うかもしれないが、割かし凝視しないと知覚できない上に、装備見れば大体分かるだろそんなの。大剣抱えた魔法使いや、ナイフしか持たない戦士なんていないからな。
仮にいるとしてもマイノリティ過ぎる。
全くもって無意味としか思えない。
こんなんでどうやって転生無双をしろと言うのか。無理ゲーである。
いや、誰も転生無双しろなんて言ってないけど。
オレがしたいんだよ。……したかったんだよ。
とりあえず、自分に隠された才能が無いか、少し長い目で見てみる事にした。
ほ、ほら! 最初はメチャよわだけど、超成長チートとかあるかもしれないし! それでも無職は嫌だけどなっ。
◇◆◇◆◇
「……現実は残酷だなぁ」
前世の記憶覚醒から数ヶ月後の今に到るまで、オレは様々な検証を行っている。
腕立てに始まる筋トレ各種は勿論、街の外にどうにかして出て、近くの森で魔物も倒した。
この世界のゴブリンはどうやら最弱種に近いようなので、罠を張れば子供でも……いや、子供の中でも身体能力に劣るオレでも倒す事ができたのである。トドメも自分で刺した。
しかし、何も変わらなかった。
寧ろそれどころじゃない。
オレは成長速度においても平均以下である事に気づかされたのだ。
一緒に行動していた、幼馴染みであり悪友でもある男がいるのだが、奴の能力値の上昇幅は高かった。誰に比べて? んなもん決まってるだろ、言わせんな嘆かわしい。
そいつはオレと同じで商人の息子だから、血筋による差ではないだろう。
寧ろ、我が家系の方が商会経営してる癖に騎士とか輩出していたりするので、こっちの才能が上である可能性の方が高かった筈なのだ。
前世の記憶があるんだから、もしチートが無くても幼少期から努力を重ねれば強くなれるよな! とか思ってた少し前の自分を全力で殴ってやりたい。
これが、魂の差というものですか? ねぇ、答えて下さいよオレをこの世界に転生させた神様ァ!
いるんでしょ? ねぇねぇねぇ!!
へんじがない。ただむなしいだけのようだ。
それともこの世に神も仏も無くて、ただ輪廻転生だけがあるって事なのかよ……。
己の低スペックさ。
それをこれでもかと思い知らされたオレは、逃れ得ない運命から逃避するかのように、冗談めいた口調でこう溢すのだった。
「うわっ……オレの才能、無さすぎ……?」
途中から、分かっていた事である。
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