不揃いな果実
私はバスケットボールが好きだ。
小さいころから暇さえあればボールを触っていた。
それが高じて中学も高校もバスケ部だ。
自分に才能があるとは思えなかったから努力は欠かさなかった。その甲斐あってか周りには認められていたし、スタメン落ちすることも無かった。
それは確かな自信で、アイデンティティだった。
あの転校生が来るまでは。
あいつは転校初日から話題だった。
隣のクラスにとんでもない美人転校生が来たと持ちきりで、私も野次馬根性を発揮させて覗きに行った。
彼女は噂通り……いや、聞いていた以上の美しさで、同性である自分も思わずため息をついてしまうほどだった。
短めのつややかな黒髪。長い睫毛。伏し目がちな瞳。桃色の唇。すらりと長い手足が羨ましいことこの上なかった。
こんな子がこの世にはいるんだな、と現実味の無さに驚いた。
もっと驚いたのは、転校生がその日のうちにバスケ部へ入部してきた時だった。
なんでもバスケは初めてらしく、最初はおぼつかなかった。
だがばてたりする様子はない。激しい練習にも涼しい顔をしてついて来ていた。
以前なにかスポーツでもしていたの? と聞くと「テニスをそれなりに」と答えた。体力があったのはそのせいか、と納得した。
彼女の志望したポジションは私と同じだったこともあり、私が指導することが多かった。
自分の教えたことを、どんどん吸収していくのが嬉しかった。
転校生も「あなたがいてよかった」なんて言ってくれた。
いつしか私たちは親友と呼べる関係になっていた。
しかし。
転校生が来てから数か月後の練習試合でスタメンを奪われた時、焦燥が生まれた。
いつからだろう。
いつから私は追い抜かれていたのだろう。
努力は怠っていない。人一倍積み重ねて来たはずだ。
だがあの転校生は、私が律儀に一段ずつ昇る階段を、三段飛ばしで駆けあがっていった。
才能、というやつなのだろう。
彼女の努力を否定するわけではない。
だがそれでもかけた時間では私の方が圧倒的に上だったはずだ。
いつの間にか私のアイデンティティは失われていた。
それでもあの子が悪辣なら憎むこともできただろう。
しかしあれに悪意はない。天真爛漫で、それこそ天使と言えるような精神性を持っていた。
純粋で穢れがない。否定できるところが見当たらず、それがまた私の心に傷をつけた。
「あたしがバスケ始めたの、君のおかげなんだよ」
彼女はそういった。
なんでも転校前、この学校に見学しに来た際、バスケ部が目に入ったそうだ。
「あの時見た君のプレイが本当にかっこよくて、憧れて……だから本当に感謝してるの」
屈託のない笑みでそんなことを言う。
私は何を間違ってしまったのだろうか。
一生懸命の努力が私を裏切り牙をむいた。
私はどうすればいいのだろう。
このままだと私は、バスケットボールを嫌いになってしまう。