第五話:エルフ、襲来!
【まえがき】父と母からも愛されています。
僕らは家に帰ると、誘拐の事を父さんと母さんにも報告した。
「なんてことだ!?」
「あぁ……リリィ、大丈夫だった?」
とかなり心配された。
僕たちのこと溺愛している父さんと母さんなので、反応はだいたい予想できたんだけど――
「よし! 犯人を殺しに行こう!」
と父さんが言い出したときは焦った。
それを母さんが、
「あなた、待って!」
と、止めてくれたと一安心したら――
「こっちの剣の方が良く切れるわ! 思いっきり『ズプシュー!』といっちゃって! 『ズプシュー!』って!」
と剣を振り回しながら煽るので、焦って汗が吹き出した。
「だ、大丈夫だよ! 治安官がちゃんと処罰してくれるって! それに、もう結構痛い目見てたから!」
「そ、そうだよ」
僕と姉さんでなんとかそれを止めた。
「……う~む、そうか。まぁ二人がそういうなら……」
流石に、殺したら後々めんどくさそうだし、二人が罪に問われかねないしね……。
そんなとき、話を変えようと姉さんが口を挟んでくれた。
「父さん、母さん! 私、魔法を覚えるわ! 自分で自分を守るためにも!」
姉さんが魔法を覚えたら、いずれ父さんと母さんにも説明が必要になるので、最初から言っておくことにしていたのだ。
「う~ん、そうだなぁ、リリィももう六歳、魔法を覚えても良い年頃だな」
「そうと決まったら、家庭教師をつけましょう!」
「え、そこまでは……。レイくん――じゃなかった、自分で本読んでやるから――」
そう言って、姉さんは慌てて断ろうとするが、
「いや、遠慮することはないぞ! 大事な娘の事なんだから、金に糸目はつけんぞ!」
結局、家庭教師を呼ぶことになってしまった。
◇ ◆ ◇
初めての家庭教師の日、庭で先生と顔合わせをした。
「初めまして! 私はエマと言います! 宜しくね~♪」
グラマラスな体型をしたエルフで、見た目は人間の大人より若いぐらい。
緑の髪に青い瞳。それに、可愛らしいスカートを穿いていた。
「この辺じゃ一番の魔法使いなのよ〜!」
「エマせんせ~い! 何歳ですか?」」
姉さんが無邪気にそんな質問をする。
エルフは長寿なので、どうしても気になってしまうところだもんな。
「……リリィちゃん、スパルタコースをお望みのようね……」
エマ先生は、ひくひくと笑いながらひゅんひゅんと杖を振り回す。
その先から風が吹き上がり、エマ先生の髪が逆立った。
「ひぇ! す、すいません!」
その様子を見た姉さんは肩をすくめてビビっている。
「ふふふ……まぁ、そこまで気にしてないわ!」
風が止んだ。
「よく聞かれるから慣れちゃったの!」
先生もころっと表情を変えている。
……なかなかお茶目な先生のようだ。
「私は、あなた達のご両親の年と同じぐらいよ!」
「へぇ~、まだ若いじゃないですか!」
僕は素直にそう反応する。
てっきり人間の寿命を完全に超えているのかと思った。
「うん! ご両親の年齢を足すと、だいたい同じぐらいね!」
「「へ、へぇ……」」
「掛けた数字よりは、かなり低いから安心して!」
「「……は、はい」」
この話題は避けた方が良さそうだ。
冷静に考えると考えられる数字の幅がありすぎるが、忘れよう……。
「エ、エマ先生、早速魔法を教えて下さい!」
姉さんも、同じように判断したようだ。
◇ ◆ ◇
「は~い、じゃあまずは簡単な魔法からね~!」
「あの……僕は魔法の才能がないので、あっちで見てますね」
「え~、そうなの?」
魔法の練習が始まると、僕は少し離れた木の下に移動して見学することにした。
先生がどんな風に教えるのかだけ興味があった。
「リリィちゃんは、私と同じく風の魔法が使えるはずよ、見本を見せるわね……」
そう言って杖を近くの木に向ける。
「風角刃!」
鋭い空気の流れが放たれ、細い枝がスパッと切れた。
「ひぇ~……」
姉さんは驚きと恐れの混じった声を発していた。
「これは難易度Dの魔法よ。初めからここまで出来ないでしょうから、リリィちゃんはまず風を出すことだけを練習しましょう。あんな風に枝を切ったら、危ないしね!」
「……よぉし!」
姉さんが体の前で両手を伸ばす。
「でぇい! とりゃ! せぇい!」
掛け声と共に力むが、風は出てこない。
「うん……まぁ、最初は難しいと思うわ。風の中にある魔力を感じられるまで、かなり時間がかかるものよ」
「……どれぐらいかかりますか?」
「一年ってところかしら」
「えぇ~……」
「魔法を会得するには時間が必要なの! 魔法とはこれ年の功! つまり、年を取るということは素晴らしいことなの!」
エマ先生が力説し始めた。
最後の言葉が一番言いたかったのではないかと思う。
「そんなぁ……」
姉さんはがっくり肩を落とした。
「でも安心して!」
エマ先生はそんな姉さんの肩に手を当てる。
「他に方法が!?」
「私の秘術で……」
「秘術で魔法を覚えられるの?」
パァッと目を光らす姉さん。
「いえ、あなたに年を取らせることが出来るわ!」
「いや~!」
そんな秘術を開発しているなんて、ある意味すごいエルフだな……。
「……そんなに嫌がらなくてもいいのに……」
エマ先生は、少ししょんぼりとしながら、リリィ姉さんに手をかざした。
「やめて~!」
姉さんはそれを拒否しようと走って逃げ出そうとする。
「も~う、大丈夫よ! 冗談だから!」
「へ……?」
姉さんの体がふわっと持ち上がった。
「私が魔力を与えた風をあなたの周りに送り込んでるの、これで魔力を感じやすくなるわ」
「ほぇ~」
姉さんは目を丸くしながら、しばらくその風の中で手を広げていた。
へぇ~と僕は感心する。
そのキャラに似合わず、教え方の上手な先生だ。
「……確かに、なんとなく分かってきたかも!」
「ふふふ……これが本当の年の功よ! では、試してみましょう!」
先生が風を止めて、姉さんを地面に下ろす。
「えぇい!」
先ほどと同じように姉さんが気合を入れると――
「いや~ん♪」
エマ先生のスカートがふわりと持ち上がった。
その中は、彼女の実年齢にはそぐわない可愛らしいパンツで――
「ぶっ!」
僕は目をそむけた。
「効いてる! 効いてるわ! 若い子にも私の魅力が効いてるわ!」
なぜか嬉しそうな先生。
「レイくん、何を見てるの!」
姉さんは怒っていたが――
「ええぃ!」
さらに力を入れて、自分のスカートを魔法の風でめくった。
「見るなら、こっちを見なさい!」
「えぇ~!?」
その理屈はおかしくない!?
そんな姉さんを見た先生は――
「ふふふ……リリィちゃん、完全に風属性の初級段階をクリアしたわね!」
と姉さんを褒め称え、
「はい! 先生!」
ガシッと握手した二人はパンツ丸出しで師弟の絆を確かめ合っていた。
「はぁ……なんだこれ……」
僕は目を閉じながら溜息をついた。
◇ ◆ ◇
しばらくすると二人は満足したらしく、風が止んだ。
僕もほっと一息ついていると――
「さて……レイルズくん!」
「は、はい!?」
今度は何だ?
「次は君の番よ!」
「ええ!? 僕、魔法は使えな――」
「ふふふ……君が魔法を使えることぐらい、まるっとお見通しなんだから!」
エマ先生はビシィと僕を指差したのだった。
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