第六話:男児 VS 先生……Fight!
【まえがき】あなたの本気が見てみたい。
Side: エマ
(ふふふ……この子ども、ただものじゃないわ!)
私の年の功がそう言っていた。
というか、三歳児にしてはしっかり体が動きすぎている。
気属性魔法で身体強化をしているはずだ。
常に身体強化をしているなんて、大人の魔法使いでも出来る人間は限られている。
隠蔽されてはいるが、彼に流れる魔力の量は普通じゃないのが私には感じ取れた。
「ぼ、ぼくは黒髪黒目なので、魔法は——」
「そんなの、人間たちの判断基準ね! 必ずしも、それが当てはまらない場合もあるって私は知ってるの! 長生きだから!」
これは本当だ。
ごく稀だが、例外のケースを見たことがある。
私は杖をレイルズくんに向ける。
「せ、先生?」
「浮遊風!」
対象を風の力で空中に浮かす魔法だ。
「うわああ! 高いよ~~!」
わざとらしい悲鳴を上げながらレイルズくんが宙に浮き上がる。
その辺の木の高さよりも遥かに高い位置まで持ち上げて――
「さぁ! 力を見せてご覧なさい!」
「うわぁぁぁ!」
落とした。
「ひぇぇぇ!」
とか言いながら、レイルズくんは魔力を練り上げている。
自分で浮遊風を使う、もしくは何か別の魔法の反動で助かろうとしているのだろう。
そんな私の予想に反して、レイくんは――
ずがぁんと音を立てて墜落した!
「あ、あれ!?」
「先生! なんてことを! ……レイくん!」
駆け寄っていくリリィちゃん。
ま、まずい……あろうことか子どもを殺してしまうなんて……。
私の背中からどっと滝のように汗がでたが――
「いてて、ひどいよぉ先生……」
レイくんは無傷で立ち上がった。
「えぇ!?」
「た、たまたま地面が泥になってて助かりました」
見ると、確かに落ちた所が泥の沼になっていた。
「そ、そう。ラッキーだったわね……」
「え、えへへ……多分、昨日の雨で……」
なるほど……泥がクッションになったのね……。
「って、んなわけあるか~~!!」
さすがにこんな事で騙される私ではない。
「だいたい、レイルズくん、泥の沼に落ちたのに全然濡れてないじゃない!」
「だはは……だって母さんに怒られちゃうし……」
「一体、どうやって……」
あの一瞬で、地面の土を泥に変えた。
それだけで、地属性の難易度Aレベルだ。
地味に見えるが、物質を直接変化させる魔法を使いこなせる魔法使いは少ない。
そして、そこに自分の体を包み込むように風属性魔法を使ったのだろうか?
風の防御魔法なら難易度レベルBからCだ。
これだけでも三歳児がやることじゃない。
というか、わざわざ泥の心配をして魔法を使うとはね……。
「ふふふ……やはりただものではないようね……」
「え~、もうやめようよ、先生」
「レイルズくん、私もエルフの魔法使いとして、そう簡単には引き下がれません!」
私にも魔法使いとしては、それなりに名の知られた存在。
プライドもあるし拘りもある。
そして、好奇心もあった。
有り体に言うと、この尋常ならざる子どもの本気が見てみたかった。
「あなたの本気を見せて頂戴!」
「そ、そんな事言われても……」
「レイくん、見せて~!」
有り難いことに、リリィちゃんが乗ってきてくれた。
「見せて~!」
私も、その真似をしてごねた。
◇ ◆ ◇
Side: レイルズ
「「み・せ・て! み・せ・て!」」
リリィ姉さんとエマ先生とのコールがこだましている。
「うう~……」
僕は困って頭を抱えた。
とりあえず、適当に魔法を見せて納得してもらうしかないか……。
ちょうど父さんと母さんも家にいないし。
といっても、魔法を向ける先もないしなぁ。
「な、何か目標物みたいなものはないですか?」
「そうね、じゃあこんなのはどうかしら?」
エマ先生は杖を地面に向けた。
「召喚!……我が命に応じ、来たれゴーレム!」
ゴゴゴゴと音を立て、近くの地面からゴーレムが登場する。
人間の大人の二倍から三倍ぐらいの大きさだ。
「知ゴーレムの使役は、難易度A以上の地属性練度と、同じく難易度A以上の気属性練度が必要なの。知っている?」
「ま、まぁ……」
地属性魔法で形をつくり、気属性魔法でそれに人格を与える。
確かに高難易度の魔法だ。
「風属性でも難易度A以上を使いこなせる。つまり、私は三色魔法使いでトリプルAクラス。この凄さが分かるかしら? まさに年の功よ! ほぉっ〜ほっほ」
うん、その笑い方は年齢を感じます……とは言えずに、僕はゴーレムに向き合う。
先生がゴーレムに向かって指示を出す。
「ゴーレムちゃん! ごめんね! ちょっとじっとしててね!」
「ゴゥ……」
ゴーレムがこくんと頷いた。
む、なかなか可愛らしいな……。
少し罪悪感が芽生える。
とりあえず本当の本気を出す必要はないだろうから、ゴーレムにそれなりのダメージを与えて納得して貰おう。
……とは言っても、手加減しすぎてもまた責められそうだ。
「じゃぁ、じゃあ……」
僕は両手を前に挙げて魔法詩を唱える。
「滅ぼす力——裁きの火……回りて、燃えろ——蒼炎乱舞の威勢にて!」
生み出された複数の青い炎がぐるぐると勢いよく回転しながらゴーレムを襲った。
難易度Aレベルの火属性の変化に、風属性を加えた術だ。
炎がゴーレムの胴体に激しくぶつかり、爆発した。
かわいそうだが、致命的ダメージを受けて火に包まれているゴーレムは、しばらく動けないだろう。
「レイくん、すっご〜い♪ 一撃じゃん!」
リリィ姉さんがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、僕に飛びついてきた。
それを僕が受け止めると、姉さんはさらにぎゅうっと僕を抱きしめる。
「うう〜……」
慣れているけど、人前だと言うこともあって、ちょっと恥ずかしい。
エマ先生はというと——
「……な、火属性魔法まで……。土、風、火、それに気……四色魔法使いとは恐れ入るわ……。さらに、それを全て難易度Aに近いレベルで使いこなす——クアドラブルAクラスなんて信じられない……しかもこの年で……」
「あ、ははは……」
ま、まぁ、十分に感心してくれたようで、ほっと一息ついた。
これで納得してくれるんじゃないだろうか。
と、ゴォォォと炎で燃えていたゴーレムが僕と姉さんがいるほうへ倒れてきた。
「二人とも、危ない!」
エマ先生に言われるまでもなく、僕の体は反応している。
水属性魔力を瞬間的に体から放出した。
ピキキィィ!
倒れてくるゴーレムの体が凍る。
火を消すと同時に、ゴーレムを地面に固定するのに最も適切な方法を取った。
もちろん、僕とリリィ姉さんは無事だ。
「……生み出す力は恵みの水……」
これは遅延詠唱。
先に魔法を発動させてから魔法詩の一部を唱えたのだ。
「ふぅ……大丈夫? 姉さん」
「うん!」
僕が姉さんの無事を確認していると、
「み、水属性の属性変化……間違いなく難易度Aの魔法……てことは、ええと……クインティプルA……あ、あたまが……」
そういってエル先生は気絶してしまった。
「「せ、先生!?」」
【あとがき】
遅延詠唱はいわば決めゼリフ……。
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